로그인翌朝、まだ街が動き始める前。
私は少し早めに宿を出た。 石畳には朝露が残り、空気はひんやりとして気持ちが良い。 緊張で胸がざわついていたけれど、なんとか足は前へ進んだ。「ここ……だよね」
昨日、ニコラさんと話した露店。
布で作られた簡易的な天幕に、木箱がいくつも並んでいる。 乾燥果物、香辛料、小さな工芸品…… いかにも”旅の商人”という感じの品揃えだ。「えっと……札を出すんだっけ」
昨日教えてもらった通り、”臨時店番中”の小さな木札を看板の隣にかける。
朝の光が差し込んで、文字が浮かび上がる。「よし……」
少し深呼吸して、店の前に立った。
気分は少しだけ文化祭に出ている模擬店のようだった。「おや、この店は&helli
数日後。 私は、最後の露店を開くことに。 お店を返す決断をしたものの、ニコラさんの怪我が治るまで、私はここにいた。 だから今日が正真正銘の最終日。 もう慣れてしまった店の準備。 商品を並べていって、看板を出していく。 ああ、これでしなくなるんだ。 手に覚えてしまった動きだからこそ、終わる実感があった。「よし、今日も頑張ろう」 軽く頷きながら、お店を始めていった。「おはよう、今日も元気そうね」 少ししたら、常連の主婦がやってきた。 いつもの声で私に話しかけてくれる。「はい!」 笑顔で返事を。「ここの干し葡萄《ぶどう》、癖になっちゃったわ」「ありがとうございます!」 そう言ってくれて嬉しかった。 干し葡萄を買っていって、お店を離れていった。 ほんのちょっとだけ、寂しさがあったけれども。「肩、お願いしてもいい?」 今度はマッサージのお客さん。「もちろんです」 笑みを見せながらお客さんの肩を揉んでいく。 硬くなった肩を、少しずつほぐしていく。 力加減に気をつけながら。「あなた、前よりも上手くなったわね」「えへへ、ありがとうございます」 マッサージを終えたタイミング、お客さんからそう言われた。 私ははにかみながら答えた。 お客さんは嬉しそうな表情をしながら帰っていく。「板についてきたなぁ」 お客さんが落ち着いたタイミングで、隣の露店主がそう私に話しかけてきた。「えへへ……」 またはにかんじゃう。「最初は潰れると思っていたんだが」「ひどい!」 彼の冗談に頬を膨らませながらそう答えるけれども、内心では笑っていた。 ニコラさんはお店を返すまで手伝っていない。 近くのカフェで紅茶を飲んで見ているよう
私はニコラさんに頼んで、次の日も露店を営業させてもらった。 ニコラさんは少し身体を癒《いや》す必要があるから。 商品を準備して、看板を露店の前へ。 これでお店の準備は完了。「……今日も、やるんだよね」 軽く息を吸いながら、お店を開いていった。「やれるんだよね、ここで」 もしも、選択すればずっとお店を続けられる。 でも、それが正しいのかな。「おはよう、今日もやっているのね」 常連のお客さんがやってきた。 にっこりとしながら、私を見つめている。「はい!」 私はそれを見たら、嬉しくなってくる。 元気よく返事をしていた。「最近ここ、安心するのよ」 干し肉などを買っていって、帰っていった。「ありがとうございます」 はっきりとした居場所。 確かに、居たくなってくる。「肩、お願いできる?」 しばらくしたら、マッサージのお客さんがやってきた。「もちろんです」 私は笑顔を見せながら、マッサージを行っていく。 結構硬いけれども、ほぐしていく。 敦賀佐奈の時よりも上手くなっていると思う。「ありがとう、気持ちよかったよ」 お客さんの女性は微笑みを見せながら、香草袋もおまけで買っていった。 嬉しくなってくる。 露店で商品とマッサージをしている女の子が定着しようとしていた。「本当、ここで生きているかも」 ここで骨を埋めても、悪くないよね。 乙女ゲームのヒロインだったとしても、破滅しちゃったのだから。 残されたささやかな幸せのままに、生きていくのも悪くない。 誰かを断罪するためじゃなく、誰かに必要とされながら、生きている。 それからお客さんが増えていって忙しくなっていく。 でも、そんな気持ちを考えさせられるタイミングが。「このお店、いつからや
