ログイン何を言っても聞く耳を持たない彼女の姿を見て、イーサンは力なく笑った。ソファにぐったりと腰を下ろし、深くため息をつく。「君は本当に……救いようがないな」彼女がクラウディア殿下への崇拝にのめり込み、正気を失っていることは、ずっと前から知っていたはずだった。それでも心の奥底では、いつか彼女が目を覚まし、二人の結婚生活を顧みてくれるのではないかと、ほんのわずかな期待を抱いていたのだ。だが今になって思えば、自分が甘すぎただけだった。イーサンは目を閉じた。その声は、再び氷のように冷たくなっていた。「ロリーナ、破滅しようがどうなろうが好きにしろ。俺はもう一切関わらないし、君の暴走に付き合う気もない。この番組の収録が終わったら、君とは離婚する。もし応じないなら、裁判を起こしてでも別れるまでだ」ロリーナの声が裏返り、信じられないといった甲高い悲鳴が響いた。「裁判を起こすですって!?イーサン、私たちは八年も愛し合ってきたのよ!それなのに、離婚するために私を訴えるっていうの!?」イーサンは世にも滑稽な冗談でも聞いたかのように、冷たく鼻で笑った。「八年の愛だと?たとえ八十年連れ添ったところで、君の中で、あの殿下が常に俺より優先されることは変わらないだろう?」そう言い捨てると、彼女に目を向けず、クローゼットから毛布を取り出してソファの上に広げた。ロリーナと同じベッドで寝るつもりはないという、誰の目にも明らかな意思表示だった。はっきりと一線を引くその態度に、ロリーナは胸を鋭く突き刺されたような痛みを覚え、理不尽だという思いと怒りが一気に込み上げてきた。「前から何度も言ってるじゃない、殿下を推すのと、あなたへの気持ちは別よ!どうしていつも自分と殿下を同じ土俵に並べて比べるの?あなただってスターで、あんなにたくさんのファンがいるくせに、どうして私の気持ちを理解してくれないのよ?」毛布を広げていたイーサンの手がピタリと止まり、次の瞬間、勢いよく振り返った。これまでずっと押し殺してきた怒りが、堰を切ったように爆発した。「君を理解しろだと?どこの世界に、一年三百六十五日、仕事以外のすべての時間と気力を『推し』に注ぎ込む人間がいる!?毎年の結婚記念日も、俺の誕生日も、二人の記念日をすべて放り出して、殿下のイベントへ駆けつける人間がどこ
次のコーナーでは、何としても柚希と炎真の関係の偽りを暴き、柚希を惨めな姿で番組から退場させてやる!……二位となったイーサンとロリーナのペアが宿泊するのは、一般的な一軒家だった。その家は海辺の小さな町の端にあり、白い壁に灰色の瓦屋根で、こぢんまりとした庭がついていた。内装はシンプルで清潔感があり、木製の家具や家電も一通り揃っていて、一般家庭としては十分に快適な造りだった。しかし、スーツケースを引いてリビングに足を踏み入れた途端、ロリーナは眉間をきつく寄せ、露骨に嫌悪感をあらわにした。「何よ、このボロ家は?狭くて古臭いし、こんなところに人が住めるわけないでしょ!こんな家に泊まるなんて絶対イヤよ!」彼女は華やかなスポットライトを浴びるトップスターであり、出かける時は高級ホテル以外に泊まったことなどなく、プライベートヴィラや最高級のペントハウスに滞在するのが当たり前だった。目の前にあるこの家は、彼女の目にはスラム街の掘っ立て小屋と大差ないように映ったのだ。イーサンは彼女の不満など聞こえなかったかのように、自分のスーツケースを引いて無言で部屋へと入っていった。そして手際よくスーツケースを開け、着替えや洗面用具を取り出して静かに荷解きを始めた。その素っ気ない態度を見て、ロリーナの胸の内で怒りはいっそう激しく燃え上がった。だが、本当にこのまま収録を放り出して帰る勇気はなく、数秒ほどその場で意地を張った末、不満たらたらの顔で中へとついていき、スーツケースを床に乱暴に置いた。室内でまだ回っている固定カメラをちらりと見やり、レンズに向かって引きつった作り笑いを浮かべる。「ええと……視聴者の皆さん、これから少し荷物を片付けて着替えますので、プライベートの時間ということで、いったんカメラを切らせていただきますね」カメラの電源が切れた途端、ロリーナは仮面を剥ぎ取ったかのように表情を一変させ、イーサンに詰め寄って怒りをぶちまけた。「片付け、片付けって、あなたは荷物を片付けることしか頭にないの!?ゲームに負けたのも、こんなボロ家に泊まるのも百歩譲って我慢するとして、今ネットの世論がどうなってるか分かってるの?みんながクラウディア殿下のことを疑い始めてるのよ!殿下がこれをご覧になったら、どれほどお傷つきになるか!」話すうちにま
