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5月5日、続

Author: いのか
last update Last Updated: 2025-12-22 20:50:03

タンスの中の衣服をいくつか出したがどれも着古したものばかりで春陽はため息をついた。

元々あまり服を買う方ではなかったが最近は桜の面倒をみるのに余計こだわりなく着古した服を着ていた為だ。

これしかないか、と。もう2年も前に買った黒のワンピース、アイロンをかけシワを伸ばしておく。靴は更に悩む。車の運転もできる物でないといけない事めあり下駄箱の中の少ない靴をじっと見つめる。

「これしかないか」

手にとった靴は激安通販で知られるヒラタの680円で購入した黒のバレエシューズ。脱ぎ履きが楽で底もフラットなので桜の散歩にも重宝している靴だった。

ワンピースに着替え、ゆり子の化粧品を少し借りて薄く化粧しカーディガンを羽織り重い腰をあげると必要最低限の物だけ入れたバッグを手にして靴を履く。

「それじゃあ、遅くならずに帰ってくるから」

本当ならばゆり子と柏餅を食べてゆっくり過ごすはずだった午後の時間を惜しみながら春陽は玄関を出た。

駅の自家用車用ロータリー乗降口に立つ瀬奈を見かけてその前で停車する。

「渡辺さん、ありがとう」

助手席に乗り込んだ瀬奈が「これ、後で食べて」と渡してきたのは柏餅だった。

「わざわざありがとう」

断るわけにもいかず受け取ると後部座席へ置く。

「渡辺さんて綺麗に車乗るねー。ウチの車なんて中は荷物がごちゃごちゃだよ」

車内をキョロキョロと見回して言う。

「今日の午前中に納車だったから綺麗なだけだよ」

「えっ」

驚いて目を丸くして春陽を見た。

「本当に?納車されたばかりだったの?私、あんな頼み方したけどもしかして迷惑だった?」

「大丈夫だよ」

苦笑いを浮かべた春陽に「ごめんね〜」と謝る瀬奈に悪気があったわけではない。

「本当に大丈夫だから」

気にしないで、と伝えた。

「でも……」

春陽は横目で瀬奈を見て口にしてしまう。

本当に中学までのイメージはまったくなくなってしまっていた。真っ黒で常に後ろで一つに束ねられていた髪はレッドブラウンに染められ化粧も「今時」といえる仕上がり、サーモンピンクのシフォン生地のチェニックに花柄模様のフレアスカート。

見違える位に綺麗になっている。

「変わりすぎてビックリ?」

春陽の言いたい事を先に瀬奈自身が言う。

「うん」

「渡辺さんもだけど私もぼっち組だったからね。イメージだと暗いとか、良くて真面目しか皆にはなかったからねー」

ハハハと
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  • 秘密の花   5月5日、続

    タンスの中の衣服をいくつか出したがどれも着古したものばかりで春陽はため息をついた。元々あまり服を買う方ではなかったが最近は桜の面倒をみるのに余計こだわりなく着古した服を着ていた為だ。これしかないか、と。もう2年も前に買った黒のワンピース、アイロンをかけシワを伸ばしておく。靴は更に悩む。車の運転もできる物でないといけない事めあり下駄箱の中の少ない靴をじっと見つめる。「これしかないか」手にとった靴は激安通販で知られるヒラタの680円で購入した黒のバレエシューズ。脱ぎ履きが楽で底もフラットなので桜の散歩にも重宝している靴だった。ワンピースに着替え、ゆり子の化粧品を少し借りて薄く化粧しカーディガンを羽織り重い腰をあげると必要最低限の物だけ入れたバッグを手にして靴を履く。「それじゃあ、遅くならずに帰ってくるから」本当ならばゆり子と柏餅を食べてゆっくり過ごすはずだった午後の時間を惜しみながら春陽は玄関を出た。駅の自家用車用ロータリー乗降口に立つ瀬奈を見かけてその前で停車する。「渡辺さん、ありがとう」助手席に乗り込んだ瀬奈が「これ、後で食べて」と渡してきたのは柏餅だった。「わざわざありがとう」断るわけにもいかず受け取ると後部座席へ置く。「渡辺さんて綺麗に車乗るねー。ウチの車なんて中は荷物がごちゃごちゃだよ」車内をキョロキョロと見回して言う。「今日の午前中に納車だったから綺麗なだけだよ」「えっ」驚いて目を丸くして春陽を見た。「本当に?納車されたばかりだったの?私、あんな頼み方したけどもしかして迷惑だった?」「大丈夫だよ」苦笑いを浮かべた春陽に「ごめんね〜」と謝る瀬奈に悪気があったわけではない。「本当に大丈夫だから」気にしないで、と伝えた。「でも……」春陽は横目で瀬奈を見て口にしてしまう。本当に中学までのイメージはまったくなくなってしまっていた。真っ黒で常に後ろで一つに束ねられていた髪はレッドブラウンに染められ化粧も「今時」といえる仕上がり、サーモンピンクのシフォン生地のチェニックに花柄模様のフレアスカート。見違える位に綺麗になっている。「変わりすぎてビックリ?」春陽の言いたい事を先に瀬奈自身が言う。「うん」「渡辺さんもだけど私もぼっち組だったからね。イメージだと暗いとか、良くて真面目しか皆にはなかったからねー」ハハハと