夕方になり、店仕舞いをしていった。 私は戻ってきたアプリルとロータスと共に売上げを確認していく。「思ったより回っているな」 帳簿と売上げ、在庫を見ながら、ニコラさんは感心していた。 思った以上だったのかな。「はい、何とか」 少しだけ微笑みながら返事をしていく。「何とかじゃねえよ。ちゃんとやってる奴の数字だ」 ニコラさんも笑みを見せながら、私が行ったことを褒めてくれた。 私は嬉しくなる。「で、どうする?」 しばらく見ていたニコラさんがそう問いかけた。「え?」 突然のことだったから、きょとんとしてしまった。 それを見たのか、ニコラさんは言葉を続けてきた。「このまま返すのか、それともーー続けるか」 二択を提示してくれた。 どちらも間違っていないともいえるような。「……続けても、いいんですか?」 聞き返して確認する。 このまま、私がお店をやってもいいんだ。「俺は構わねえ」 そうニコラさんは言ってくれた。「……うん」 私がサフィー・プラハになって初めて守れた場所。 自分の居場所になりつつある。 ここだったら、”普通に生きられる”。 元の世界に戻らないならば、この場所も良いかもしれない。「ここ、好きかも」 私は誰に言うわけでもなく、小さく呟いた。 それをアプリルは聞いたのか、一度だけ頷いた。「サフィー」 彼女は優しく語りかけるように話しかけた。「アプリル……」「残りたいのなら、残ればいいですわ」 笑みを見せながら私に話していく。「アプリルもそう思うんだ」「でも、それは”ここで終わる”ということでもあ
順調に露店は営業していった。 売上げも在庫も安定していて、順調にこの街で過ごしていた。 昼下がり、人通りが落ち着いてお客さんも少ないタイミング。 少し考える余裕が出てきた。「もう二週間かぁ」 短いけれども、ニコラさんの言われていた期間はもう来てしまった。 あとはニコラさんが戻ってくるのを待つばかり。 そうなると、お店は返さないといけないけれども。「久しぶりだな」 男性の声がした。「いらっしゃいませ」 お客さんだと思って、いつものように返事をしていた。 もう慣れちゃったな。「いや、客じゃない」「え?」 そう言われたため、私は一瞬狼狽えてしまった。 ギルドの人かなと思ったけれども、様子が違っている。 少し服が汚れている感じで、包帯を巻いている場所も。「悪いな、戻るのが遅れた」 申し訳なさそうにしながら、私を見つめていた。 その声は軽く言っているようで、どこか掠《かす》れていた。 長く歩いてきた人の声だった。「ニコラさん?」 もう一度見てみると、二週間前に会った男性の姿だった。 確かに雰囲気が少しだけ違っているかもしれないけれども、完璧にそうだった。「店、守ってくれてありがとうな」「生きていて良かった……」 安堵感《あんどかん》が私の胸に広がっていく。 ついにやりとげたような感じが。 店を守れた、というより。 約束を守れた気がした。「運が良かっただけだ。色々とあったがな」「盗賊に……?」 ニコラさんの持ち物は袋を持っているだけで、それ以外には無さそうだった。「ああ。しつこかった」 疲れたような表情を見せていた。 それでも露店を見ながら感心しているようだった。 商品の並び、袋詰め、看板。
次の日、私は普通に露店を営業させていた。 お客さんはいつも通り来ていたけれど、通りは警備であろう傭兵が行き来していた。 剣の柄に手を添えたまま、周囲を見渡している。 笑ってはいないが、怯《おび》えてもいない。 街は、昨日より少しだけ構えている。 盗賊の対策のためかな。 北街道の倉だけじゃなくて、この露店街にも来るかもしれないから。 完全に安全じゃないとは思うけれど。「昨日、盗賊に襲われそうになったって聞いたけれど、大丈夫だったの?」 常連になっている主婦がそう訊いてきた。「はいっ、何とか」 私は笑みを見せながら、返事をする。 昨日のこと、知っているんだ。「無事で良かった」 主婦は私に優しく言葉を。 でも翌日なのもあって、怖かった記憶ははっきりと残っている。 手は震えていないけれど。 だけど、短刀の光だけは、まだ脳裏に残っている。「じゃあ、干し葡萄《ぶどう》を買っていくわね」「ありがとうございます!」 そしていつものように買っていった。 嬉しい気持ちになってくる。「昨日の件、聞いたぞ」 続いてやってきたのは、旅人。 話ってすぐに聞こえてくるんですね。「まあ、ただ出会っただけですけれども」 私は苦笑いして返事をしていく。 この旅人は干し肉を買っていった。 それから露店の前では少しだけ、雰囲気が良さそうに感じた。 私に話をしたり、マッサージや商品を買っていったり。 お昼になると、干し肉や香草袋などが売れていく。 マッサージをしていくお客さんも並んでいて、露店は賑わっていた。「肩もみ、お願いできる?」 そんな時に黄色髪の女性がやってきていた。「勿論ですよ」 私は彼女へマッサージを。「それにしても、凄い瞬発力ですね」「まあね。ずっと鍛えてきたから」
