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まだ何も動かない。 少し強い風が吹いていて。不気味さを幾分にも掻き立てる。 カダインは村の各方面に、1万の大軍を配置させている。動きがあればすぐに知らせが届くはずだ。 「炎の巫女殿。敵が来ない可能性もあるのではないか?」 カダインの問いかけに、カタリナは被りを振る。 「必ず来るわ。私がここにいる限りね。15年の因縁は…お互いに深いものなのよ…。」 「だといいのだが…。」 カダインは何も起きない戦場に、少し焦りを見せている。 「隊長殿。敵はもう眼前にいるものと考えた方がいい。」 「眼前?」 カダインが聞くと、カタリナは頷いた。 「相手は山賊。奇襲は得意中の得意。さらに率いるのは人型機械。人知の範囲で測るのはリスクが高いってことよ。」 その時、東の方から赤い火が昇った。 「来たか!」 カダインはすぐに近衛を率いて東へ向かおうとする。 「隊長殿。待って。」 カタリナが止める。 「どうされた?」 「妙だわ。」 「何がです?」 カダインの問いかけに、カタリナは冷静に答える。 「この村に来てから、色々と詮索していのだけれど…。いつも被害が大きかったのは南と西。東はただでさえ防護柵が強固な上、外部から侵入が難しい立地。」 「そこをあえて突いたのでは?」 カダインの問いに、被りを振る。 「この大軍は均等に配備されている。それは向こうも事前に調べているはずよ。どこを突いても敵の数が同じなら、あえて消耗するルートを選ぶ理由があるかしら?」 カタリナの言う通り、東の地理が最も頑丈である。 「ならば。東は囮?」 「その可能性が高いわね。隊長殿。各場に配備した騎士団の指示役には、どうご命令されています?」 「戦況に応じて対応せよ!…と。」 「その騎士たちの実戦経験は?」 「猛者は皆、大国との睨み合いに出陣している。ここにいるのは経験の浅い者ばかりだ。」 カタリナは考えた。 「その情報も敵に漏れてるとしたら…。私たちはもう手のひらの上…。」 「我が軍に裏切り者がいると?」 「相手は人型機械です。1度視界にいれれば、相手の経験値など容易く解像できる。」 「ならば…。まさか…。」 「その通り。向こうの狙いはただ1つ。ここ!本陣よ!」 カタリナの読みに、カダインは固唾を飲む。 「まさしく…。敵は眼前というわけか…。」 近衛兵は、カダインとカタリナを取り囲む。 「くる!」 カタリナは炎の剣を作り出し構えた。それに同調するようにカダインも2本の短刀を抜刀する。 「短刀二刀流とは、珍しい武器ね。」 「それはお互い様だ!」 山賊は、東の防護柵に火をつけて、一気に奇襲をかけた。 立ち込める煙を見て、正面を固めていた軍を任されていた若い分隊長が、東へと援軍を送る。 手薄になった正面の兵を、300の人型機械があっという間に駆逐した。 そして、血の雨を浴びながら、周りには目もくれず、真っ直ぐと本陣へと向かっていく。 本陣。 騎士団側。カタリナ、カダイン他近衛兵1500。 グリンベール側。人型機械300。 睨み合いが始まった。 「皆!気を引き締めろ!」 カダインの叫びに軍の活気は上がる。 (事前の調べと言い。かなり頭の回る相手が、この300の中に紛れてる。本丸はそいつね。) カタリナは静かに分析しながら敵を見据えていた。 人型機械たちは辺りに分散していく。 「全軍!シュプルーン騎士団の底力を見せてやれ!」 カダインの掛け声で、1500の軍は、辺りの人型機械に斬りかかっていく。 「隊長殿。この分散も策略かもしれない。」 カタリナの読みは当たっていた。 