  • 秘密の花   5月5日

    なんとか卒検も無事に受かり。本検もGW直前で受けに行け無事に合格し免許証を手にできた。写真を撮る事を頭に入れていなかった春陽は日常通りの姿で行った為中途半端にのびてしまったおさまりの悪い髪とすっぴんの顔が証明写真となってしまい免許証は誰にも見せたくないと後悔した。そんな免許証を財布にしまう。午前はMBOXの納車予定。100万円を超えるはじめての買い物であるMBOX、春陽は車好きではないけれど意外にも気持ちはワクワクしていた。「それじゃあ、行ってくるね」「行ってらっしゃい、きをつけてね」桜を抱きあげながら少しばかり心配そうにゆり子が見送った。契約の時も隣にいてくれた舞だったが、大学のサークルで行うファッションショー準備から抜けられなかった為納車は1人で行くことになってしまった。最寄りのバス停までバスに乗り店まで行くと舞の母が出迎えてくれた。「どうぞ」2人が座るテーブルに女性店員がコーヒーを置いてくれる。「それじゃあ」いくつかの書類をテーブルに置くとそれぞれの説明をしていく。車検証、自賠責保険、などなど。「任意保険の方には前に車検証のコピーも送ってあるし、納車日も伝えてあるから今日からもう効くはずよ」車にまったく縁がなかった為任意保険も全て舞達に頼って契約をしていた。「色々とありがとうございます」春陽は頭を下げお礼をしたが。「いいのよ、私には車も保険も自分の販売成績になるんだから!」アハハと笑ってみせる。釣られて春陽もクスっと笑みが漏れてしまった。「車の準備もできたみたいだから行きましょうか」入口の方へ視線を向けると外には黒のMBOXが既に止まっている。「ナンバーは桜ちゃんの誕生日にしたの、これは私からのプレゼント」特にこだわりもなく希望がなかった春陽はナンバーは前のままでいいと思っていたが、些細なプレゼントだがとても嬉しいプレゼントだった。「1030」「1番覚えやすいでしょ」「はい」車を一周、傷などがないかを確認する。運転席のドアを開けてもらうと運転席へ乗り込む。「鍵はここにあるから」と言われたドアポケットから鍵をとりバッグにしまう。座席の高さと位置を調整してバックミラーを調整する。「大丈夫?」「大丈夫です」 一通りの調整を終えてハンドル周りを確認するとエンジンスタートのボタンを押す。ドアが閉められ

