Partager

第37話

Auteur: 霜晨月
last update Date de publication: 2026-01-08 17:19:44

「二時の方向、警戒しろ!」練が叫ぶ。

その声は単なる警告ではない。

そこに敵がいる、という現在ではなく、

そこに“危険が発生する未来”がある、という座標の提示だった。

間一髪、翼を持つゴブリンが抜き身の刃を構え突っ込んできた。

颯斗は一歩退き、まず相手の攻撃を空振りさせる。そして息つく暇も与えず跳びかかると、鋭い牙を剥き出しにした血滴る顎で、ゴブリンの喉笛に噛みついた。

鮮血の味が口中に広がった瞬間、颯斗は未だかつてない高揚を覚えた。屠り尽くすという快感が込み上げ、電流となって全身の神経を隅々まで駆け巡る。

怖い。

悍ましい。

それなのに、身体が歓喜している。

――これが、SAの力。

理性の奥深くで最後の枷が外れ、獣性と戦闘本能が剥き出しになっていく。

見渡す限りの血の海の中、返り血を浴びた一頭の銀狼が、ゴブリンを口に咥えたまま、敵の群れの中で暴れ狂っていた。

咥えられたゴブリンに悲鳴を上げる間はなかった。首は既にあらぬ方向へとねじ曲がり、虫の息であった。やがて、ばきり、と骨の砕ける音を最後に、颯斗の口中で灰と化して消えた。

戦闘が終結した後も、颯斗は昂ぶった精神を鎮めるのに、しばし
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第198話

    博人はもともと、かなり羞恥心の強い性格だった。先ほどから続いていた際どすぎる質問だけでも十分に不快だったが、口下手な彼には話題を逸らす術もなく、結果的に壮馬の好きなようにさせてしまっていた。だが、壮馬の手が通気性の悪い作業ズボンの中へ入り込んできた瞬間、ついに我慢の限界を迎えた。博人はその無遠慮な手を強く掴み、こわばった声で壮馬を怒鳴りつける。しかし、壮馬はまったく気にする様子を見せなかった。甘えるような声で「博人さん~」と呼びながら、にやにやと笑ってさらに身体を寄せてくる。「俺、寒いんだよ~」普段、他人の前で見せている明るく無邪気な姿とはまるで別人だった。この時の壮馬の声は、綿のように柔らかく、甘くとろけてしまいそうな響きを帯びていた。「寒いなら服を多めに着ろ。俺のコートをやる!」博人は低い声で言い返す。だが、壮馬が続けて放った一言は、小屋の中にいる者も、外で聞き耳を立てている者も、誰もが呆然と固まってしまうほど衝撃的なものだった。「誰があんたの服なんか欲しいって言ったんだよ。俺が欲しいのは……あんたに抱きしめてもらうことさ」「お前……俺に……何をしろって言うんだ?」博人の頭は完全に処理能力を失ったかのように混乱し、舌までうまく回らなくなっていた。そんな彼の様子を見た壮馬は、思わず吹き出すようにクスクスと笑い、もう一度同じ言葉を繰り返す。「俺は博人さんに抱きしめてほしいんだよ。ねぇ、試

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第197話

    三人は必死に力を合わせ、ようやく博人を木材の下から引きずり出すことに成功した。救出された時には、博人の脚はすでに鮮血に染まり、骨もあり得ない方向へと曲がっていた。そんな凄惨な光景を初めて目にした壮馬は、恐怖のあまり完全に取り乱していた。だが、当の本人である博人のほうが、激痛に耐えながらも冷静で、自分は大丈夫だ、少し休めば平気だと、逆に壮馬を励まし続けている始末だった。「ごめんよ、博人さん……俺、わざとじゃなくて……」壮馬は涙をこぼし、声を詰まらせる。「泣いていたって何になるんだ。早く傷の手当てをしろ!」父親が傷つけられた姿を目の前にして、颯斗が気が気でないのは当然だった。だが、謝罪と涙を繰り返すことしかできない壮馬の姿が、余計に颯斗の苛立ちを刺激し、思わず荒い口調になってしまった。颯斗に怒鳴られた壮馬は、すっかり萎縮し、何も言えなくなってしまう。「落ち着け。頭を冷やすんだ」練は颯斗の肩に手を置き、軽く叩いた。その穏やかな声に、熱くなっていた颯斗の頭は急速に冷えていく。颯斗は父親のそばへしゃがみ込むと、何も言わずにコートを脱ぎ、さらにその下に着ていたシャツも脱いだ。それを応急処置用の包帯代わりにして、博人の脚の傷口をきつく縛り上げる。その間、練は周囲を見渡した。「この近くに、寒さをしのいで休めるような小屋はないか?」「ある」博人は手を上げ、北東の方向を指差した。「あちらへ十