散り散りになった軍の隙間を縫うように、1人の不気味な女が突っ込んできた。 「闇に消えろ!」 両手に剣型の闇そのものを握りしめて、カタリナに襲いかかる。 「それはまさか…。」 カタリナの剣と不気味な女の剣が激しく交錯する。 よく見れば、この女。首や腕に縫い跡があり、継ぎ接ぎ状態だ。 「闇龍の咆哮!」 継ぎ接ぎの女の背後に、巨大な闇の龍が現れた。 「間違いない…。ミレア…。 」 カタリナがそう言うが、女は何も答えない。それどころか迷うことなく、闇龍の口から砲撃を繰り出した。 「まずい!」 カタリナは素早い動きで、横にいたカダインを抱えて砲撃から逃れた。 「隊長殿!しっかり。あれは私のフレアリングと同じ。ダークリングよ。」 「炎の巫女と同じような力を持つ者が…他にもいたとは…。」 カダインの短刀を持つ手は震えていた。それも仕方ない。女のおぞましい見た目、繰り出される技、どれも人間の領域を越えている。 「隊長殿。私に任せてください。」 カタリナはそう言うと叫ぶ。 「久しぶりね。炎龍の咆哮!」 炎の龍が砲撃を繰り出す。 そして追い打ちをかけるように走り出す。 「炎天の舞!」 神速を超える舞で、炎を纏いながら女へと斬りかかった。 そして炎剣が首元に届いた瞬間、カタリナは気づいた。 (手応えが…ない…。) カタリナが斬ったのは、闇でしかなかった。 継ぎ接ぎの女本体はすでに、カダインの前に立っている。 (しまった…狙いはそちらか…!) 継ぎ接ぎ女の剣が、カダインを襲う。 「舐めるな!」 カダインも震える手を、気持ちで止めて、応戦する。しかし実力差は圧倒的だ。 闇剣を防いだ短刀ごと吹き飛ばされる。 継ぎ接ぎ女がその隙を逃すわけなどない。 闇龍の口が完璧に、カダインを捉えた。 「終わりよ!」 砲撃が一直線にカダインへ向かう。 「炎天の舞!」 間一髪。カタリナがカダインを押し飛ばした。 しかし2つ目の矢はすでに放たれていた。 「闇弓!」 3発の矢が、カタリナを貫いていた。 両足と腹。致命傷は避けている。しかし闇龍の口はすでにカタリナ目掛けて砲撃を放っていた。 (ミレア…。) カタリナは砲撃をまともに受けて、後方の家屋へと叩きつけられた。 偶然にもその家屋にはルーナが隠れている。 「お母さん…?」 見たことも無いほどに、ボロボロになっている母を見て、ルーナは言葉を失った。 「…ルーナ…逃げ…る…のよ…。」 カタリナの絞り出した言葉も虚しく。継ぎ接ぎの女は闇剣を振りかざして立っていた。 震えるルーナ。 カダインはすでに先程の衝突で、骨が折れている。 家屋が崩れたせいで、周囲の状況がはっきりと見えた。 あれだけ勇ましかった騎士たちが無惨な姿で倒れている。 「…お母さん…。これが戦争…。」 ルーナは涙を堪えながら、立ち上がった。 両手を広げて、倒れている母の前に立つ。 「お母さんは殺させない…。」 「…ルーナ…逃げ…て…。」 無情にも継ぎ接ぎ女の剣は、ルーナめがけて振り下ろされた。「さて。これからどうしようかな。」バルドレは天馬を空に向かって進ませている。しかし先程のルーナの一撃で、一時的に脅威は去ったとは言え油断は禁物。すぐにでも空の王と接触して、この記憶の墓地から脱出したいところだが…。「ルーナ。傷は大丈夫かい?」「だいぶ落ち着いた。」ルーナの回復力には驚かされる。ラオムの拳をまともに受けた時は、全身が悲鳴をあげている状態だったにも関わらず、そこ30分程度で、ある程度動けるほどになっているのだから。「キミはホントに不思議だね。」「バルドレもね。」ルーナの言うとおり、たまたま本屋で出会い、たまたまヤンガミに眠る宝具が使えただけなのに、ルーナと共に命を賭けているのだから不思議なものだ。