  • 秘密の花   同窓会

    テーブルの上に置かれていたいくつかの郵便物を確認していると春陽宛の封筒が1つ。手にとり中身を確認すると眉根を寄せる。用紙に書かれていた見出しは市立花塚北小学校同窓会のお知らせ。春陽達の学年は今年度が成人式となる。20歳を迎える祝いの年だからか公式な生徒幹事の同窓会や私的な友達同士の同窓会がいっきに増える。手にしていたのは小学校時代の同窓会の知らせ。春陽にとってはいい思い出もなく、同級生も先生も1番会いたくない時の同窓会、同封されていた返信用ハガキの欠席にすぐチェックをした。明日、教習所へ行く時にでも投函しようとハガキをバッグにしまった。翌日。「今日は桜の事よろしく」舞も大学が始まった為、桜はゆり子へ預ける。「大丈夫よ。いってらっしゃい」桜の頭を撫でてあげ「行ってくるね」と伝えると春陽へ手を伸ばしてきて「アー」と抱っこをねだる。抱っこをしてもらえないと気づいた桜の顔が歪む。「大丈夫だから、早く行きなさい」泣き出した桜に後ろ髪がひかれたがゆり子に促されて外へ出る。教習所まで電車で一駅、駅を降り徒歩で15分すれば着いてしまう。今日は教習の最終課程的な高速教習の日。これが終わればもうすぐに卒検となる。受付を済ませ今日乗る教習車の前まで行くと既に一緒に乗る事になる2人が立っていた。その2人の姿やを見て春陽の足が止まる。「やだぁ、偶然だねー」「あと1人って渡辺さんだったの」麻里と由宇の2人だった。「渡辺さんてば連絡先渡したのに連絡くれないんだもん」「教習所でも会えなかったし、今日は偶然に一緒で良かったね」--偶然。まさかこんなタイミングよく一緒になってしまう偶然があるなんて、と春陽は苦虫を噛み潰したような気分になる。「今日は2時間よろしくね、渡辺さん」よりによって高速教習は2時間連続だった。「うん、よろしく」社交辞令で笑顔もなく春陽が応えた。「あら、もう3人揃ってたの」今日の担当教官はまだ若く見える女性教官だった。「今日の担当、中村です。よろしく」「よろしくお願いします」3人は同時に挨拶をした。中村教官は教習車に仮免許のプレートを取り付け後部には高速教習中のフダを置いた。「今日の高速教習は順番に運転してもらいます。1人目はまず寄木から高速に乗って上山SAに入ってもらって2人目に交代。上山SAから前崎で一

  • 秘密の花   帰国

    寝返りを覚えた桜は少し目を離すとうつ伏せになって手足をばたつかせている。「すぐにハイハイもしそうね」抱き上げて仰向けに直す春陽を横目にゆり子が言った。「でも、うつ伏せになっているとこわくて」ごく稀ではあるけれどうつ伏せ寝の赤ちゃんが死亡したなどを聞くと心配してしまう。「赤ちゃんの成長過程よ、あまり過剰にならない方がいいわよ」「そうだよね」桜の頭を撫でながらゆり子の優しい先輩の教えに頷いた。桜は春陽を見ながら「アーアー」と、もっと撫でてと言いたげに手を伸ばした。「桜はご機嫌だね」しゃがみこみ桜の頬に自分の頬を付けてスリスリしてあげると「キャッ」と笑い声をあげた。東京、国際空港。黒いスーツに身を固めた慶司が国際線ターミナルの出口に出てくるとちょうどのタイミングでスマホが鳴った。「あぁ今出てきた、何処にいる?」言いながら辺りを一周見回す。「江戸舞台前で立ってる」日本を強調した派手な舞台前で通話中の相手を見つけるとスマホをしまい手を上げながら近寄る。「久しぶり」迎えに来てくれた廉の肩をポンと叩く。「おかえり」廉は慶司をハグするとその背を軽く叩いた。「迎えは俺だけでよかったのか?」「ウチの関係者じゃ一息付く事もできないからな、態々悪かったな」「いいよ、どうせ今日は店休みだったから」ウィルモットの店休日にしていた火曜日がたまたま慶司の帰国日と重なった。久々会える友相手に断る理由はなかった。「柚希達は仕事だから皆ではまた会おうって言ってた」「近いうちに時間合わせよう」気心知れたメンバーで集まるのは慶司も廉も楽しみにしている事だ。「時間、つくれるのか?帰国したばかりでも仕事が詰まってるんだろ?」「まぁ、仕事の方は忙しいけど」約1年前、アメリカでの会社買収合併の責任者としていきなり指名され渡米させられた。大幅合意に至りやっと帰国はできたけれどまだまだ日本側で調整しなければいけない事は多い。時間がいくらあっても足りない位だ。「仕事だけじゃぁ、な」「意味ありげな発言だな」グループ会社のどこかの令嬢と見合いをさせられたらしいという話は誠から少し聞いていた。その見合い相手なのか、はたまた違う女性なのか。慶司のその言葉が異性絡みのような気が廉にはした。「とりあえずマンションまで乗せていくよ」「あぁ、頼む」慶司の新居とな

  • 秘密の花   寝返った!