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第196話

    伐採エリアに到着すると、博人と壮馬はそのまま一日の作業に取りかかった。颯斗と練はトラックの中でただ待機するような真似はせず、視察という名目で影のように二人の後を追った。博人が担当しているのは、現場の最前線での作業だった。主に伐採、集材、積み込みなどの工程を担っており、どれも高度な技術と体力を必要とする重労働で、誰にでも務まる仕事ではない。幸いにも博人は農業大学の卒業生で、専門分野も林業と深く関わっていた。そのため、中卒の作業員が多いこの林業所では、ひときわ高い作業能力を発揮していた。さらに、真面目で勤勉、弱音や不満を口にすることもなかったため、林業所からは何度も表彰を受けているほどだった。一方、壮馬との関係は、二人を対等な相棒と呼ぶよりも、むしろ先輩と後輩と言ったほうが近かった。壮馬はまるで小さな付き人のように、いつも博人の周囲をちょこちょこと動き回っている。そんな壮馬に対し、博人は頼りになる面倒見の良い先輩そのものだった。分からないことがあれば一から丁寧に教え、経験不足から失敗しても決して怒鳴りつけることはない。どこが間違っていたのかを、根気よく諭すように説明していた。森での作業は、忙しくなればなるほど時間の流れが早い。気がつけば、いつの間にか昼食の時間になっていた。作業員たちの昼食はいたって質素なものだった。おにぎりに漬物、そして目玉焼き。それだけの簡素な食事である。ただ、壮馬だけは少し違った。博人の隣に腰を下ろすと、自分の弁当箱に入っていた玉子焼きを、箸でつまんで博人の椀へ入れた。「俺の母ちゃんが作った玉子焼き、すげえ美味いんだ。早く食べてみてよ」「

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第195話

    助手席に座る若者の名は、小林壮馬。博人と同じく、この赤峰林業所で働く作業員だった。颯斗と練が車に乗り込んでからというもの、彼の口はまるで止まることを知らなかった。「あんたたち、どんな仕事してるんだ?ここの作業員って感じじゃないけどな」壮馬は後ろを振り返り、練の顔を見ながら人懐っこい笑顔で話しかける。「特にそっちの兄さん、すごく雰囲気があるよな。一目見ただけで、教養のある人だって分かるよ」「俺たちは視察に来たんだ」練は、颯斗が今は話しづらい状態であることを察し、壮馬の尽きることのない話題に、無難な返答を返した。「視察?」壮馬は目を輝かせ、明らかに興味を示す。「もしかして、科学者なのか?」「県から派遣されて、現地調査に来た地質専門家だ。ここ赤峰林業所の自然環境を調べている。ただ、その途中で道に迷ってしまってな……そうだ、これが俺の名刺だ」そう言いながら、練はポケットからあらかじめ用意していた名刺を取り出し、壮馬へ手渡した。名刺には「環境生態研究所」「政府特派専門家」など、いかにもそれらしい肩書きが並んでいる。どれも練が作り上げた偽りの肩書きにすぎない。だが、専門外の人間を納得させるには十分すぎるほどの説得力があった。「なんだ、県から来た人だったのか!だったら早く言ってくれよ。何か必要なことがあれば、遠慮なく言ってくれ。赤峰林業所は全部、俺の親父が管理してるんだから」名刺を見るなり、壮馬は満面の笑みを浮か

