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第 7 話

Auteur: 藍葉
自己都合で退職したら会社に四億円の違約金を払わなければならない。

ゼロが八つ並ぶ金額だ。考えただけで頭が痛くなる。気分は最悪だった。

ようやく目的地の白鷺オークションに到着する。名前からして高級そうな雰囲気だ。

受け取り手続きは思ったより簡単だった。だが、その分恐ろしかった。

白い手袋をしたスタッフが、ベルベットの箱を彼女の前へ差し出す。「綾香様、こちらにサインをお願いいたします」

綾香の視線は受領書の最後に止まった。落札価格の欄に並ぶ数字を見て、目がくらむ。

一、十、百、千、万……

十億四千万円。

心臓がぎゅっと縮み上がり、危うく息をするのも忘れるところだった。

ペンを持つ手まで震えている。これを運ぶ途中で何かあったら終わりだ。来世で一生働いても返せない。

彼女は慎重にケースを受け取り、両腕でしっかり抱きしめた。

まるで世界一の宝物を抱えているように。いや、実際そうなのだ。

うっかり落としただけで、自分の人生が吹き飛びかねない。

会社へ戻るタクシーの中でも、綾香はケースを胸に抱えたまま背筋を伸ばしていた。

頭の中はぐちゃぐちゃだった。

こんな高価なネックレス。きっと健司がどこかの女性に贈るものなのだろう。

お金持ちの世界は本当に別次元だ。

プレゼント一つで十億四千万円だなんて。

ふと昔のことを思い出した。

まだお金がなかった頃、彼がくれたのは数万円ほどの小さなプレゼントばかりだった。

一番高価だった結婚指輪ですら、長い間お金を貯めてようやく買った三百二十万円のものだった。

離婚した日。彼女は健司の目の前で、その指輪をマンションの花壇へ思い切り投げ捨てた。

まるで未練なんて欠片もないように。潔く。格好よく。

けれどその後、情けないことに、こっそり探しに戻った。土を掘り返して探し回ったのに、結局見つからなかった。

今、彼女の手元に残っているのは、健司が去る時に置いていった赤と白が混じった石のブレスレットだけ。

いくらする物なのかは知らない。けれど、そのブレスレットには何度も支えられてきた。

返すつもりはない。あれは彼が残してくれた唯一の思い出であり、人生で一番苦しかった四年間を共に乗り越えてきた証でもある。だからこの先も、絶対に返さない。

会社へ戻る頃には、もう午後五時半を過ぎていた。

綾香は深呼吸し、表情を整える。そして健司のデスクへ向かった。

彼は相変わらず仕事中だった。横顔の輪郭が照明に照らされ、いつも以上に冷たく見える。

「社長、ご依頼のネックレスです」綾香は重たいベルベットケースをそっと彼の前へ置いた。

これで任務完了だ。

「今夜、俺と一緒にパーティーへ出席してもらう」健司は顔を上げ、淡々と言った。

そして付け加える。「一度帰って着替えてこい。少し色っぽい格好でな」

色っぽい?

身体を売って色仕掛けでもしろってこと?

そんな彼女の考えを見透かしたように、健司は冷たく言い放った。「身体を売れって意味じゃない。君にそんな価値はない」

綾香「……!!」

あまりの腹立たしさに、その口を縫い付けてやりたくなった。

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