เข้าสู่ระบบ誕生日当日。朝早く、身支度を整えていた颯斗のもとへ、母親の陽子から電話がかかってきた。「颯斗、あんたも二十六歳になったんだから、いつ彼女を家に連れてきて親に見せてくれるの?」両親のもとを離れ、他県の大学へ進学し、そのまま就職してからというもの、誕生日の朝にかかってくる母親の電話は欠かされたことがない。仕事のタイムカードよりもよほど正確だ。鳴海家の教育方針は放任主義で、両親が息子の身の上に口を出すのは一年のうちでもこの時くらいのものだった。そのおかげで颯斗は堂々と独身生活を謳歌し、気がつけば二十六年。恋愛遍歴は、いまだ真っ白なままだった。小学生の頃から、颯斗は女の子にまるで興味を持てなかった。中学生になり思春期を迎えると、男性アイドルのポストカードやポスターを集めるのがいつしか趣味になっていた。高校に進んでも状況は変わらない。身近にいるノンケの同級生には目もくれず、その代わり、なぜか男の教師の周りをちょろちょろとついて回り、頼まれもしない雑用を甲斐甲斐しく引き受けていた。その頃にはすでに自覚していた。自分は同年代の少年たちよりも、成熟した大人の男性に惹かれるのだと。そしてその瞬間、悟ってしまった。自分の青春が、恋によって花を咲かせ、実を結ぶことは、おそらく決してないのだろうと。もちろん、気楽なシングル・ドッグでいるのも悪くはない。少なくとも、カミングアウトを迫られるような重圧に晒されることはないのだから。強いて難点を挙げるとすれば、人が誰かを好きになったとき、いったいどんな振る舞いをするものなのか――颯斗にはまったく見当がつかないことくらいだ。たとえば、練のことだ。颯斗はいまだに、彼が自分に対してどんな感情を抱いているのか測りかねていた。半年前と比べれば、二人の距離は確かに大きく縮まっている。昨夜などは、ついに一歩踏み込んだ接触まであった。それなのに、その結果として練の態度は百八十度変わり、颯斗は完全に煙に巻かれてしまったのだ。「聞いてるの?」電話の向こうから心配そうな母親の声が響き、颯斗ははっと我に返った。「聞いてるよ」慌ててそう答え、適当に相槌を打つ。その直後、母親は彼の停滞した思考の水面に、核爆弾のような一言を投げ込んだ。「颯斗、母さんに正直に言いなさい。あんた、本当は男が好きなんじゃないの?」「はぁ!?」颯斗
「どうした?俺の腕に何か不満でも?」練は目を細め、品定めをするような視線で彼を射抜いた。「そういう意味じゃ……」「ふーん……童貞のくせに、よく言う」「おい!童貞がなんだってんだよ!」颯斗は林檎のように顔を真っ赤に染めた。「ち、違う、そうじゃなくて。ここは『心界』じゃないんだから、そんなことまでいちいち手伝ってもらう必要なんてないだろ。そんなこと、他の奴に頼めばいいのに……」「他の奴?」練の声のトーンがわずかに沈み、視線が颯斗を捉えた。「例えば……好きな人、とか」颯斗は視線を彷徨わせ、普段なら到底口にできない言葉を、意を決して絞り出した。「そういうことって、好きな相手とするもんだろ?」「そうだな」練は短く、肯定した。「だからさ……」「俺はお前が好きだ。だから、お前とする。至極真っ当な理屈だろう?」練は、射抜くような眼差しで颯斗の瞳を真っ直ぐに見つめた。「はぁ?」颯斗の思考回路は一瞬にしてショートした。「……今、なんて言った?」「至極真っ当な理屈だろう、と言ったんだ」颯斗は激しく首を振った。「いやいや!その前の言葉だよ!」「俺はお前が好きだ。だから、お前とする」練は、今しがた口にした言葉を、ゆっくりと、そして明瞭に繰り返した。今度は颯斗が完全に呆然自失となる番だった。「す、好きって……」全裸のまま、二人は至近距離で見つめ合い、場に重苦しい沈黙が流れた。その呆気にとられた颯斗の様子を見て、練は不意に吹き出した。まるで堪えきれないといった風に口元を綻ばせ、肩を小刻みに震わせながら笑い声を上げる。「どうした?あまりの衝撃に固まったか?」あまりにも遠慮のない練の笑い草を見て、颯斗の顔色は赤から白へ、そして青へと目まぐるしく変わっていった。――また、からかわれたのだ。その事実を突きつけられ、頭に血が上る。「俺を……からかってるのか!?」颯斗はついに堪忍袋の緒が切れ、咆哮した。つい数秒前、彼の言葉を信じそうになったというのに。これほど真剣に苦悩していた自分を、練は心の内で嘲笑っていたのだ。あまりにも、あんまりだ。羞恥と憤怒が入り混じり、顔を火照らせた彼は、シャワーヘッドをひったくるように掴んだ。そして、勢いよく溢れ出た激しい水流を、練の顔面や体へ容赦なく浴びせかけた。「笑うな!!」「からかってなどいない。本心
