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第2話

Author: ハカリ
開廷の直前、パラリーガルである田中梨花(たなかりか)から、詳細な追加ファイルが送られてきた。

「先生、調べたところ、翔太さんに関連するいくつかの事件の真犯人は新井さんだと分かりました。まとめましたので、お役に立てるかと思います」

明日香は気持ちを落ち着かせ、手元の書類をぎゅっと握り締めた。

法廷の入り口で、翔太が立ちはだかった。「明日香、もう訴えは取り下げるって話がついていただろう?

瞳には悪気がないんだ。毎日差し入れもして謝ってるし、雪崩だって事故なんだから、こんなに騒ぎ立てる必要はないだろう」

明日香は自嘲気味に笑った。

結局、彼は瞳の差し入れのことしか頭にないのだ。

その一方で自分は、彼のために奔走し、専門家や目撃者を必死に探してきたが、すべて無駄だったのだ。

男は自分の動揺に気づいたのか、トーンを落として言った。

「明日香、瞳も一応は俺たちの家族だ。後で適当な理由をつけて、適当に裁判を終わらせてくれないか……」

「いい加減にして!翔太、もうすぐ開廷だよ」

明日香の声は震えていた。

彼女が感情を露わにするのは、これが初めてだった。

弁護士になってからというもの、自分はずっと完璧に仕事をこなしてきた。それなのに、こんなろくでもない男のために記録を汚すつもりか。

「これより法廷弁論に入ります。原告代理人、夏川明日香弁護士は意見を述べてください」

裁判官の声で、明日香は我に返った。

反対側の被告人席では、瞳が翔太に怯えるような、そして頼るような視線を送っていた。

明日香は深呼吸をして、胸に渦巻く悲しみとやり場のない不満を押し殺し、震える声で告げた。

「雪山での事故による被害に関し、こちらの主張を取り下げます……」

「敗訴」の宣告が法廷に響いた瞬間、翔太が駆け寄り、瞳を抱きしめて優しく慰めた。

「ほらな、何も心配いらないって言っただろう」

瞳は目を赤くし、安心したように男の胸に顔を埋めた。

その直後、明日香が顔を上げ、澄んだ声で放った。

「当方の依頼人である夏川翔太が雪崩によって危害を受けた件については、事実として終結しました。ですが、他にも数件、被告人である新井瞳に関する明確な証拠を発見しました。これより、本法廷での検証を申し立てます」

法廷中が騒然とした。

「夏川社長と明日香弁護士は夫婦で、新井瞳は彼の義理の妹だろう?結局はただの身内のいざこざなのに、ここまで事を荒立てるのか?」

「あの新井って女性、何度も事件を起こしてニュースになってたけど、結局お咎めなしだったんだ。毎回、夏川社長がもみ消していたらしい。今回どうして、身内同士で潰し合っているんだ?」

翔太が勢いよく立ち上がった。「明日香、正気か!」

明日香は淡々と裁判官の方へ歩み寄り、分厚い書類を差し出した。

彼女は、瞳がこれまで逃れ続けてきた罪への裁きを、一つ一つ公の場へと引きずり出した。

「新井さんが成年式の日、ケーキに異物が入っていると知りながらわざと被害者の顔を押し付け、その女性の顔に回復不能な傷を負わせました。

22歳で交通事故を起こし、替え玉を使って隠蔽し、今も賠償が済んでいません」

……

突然、彼女の言葉を遮る者がいた。

「逃げろ!火事だ!」

パチパチと弾けるような音と共に、装飾用の細長い梁が大きく揺れ、パラパラと破片を落とし始めた。

明日香は目を見開いた。

彼女はとっさに梨花を呼び、出口に向かって走らせたが、心の隅では無意識に翔太を探していた。

翔太は瞳を抱き抱えたまま外へと向かっていた。火の粉が頬にかかっても表情一つ変えず、瞳のことしか見ていなかった。

すれ違う瞬間、翔太は勢いよく明日香にぶつかり、彼女を火の中に突き飛ばした。

男は一度も振り返らなかった。

明日香の存在すら気づいていない様子だった。

明日香は足首をひねり、床に倒れ込んだ。そして、濃い煙で声も出なかった。

梨花が慌てて振り返り彼女を引っ張ろうとしたが、それより先に、炎に包まれた梁が真っ直ぐに落下してきた。

背中に激痛が走り、その瞬間、視界が闇に落ちた。

意識が混沌の沼に沈んでいく中、記憶の断片が彼女の脳裏を駆け巡った。
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