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第4話

Author: ドレミファ
翌日の昼、景吾は激しい頭痛に襲われて目を覚ました。

反射的にベッドサイドへ手を伸ばし、水を飲もうとした。

いつもの二日酔いなら、目が覚めたときには必ず、ほどよい温度の水がベッド脇に置かれていて、そこには詩織の手書きのメモまで添えられていた。

けれど今日は、何もなかった。

「っ……」

景吾は眉をひそめて体を起こし、空っぽのベッドサイドテーブルを見つめた。胸の奥に、理由のわからない苛立ちがじわりと湧き上がる。

「詩織?」

呼んでみても、返事はなかった。

あるのは、がらんとした空間に響く虚しい残響だけ。

「まだ拗ねてるのか」

景吾は鼻で笑い、スマホを手に取った。

画面は拍子抜けするほどきれいだった。不在着信もなければ、LINEの通知もない。

おかしい。

これまでなら、たとえ喧嘩をしても、詩織は長文のメッセージを何十件も送りつけてきて、彼の冷たさを責めたり、泣き顔のスタンプを送って慰めを求めてきたりした。

こんなふうに、死んだように静かなことなど一度もなかった。

彼は、もう指が覚えているその番号へ電話をかけた。

「おかけになった電話は、電源が入っていないため――」

無機質な女の機械音声に、景吾の心臓がどくりと跳ねた。

すぐに今度は賢治へ電話をかける。

「賢治、詩織から連絡あったか?」

向こうも起きたばかりらしく、声がひどく眠たげだった。

「いや、ないよ、景吾さん。どうせ家で一人で拗ねてるだけでしょ。焦らなくていいって。こっちは我慢比べなんだから、先に折れたほうの負けだよ」

景吾は電話を切った。

だが、その胸騒ぎはおさまるどころか、ますます強くなっていった。

顔も洗わず、車のキーをひっつかんで家を飛び出した。

そのまま猛スピードで上原家の屋敷へ向かった。

いつもなら笑顔で出迎える執事が、その日ばかりは無表情のまま正門の前に立ち、彼の行く手を遮った。

「陸山様、お引き取りください。大旦那様が、どなたにもお会いにならないと」

「詩織ちゃんに会いに来たんだ!」

景吾は強引に押し入ろうとした。

「お嬢様はおりません」

「いない?どこへ行くっていうんだ。ここ以外に、あいつが行く場所なんかあるわけないだろ!」

景吾はまるで信じなかった。執事を押しのけ、そのまま詩織の離れへと駆け込んだ。

執事はもう止めなかった。

ただその目にはわずかな憐れみと、冷たい嘲りが浮かんでいた。

景吾は一気に二階まで駆け上がり、詩織の寝室の扉を押し開けた。

「詩織、いい加減に――」

その声は途中で止まった。

部屋はきれいに整えられ、窓ガラスまで磨き抜かれていた。

けれど、整いすぎていた。

ドレッサーの上に並んでいた化粧品類は消えていた。ベッド脇のぬいぐるみもない。クローゼットの扉は開け放たれ、中は半分以上が空になっていた。

部屋全体に、しんと冷えきった死のような静けさが漂っていた。まるで、この部屋の主がずっと昔にいなくなってしまったかのように。

机の上には、真っ二つに切られた黒いカードが一枚、静かに置かれていた。

それは景吾が彼女に渡した家族カードだった。

限度額なしで、かつて彼女はそれで役にも立たない高級品を好き放題買っていた。

そこへ賢治と航平も駆けつけてきた。

「景吾さん、これ……どういうこと?」

賢治はゴミ箱の中にあった大きな黒い袋を見つけ、口を開けて中をのぞき込んだ瞬間、顔色を失った。

「これ……俺たちが贈った物ばかりだ……」

そのとき航平が、窓辺の隙間で何かがきらりと光るのを見つけた。

歩み寄って確認した彼は、息を呑んだ。

「景吾さん、下を見て」

景吾は窓辺へ駆け寄った。

真下、排水溝のそばに、一つのダイヤの指輪が引っかかっていた。

あれは、彼がプロポーズのときに贈ったピンクダイヤの指輪だった。

陽の光を受けて、それは涙が出そうなほど痛々しくまぶしかった。

「おじいさま!詩織ちゃんはどこですか!?」

景吾は狂ったように階下へ駆け下り、母屋へ飛び込んだ。

万夜は重厚な椅子に深く腰掛け、冷然とした眼差しで、かつては孫娘の婿にと考えていた若者たちを見下ろしていた。

「行ったよ」

万夜の声は老いてなお威厳に満ちていて、そこには感情のかけらもなかった。

「どこへですか?俺たちが迎えに行きます!おじいさま、昨日は俺が悪かった、酒が入ってたんです。ちゃんと謝ります!」

景吾は焦りを隠せずまくしたてた。

「迎えに行く、だと?」

万夜は冷笑し、一通の書類を景吾の顔へ叩きつけた。

それは建設支援プロジェクトの確認書と、政略結婚の合意書だった。

「あの子はA国で最も治安の悪い地区へ建設支援に行った。それに、西園寺家との縁談も受けた。もう飛行機は着いている。

陸山景吾、お前たちみたいなろくでなしどもは、もう二度とあの子に会えると思うな」

「A……A国?西園寺家?」

景吾の手は、書類を握ったまま激しく震えた。

あの西園寺家?西の鉱脈を掌握し、手段を選ばぬ苛烈さで、生きた閻魔と恐れられる西園寺炎(さいおんじ えん)――あの西園寺家だと?

「ありえない……詩織ちゃんは暑いのが苦手で、虫も苦手で、苦労なんて何より嫌うのに……あんな場所に行くわけが……」

景吾は呆然と呟いた。顔は青ざめていた。

「そうだ。あの子は苦労が嫌いだった」

万夜は立ち上がった。

その眼差しは鋭く、容赦がなかった。

「だがあの子は、お前たちから受ける苦しみより、そっちの苦しみを選んだんだ。お前が自分の手で、あの子を追い詰めて行かせたんだよ」

その瞬間、景吾の膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

巨大な恐怖が濁流のように彼を呑み込んでいく。

彼はようやく理解した。

どれほど傷つけられても、最後には自分のもとへ戻ってくると思っていた、あの壊れやすい箱入り娘が。

今度こそ本当に、自分を捨てたのだと。
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