Mag-log in俺は真壁の腰を抱くと、やわらかくほぐした場所に熱を押し当てる。
「ふ……あっ!」
「百合緒……、おまえ、可愛すぎるよ」「んんっ……」きつくて、あたたかくて、柔らかい。
真壁の中が、ぎゅうっと俺を受け止めて、包み込んでくる。 白くたおやかな体が、俺を全て飲み込もうと跳ね、両足がするっと腰に巻き付けられた。呼吸を合わせるように、ゆっくりと、奥まで進む。
真壁の息は、苦しそうに弾んでいるのに、体は全身で俺を歓喜で迎え入れていた。「無理すんなよ……」
「あ……、あ……、守さん……好き……」熱に浮かされたように呟く真壁に、こっちのほうが泣きそうになる。
極力やんわりと、真壁の体に負担をかけないように細心の注しばらくの沈黙のあと、真壁がゆるゆるとまぶたを開いた。「貴雄……、僕は、生きているか?」 その問いにびっくりして、白鳥は真壁の顔を見る。 真壁は真顔で、ジッと白鳥を見つめていた。 微かに表情を崩し、白鳥は頷く。「はい、生きてますよ。俺の最高の恋人は、確かに俺の腕の中にいます」 その答えに、真壁はひどく安堵したような顔で微笑んだ。「愛してる」 唐突な言葉に、白鳥は一瞬、頭が真っ白になった。「ふえっ!」「なんだ、言っちゃ駄目だったか?」「いえ! いえ、いえ、いえ! 言ってください。どんどん、たくさん、何回でも!」「莫迦。そう何回も言えるもんじゃない……」 ふいっと、視線を逸らしはしたが、真壁の耳が赤くなっている。「百合緒さん、俺も……。俺も、百合緒さんのこと、愛してます」「知ってる。……だから、生きて戻れて良かったと思ってる」「はい」「僕は……、だがきっとまた、貴雄に迷惑を掛けると思う」「迷惑って……?」「夜中に叫んで起きたり……とか」「そんなの、へっちゃらです。てか、悪夢で目が覚めたら、メールでも電話でも、してくれていいんですよ?」「スクランブル要員で夜勤してるやつに、そんなことできるか!」「そうですね。すぐに返事はできないかもですけど。……でも俺、百合緒さんの隣を歩くって決めてますから。甘えてもらえると、嬉しいです」 真壁は、困ったような顔をしたが、そのまま白鳥の胸に頬を預けたまま目を閉じた。終わり
不用意に、若桐の話を振ってしまったことを反省し、言葉を探している白鳥の頬に、真壁の指が触れる。「きょ……教官殿?」「黙れ……」 短く言って、真壁は静かに身を寄せる。 唇が触れた瞬間、白鳥の呼吸が止まった。 それはいつもの〝受け入れるキス〟ではない。 生きていることを確かめ合うような、熱を帯びた口づけだった。「んんっ?!」 そのまま、真壁はゆっくりと姿勢を変えて、ほとんど白鳥に馬乗りになるような形になった。 それでもなお、貪るように角度を変え、息をするのを惜しむように、口づけが続いている。「百合緒さん……、今日は……」「触れたい……。僕が、貴雄に触れて欲しい……」 真正面から、真顔で言われて、白鳥は驚きに目を丸くする。 その間に、真壁は白鳥の膝から降りると、スラックスのベルトに手を掛けて、白鳥のそれを取り出していた。「ちょ、百合緒さん?!」「嫌か?」 上目遣いに問われて──。 白鳥が、拒絶できるわけがなかった。「でも、絶対、無理は駄目ですよ」「当たり前だ」 答えて、真壁は取り出したそれに──ほとんどむしゃぶりつくようにして口の中へ迎え入れた。 白鳥と真壁の行為は、基本的に真壁が白鳥のすることに身を任せているのが普通だった。 そもそも付き合い始めた理由が、白鳥から強引に口説きに来ていることもあるが、そうした行為に真壁が積極的になることはほぼない。 それが、白鳥のそこを愛しげに舐め、しゃぶり、喉の奥まで迎え入れて奉仕している。 その行為に、様子に、白鳥は考えるよりずっと煽られた。「ちょ……百合緒さん、もう……っ!」「ん……」 最後に裏側の筋を、
