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結婚式を雪崩で潰した真犯人を庇う夫、さようなら
結婚式を雪崩で潰した真犯人を庇う夫、さようなら
Author: ハカリ

第1話

Author: ハカリ
夏川明日香(なつかわ あすか)との結婚式当日、夏川翔太(なつかわ しょうた)は突然、式場を雪山に変更した。

指輪の交換をしたその時、近くの斜面でスノーボードをしていた人物により小規模な雪崩が起きた。

絶体絶命の瞬間、翔太は明日香を突き飛ばし、自らは雪の中に飲み込まれた。

翔太が意識不明の1ヶ月の間、トップクラスの弁護士である明日香は、雪崩の原因を作った新井瞳(あらい ひとみ)を連日訴えていた。

しかし相手は一向に出廷せず、裏で誰かが瞳を守っている様子だった。

休廷の1時間、明日香は怒りを押し殺し、翔太の様子を見に病院へと向かった。

そこで彼女は、全身の血が凍りつくような光景を目にした。

翔太はベッドの上で体を起こし、青白い顔でこう言った。「安心しろ、まだ死なないよ。どうした?俺の最期を見に来たのか?」

それは皮肉だったが、男の瞳の奥に隠しきれない微かな歓喜の色があるのを、明日香ははっきりと見て取った。

瞳という女はデリバリーの袋を手に持ち、肩を震わせて泣いていた。

「翔太、本当にわざとじゃないの。ただ遠くから姿だけでも見たくて……」

瞳は言葉を詰まらせ、言いたい言葉を必死に飲み込んだ。

「ただ……雪景色が綺麗で。スキーに来ていただけなのに、こんなことになるなんて」

明日香は絶句した。この女、私が手強いと見るや、こともあろうに私の夫に泣きついていたのだ。

「責めてないさ。

これまでの数年間、お前が俺を気にかけてくれていた。それで貸し借りはゼロだ」

翔太は目を伏せて言った。

ドアノブにかけた明日香の手が止まった。

次の瞬間。

「翔太、どうしても忘れられないの!今でもあなたを愛してる!」

瞳は狂ったようにすがりつき、涙が滝のように彼の胸に降り注いだ。

「あなただって、まだ私を愛してるんでしょ!」

翔太の背中が、一瞬強張った。

「雪山で結婚式を挙げたのも、私が来るかどうかに賭けてたからでしょ!」

瞳は顔を上げ、涙声で訴えた。

「お願い、もう貸し借りはゼロなんて言わないで。そんな残酷なこと言わないでよ」

瞳はすがるような目で彼を見つめ、その涙は彼の上に一滴、また一滴と落ちた。

「もう、私を突き放さないで……」

翔太は抑えきれずに彼女の唇を塞いだ。病室に、2人の熱いキス音が響いた。

明日香の手は震え、結局そのドアを閉めることはできなかった。

彼女の脳裏に、ずっと昔の光景がよぎった。酒に酔った翔太が、恨みに満ちた目で自分に寄りかかっていた夜のことだった。

彼はこの世で最も憎い相手がいると言っていた。

翔太が17歳の頃、瞳の母親が起こした交通事故で、彼の母は亡くなった。

母が病院にいる間の3ヶ月間、あろうことか瞳の母親が彼の父を誘惑し、後妻として家庭に入り込んだのだ。

母親の交通事故はいとも簡単に示談書にサインされ、残されたのは一握りの遺骨と、絶望に打ちひしがれた翔太だけだった。

かつて翔太は明日香に、彼女たちを憎み、骨の髄まで許さないと言っていた。必ず正義を勝ち取ると。

しかし今、若き日の自分を裏切り、瞳を愛してしまったのは他ならぬ彼だった。

瞳への愛ゆえに、彼は10年の憎しみを捨ててまで瞳と添い遂げる道を選んだのだ。

執着ゆえに、彼は結婚式の場所をわざと雪山にし、かつての愛を揺さぶろうとしたのか。

自分がこの数年、将来のキャリアを捨てて彼の身の回りの世話を焼いてきたことを忘れてしまったのだろうか。

翔太の入院中、たった1人で瞳を罰するために走り回っていた自分の苦労はどうなる。

なぜ瞳が何度も保釈されてしまうのか、今まで理解できなかったが。

……やっと理由が分かった。

全部、翔太の仕業だったのだ。

彼はその愛を、「恨み」という仮面の裏にひた隠しにしていたのだ。

瞳は服を整え、ふと顔を上げた先で、明日香と目が合った。

瞳の目には言いようのない憎しみが浮かんだが、すぐにまた翔太の腕に逃げ込んだ。

翔太の体が強張り、腕の中の女の視線を追って明日香を見つけた。

男の表情には焦りよりも、自分は悪くないという開き直りがあった。

「明日香、瞳はさっき俺に謝ったんだ。お前も大した怪我はないんだから、取り下げろよ」

枕元に置かれたままの示談書を目にし、明日香は思わず吹き出した。

夫の異変に、今まで気づかなかった自分の愚かさが笑えてきた。

彼が昏睡し、血液が底を突きかけていたこの一ヶ月。明日香が吐き気に耐えながら食事を摂り続け、自らの体を削るようにして彼を救おうとしていたことなど、翔太は知る由もなかった。

今までの努力など、「大した怪我はない」の一言で帳消しにされるのだ。

自分は翔太を丸7年も追い続けてきた。

もういい、疲れた。

今回ばかりは、振り向かない男の背中を待ち続けることはしない。

「そうね。あなたの言う通りだわ」

そう言い残し、翔太の瞳に浮かんだ安堵の色には目もくれず、彼女はきびすを返してその場を去り、すぐにパラリーガルに連絡を入れた。

「あの国際訴訟の案件、私が引き受けるわ」

翔太。今後は、あなたのことのために自分のキャリアも人生も後回しにはしない。
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