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「あ、……ああ」
電話を切ってしばらくの間、
まさか
後日、社の方に送られてくると言われたモノに関しても、どう扱っていいのか正直検討がつかない。
「あの、実は昨夜、ついうっかり両親に兄のところに結葉が来ている話をしてしまった芹だ。 結果、いつものほほんとしている母親が結葉のことをとても心配し始めて、父と何やら遅くまで話しているなとは思ったのだけれど。 まさかその翌日にはこんなことになってしまうだなんて思いもしなかった。***「うん。お家、狭くしちゃってごめんね」 テーブルに、ほかほかと湯気のくゆる料理を並べながら、どこか申し訳なさそうに結葉が言うから、芹はブンブン手を振って。「この家、広いだけが取り柄だもん! 全然そんなこと思わないっ! それより寧ろお姉ちゃんが出来たみたいであたし、すっごく嬉しい!」 実際、大きな声では言えないけれど、ある程度物心がついてからはずっと。 芹は名実ともにいずれはそうなるものだと信じていたくらいなのだから。(お兄ちゃんと結葉ちゃんが結婚しなかったの、あたし的にはホント大誤算だったのよぅ) でも、このところの兄と結葉の様子を見ていたら、もしかしたら、と期待もしてしまっている芹だ。(結葉ちゃんみたいな綺麗で優しいお姉ちゃんが出来たら、あたしすっごく嬉しいんだよね) 子供の頃から芹に優しくしてくれた、〝お隣の結葉ちゃん〟は、いつしか芹にとって本当に姉のように思える存在になっていたから。(お兄ちゃんも優しいけど、やっぱり同性の姉妹とは違うもの) 一緒に料理を楽しんだり、買い物に行ったり。 考えただけで楽しそうだと芹は思うのだ。 それに、女同士だからこそ分かち合える話題もあると言うもの。 いくら優しくてもさすがに想と下着のデザインの可愛さや、付け心地なんかについて盛り上がれたりはしないし、化粧品の話にしてもそう。 そういうアレコレを話せるのは、やはり同性の特権だと思って。「結葉ちゃんが来
「いや、これでも結構厳選してきたつもり」 結葉に「――な?」と同意を求めるようにしながら想が言ったら、純子が「けど想。別に布団は持って来なくてもこっちにも余ってるの何組もあったの知ってたでしょうに」 と苦笑した。「いや、俺は寝慣れたこの布団が好きなんだよ」 そっぽを向いてボソリと吐き捨てるように想が言って。 結葉は(これ、想ちゃんが嘘つく時や気恥ずかしい時にやっちゃう仕草だ)って思った。 きっと想は自分の布団はともかく、結葉の買ったばかりの布団を持って来てくれたかっただけなんだと思う。 サンリコ社のマイハーモニーちゃん柄のピンク・ピンクした寝具一式を見詰めて、結葉はほんの少し申し訳ない気持ちになる。 でも、結葉本人も、出来ればこれからも変わらず想が自分のために選んでくれたこの布団で眠りたいな、と思っていたから。 ちゃんと持って来られたことを嬉しく思っていたりするのだ。「お気に入りのお布団、持って来られて私も嬉しい」 それで、すぐ横に立つ想に小声でささやいたら「おぅ」と素気なく返された。 でも結葉には想が言葉裏腹。 結葉の言葉に喜んでくれているのが十二分すぎるほど伝わっていたから。 だから、こんな風に色気のない返しをされても、ちっとも気にならなかった。***「なぁ〜に、想。貴方ってば、歯磨き粉、まだこれなの?」 そんな想に追い討ちをかけるように純子が言って。 荷物の中に紛れ込ませるようにして突っ込んであった、歯ブラシなどの入った袋をガサリと持ち上げた。「あっ、それは……」 想が気まずそうに眉をひそめるのを見て、結葉も思わず(あ〜ん。見つかっちゃった)と思ってしまう。
「ごめんな、結葉。親父もお袋も悪気はねぇんだ」 車での移動中。 引っ越し――と言うほど大掛かりなものではないが――には軽トラの方が便利だろうに、想は結葉を乗せることを考えてくれたのだろう。 自分の愛車――黒のヴォクシー――を出してくれた。 ミニバンなのでシートを倒せばそこそこに物は乗せられるし、まぁ問題ないはずだ。「大丈夫。私、二人が親身になって言ってくれてるの、すごくよく分かったから」 ただ、ちょっとだけ……まだ自分に心の準備が整っていなくて、言われたことを上手く処理しきれなかっただけ。 ゆっくり考えていけば、きっと大丈夫なはずだ。「サンキューな、結葉。あんなでも一応俺にとっちゃ〜親だし……そう言ってもらえると救われるわ」 想がボソリとつぶやくのを見て、結葉は小さく吐息を落とす。「想ちゃんのご両親、すっごく想ちゃんや芹ちゃんのこと、大切に思ってらして素敵だなぁって思うの。だから……〝あんなでも〟とか言っちゃダメ」 偉央との間には子供を成すことが出来なかった結葉だけれど、いつか自分がもしも子供を持つことが出来る日が来たならば、自分の両親や想の両親みたいに、我が子のことに親身になれる母親になりたい。 そんな風に思った結葉だ。「私ね、すっごくすっごくお母さんになるの、憧れてたの」 思わずポツンとつぶやいたら、想が小さく息を呑んだのが分かって。「あっ、別に不妊だったとかそういうのじゃないから……気を遣わないでね」 結葉は慌てて言い募った。「もちろん、別に偉央さんにも問題があったわけじゃないの」 検査を受けたわけじゃないから絶対とは言えないけれど、結葉の中では二人とも子を成すに