「洗えばいいんだろ、上等だ!」そこで彼は意を決すると、着ていた服を手早くすべて脱ぎ捨てた――パンツ一枚を残して。「風呂に入るのにパンツ履くのか?」練はシャワーの下に立ち、彼の股間を見つめながら訊いた。「お前だって履いたままだろ」颯斗は蛇口をひねり、顔を赤らめて答える。「お前に脱がしてもらうのを待ってるんだ」「そんなことまで俺が?」「世話を焼くなら最後まで頼むよ。中途半端はサービス不足だ」練と軽口を叩き合いながら、颯斗はボディソープを手に取り、掌で泡立ててから練の体に塗りつけた。乳白色の泡に埋もれた手は、練の筋肉のラインをなぞるように、鎖骨から下腹部へ、そして太腿の付け根へと滑っていく。練の肌は滑らかで、磁石のような引力を持って颯斗の掌に吸い付き、片時も離したくないと思わせた。颯斗は、目の前の肉体が放つ魅力を侮っていたことに気づかされた。この色香を前にして、果たして理性を保てるだろうか。答えは火を見るよりも明らかだった。彼の股間のモノがすべてを物語っていたからだ。もちろん練も颯斗の変化に気づいていた。酔っ払っているとはいえ、目は節穴ではない。颯斗が服を脱いだ時から、練の視線はちょくちょく下の方に向けられていたのだ。「言っとくけど」颯斗は小声で呟く。「ん?」「これは正常な生理現象だからな」「ふうん」練は相変わらずそこを見つめたままだ。
「誕生日……?」二秒ほど呆然と固まっていた颯斗は、弾かれたように顔を上げ、壁の掛け時計に視線を飛ばした。長針と短針は、ちょうど零時を回ったところを指している。そこでようやく合点がいき、彼は己の額をぺしんと叩いた。「本当だ。今日、俺の誕生日じゃないか!」「お前、今年でいくつになった。もう老人ホームへの入居手続きでも始めたのか?」「いや、あまりに機嫌が良さそうだったから、てっきり宝くじでも当たったのかと……」「当たるか、そんなもん!」練はすっかり呆れ果て、人差し指で颯斗の額を小突いた。「お前より鈍い人間には、後にも先にもお目にかかったことがないよ」颯斗は小突かれた額を押さえながら、へらりと相好を崩した。「……ありがとう、練さん」「別に褒めてない」「いえ、そうじゃなくて。ご飯、ご馳走様でした」颯斗は笑みを収めると、この上なく真剣な表情を浮かべて言葉を継いだ。「それから……俺の誕生日を覚えていてくれて、ありがとうございます」練の目尻から次第に険が抜け、その瞳にはさざ波のような微かな笑みが広がっていく。「誕生日おめでとう。明日は一日、休みをあげるよ」「やったあ!」颯斗は興奮のあまり練に飛びつくと、彼を抱き上げたまま、リビングで狂ったようにぐるぐると回り始めた。「やっぱりうちのボスは最高だ!!」「おい!離せ、回すな……っ!」もともと酒気で足元がふらついていた練は、颯斗に抱えられ振り回されたことで、落ち着きを取り戻しかけていた胃が再びひっくり返りそうになった。ようやく床に下ろされた時、練の顔色は土気色を通り越して真っ青だった。彼はもう耐えきれず、千鳥足でトイレへ駆け込むと、便器を抱え込むようにして激しく胃の中のものを吐き出した。今回ばかりは、残らずすべてをぶちまけたようだった。練は何度も水で口をゆすぎ、精根尽き果てた様子でぐったりと虚脱状態に陥っていた。颯斗は自分のはしゃぎすぎを猛省し、傍らで平謝りを繰り返した。ふと見れば、練の服にわずかな汚れが飛んでいる。颯斗はお詫びも兼ねて着替えを手伝うことにした。彼は練を支えて立たせ、浴槽の縁に座らせると、その上着を脱がせにかかった。ところが、布地を一枚、また一枚と剥いでいくうちに、颯斗は自分の視線を制御できなくなっていった。練はいわゆる「着痩せするタイプ」だった。しなやかな起伏を描く大
