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第2話

Author: チャオ
執事は床に散らばった破片を手際よく片付けながら、同情のこもった声で言った。

「奥様は、少し人が良すぎます。旦那様が帰宅されるたびに、あの保科は決まってこの手の騒ぎを起こします。厄介なのは、旦那様が毎回それに乗せられてしまうことです……」

私は手を振って彼の話を遮った。

「もういいの。ご苦労様」

執事が一礼してゴミを持って退出するのを見届けると、私は再び小箱を開けた。

白い錠剤を一粒つまみ上げ、躊躇なく口に放り込む。

水もなしに飲み込むと、強烈な苦味が舌の上に広がっていった。

箱に残された錠剤は、あと二粒。

あと二回。それで私はこの鳥籠から飛び立てる。

蒼介、私の目に狂いはなかったわ。

あなたは極悪非道な人間ではないかもしれない。けれど、情が尽きた時の残酷さは、どの男も同じね。

......

日付が変わる頃になって、ようやく蒼介が戻ってきた。

濃厚な香水の匂いを身にまとっていた彼がジャケットを脱いだ時、ワイシャツの襟元に鮮やかなルージュの跡がついているのが目に入った。

視線が絡む。彼の一瞬泳いだ瞳に、微かな狼狽が見て取れた。

しばらくの沈黙の後、彼は観念したように息を吐いた。

「……里美を椅子から引きずり下ろそうとして、もみ合った時に付いてしまったんだ。他意はない。ごめん、次は気をつけるよ」

その謝罪の態度は、あまりにも誠実に見えた。

いつもならここで私が問い詰め、彼が言い訳を重ねるのが常だったが、今回は違った。私はただ淡々と口を開いた。

「分かった。では約束通り、今回も薬を一粒飲むね」

蒼介は後悔の薬の存在を知っている。

この薬がなくなれば私が彼の元を去るということも知っている。

それなのに、彼は全く危機感を抱いていないようだった。

「ああ、分かった。取ってきてあげるよ。どうせ、まだたくさん残っているんだろう?」

彼は軽い調子で寝室へと向かう。私はその後ろ姿を見つめながら、奇妙な期待感を抱いていた。

もし彼が、箱の中に残り二粒しかないと知ったら、どんな反応をするだろうか?

寝室から、プラスチックの蓋が床に落ちる乾いた音が聞こえた。

直後、彼の震える声が響く。

「優子……?ど、どうして……どうしてあと二粒しかないんだ?」

私はゆっくりと深呼吸をし、指を折りながら、これまでの出来事を数え上げてみせた。

一つ、また一つと過去の裏切りを口にするたび、蒼介の顔色は蒼白になっていった。最後まで聞き終えると、彼は突然駆け寄ってきて、私を強く抱きしめた。

「俺が悪かった。これからは……これからは心を入れ替えて、お前とやり直す」

私は答えなかった。

沈黙に耐えかねたのか、彼は顔を上げ、不安げな瞳で私を見つめた。

「薬がなくなったとしても、お前は俺から離れたりしないよな?そうだろう?」

私が口を開く隙も与えず、彼は突然私を抱き上げ、強引にベッドへと押し倒した。その瞳には、どこか狂気じみた執着が宿っている。

「優子、子供を作ろう。子供がいれば、お前も……」

拒絶しようとしたが、ある考えが頭をよぎり、私は抵抗をやめた。彼が私の衣服を剥ぎ取るのを、人形のように受け入れる。

情事が終わり、彼は満足げな顔で私の隣に横たわり、荒い息を整えていた。

その時、サイドテーブルに置かれた彼のスマートフォンが振動した。

画面には【里美】の文字。

通話ボタンを押すと、スピーカー越しに里美の甘ったるい、芝居がかった声が響いた。

「蒼介……はぁ、はぁ……心臓が、苦しいの。私、もう死んじゃうのかも……最後に蒼介に会いたいよ……」

蒼介は弾かれたようにベッドから飛び起きた。

しかし、服を掴んだ手が一瞬止まる。彼は迷い、心配そうな顔で私を振り返った。

「優子……俺は……」

私は彼を見なかった。天井を見上げたまま、冷ややかに告げる。

「人命に関わることだ。行ってあげたら?」

彼は感動したように私の手を握りしめた。

「怒らないでいてくれる?ありがとうね優子。じゃあ、薬は飲まないでくれよ。すぐに戻るから」

言うが早いか、彼は慌ただしく部屋を飛び出していった。

静寂が戻った部屋で、私は引き出しを開けた。

あらかじめ用意していた経口避妊薬を取り出し、後悔の薬と一緒に口に放り込む。

ごくり。

残り、一粒。

蒼介、あなたには感謝しているわ。

どうか最後まで私を失望させ続けて。

……

翌朝、日が昇りきってから蒼介は帰宅した。

私が怒っているのではないかと心配したのか、わざわざ私の機嫌を取ろうとした。

パティスリーまで足を運び、限定のケーキを買ってきていた。

帰宅して彼が最初にしたことは、小箱の中身を確認することだった。

中にはまだ「二粒」が入っている。

それを見て、彼は安堵の息を吐き、眉間の皺を緩めた。

私の口元に浮かんだ微かな冷笑には、全く気づかないまま。

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