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第3話

Author: 隠し月
深夜、私は有紗のSNSを見ていた。

【残業中にお腹痛くなった……でも上司が薬を用意してくれて、幸せ!】

写真には、腕まくりした悠斗が薬とコップを持っている様子が映っていた。

どうやら、あの海老天が原因らしい。

食べなくて正解だった。

私は昔の親友に会い、バーで飲みながら語り明かした。

以前、悠斗は私が酒を飲むことや、自分の交友関係を持つことすら嫌がった。

「お前を俺だけのものにしたい」と言って、まるで籠の鳥のように扱おうとした。

今となっては、はっきりわかる。

誰が籠の鳥のように、家政婦みたいに男の世話をするんだ?

結局、彼からは安っぽいなんて言われるだけだった。

目覚めたのは、翌日の午後だった。

部屋に入ってきた悠斗が、いつものように口を開く。

「昨日は残業で遅くなり、会社で寝た」

疲れた様子で上着を掛け、鼻をひくひくさせて眉をひそめた。

「……酒の匂いがするぞ?」

「昨日、友達と飲みすぎちゃった。窓開けたら大丈夫」

彼は不満そうに口を結んだが、それ以上は何も言わなかった。

彼は残業と嘘をつき、一晩中秘書の世話をしていたから、私に説教する立場がないと、彼自身も分かっているだろう。

机の上に置かれた真っ赤な4の数字を見て、彼は何かを思い出したようだ。

「そうだ、あと二日でお前の誕生日だな。欲しいものはある?」

言われて初めて、誕生日が近いことに気づいた。

「いいよ。別に祝いたくもないし」

かつて彼が言った言葉を、私はそっくり返した。

去年の彼の誕生日。私は食事をたくさん用意して待っていたのに、彼に叱られたものだ。

「仕事が忙しいし、別に祝いたくない。待たなくていい」

後で有紗のSNSで、彼女が悠斗の目を覆って、願い事をさせている写真を見つけた。

彼は誕生日を祝いたくなかったわけじゃない。ただ、私と祝いたくなかっただけなんだ。

あの日、私たちは喧嘩になった。私は悔しくて、願い事の時誰のことを考えていたのかと問い詰めた。

彼は私が小心者だと言い、同僚に無理やり祝われただけだ、断れなかっただけだと言った。

悠斗もそのことを思い出したらしく、目に後ろめたさがよぎった。

「ダメだ。結婚前の最後の誕生日だろう?ちゃんと祝ってあげないと」

彼は私の肩を抱き、軽く頬にキスをした。

「あれ?去年あげたネックレス、どうしてつけてないんだ?」

あのネックレス、かつてはお風呂の時も外さないほど大切にしていた。

昨日、彼が家を出た瞬間、私はそれをゴミ箱に捨てた。

「しまってあるよ」

淡々と答えると、悠斗は「ああ」と言ったきり、それ以上は尋ねなかった。

徹夜で有紗の世話をし、その後一日働いたのだから、彼は疲れていた。シャワーを浴びると、早々に寝室に入って寝てしまった。

真夜中の鐘が鳴る頃、私はカレンダーを一枚破り取った。

あと三日で、私は悠斗から離れる。

ブライダル会社から電話があった。新郎が今日サイズを測り、タキシードを選んだという。

「最近、新郎様がずっと結婚式の詳細を確認なさっていて、本当に幸せですね」と。

両親からも電話があり、前もって新しい結婚相手の伏原裕一郎(ふしはら ゆういちろう)に会っておくよう勧められた。

「会ったことあるじゃない。結婚式の時に会えば同じよ」

「誰に会うんだ?」

悠斗が私の話を耳にした。

「両親よ。結婚前に会いたいって言うから、断っといたわ」

淡々と答えると、悠斗は少し不機嫌になった。

「五年も経つのに一度も会ったことないんだ。なんで勝手に断るんだよ」

両親が会いたがっているのは、あなたじゃない。

私は口を開きかけたが、言うのも面倒でやめた。

悠斗がクローゼットを開け、驚いた声をあげた。

