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第5話

Author: ハカリ
瞳は悲鳴を上げ、翔太は慌てた様子で上着を羽織り、彼女を自分の背後に庇った。

「先生はまだあそこで寝たきりなのに!!最低!」

梨花は素早く電気をつけて部屋に踏み込むと、通話を切り、スマホを構えて2人の姿を余すところなく動画に収めた。

翔太は顔をしかめ、スマホを奪い取ろうとした。「やめろ!消せ!さもないと……」

だが遅かった。梨花はすでに動画を保存していた。

「警備員さん!ここで暴れてる人がいます!」

近くにいた警備員がすぐに駆けつけ、翔太と瞳を両脇から抱えてつまみ出した。

「田中さん!明日香には言うな……」

翌日の昼、明日香はようやく目を覚ました。

梨花は彼女のそばに座って水を飲ませながら、この2日間の出来事を話すべきか迷い、心ここにあらずだった。

「梨花さん、離婚協議書を用意して」

「え?」

明日香の掠れた声が突然響いた。

梨花は一瞬言葉を失ったが、振り向くと、明日香の疲れ切った瞳と視線がぶつかった。

先生は、すべて聞いていたのだ……

梨花の目に痛ましい色がよぎったが、それ以上に、明日香がクズ男の本性を見抜き、彼から離れる決心をしたことへの喜びが勝った。

「はい!待っててください!」

そう言って、梨花は慌ただしく病室を飛び出していった。

突然、無作法なノックの音が響いた。

明日香は梨花だと思って笑顔で振り向いたが、翔太の顔を見た瞬間、その笑顔は凍りついた。

翔太は彼女の表情を気にする様子もなく、足音を忍ばせながら、茶碗蒸しの入った保温容器のフタを開けて言った。

「明日香、やっと目を覚ましたんだな!この間、俺がどれほどお前のことを心配したか……」明日香は彼を見つめ、強烈な吐き気を覚えた。

彼女は一言も発することなく、その保温容器を手で冷たく払いのけた。

翔太の機嫌を取るような笑顔が引きつり、彼も腹を立ててスプーンを床に叩きつけた。

「お前、どうしてもそうやって……」

「翔太、私、卵アレルギーなの」

明日香の声は静かだった。

翔太はその場に立ち尽くし、言葉を失った。

空気が凍りつくような静寂の中、突然スマホの着信音が鳴った。

瞳の専用着信音だった。

「ちょっと待っててくれ……明日香……急用だ」

翔太は険しい顔で電話を切ろうとしたが、ビデオ通話の画面に瞳の体が映ったのを見て、無意識に画面を隠しながら足早にベランダへと向かった。

病室に再び静けさが戻った。

明日香は梨花が持ってきてくれた雑炊をゆっくりと口に運びながら、鏡のように反射している窓ガラスへ、静かに視線を落とした。

そこに映っていたのは、翔太が手にするスマホの画面でなまめかしい姿を晒し、哀れを誘うような瞳の表情だった。

「翔太、私もう生きていけない。外に出ればみんなに後ろ指を指されて、もう限界だよ!

お願い、来てくれない?これで最後にするから……来てくれないなら、私、バーに行ってその辺の男と寝る!」

翔太の表情が強張った。無意識に明日香の方を見たが、彼女は驚くほど静かで穏やかだった。

スマホのスピーカーからは瞳の泣き叫ぶ声が響き、続いてガラスが割れる音がした。

翔太は勢いよく外へ向かおうとしたが、数歩踏み出したところで振り返り、ベッドに横たわる明日香と視線を合わせた。

彼の胸は激しく痛み、顔には隠しきれない動揺が表れていた。

「明日香、今回だけだ。本当にこれで最後だ。瞳の状況が危なすぎる。どうしても行かなくちゃならない」

男の焦りと後ろめたさは、見え透いていた。

明日香は泣きもしなければ騒ぎもしなかった。ただ静かに彼を見つめ、一通の書類を差し出した。

「この財産分与の同意書にサインして。そうしたら、どこへでも好きな所へ行っていいわ」

彼女はわざと表紙の「離婚協議書」という文字を白紙で隠し、その書類の間に離婚届もしっかりと忍ばせていた。今の彼なら、内容を細かく確認することなど絶対にないと分かっていたからだ。

翔太はホッと息をついた。今回も以前と同じように、明日香を怒らせた後の埋め合わせのつもりなのだろうと思い込んだ。

財産を要求してくるということは、まだ機嫌を取れる証拠だった。

着信音が何度も何度も鳴り響いた。

翔太は中身を見ようともせず、すぐさまサインをし、ペンを投げ捨てて駆け出していった。

病室のドアが乱暴に閉められ、その衝撃で明日香の目尻から滑り落ちた涙が震えた。

30分後、明日香は左手薬指の指輪を外し、迷うことなく空港へと向かった。

【翔太、もう二度と会うことはないわ】

このメッセージを送信した後も、彼女に未練はなく、ただ解放感だけがあった。

その短い言葉は、彼女のこれまでの想いに対する終止符であり、新たな人生の始まりでもあった。

翔太がそのメッセージを受け取った時、瞳をなだめ終え、窓辺にもたれかかっていた。

胸が締め付けられるような、何かが消え去っていくような感覚に襲われ、えも言われぬ不安を感じた。

彼の指先は、明日香への発信ボタンの上で止まっていた。
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