    「桜にはミルクあげたばかりだけど私達のお昼はどうする?」時刻は12時をまわったばかりだ。いつもならばどこかのお店に入ってランチを食べているだろうけれど春のポカポカした陽気がとても気持ち良い日になっていて今日はもったいない気がした。「今日は公園で食べようか」ゴザを敷いてのんびりと桜を眺めながら食べようか、と春陽はきいてみた。「ウィルモットじゃないの?」「え?ウィルモットに行きたかった?」--舞ちゃんはウィルモットの料理好きだよな。食べたかったかな?「ウィルモットでもいいよ?」「春陽が外がいいなら私は外でいいけど」--春陽はウィルモット行くと思ったけど……あの男にはあまり興味が無かったのかな?「今なら公園に屋台も出ているからそれでもいいね」舞の車で花見の為満車にちかい位の花塚公園駐車場まで移動した。「さすがに混んできたね」広場には既に点々とゴザが敷かれていた。「このへんでいいかな?」小さな桜の苗木の横にゴザを敷いて桜の荷物が入ったトートバッグを重しがわりに置いておく。「じゃあ、お昼でも買ってこようか」広場の横にあるボート池の乗場は売店も併設されていたしその周辺には花見客用に屋台やキッチンカーもいくつか出ていた。「キッチンカーまであると悩むわね」売店にはおにぎりやパン、お菓子。屋台は定番のたこ焼き、焼きそば、かき氷、クレープが並び。キッチンカーはケバブ、ガパオライス、唐揚げが並んでいる。お昼時の為ほとんどの場所で数名が並んで待っている。「私唐揚げたべたいな」舞が唐揚げのキッチンカーにできている列を確認する。「私、唐揚げ買ってくるから春陽はたこ焼き買ってきてくれる?買ったら売店の前で待ってて」意外に祭りメニューが大好きな舞はごやはりご飯物よりも唐揚げとたこ焼きを選び時間短縮の為に別々に買い出しする事にしていた。過去に舞と何度か祭りに行っていた春陽はそれには既に慣れていたので「じゃあ売店でね」とだけ応えてたこ焼きの列に並んだ。「あら、可愛い」列の前にいた初老の女性がベビーカーの桜を見て言った。「女の子?男の子?何ヶ月?」今日の桜は黄色いワンピースにベビータイツの格好だが下半身にはブランケットがかかっていたため一見ではわからなかったのだろう、質問が続く。「ママと2人きりかな?パパはどうしたの?」最近では男性の育児

  • 秘密の花   たいへん……

    ぶぅぅっ「また気にいらないの?」はじめて重湯を口にした時は簡単だったけれど、それはただ桜の機嫌が良かっただけだったみたいだ。口に入れた柔らかな粥を口からダラダラと垂らして桜が泣き出す。「今日は食べたくないみたいね」「そうみたい……」泣く桜を抱き上げてその背を撫でてあやす。一緒に用意しておいたミルクの入った哺乳瓶を桜の口元に近づけるとチュウチュウと勢いよく飲み干していく。「離乳、簡単だと思ったのに……」小さく出た春陽の言葉にゆり子は笑った。「ずっと抱いてもらってミルクを飲んでたのよ?座らされてスプーンで食べるのは赤ちゃんも不安になるのよ。ゆっくりでいいのよ、子育ては」--確かに、母親の自分も抱いてあげられない離乳はさみしい。腕の中の桜を見てそう思う。「うん、ゆっくりだね」今しか見れない桜の成長を大事にしていかなくては。「今日は教習所の後すぐに帰ってくるの?私は昼過ぎまで出かける予定があるけど」「天気も良いし、たぶんまた公園に寄ると思うけど」引越してからちょくちょく買い物に行っている商店街で友達もできたらしいゆり子は最近お茶をしに出る事も増えた。気晴らしができる場所がゆり子にあって春陽は嬉しかった。「今日も舞ちゃんとお昼食べてくるからこっちの事は心配しないで楽しんできて」「ありがとう、夕飯は今日は私が用意するわね」「うん」お互い助け合い、お互いができる時できる事をして春陽とゆり子は静かで平穏な暮らしを続けていた。「支度が終わったら出るね」トートバッグにオムツお尻拭きブランケットにタオルミルクスティックに哺乳瓶、適温にしたお湯の入ったボトル。ウサギ柄が可愛い小さなタッパーにお粥を入れて赤ちゃん用カトラリーと一緒に袋へ入れてトートバッグへしまう。教習所の教材は違うバッグに入れ、さらに貴重品用のバッグに財布やスマホをしまう。桜にピンク色の春用上着を着せて抱き上げ、それぞれのバッグを肩にかけようとしたら見かねたゆり子がバッグとベビーカーを持って駐車場まで運んでくれる。「おばあちゃん、ありがとう」既に停まっていた舞の車に桜を乗せてゆり子が運んでくれたバッグとベビーカーを乗せる。「じゃあね」ゆり子に手を振って春陽も助手席に乗り込むと舞は車を発進する。「舞ちゃん、今日もありがとう」「春休みの期間位はたっぷり手伝うわよ」

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