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思い出

last update Zuletzt aktualisiert: 07.03.2026 21:38:34

私、鮫島彩花。

結婚して十年目の四十五歳。

人材派遣会社で事務をしていたが、コーディネーターの仕事も任され、やりがいを感じていた。

仕事に生き甲斐を感じているうちに婚期を逃し、三十五歳の時、上司の紹介で三つ年上の主人と出会い結婚した。

主人は穏やかな性格で、私が仕事を続けることも尊重してくれた。

結婚生活に不満はなかった。

ただ、主人は夜勤の多い仕事で、泊まり込みも多く、夫婦生活はすれ違いがちだった。

結婚七年を過ぎた頃には、私たちは夫婦というより兄妹のようになっていた。

情はある。

けれど、男女としての関係はもうなかった。

元々、私も淡白なほうだったから、男女の関係がなくなっても特に不満はなかった。

むしろ、どこかほっとしていた。

子供も授からないまま、気づけば私はもう四十五歳。

女としての役割は終わったのだと、いつしか思うようになっていた。

終活のことを考えるほどに、人生は静かに落ち着いていた。

──あの人に出会うまでは。

彼と出会ったことで、私は初めて知った。

自分の中に、まだこんなにも「女」が残っていたことを。

たとえそれが、世間では「不倫」と呼ばれる関係だったとしても。

それでも私は、確かに恋をしていた。

まるで満開のソメイヨシノが、散り急ぐように。

鮮やかで、美しくて、そして儚い──

とても悲しい恋だった。

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  • 花火   きっかけ

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  • 花火   思い出

    私、鮫島彩花。結婚して十年目の四十五歳。人材派遣会社で事務をしていたが、コーディネーターの仕事も任され、やりがいを感じていた。仕事に生き甲斐を感じているうちに婚期を逃し、三十五歳の時、上司の紹介で三つ年上の主人と出会い結婚した。主人は穏やかな性格で、私が仕事を続けることも尊重してくれた。結婚生活に不満はなかった。ただ、主人は夜勤の多い仕事で、泊まり込みも多く、夫婦生活はすれ違いがちだった。結婚七年を過ぎた頃には、私たちは夫婦というより兄妹のようになっていた。情はある。けれど、男女としての関係はもうなかった。元々、私も淡白なほうだったから、男女の関係がなくなっても特に不満はなかった。むしろ、どこかほっとしていた。子供も授からないまま、気づけば私はもう四十五歳。女としての役割は終わったのだと、いつしか思うようになっていた。終活のことを考えるほどに、人生は静かに落ち着いていた。──あの人に出会うまでは。彼と出会ったことで、私は初めて知った。自分の中に、まだこんなにも「女」が残っていたことを。たとえそれが、世間では「不倫」と呼ばれる関係だったとしても。それでも私は、確かに恋をしていた。まるで満開のソメイヨシノが、散り急ぐように。鮮やかで、美しくて、そして儚い──とても悲しい恋だった。

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