「じゃあ想の代わりに父さんが結葉ちゃんとデートがてら行ってこようかな」 そんな息子の迷いを逆手に取るようにクスッと笑うと、公宣がそう言って。 途端想が、カラン、とスプーンから手を離して「俺っ!」と声を張った。「……考えてみたら有給余りまくってるし、使うことにするわ」 想が不機嫌そうにそっぽを向いて吐き捨てるのを見て、結葉は何だか申し訳ない気持ちになる。 でも――。「もぉ〜。そうして貰わないとお母さんがゆいちゃんにヤキモチ妬いちゃうところだったわぁ〜」 今まで黙って三人のやりとりを見ていた純子がわざとらしくぷぅ〜っと頬を膨らませて参戦してきて、公宣が「あああっ、純子ぉ、ごめんっ!」「分かってくれればいいのよ、公宣さんっ♡」と三文芝居を繰り広げ始めてしまい、口を挟む機会を逸してしまった。「恥ずかしいからやめろ、バカ夫婦」 想がチッと舌打ちしてそんな両親を睨みつけて。 結葉は逆に、こんな風に笑い合える夫婦っていいな、とうらやましくなる。(お父さんとお母さん、どうしてるかな) ふとアメリカに行った両親のことを思い出した結葉は、それと同時、偉央とのことを二人に話さないといけないな、と思って小さく吐息を落として。「結葉?」 そんな結葉にいち早く気付いた想から心配そうに声を掛けられてしまう。 結葉はちょっと迷って、「お父さんとお母さんに偉央さんのこと、どう伝えようかなって考えてたの……」と、素直に思っていたことを吐き出した。 今までの自分だったらきっと。「何でもないよ」と笑って誤魔化していただろうな、と思いながら。***「心配かけたくない気持ちは分かるけど…&h
「ゆいちゃんがうちに住むようになってくれたらきっと、あの子、しょっちゅうお昼食べに帰って来るわね〜」 サラリとそんなことを付け加えてくる純子に、結葉は「そっ、そんなことないと思いますっ」と慌てて手を振った。 それではまるで公宣さんと純子さん夫婦みたいだと思ってしまって……そう考えてしまったことに、にわかに恥ずかしくなったから。 それに、想は現場に出ていることが多いと、さっき純子自身が言っていたのだ。「私、お世話になってる間は想ちゃんにお弁当を作ろうかなって思ってるんですけど……迷惑でしょうか」 小さく自信なさげにつぶやいたら、純子が「まさかぁ〜」とにっこり笑って。「あ、でも! それは想本人に直接聞いてやってね?」と結葉の手をギュッと握って小首を傾げてくる。「そ、そうですよね。想ちゃんだもん。作られるの迷惑だったら、ちゃんとそう言ってくれますよね」 結葉がそんな純子に淡く微笑み返したら、「もぉ、ゆいちゃんってば分かってないなぁ」と苦笑される。「え?」 キョトンとする結葉に、「とにかくっ! 想にそのお話を持ち掛けるときは是非私のいるところでしてねっ? 私、あの子の照れるお顔が見たいのよぅ」 言って、一人キャーキャー悶える純子に、結葉はどう対応したらいいのか分からなくて、その場に立ち尽くしていた。「あ、ちなみに芹はね」 固まっている結葉を動かしたのは、何の前触れもなく始まった純子のその声で。 どうやら純子の話によると、外部へ勤めに出ている芹は、自分で弁当を作って行ったり、会社に出入りしているお弁当屋さんのお弁当を頼むか、オフィス近くのお店に職場の人たちとランチに行くなどといった毎日らしい。「ゆいちゃんと芹が二人仲良く台所に立ってお弁当作ってる姿、すっごく様になるわよね〜、きっと。あ〜ん、そっちも楽しみっ♡」
会議室での話し合いが済んだ後、結葉は結局アパートには戻らず、山波建設隣の山波家の方に上がらせてもらった。 そうして、想と芹の母親――純子とともに、想と公宣の昼食作りに明け暮れている真っ最中だったりする。「ゆいちゃんってば、本当手際がいいっ♡ きっと美鳥さんに似たのねっ」 この人があのパッと見ヤンキーな想のお母さんだと思うと、どうしても違和感を感じてしまう結葉だ。 山波純子は、春風が服を着て歩いているような、のほほんとした女性だった。 こんな感じなので、ご主人の稼業にはノータッチで主婦を貫いているんだろう。「親父はさ、家にお袋が居てくれさえすれば何だって頑張れるらしい」 いつだったか、想が淡い笑みを浮かべながら結葉にそう話してくれたことがある。「ま、俺もそれ、分からんではねぇんだけどな」 想が言った〝それ〟が、両親に対する思いなのか、はたまた自分が公宣の立場になった時に感じる思いなのか、結葉にはよく分からなかったのだけれど。 ふわふわとした純子を見ていると、ほんわかした気持ちになってくるのは確かだった。 この人を守ってあげたい、助けてあげたい。 そう思わされる不思議な魅力を純子は持っている。 純子がこんな感じだから、芹はハキハキしたしっかり者に育ったのだろうし、想がやたらめったら面倒見が良いのだってきっと。 決して能力的に色々劣っているとか言うわけではない純子なのに、一緒にいるとついつい手助けしたくなってしまうのは何故だろう。「他に何かお手伝いすることはありますか?」 お昼はキーマカレーにすると純子が言って、結葉は野菜をみじん切りにしたところだ。「ゆいちゃんは辛口平気?」 ほんわりと聞かれて、|結葉《ゆいは