資料の山に囲まれて、真壁百合緒は、静かにモニターを見つめていた。 室内には、スチール製の本棚が並び、そこには資料がびっしりと置かれている。 周囲に音はなく、ただ真壁が操るキーボードとマウスの音だけが響いていた。 元は教官の宿直室であったが、現在は〝資料閲覧室〟として使われている場所。 ──だが、ここは真壁の部屋でもあった。 部屋に戻ったところで、深夜まで資料をめくり、ノートパソコンの画面を眺め、訓練生の成長や次なるカリキュラムを考える。 ならば、いちいち往復する手間を掛ける必要はない。 そう考えた真壁は、現在使われていない教官の宿直室を、資料閲覧室に作り変え、そこで起居していた。 教官である真壁の立場であれば、単身者用の官舎で暮らすのが当然なのだが──。 真壁の非常識な合理性を前に、誰も真っ向から反対はできなかった。 その静けさに、控えめなノックの音が響く。 こんな時間に、来訪があることなど、めったにないことだ。 だが──自分以外の教官が、深夜に訓練性からの身の上相談を受けている話を聞いたことがある。「入れ」 発した声音は、平素と同じ愛想も容赦もない硬質なものだ。 だが入ってきた候補生・白鳥貴雄は、その声に一切怯む様子を見せず──。 ジャージ姿でのっそりと、部屋に入ってきた。 デスクの前に立った足元は、スリッパも履かずに靴下のままだ。「夜分に失礼します、教官。報告があります」 真壁は画面から目を離さないまま、静かに告げた。「報告なら、午後に済ませていたはずだが」 「ええ。でも……これは、〝個人的な〟報告です」 カタリと、真壁の指が止まる。 視線を上げた先にいた白鳥は、どこか挑発的な笑みを浮かべていた。「個人的……?」 「教官は、感情を抑えすぎです。まるで、自分自身を罰してるみたいだ」 「何の話だ……」 その時、白鳥の瞳に、ふいに熱を帯びた光が灯る
Last Updated : 2026-01-16 Read more