「お前の服はどこに?」

「まとめてしまったの。新しい家に引っ越す時に楽だから」

淡々と答えると、悠斗は上着を取り出した後、振り返って私を抱きしめた。

「明日、休みを取った。家で誕生日を祝おう」

彼にしては珍しい、自発的な気遣いだった。

「ええ」

ちょうどいい。五年前、私と彼が付き合い始めたのも私の誕生日だった。

この日を区切りにしよう。

誕生日当日に、カレンダーの数字は1になった。

悠斗は私と一緒に買い物に行ったが、一本の電話で呼び出されてしまった。

考えなくてもわかる。こんな時に彼を呼び出せるのは、有紗だけだ。

嘘だとわかっていたが、一人で家に帰り料理を始めた。

彼は「二時間以内には必ず戻る」と言った。

だが、私がたくさん料理を作り、自分の分を食べ終わるまで、彼は戻ってこなかった。

口をぬぐい、立ち上がって両親に電話をかけた。

「結婚式場を見に行こう」

予約していたホテルに着くと、意外にも悠斗の姿が見えた。

彼のそばには有紗が立っていた。二人は楽しそうに話しながら、まるで恋人同士のようだった。

「誤解するなよ、美鈴。有紗が困ってたんだ。お見合いの男がしつこくてね。仕方なく兄のふりをして追い払おうとして……」

私はうなずいた。「確かに面倒よね。上司なんだから、部下は守らないと」

騒ぎも誤解もせず、平静だった私の姿を見て、悠斗はほっとしたようだ。

「じゃあ、一旦彼女を上の階まで送ってくる。後でまたここで会おう」

有紗は私に「ありがとうございます」と笑いかけて、エレベーターに入った。

彼女の首にかかっていたネックレスは、私が好きなブランドのものだった。

それに今朝、悠斗がカバンにしまったあのネックレスだ。

あれは、本来私への誕生日プレゼントのはずだった。

悠斗は言い淀むようにもしたが、結局エレベーターに乗り込んでいった。

ドアが閉まる瞬間、有紗の中に、かつての自分の姿が重なって見えた。

昔の悠斗も、私に対しては同じように気遣いだった。私にちょっかいを出す者には誰であろうと緊張して対処したものだった。

両親と式場を見て回り、送り出した後も、悠斗は降りてこなかった。

さっき「後で」と言っていたので、メッセージを送ってみた。

【終わった?いつ戻るの】

すぐに音声メッセージが返ってきた。再生すると、有紗の声だった。

「美鈴さん、先に帰っててください。ちょっと揉めちゃって、悠斗さん服が汚れたから、今シャワー浴びてるの。後で電話させるね!」

向こう側で聞こえる水音に、私はタクシーを拾い、家へ向かった。

「美鈴さん、怒らないでください。今日は全部私のせい……あの男、私たちが兄妹って信じてくれなくて、悠斗さんに手を出そうとしちゃって……」

有紗の声には、隠しきれない得意げな響きがあった。

私は相手にしなかった。

しばらくして、悠斗から電話がかかってきた。

「ちゃんと説明しただろう?いつまでもぐずぐず言うなよ!

有紗は一人でこの街で頑張ってるんだ。上司なんだから、助けて何が悪い?」

向こうから、有紗のすすり泣きが聞こえた。

私は深く息を吸い、彼女の仲違いを狙った小細工にこれ以上付き合う気はなかった。

「うん、わかってる。だから待たずに先に帰ったんだよ。ゆっくりして」

悠斗の言いかけの詰問は、こうして全て遮られてしまった。

電話を切り、車はちょうど家に着いた。

自分の荷物を全て運び出した後、机の上に半分残った料理を一瞥した。

カウントダウンカレンダーの1と書かれたページを破り取り、残された一枚には目を引く0の文字があった。

道中、悠斗からのメッセージが届いた。

【美鈴、ケーキ買ったよ。後で誕生日祝おうな】

もう、返事はしなかった。

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