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第194話

    言葉が落ちるや否や、颯斗の背中に焼けつくような激痛が走った。銃弾を受けたはずの魇は、まだ息絶えてはいなかった。死の間際の最後の足掻きで鋭い爪を振り上げ、颯斗の隙を突いて背中へと一撃を叩き込んだのだ。不意打ちの一撃を受けた颯斗は、体勢を崩して前のめりに倒れ込む。足元が突然、何もない空間へ踏み出してしまったことに気づいた時には、すでに全身が宙へ投げ出されていた。視界がぐるりと回転する。断崖から落ちる寸前、颯斗は反射的に何かを掴もうと空中でもがいた。そして、やみくもに伸ばした手が、必死に練の腕を掴み取る。「颯斗!!」「うおおおおっ!」二人の叫び声が重なる。颯斗と練は互いの体を抱え込むようにして一つになり、そのまま崖下へと転がり落ちていった。季節は厳冬。山に積もった雪は、優に一メートルを超える厚さがあった。断崖は高いと言えば高く、低いと言えば低い。目測では三、四階建てのビルほどの高さだった。即死するほどではないにせよ、半死半生の重傷を負うには十分すぎる高さだ。しかも運の悪いことに、二人が落ちた場所はちょうど山道の真ん中だった。そこへ、少し離れた場所から一台のトラックがこちらへ向かって走ってくる。颯斗はなんとか起き上がろうとする。しかし、全身の骨が砕け散ったかのような激痛が襲い、少し動くだけでも歯を食いしばるほどの痛みに耐えなければならなかった。手足はまるで自分のものではないかのように、言うことを聞かない。森の中に、耳をつんざくような急ブレーキの音が響き渡った。颯斗が恐る恐る振り

  • 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい   第193話

    冬、赤峰林業所。早朝、木々の隙間から差し込む木漏れ日が、白雪に覆われた山道を淡く照らしていた。颯斗と練は、深く積もった雪に足を取られながら、一歩ずつ前へ進んでいく。刺すような北風が吹き抜け、颯斗は耐えきれず大きなくしゃみを一つ漏らした。「寒すぎるだろ……さすが氷点下十二度だな」「三十年以上前の気温は、今よりずっと低かったんだ。氷点下十数度なら、まだ暖かいほうだよ」練は口元に手を当て、白く煙る息を吐き出す。「正直言って、まだ実感が湧かないんだけどな」颯斗は呆然とした様子で周囲を見渡した。「俺たち、本当に三十年以上前の時代に来てるのか?」キーワードの解除に成功し、回帰の扉は開かれた。眩い白光に包まれた後、再び目を開けた時には、二人はすでに三十年前へと戻っていた。彼らが今、足を踏みしめている大地こそ、北西に位置する赤峰林業所だった。記憶の投影とはいえ、吹き荒れる寒風は、到着したばかりの二人に容赦なく襲いかかった。幸い、近くには集落があり、村人から防寒具をいくつか譲り受けることができたため、二人は一刻も早く林業所へ向かうことにした。目的は明確だった。颯斗の父親を、できる限り早く見つけ出すこと。時刻は午前九時半。本来なら、伐採作業員たちが山中を行き交い、活気に満ちている時間帯のはずだった。だが、広大な赤峰林業所はなぜか、死んだような静寂に包まれていた。不意に、練が足を止める。その視線は、鋭く前方へ向けられていた。颯斗が何事かと訝しんだ瞬間、耳元でざわめくような異音が響き、大地全体が小刻みに震え始めた。耳を澄ませば、それは遠方から迫ってくる、乱れた足音の群れだった。「避けろ!」練が叫んだ瞬間、黒い影が冷たい風を巻き起こしながら飛びかかってきた。反応が遅れた颯斗は、練に勢いよく突き飛ばされ、間一髪で正面からの一撃をかわす。雪の中から慌てて起き上がり、暗闇から突進してきた存在を見た瞬間、颯斗の心臓が大きく跳ねた。それは、凶暴で獰猛な野獣だった。青灰色の皮膚を持ち、全身は濃密な黒い毛で覆われている。「なんだよ、この化け物は!?狼か?それとも熊か?」体格だけなら狼を遥かに上回り、速度だけなら熊を凌駕している。正確に言えば、目の前の存在は狼と熊を掛け合わせたような、異形の怪物だった。だが、練の答えは違った。「どちらでもない。こ

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status