凌は相手にする気力すらなく、魂も闘志も失ったかのようにディレクター席へ力なく沈み込み、全身から無力感と絶望を滲ませていた。質問を聞いた柚希はわずかに片眉を上げ、この世の終わりとでも言わんばかりの凌の姿に目を留めて、一瞬ですべてを察した。彼女は口元をわずかに歪めた。もう降参したというのか。まったく、もう少し泳がせて、向こうが他にどんな手口を繰り出してくるか見極めてやろうと思っていたのに。拍子抜けにもほどがある。コメント欄も呆気に取られ、一瞬にして疑問符で埋め尽くされた。【???????】【いや、何この質問!?好きな動物って何よ!こっちはどんな爆弾が来るか身構えてたのに、最後がこれ!?】【さっきまで生きるか死ぬかだの、富と愛の究極の二択だのをやってたのに、いきなり猫派か犬派かって質問に変わったんだけど??番組スタッフ、情緒の振れ幅どうなってるの?】【一気に萎えたわ!最高に盛り上がってるところで急に日和るなんて、番組スタッフはそれでもプロかよ?分が悪くなったからって逃げる気か!?】【最高級のフルコースが並ぶと思っていたら、いきなり具なしのかけそばを出された気分だわ……味気なさすぎて全然物足りないんだけど……】【これ、裏で何かあったんじゃないか?林原ディレクター、誰かにこめかみへ銃でも突きつけられたとか?】【たぶん、どこかの殿下の差し金でしょうね。だってこれ以上質問を続けたら、誰かさんの顔が丸潰れになっちゃうもの】【ふざけるな!殿下は気高く潔白で裏表のないお方なんだから、そんな真似をなさるはずがないだろ!殿下に変な言いがかりをつける奴は、一家まとめて皆殺しにするからな!】【本当に気高く裏表がないっていうなら、どうしてさっさと出てきて炎真様とどういう関係なのか説明しないのよ?もし本物の恋人同士なら、炎真様が番組であんな発言をするのを止められないはずがないでしょ?】【ふん、上野と炎真様はまだ離婚の手続きが完了してないんでしょ?だったら上野が離婚を盾に脅して、炎真様を仲良し夫婦の芝居に付き合わせてる可能性が高いわよ!炎真様は一刻も早く離婚してクラウディア殿下と一緒になるために、仕方なく妥協してるのよ。炎真様のセリフがどれも台本じみてるのに気づかないの?】【その通りよ!間違いなくそれが真相だわ。今に見てなさい、セリ
【ちょっとヤバい推測だけど……もしかして最初から最後まで、全部クラウディア殿下の片思いだったんじゃないか?】世論の風向きが、完全に変わった。炎真と柚希を支持する声が野火のように広がり、これまでの報道の真偽を疑う声も一斉に押し寄せた。凌はディレクター席に呆然と座り込んでいた。全身の血が凍りついたかのようで、顔面は蒼白になり、唇まで細かく震えていた。終わった……すべてが終わった。二人の間にほんのわずかな亀裂すら生み出せなかったどころか、これぞ運命の伴侶という姿を世界中に見せつけるための、最高の舞台を自らの手でお膳立てしてしまったのだ。クラウディア殿下の怒りがどれほどのものか……もはや考えることすらできなかった。いや!ゲームはまだ終わっていない!まだ最後の質問が一つ残っている。凌は溺れかけた人間が必死にもがくように、第五問を出そうと唇を動かした。まさに彼が口を開こうとしたその瞬間――ブブッ、ブブッ!手元のスマホが突然激しく震え出した。凌は無意識に目を落とした。画面上で点滅している発信者の名前は、まぎれもなくクラウディア殿下だった。キィィィン――ガッ!凌の手がビクッと跳ね、手から滑り落ちたマイクが床に叩きつけられて、耳障りな衝撃音とハウリングを響かせた。彼は雷に打たれたかのように全身を激しく震わせ、背中のシャツは一瞬にして冷や汗でぐっしょりと濡れた。来た……殿下の怒りの鉄槌が下される。今すぐどこかへ逃げ隠れしたかったが、現実は非情で、逃げ場などどこにもなかった。アシスタントディレクターや他のスタッフたちが訝しげな視線を向ける中、凌は震えが止まらない手でどうにかスマホを取り上げると、周囲に背を向けて通話ボタンを押した。「で、殿下……ま、まだチャンスはございます……質問があと一つ残っておりますので、第五問で必ず二人の綻びを暴き出し、あの二人は不釣り合いで、ただ芝居をしているだけだと視聴者全員に思い知らせてみせます……」電話の向こうから、クラウディアの氷のように冷たい一喝が飛んだ。その声に込められた身の毛もよだつような殺意は、電波に乗って本物の冷気となって押し寄せてくるかのようだった。「黙りなさい!この役立たず!今の世論の流れを、あのコメント欄を見なさい!これ以上質問を続けて、あの