真壁は、それからリハビリのための通院を含めて、半年ほど休職した。 医者から「実地訓練指導は駄目だが、地上勤務なら可能」の許可をもらい、復職した日は、響野から花束をもらった。 タイミングが合わず、白鳥と会えたのは真壁が復職してから、2週間後だった。「おかえりなさい、教官殿」「心配をかけた」 ビジネスホテルの部屋で、相変わらずコンビニ飯を並べ、ソファに並ぶ。「アルコールは、駄目ですか?」「元々好きでもない。飲めなくても問題ない」「そう言うと思ってました」 白鳥は、コンビニ袋から高価なカップアイスを取り出す。 実は真壁が甘党なことを、周囲の者はほとんど知らない。 白鳥とて、付き合い始めてしばらくして、そのことにようやく気付いたほどだ。「すまんな」「快気祝いつったら、少しは豪華にしませんと」 ぱくりとアイスを口に運んだ真壁の口角が、微かに上がる。 その様子を見て、白鳥は嬉しくなった。「本当に、心配をかけた」「仕方ありません。俺らの仕事には、付きものの不安ですし」「それでも……、最後に諦めたのが、申し訳なくて」 真壁は正面を向いたままで、白鳥の顔を見ない。 その横顔に浮かぶ後悔に、むしろ白鳥は喜びしか感じなかった。「俺は、教官殿が生きて帰ってくれたのがご褒美だと思ってますし……。それに、教官殿が俺に申し訳ないって思ってくれるのは、意外に俺のこと好きでいてくれてるんだなって思えて、嬉しいです」 振り返った真壁は、困惑した表情のまま、頬を赤く染めている。「そんな顔、しないでくださいよ。……今日はゆっくり時間過ごすだけって決めてるのに、……触れたくなっちゃいます」「触れないのか?」「当たり前でしょう。教官殿、鎖骨と肋骨、バラバラだったんですよ?」「バラバラってほどじゃない。鎖骨は左だけだし、肋骨が5箇所だ」
ピッ、ピッ……という、電子音が耳に入る。 胸部に痛みがあったと思ったが、実際に痛みはなく……。 意識はぼやけ、視界は霞み、手足は鉛のように重い。「ドクターを!」「……意識が……」 なんとなく騒がしい周囲の声に目をやると、白衣の看護師たちが忙しげに動き回っている。「わかりますか? お名前は?」「ま……かべ……」 声を出そうとした瞬間、夢の中で感じた痛みが胸を貫く。「ゆっくりでいいですよ。唇を動かすだけで」「……まかべ……ゆりお……」 真壁が名を告げると、室内の空気が一気に和らいだのがわかった。§ 真壁が、ICUにいることを教えられたのは、意識が戻ってすぐだった。 痛み止めの影響なのか、すぐに眠りに落ち……。 次に目覚めた時には、病室に移されていた。「ホンットに、ホンットに、ほんっとうに! 心配したんですよ!」 ようやくの休みをもぎ取って、白鳥が見舞いにきている。 隣には、偶然行き合った響野もいた。「すまない……。心配をかけた」「狩谷に感謝しろよ」 狩谷は、響野と同じく真壁の同期で、現在同じ静浜で教鞭を執っている同僚でもある。「なぜ狩谷に?」「おまえとは別に、チェイスで飛んでたんだが。おまえのバードストライクの報を聞いて、訓練生を帰投させ、自分はおまえの機体を追って墜落地点をいち早く連絡してきたんだ。おかげですぐに見つかったんだぞ」「でも、真壁さんの落ち方も良かったんですよ。頚椎も脊髄も、奇跡的に無傷でしたし」 狩谷一人を褒める響野に、白鳥は不満そうに言った。
警告のアラートがけたたましく鳴り響く。 高度計が目まぐるしく数値を告げ、急速に機体が落ちる。「教官! エンジン再起動、無反応! 再点火しません!」「こっちも駄目だ……。スロットル無反応、推力ゼロ!!」──守……さん? そういえば、なんであの日、自分は複座にいたのだろう? ふと、そんなことを考えて。 それから、改めて俯瞰するように見えている機体に目をやると、真壁は自分が主座に座っていることに気付いた。──記憶……違い……? だが、それは普通に考えれば当然だった。 訓練生は主座に座り操縦をして、教官は複座でその指導に当たる。──なんで今まで、思い出さなかったんだろう……? 機体から、真壁が射出される。 後部シートの若桐は、バイザーとマスクに覆われているにもかかわらず、不敵にニヤリと笑っているのがわかった。──強張りきっていた僕とは、大違いだな……。守さんは、自信満々に機体を海まで運んで……、生きて帰るつもりだったに違いない。「そんなこと、あるか。阿呆」 背後から声がして、真壁はびっくりして振り返った。 教育棟の廊下。 そこに、フライトスーツの若桐が立っている。「守さんっ!」「訓練生だった百合緒から見りゃ、自信満々に見えただろうさ」 そういって、若桐は眉尻を下げた。「だけどそれはいつだって、カッコつけてただけだって」 スッと、若桐が指を差す。 廊下の床の下に、炎上したエンジンから煙をたなびかせて飛ぶ、機体が見えた。「ほら、見てみろ。おまえだってちゃんと、機体を海まで運んだぞ」「それは……、守さんの指導が徹底していたからですよ」「いや、おまえの矜持が、本物なんだよ。
