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約束はあの世まで
約束はあの世まで
Author: 任くん

第1話

Author: 任くん
「黒石寧々(くろいし ねね)さん、本当に辺境の地の戦場医師に行く気なのか?

今回の派遣は、これまでのような交流じゃない。あちらの情勢は不安定だ。二ヶ月前に派遣された医師たちの状況から推測すると、生きて帰れる望みはほとんどゼロ……」

院長はリスクをはっきりと説明した。それでも寧々は、しっかりと頷いた。

紛争地帯の医師になる――彼女はもう、あの硝煙の立ち込める地で死ぬ覚悟はできていた。少なくとも病に倒れるよりはましだ。それに、少しは役に立てるだろう。

病院での夜勤を終えたばかりの寧々に、浦上創太(うらがみ そうた)から電話がかかってきた。

「天上人間クラブ、十分で来い」

寧々はすぐにタクシーを呼び、胃のあたりを刺すような痛みをこらえながら、個室へと急いだ。

ドアの向こうから、女の甘えた声と挑発的な言葉が聞こえてくる。

「んっ……そこ、触らないで……創太、本当に意地悪な人なんだから……」

寧々にはもう慣れた光景だった。ほぼ毎日、違う女を使って、彼女の目の前でこういう芝居を繰り広げるのだ。

創太は若い体を抱き寄せ、彼女たちの若さと美しさを思うままに楽しんでいた。しかし、心のどこかで苛立ちを感じていた。

……寧々がドアを開けて入ってくるまで。

寧々は心の準備を整えた。ドアを開けると、創太の膝の上にまたがる女の姿が目に入った。背中は大きくはだけ、白い肌を露わにしている。寧々には背中しか見えず、顔はわからなかった。

だが、おそらくまた大学生だろう。二人が再会してこの一年、創太の好みはわかっていた。無垢で、誰にも汚されていない、若くて瑞々しい女が好きなのだ。

創太は不機嫌そうに言った。

「遅いぞ」

「場所が遠くて、間に合わなかった」

「なら、いつものルールだな」

いつものルール――それは、一分遅れるごとに酒を一杯空けるというものだった。

個室内のカラフルな照明が、寧々の青ざめた顔色を隠してくれた。

寧々はバッグを置き、近づいた。グラスを手に取ろうとした時、初めて創太の膝の上の女が振り向いた。その顔を見て、寧々は息をのんだ。

「……あなた、女に困ってるわけじゃないのに、どうして彼女を?」

親しい者ほど、どこを刺せば一番痛いかを知っている。

創太はよく知っていた。彼女がこの世で一番嫌っているのが、義母の連れ子の妹、黒石遥(くろいし はるか)だということを。

表向きは無垢で可憐に見せながら、子どもの頃から寧々の牛乳に塩を混ぜたり、こっそり髪をボウズ同然に切ったり、大学受験の志願書を改ざんしようとしたり……小さい頃からずっと、寧々をいじめ続けてきた妹。

創太はグラスを揺らしながら、微かに顔を上げた。鋭い目つきが寧々を射抜く。

声は低く、冷たく、地獄底からのような憎しみに満ちていた。

「お前は昔、俺を捨てて、俺の兄さんとくっついて、その上二人で俺を罠にはめて刑務所送りにしたんだぜ?なんで俺がお前の妹と一緒にいてはいけないんだ?」

寧々は一瞬、硬直した。あの記憶が一気に押し寄せ、身体が微かに震えた。

彼女と創太は高校で知り合った。彼は浦上家の表に出せない隠し子。彼女は再婚家庭で愛されない娘。

暗く寂しい中で育った二人は、約束通り同じ大学に合格し、生まれ育った家を離れた。互いが、長い夜の唯一の光となったのだ。

二度と離れることはないと思っていた二人だが、寧々は、創太が腎不全と診断されると、決然と彼の元を去ってしまった。

彼が地にひざまずき、助けを求めるように、せめて最後の時だけでも一緒にいてくれと懇願しても、彼女の心は氷のように冷たかった。

彼と苦労を共にしたくなかった――創太はそう理解した。

しかし、彼が腎臓提供者を見つけ、一命をとりとめた後、彼女に戻ってきてほしいと願った時、寧々はとっくに創太の異母兄弟、浦上拓巳(うらがみ たくみ)の腕の中に飛び込んでいた。

創太が最も憎んだのは、再会の場が法廷だったことだ。拓巳が創太を飲酒運転という嘘の証言で陥れ、寧々がその重要な証人となって、創太を三年の刑務所暮らしに追いやったのだ。

出所後、創太はこの世で最も憎む男――実の父親の元へ戻った。

一年間身を潜めて機会をうかがい、浦上家のすべての財産と権力を掌握した。自分を刑務所に送った異母兄の拓巳さえも、その冷酷な手口で国外に追いやった。

一年の間に、浦上家はまさに主が代わったと言っていいほどの変貌を遂げた。

権力を握ると、彼はすぐに医師となっていた寧々を見つけ出し、彼女に過去の行いの代償を払わせようとした。

しかし、寧々だけが知っていた。彼女には言えない事情があったのだ。

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