「とにかく空に向かおう!空の王って呼ばれるくらいだし!きっと空にいる!」バルドレがそう言うと、ルーナは頷いた。浅い考えだとは思うが、なんとなく理にかなっている。可能性は高さそうだ。しかしルーナにはそれ以上に、ラオムが気がかりで仕方なかった。雷炎の龍をぶつけた時に、あの化け物は笑っていたように見えたからだ。それも当然で、太古の昔から空の王と激しくぶつかり合っていたこともそう。15年前に、その存在だけで国を壊滅させたこともそう。全て今のルーナの全力ごときでどうにか出来るわけがない証明となっている。「バルドレ。とにかく急いで空に向かおう!」「もちろん!」「でも気をつけて。いつまたあの黒いサークルが現れるかわからない。」「だよねぇ。あれだけ幻想的な一撃を見せてもらったから言いにくかったけど。あの化け物は、仕留めれていないよねぇ。」「当然だ。時間稼ぎにしかならない…。」ルーナの悔しげな表情が切なかった。「気に病むことはないよ。そのおかげでこうして生き延びれたわけだし。ほら?言ったでしょ?生き残ることが勝ちなんだって!」バルドレは、あえて陽気に振舞った。かなり空の奥地まで登ってきたようで、雲が下に見えている。「どこまで行けばい
ルーナには何が起きたのか理解できていなかった。ただ気づいた時には、瓦礫の上に倒れていた。全身が痺れるように痛む。内臓にもダメージが及んでいるのか、呼吸すらも苦しい。たった一撃。されどその一撃が、致命的なモノとなる。古の機械ラオムの恐ろしさは理解していたはずだった。でも…。それは想像を遥かに凌駕していた。「おまえ。炎と雷を使ったな?」塔の上の男の声だ。「おおかたあの忌々しい炎の巫女と空の王の娘。と言ったところか。」ルーナは気持ちで立ち上がる。「俺も。そこの古の機械も。おまえの両親には恨みがある。こんなところで憂さ晴らしができるとはな。」塔の上の男は高らかに笑った。バルドレが駆けつけてルーナの横に立った。「ルーナ。大丈夫なのかい?」「…なわけないでしょ
「まったく。次から次へと不思議なことばかりで頭が混乱しちゃうよ…。」バルドレは腰を抑えながら呟いた。「巻き込んでしまう形になって申し訳ない。」ルーナがそう言うと、バルドレは笑って答えた。「謝らなくて大丈夫!やっぱりキミといるとワクワクするよ。」「あなた。子供なの?」「キミよりは大人だと思うよ!でも芸術家なんて好奇心の塊だからさっ!」ルーナは聞き流すかのように足を進める。「待ってよ。」バルドレも後を追う。「ルーナさん。どこに向かうの?」「ルーナでいい。墓石に飲み込まれた時、チラッと目に入ったのだけれど。この空間には、記憶の具現化がされていると掘っていた。」「記憶の具現化?」ルーナは頷いて、話を続
老人は語り出した。「ロシェ•カエルム様は、太古の昔。空の国を統べていた国王で御座いました。歴代の空の王でもごく一部の者にしか扱えないとされる空を操る力を持っており、空の国歴史上最強の王と謳われております。そんな王の元、空の国は平穏な日々を暮らしておられた。」ルーナとバルドレは黙って聞いている。「しかし。空の国の中には、さらなる発展を求める者もおり…。彼らは叡智を絞り、王の目の届かぬ場所で、とんでもないモノを作り上げてしもうたのです。」「とんでもないモノ?」バルドレが聞くと、老人は頷いた。「古の機械ラオム。それを取り巻く古代兵器たち。しかし古の機械ラオムは、国の発展を望んだ科学者の気持ちとは裏腹に、国を乗っ取らんと空の国へと攻め入ったのです。異空間を自在に操る古の機械ラオム率いる古代兵器軍と、空の王ロシェ様、空の王の守り人である炎の巫女との戦闘は長きに渡ったと言われております。」「異空間を操るって……