その日は、実機での訓練が組まれていた。 PTSDを発症した直後は、機体のエンジン音を聞いただけで身が竦み、座席に座ると吐いたが──。 今はもう、複座で指導を行える。 もっとも、完全に心の整理がついたわけでもなく……。 思うところはあれど、仕事と割り切って座れるようになっただけだ。「反応が早すぎる。もうちょっと落ち着いて対応しろ」「はい、教官」 訓練生の返事は落ち着いている。──西條は、少し慎重すぎるが、優秀だな。 指導方法を考えながら、方向を指示したところで、真壁はハッとした。「西條。バード群、左前方低空。気をつけろ」「えっ?」 一瞬、西條の反応が遅れた。 鈍く大きな音が聞こえた……と同時に。 機体が右に煽られ、計器の針が乱れた。「うわっ! うわあっ!」 前座席で、西條は悲鳴を上げパニックに陥っている。「バード! バード! バード!」 真壁は通信機に向かって、機体がバードストライクしたことを基地に通信した。──くそっ! 操縦権を後席に切り替え、スティックを握る手に力を込める。──落ち着け。……落ち着け! 脳裏にフラッシュバックする、あの日の記憶。 しかし今は、自分が訓練生を守る立場になっている。──守さん。西條を助けてください! 心で祈り。「西條! イジェクト準備しろ!」「は……はい、教官!」 真壁の声と、機体が水平を取り戻したことで、西條は少し落ち着きを取り戻したようだ。 はっきりとした答えが返ってくる。「よしっ! 出ろ!」 爆裂音と共に、主座の風防が飛ぶ。 一気に襲い掛かる、時速800kmの暴風。 バイザーとマスクで辛うじて頭部の安全は守られているが、西條の座席が射出された
真壁は、ぐったりと俺の腕に身を預けていた。 浅く揺れる吐息、湿った額。「……大丈夫か?」「なんか……ふわふわします」 上気した頬の色と、濡れた前髪がやけに色っぽい。 だが、まぶたがふと開いて、黒い瞳と目が合った瞬間──。 もう、視線を逸らせなかった。 潤んだその目は、わずかに揺れながら、まっすぐにこちらを見ている。 ピンク色の唇はうっすらと開き、わずかに濡れていて──。 その吸引力に、俺は抗いきれずに口づ
「じゃあ……、教えてください。どうしたら、僕も教官みたいな、ちゃんとした男に、なれますか?」 その言葉が、どこまでの意味を持っているのか、本人は分かっていない。 だが、俺にはわかってる。 さらに言えば、俺には真壁のこの態度の根底が透けて見えていた。 体格の悩みとか、童貞とか、そんな話ではない。 こいつには、〝誰かに頼ってもいい〟という経験が決定的に足りてない。 俺は真壁の手を取ると、そっと萎えたところに触れさせた。「こういうの、全然やったことないのか?」
訓練の終わった夕暮れ時。 連休前とあって、訓練生の大半は帰省している。 教官室の窓から眺める滑走路の向こう、赤く染まった雲がゆっくり流れていた。 どこか、気の抜けた静けさだ。 もちろん、教官たちもあらかた出払っている。 部屋の中には俺ひとり。普段の喧騒が嘘みたいに、がらんとしていた。 俺──若桐守は、教官室で冷めた茶をすすりながら、窓の外をぼんやり眺めていた。 要するに、職員室だ。 整然と並んだ机の上には、それぞれが〝片付けたつもり〟の痕跡が残り、湯沸かしポットは
俺は、少し考えてから言った。「よし、そこまで言うなら、その〝貧弱な背中〟ってのを、俺に見せてみろ」「えっ……?」 真壁が、目を丸くして固まる。「悩みの内容はわかった。だが、どこがどう問題なのか、実際に見なきゃ判断できん。筋肉のつきにくさなんてのは、見てみないとわからんもんだ」「……確かに、そうですね」 彼はふっと表情を緩めて立ち上がると、小さく頭を下げた。「……じゃあ、その、…&hell