一週間が経ち、露店は順調に売り上げていった。 そのために、品物はまた足りなくなっていく。 仕入れないといけないけれども、共同倉は売ってくれるのだろうか。 私は不安になりながら、北街道の共同倉へと向かっていく。「大丈夫なの?」 アプリルが問いかけていた。 前回、「今回だけだ」と言われていたため、余計売ってくれるか心配になる。「分からないの」「断られる可能性があるのね」 呆れながらそう返事をしていた。「あれ?」 倉へと向かっているのに、道が妙《みょう》に静かだった。 荷車の音すら聞こえない。「に、荷車が!?」 近くでは荷車が横倒しになっていた。 積み荷が散乱していて、明らかに何かがあった感がある。 どうしてこんな事が……。 すると、大きな声が聞こえてきた。「やめろ!」 争《あらそ》っている音だ。 そして袋を抱えてこっちに向かって走ってきた。 姿は、明らかに盗賊らしき男性。 目が血走っていて、焦りと苛立ちが混ざっている。 ただの悪党というより、追い詰められた獣のようだった。 彼が言っていた盗賊の一員なのかな。「どけ!」 明らかに私達とぶつかる。「うわわ……」「サフィー!」 避けないと。 こんな急に盗賊と出会うなんて。 でも、震えてしまって動けない。 あの断罪の場で、視線を浴《あ》びたときと同じ感覚。 身体が凍りついて、思考だけが空回りする。 盗賊は短刀を持っていて、避けないと刺されてしまうかもしれない。 なのに……恐怖で動けなかった。(やばいやばい……動けないよ) そのまま刺されてしまうのかなって思ったけれど……。
次の日、私は初めて王宮へ向かうことに。こんな場所、転生する前ですら行ったことがないし、行くことすら無いかも。 白い壁に大理石の床。 ドキドキしながら王宮の庭園へ向かう。 私は胸を高鳴らせながら回廊を歩いていた。 王子と話せるかもしれない……グルナ様が隣に座らせてくれるかもしれない……そう思うだけで、頬が自然と熱くなる。 その時だった。「あ、アプリル……?」 柱の陰から、アプリルが姿を現した。いつものメイド服で、手にはトレイを抱えている。「……サフィー」 呼び止められて、私は足を止めた。 けれど胸の奥には、なぜか冷たいものが走る。「なに? もうすぐお茶会なの。時間が無い
試験が終わってから二週間、私は自然と、アプリルと距離を置くようになっていた。 寮の部屋で同じ空間にいるはずなのに、お互いの間に薄い壁ができているような感覚。 彼女が掃除している時も、以前なら「ありがとう」と声をかけられたのに、今はただ横目で見ているだけ。(……ごめん。でも、信じられなくなっちゃった) 胸の奥で小さな棘が疼く。 アプリルは私を庇ってくれた。必死に声を上げてくれた。 でも、それでもみんなは信じなかった。 けれどーーグルナ様の言葉は、一瞬で空気を変えた。 あの聖女のような存在感。誰からも疑われない清らかさ。 それを目の当たりにしてしまったら……どうしても、比べて
黄昏の中庭。 夕陽が石畳を赤く染めていて、儚さと美しさを出していた。 私の影もこの場所を彩らせている。 そんな場所にもう一つ影がやってきた。「……サフィー、少しお時間をいただけますか」 アプリルの声は静かで、それでも真剣さを出していた。「なにかしら?」 私はちょっと緊張しながら、話を聞くことにする。「グルナ様のことです」 アプリルは迷いなく言った。「どうか……あの方を信じすぎてはなりません。彼女は、かつてわたくしを破滅へと追いやった張本人です」「……!」 私の心臓が跳ねる。 昨日も、今日も、グルナ様は聖女のように皆を導いていた。 その姿と、アプリルの言葉がどうし
グルナ様と過ごす時間は、まるで光に包まれているようだった。 彼女は常に穏やかで、慈しみ深い。 モニカがどんなに私を陥れようとしても、グルナ様が一言「彼女は潔白です」と言えば、すべて覆される。 誰もが信じ、誰もが頷いて、私を庇ってくれる。 ーーそれはアプリルのときとは正反対だった。(あのとき、アプリルが必死に弁護してくれたのに、誰も耳を貸さなかった。でも、グルナ様が言うと、みんなが一瞬で信じた) グルナ様には力がある。(……やっぱり、グルナ様って私の導き手よ。アプリルは悪役令嬢) そんな思いが、日ごとに私の中で大きくなっていった。 昼休み、庭園の中央に人だかりが出来ていた。