バルドレの右腕に、ルーナは布を巻いた。「すまない。悪気はなかったんだ。」「わかってる。」ルーナはそう答えると、3人の老人に目を向けた。「話を続けましょう。」老人たちはまだ驚きを隠せていない。(この子…。リングなしで炎の力を使ったのみならず。雷までも生み出した。底なしの才能を秘めておる…。)真ん中の老人が、左右に座る老人に目で合図を送る。それに合わせて、左右に座る老人は立ち上がり、怪我をした従者たちの手当を始めた。そして真ん中の老人はゆっくりと立ち上がり、ルーナに声をかける。「ルーナ様。ついてきてくだされ。」「分かりました。」続いて老人は、バルドレの方に顔を向ける。「バルドレか…。ヤンガミが誇る天才絵師。まさか宝具を扱えるとは…。おまえもついてきたまえ。」「え?ボクも?」「誰にでも天命はある。」その老人の言葉に、バルドレは少し笑って答えた。「年寄りの言葉は重たいねぇ。」3人は広間から奥に繋がる廊下を進んだ。その先は行き止まりだ。巨大樹の中央付近なのだろう。吹き抜けになった呼吸口から通る風はかなり強い。老人が口を開く。「まさかワシの代でこの上に行くことが叶うとは……。」「どうゆうことですか?」ルーナが聞くと、老人は答える。「かつて空の国と信仰を築いていた時。ヤンガミの根幹はこの上にあったのです。この上には空の国とヤンガミの過去が眠っておる。そしてルーナ様。あなたのお父様ロシェ•カエルム様も太古の昔。この上の地で、空を学ばれたのです。」「お父様が太古の昔って。よくわからないね。」バルドレが口を挟むと、老人は鋭い眼光で突く。「わかってるよ。黙ってればいいんでしょ。」「バルドレ。風描きの筆を右の台座に置くのだ。」老人に言われた通り、バルドレは台座に置いた。「何も…起きないね。」バルドレは不思議そうに
街の中央に聳える巨大樹。使者のうちの1人が、その巨大樹に右手を当てた。そしてブツブツと何やら呟いている。(この3人·····。どこまで信用していいのかしら。)ルーナの中にある懐疑心は拭えない。しかし他にアテもないのでついてきたに過ぎない。使者が巨大樹から手を離した途端。まるで口を開くかのように、幹に裂け目ができた。「どうぞ。」使者に案内されるままに、ルーナはついて行く。「ここはヤンガミでも一部の人間しか知らない裏街です。」「裏街?」ルーナが聞き返すと、使者の1人が答える。「そうです。裏街は、太古の昔。空の国との交流を実際に行っていたヤンガミ人の純血の子孫しかおりません。」「ここが本当のヤンガミの歴史ってことね。」「その通りです。ヤンガミは今でこそ、アートの街なんかと持て囃されておりますが、本来は空の国の歴史を知る古き伝統の街でございます。その気持ちを失わぬように、表街と裏街に分けているのです。」そんな話をしながら、巨大樹の中の螺旋階段を登っていく。しばらく歩いていると、広間が見えてきた。「ルーナ様。お待たせしました。こちらへどうぞ。」使者の1人が、ルーナを広間の真ん中の席に座らせた。「何が始まるのですか?」ルーナが聞くと、使者は答えた。「空について。知っていただきます。」ルーナは辺りを見渡した。人数は15人ほど。自分の真正面には、明らかに威厳がある年寄りが3人。きっと彼らがここを統括しているのだろう。そして、その3人の後ろには、大きな壁画がある。空に向かって絵を描いている男性と、空に浮かぶ島?のような壁画。ルーナは先程の本を思い出す。(あれが宝具!)壁画の下に、ガラスケースで保管されている、羽のようなデザインの筆が目に入った。よく目を凝らすと、ケースの下に名が掘られている。(風書きの筆·····