クリニックに戻ったときには、すでに日付が変わろうとしていた。扉を開けるや否や、練は真っ直ぐトイレへ向かい、便器を抱え込んでしばらくえずき続けた。だが結局、何ひとつ吐き出すことはできなかった。「あれほど飲みすぎるなって言ったのに。無理するからだよ」リビングから聞こえる颯斗の小言も、今の練には受け止める余力がない。颯斗がリビングに入ると、クリニックのマスコットであるフロイトがタタタッと駆け寄ってきた。ニャーニャーと甘えた声を上げながら足元をぐるぐると回り、ふっくらとした頬を颯斗のふくらはぎにこすりつける。颯斗の頬がゆるむ。「フロちゃ〜ん。やっと俺が恋しくなったんだね!」「自惚れるなよ」トイレから戻ってきた練が、ソファに身を投げ出しながら言った。「そいつ、十中八九エサのことしか考えてないぞ」フロイトは、まるで同意するかのように「ニャー」と一声鳴いた。颯斗が猫ちぐらの横を覗き込むと、案の定、今朝入れたカリカリはすっかり空になっている。「はいはい。俺じゃなくてエサが恋しかったんだな……」そうぼやきつつドライフードを継ぎ足し、さらに棚から新しく買ってきた輸入物の魚の缶詰を取り出した。「あまりやるなよ」ソファに横たわったまま、練が気だるげに忠告する。「こいつ、お前のせいで豚になりかけてるんだからな」それも無理はない。颯斗が甘やかし続けた結果、クリニックに来た当初は五キロにも満たなかったフロイトは、立派な太鼓腹を携え、いまや八キロの大台に手が届きそうな体格へ
月曜日の午後四時半。セラピーを終えてほどなくして、患者は意識を浮上させた。現在、練はソファで患者と肩を並べ、一冊の絵本を広げている。そこに描かれた情景から何が見え、何を感じるか、患者に一つひとつ言葉にさせていた。患者の胸部と頭部には、鼓動や情緒の揺らぎを精緻に捉えるデバイスが装着されている。その向かいに腰を下ろした颯斗は、機器の数値に目をやりつつ、心ここにあらずといった体で患者の応答を淡々と記録していた。颯斗が上の空になるのも無理はなかった。つい先ほど、心界の中で目の前の男と激しく肌を重ねた記憶が、一幕ごとに鮮烈な残像となって脳裏に焼き付いているのだから。あれほど熾烈な情事の直後だというのに、今の練の語り口や佇まいは冷静沈着そのもので、まるで何もなかったかのようだった。心界で見せた、あの艶然として奔放な姿とは、もはや別人と言っても過言ではない。対照的に、颯斗の意識はずっと微睡みの中を漂ったままだ。体こそこの場に留めてはいるものの、練と患者が交わす言葉は鼓膜を虚しく滑り落ちていくだけだ。デバイスの数値など目に入らず、視線は練の襟元から覗く鎖骨に釘付けになっている。手元の作業がいつ止まったのかさえ、自覚がないほどだった。はっと我に返ったときには、すでに診察は幕を閉じていた。練は椅子から立ち上がり、患者を送り出そうとしているところだった。颯斗も慌てて席を立ち、練の背を追うように入り口へ向かう。平静を装ってその背後に立ち、エレベーターの扉が閉まるまで、共に患者を見送った。患者の姿が見えなくなると、練は軽やかに身を翻し、人差し指で颯斗の額をぴしゃりと突いた。「オーナーの目の前で、仕事中にサボりとはいい度胸だな」練は射抜くような鋭い眼差しで、颯斗をじっと見据えた。後ろめたさに苛まれた颯斗は、あからさまに視線を泳がせる。「……そんなこと、してたか?」練が楽しげに目を細めた。「自覚がないなら、どうしてそう顔が赤いんだ?」颯斗はぎょっとして、無意識に自分の顔に手をやった。確かに、熱を帯びて火照っているのがわかる。「その間抜けな面を見る限り、どうせまた何か破廉恥な場面でも反芻していたんだろう?」「そんなわけないだろ!」颯斗は即座に背筋を正し、心外だと言わんばかりの表情で言い返した。「それに、なんだよ『また』って。まるで俺が一日中、お前のことで卑猥な妄