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第4話

Author: 七十七
あの日以来、勇真は家に戻らなかった。

それは彼の常套手段だった。

冷たい態度で私を翻弄し、私を果てしない疑念と自己嫌悪に陥れ、心を砕かせる。

そして、彼が少し情熱的な言葉を囁くと、私たちはまた仲直りする。

かつては愛していたから、私は妥協した。

今はもう、どうでもよくなっていた。

私は荷物をまとめ始めた。彼の別荘には高級品が並び、私のものは数枚の着替えだけだった。

その時初めて気づいた。私はもう長い間、勇真を中心に生きてきたのだと。

翌日、私はヤクザの本部に戻り、辞表を提出した。

ヤクザから身を引き、すべての職位と権力を手放すためだ。

引き継ぎを担当するのは親友である凛音(りんね)だった。

彼女は辞表を見て驚愕した表情を浮かべ、すぐに笑った。「梅原さん、ついに花嫁になるつもりなの?もう引退準備ね?」

私は首をかしげた。「どういう意味?」

彼女は肩を叩き、嬉しそうに言った。「もう隠さないで!先日、親分の右腕が言ってたの。最高級のホテルで盛大な結婚式を準備してるって!

梅原さん、おめでとう!長年の苦労がようやく報われるのね!」

私は呆然と立ち尽くした。心は混乱していた。

七年間待ち望んだあの結婚式、彼は確かに覚えていてくれたのだ。

だが、今の私は喜ぶべきか悲しむべきかもわからなかった。

私は何も言わず、引き継ぎ書類に署名した。

結婚式の知らせで心は乱れ、その夜、親友たちを誘ってよく行くバーで酒を飲んだ。

帰り際、私はほろ酔いで廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

半開きの喫煙室から、勇真の右腕の驚きの声が響く。「親分、本当に神田さんと結婚式を挙げるつもりですか?では梅原さんはどうなるんですか?

梅原さんは七年間、親分に尽くしてきました……ずっと結婚式を待っていました……もし彼女が知ったら……」

勇真は指先でタバコを挟み、複雑な感情を込めた声で言った。「唯がどれだけ苦しんだか、わかってるぞ。

でも昨日、千鶴が敵に襲撃された。彼女は怖がっていた。万が一、夢のような結婚式さえ経験できないまま死んでしまうと……

千鶴の願いを拒むことはできなかった」

勇真は一瞬沈黙し、声に断固たる決意を込めた。「まず唯には少し我慢してもらおう。彼女の結婚式は少し先延ばしにする」

私はその場で硬直し、胸が締めつけられた。

あの結婚式は、そもそも私のためのものではなかったのだ。

彼は心の中で、いつも私よりも千鶴を優先するのだ。

私がよろめきながらバーを飛び出すと、目の前に千鶴が立っていた。

「唯?泣きそうな顔ね、結婚式のこと知ったんでしょう?」彼女はついに本性を現し、容赦なく嘲笑した。

「まだ自分が花嫁だなんて期待してたの?笑わせないで。あなたなんてせいぜい愛人止まりよ。勇真の花嫁になんてなれない。

昨日は敵に怯えたフリして、早めに結婚式を挙げたいってちょっと嘘をついただけ。それで彼はすぐ承諾したのよ。私が望めば、彼は必ず叶えてくれる。本能的に私を甘やかすの。あなたに何ができる?」

私は顔色を蒼白にしながらも、涙をこぼさぬよう顎を上げた。「あなたが勝ったわね。私は勇真に言う、もうすぐ立ち去ると。私が負けたの」

千鶴は冷笑した。「それはダメ。あなたが不満を抱えて去ったら、まだ彼はあなたを気にかけるでしょ?まさかあなたが、こんな卑しい考えを持っているなんてね」

言い終わるやいなや、彼女はハンドバッグから拳銃を取り出し、隣の車のガソリンタンクに向けて引き金を引いた。

バンッ!

タンクが瞬時に爆発し、轟音と共にバーの外壁が吹き飛び、破片と煙が巻き上がった。

私は瓦礫に押しつぶされるように地面に伏せたが、手には突然、彼女が無理やり銃を押し込んできた。

次の瞬間、千鶴は激しく倒れ、嗚咽しながら泣き叫ぶ。「梅原さん、お願い、殺さないで!もうお兄さんの愛を奪おうとしないから!傷つけないで!」

勇真は瞬時に飛び出してきた。

私は銃を握り、背後には消え残る炎の光があった。千鶴は血まみれの腕を抱え、地面で震えていた。

顔色を変え、勇真は私の手から銃を奪い落とした。「唯、何をしてるんだ?狂ったのか、愛を奪うために彼女を殺すつもりか?」

「違う!」私は声を震わせ、涙が溢れそうだった。

「その銃は彼女が押し付けたの、罠よ!」

しかし炎と血の光景の前では、私の弁解は虚しく響くだけだった。

千鶴は嗚咽をあげ続けた。「結婚式は譲るって言ったのに、彼女はまだ私を殺そうとする!お兄さん、彼女は本当に私を殺す気よ!」

勇真の声は低く、苦痛と失望に満ちていた。「唯、ずっと君を最も安心できる存在だと思っていたのに……今はどう信じていいかわからないんだ」

言い終わると、彼は千鶴を抱き上げ、ゆっくりと歩き去った。

私も飛び散る破片で数か所を切り、痛みが体を貫いた。

しかしその痛みなど、心の裂け目には比べ物にならなかった。

口を開いたが、かろうじて絞り出せたのは断片的な声だけだった。「私じゃない……本当に……違う……」

涙で視界は霞み、世界は轟音とともに崩れ落ち、息が詰まる。

最後の力を振り絞り、よろめきながら反対の方向へ歩く。

空港行きのタクシーが目の前に停まり、私は疲れ果てた身体を座席に預け、目を閉じた。

運転手がバックミラー越しに一瞥し、ためらいながら口を開く。「お嬢さん、本日五十人目のラッキーパッセンジャーです。次回乗車時に使える割引券を差し上げますが、いかがなさいますか?」

私は首を横に振り、乾いた声で確固たる決意を告げた。「いいえ……もう、この街には戻りません」
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