炎真は相変わらずすべてを掌握しているかのような余裕の佇まいを崩さず、精神を追い詰めかねないこの質問も、ただのそよ風が頬をかすめた程度にしか思っていないようだった。数え切れないほどの人々が息を潜めて見守る中、彼は長い指をフリップの端にかけ、優雅で落ち着いた手つきで表へ向けた。【彼女にとって仕事より俺の方が大切なら、一緒にいる】言い換えれば、そうでなければ身を引くということだ。すべては彼女の気持ち一つに委ねられている。どんな苦難も共に乗り越えるといった大仰な誓いもなければ、損得を冷静に天秤にかけた計算もない。彼は自らの人生の選択権を、ごく自然に柚希の手へと委ねてみせたのだ。生きるも死ぬも、この先の喜びも、すべては彼女次第だった。一瞬の沈黙のあと、コメント欄は堰を切ったように沸き返った。【はい決定!炎真様こそが愛妻家の頂点だわ!】【凄すぎる!この回答は非の打ちどころがない!三十八年間生きてきて、急に愛というものを信じたくなったよ】【芝居よ、まだ芝居を続ける気ね!こんな答え、どう見ても事前に用意した台本じゃない!】【は?じゃああんたが即興でこんなセリフ考えてみなさいよ!生配信のカメラの前でいきなりこんな質問をぶつけられて、とっさにここまで愛の深い答えを出せるなんて……もしこれが芝居なら、炎真様は世界中の映画賞を総なめにできるわよ!】【あり得ない!そんなの絶対にあり得ないわ!もし炎真様が本気でそこまで上野さんを愛してるなら、殿下の立場はどうなるのよ!?炎真様と殿下こそが本当に愛し合っているのに!】【いや、本当に冗談抜きで、炎真様と殿下の熱愛報道には絶対何か裏がある気がしてきた。一人の男が一人の女をここまで深く愛していて、同時に他の女と深い関係になるなんてあり得る?】【この三人がどういう関係なのか、ますます分からなくなってきたな。裏でいったい何があったんだ?】コメント欄では激しい論争が繰り広げられていた。凌の額からは大粒の冷や汗がこめかみを伝って滑り落ち、手の震えが止まらず、指先は氷のように冷え切っていた。今この瞬間、生配信を目にしているクラウディア殿下がどんな表情を浮かべておられるか、想像するだけでも恐ろしかった。あの美しい瞳に宿る怒りの炎は、自分を灰になるまで焼き尽くしてしまうだろう。いや、まだ
凌が言い終えた瞬間、スタジオ中が息を呑み、空気がピンと張り詰めた。あまりにも底意地の悪い質問だった!愛と現実の損得を真っ向から対立させ、身勝手な愛か相手を思っての別れかの二者択一を迫るものだったからだ。一緒にいる方を選べば、相手の足を引っ張ってでも自分の幸せを優先する、身勝手な人間だということになる。かといって別れる方を選べば、どれほど深い愛を語ったところで所詮は口先だけで、現実の試練にはあっさり屈するのだと証明することになる。いざとなれば見捨てられるのではないかという暗い影を、相手の心に落とすことにもなりかねない。どちらを選んでも逃げ場のない袋小路であり、人間の本性を暴き出す残酷な罠そのものだった。酸いも甘いも噛み分けてきたジュードや、常に冷静なカリンでさえ、険しい顔つきになった。イーサンは相変わらず無表情だったが、唇をいっそう固く引き結んだ。ロリーナは無意識にドレスの裾を強く握り締め、激しく視線を泳がせた。コメント欄は再び大荒れとなった。【うそだろう!番組スタッフ、完全にタガが外れてるぞ!第三の選択肢は認めないだと?完全に退路を断って追い詰める気じゃないか!】【究極の人間性テストが来たわね。愛か現実か、どっちを選ぶ?不倫云々の質問より何倍もエグいわ!】【キャー、炎真様がどっちを選ぶか気になりすぎる!】【普通に考えたら別れる一択でしょ。その方が相手のためなんだから】【ふざけるな、喜びも苦しみも分かち合うのが愛ってもんだろうが!危機が迫った途端に逃げ出すのが愛だとでもいうのか?】【もし上野さんが一緒にいる方を選んだら、炎真様の富や地位が目当てで、炎真様本人を愛していないと認めるようなものよ!】【上のコメは黙ってて!愛を損得でしか測れない奴の方がよっぽど最低でしょ。二人がアンチを黙らせてくれるの待ってるから!】質問を聞き終えた柚希は、目を上げてディレクター席で顔を強張らせている凌を冷ややかに一瞥した。彼女は心の中で冷笑した。いったい裏でいくら積まれたのか知らないが、ずいぶんと思い切った真似をしてくれる。だが、この程度の質問で行き詰まるとでも思っているのだろうか。彼女は穏やかな表情のまま、代筆のスタッフに低い声で短く言葉を伝えた。フリップの公開は、今回もジュードとカリンから始まった。