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咲かない言葉も誰かとなら

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-01 00:23:36

朝靄が森の端を覆っていた。

鳥たちの声が遠くで響き、風が枝葉を揺らす。昨日までの騒がしさが嘘のように静かだった。

ユウリは小さな道を、セリアと並んで歩いていた。互いに無理に話すこともせず、魔導書だけが二人の共通点のように肩に寄り添っていた。

「ねえ、ユウリ」

セリアが前を向いたまま言った。

「あなたの旅の目的、本当に“死をほどく魔法”なの?」

「……うん」

「誰かを、生き返らせたいんだね」

「いや……もう遅いのはわかってる。でも、読めなかった言葉があったんだ。あのとき、何も言えなかった。だから……」

ユウリは足元の土を見ながら言葉を選んだ。

「せめて、読めるようになりたい。“伝えられなかった想い”ってやつを」

セリアは小さく笑ってうなずいた。

「それなら、いい旅になるわ。私も似たようなものよ。ずっと昔、“読まなかった言葉”があるの。怖くて、逃げたの」

彼女の声に、一瞬だけ寂しさが混じった気がした。

けれどそれ以上は聞かず、ユウリも無理に探らなかった。

二人が向かっているのは、“詩の標”と呼ばれる場所。

この世界に点在する、魔法図書館の痕跡。かつて“分館”とされていた場所にだけ現れる、特別な記録の石碑。

「詩の標には、今はもう読めない古い魔導詩が刻まれているらしいわ。

 でも、花紋者なら“触れるだけで意味が流れ込む”って噂もあるの」

「……それ、本当なのかな」

「確かめに行くのよ、これから」

セリアがふわっと笑った。

その笑顔を見て、ユウリは少しだけ気を抜いたように息を吐く。

不安はまだあった。けれど、昨日までの“独りの旅”とは明らかに違う。

言葉を交わせる誰かが隣にいるというだけで、足取りは少しだけ軽かった。

森の道を進みながら、ユウリは何度も魔導書を開いていた。

ページは風に揺れ、詩文はそこに確かに在る。けれど何度読み上げても、魔法は咲かなかった。

「《還雷の詩・第二節》……」

言葉に出す。感情を込める。意識を集中する。

それでも光は灯らない。音もなく、ただ沈黙が残るだけだった。

セリアが横で足を止め、少しだけ首をかしげた。

「少し焦ってない? 魔法って、無理やり咲かせるものじゃないから」

「昨日は……ちゃんと咲いたんだ。セリアと一緒に」

「うん。でもあれは“共鳴”だった。言葉と想いが一瞬だけ重なったから、咲いたんだよ」

セリアは足元の草を撫でるようにしゃがみ込み、小さな青い花を見つめた。

「魔導書に書かれてる詩は、誰が読んでもいい。でも、その魔法が“どんな形で咲くか”は、読み手の心で決まるの」

「心、か……」

「一人で咲かせようとするのも大事。でも、時には“誰かと読むこと”で、初めて咲く詩もある」

ユウリは黙って魔導書を見つめた。

親友と一緒に魔法の練習をしていた日々。彼は笑って、いつも鮮やかに花を咲かせていた。

自分は後ろで、何度読んでも光すら出せなかった。

「アイツは、最期の瞬間まで花を咲かせようとしてた。

俺はただ、立ち尽くして、何も読めなかった」

言葉が口をついて出た。

セリアはそれに返事をしなかった。ただ、静かにその場にいてくれた。

「咲かなかった詩って、無駄じゃないんだよ。

そのまま残る言葉が、いつか誰かと重なることもあるから」

その言葉を受け止めながら、ユウリは再び魔導書を開いた。

風が一枚、ページをめくる。

そこにあるのは、まだ誰にも読まれていない“未詩篇”。

彼の旅は、まだ始まったばかりだった。

森の奥に進むにつれ、空気が変わった。

風が止み、鳥の声も消え、ただ木々のざわめきだけが響いている。

「この先だよ。詩の標がある場所」

セリアが足を止めて指をさした先には、苔むした石碑のようなものが立っていた。

その表面には風化した文字が刻まれており、今となっては解読できない詩文が浮かび上がっている。

「……これが、魔法図書館の痕跡?」

「分館の封印記録だと思う。昔ここに、本があったって証」

ユウリが一歩近づいた、そのときだった。

空気が震えた。

足元の地面が軋み、石碑の根元から何かが這い出してくる。

金属が軋むような音と共に現れたのは、獣のような形をした“何か”だった。

四足の体に、剣のような尻尾。眼には光はなく、かわりに詩文が刻まれている。

「詩の獣……アーカイブビースト」

セリアが低くつぶやく。

「これは、読み残された詩に宿る記録体。誰にも読まれなかった“言葉”の憎しみが、形を持ったものよ」

咆哮。鋼のような唸り。

獣の背中に刻まれた詩が、黒い煙のように空間に拡がっていく。

ユウリが反射的に魔導書を開く。

「《還雷の詩・第二節──》!」

詩を読む。けれど、光は咲かない。

「……っ!」

焦りだけが空回りする。読み切ったはずの言葉が、今は何も反応しない。

「ユウリ、下がって!」

セリアの詩が先に咲く。《癒光の防壁》が展開され、ユウリの前に防御の花が開く。

けれど、詩の獣は構わず突進してきた。防壁が軋み、セリアの肩に力が入る。

「この獣は、“読まれなかった言葉”を喰らって成長する。

言葉に迷いがあると、詩が効かなくなる……!」

ユウリは、震える手で魔導書を握りしめる。

どうすれば、“咲かない詩”が咲くのか。どうすれば、自分の言葉が届くのか。

答えはまだ、見つからない。

ユウリの目の前で、セリアの防壁がひび割れていた。

詩の獣の咆哮とともに、魔力の衝撃波が地面をえぐる。

このままでは防ぎきれない。ユウリは詩を咲かせようと、何度も読み上げる。

「《還雷の詩・第二節──光花散雷!》」

けれど、雷は咲かない。

言葉が震え、魔導書のページがかすれるだけだった。

「読めてるはずなのに……っ!」

自分の声が空へと溶けていく。

恐怖でも怒りでもない。ただ、悔しさだけが胸を支配していた。

「ユウリ!」

セリアの叫びが聞こえた。

振り返ると、彼女が片膝をつきながら詩を構えていた。

結界が限界に達しようとしている。

「詩は、咲かせるものじゃない……!届けるの……!あなたが、誰に、何を伝えたいのか、それが先よ!」

その言葉が、ユウリの胸に突き刺さった。

届ける——

思い出す。

過去。あの親友の笑顔。最期の瞬間、言えなかった一言。

本当は、何が言いたかったのか。

「……お前に、伝えたかったんだ」

ユウリは魔導書を閉じ、そっと胸に当てた。

目を閉じて、ゆっくりと呼吸を整える。心の底に沈んでいた言葉を、もう一度拾い上げるように。

「《還雷の詩・終節──導雷咲華》」

音が変わった。

詩文が静かに光り、雷が優しく、けれど鋭く放たれる。

それは攻撃でも、防御でもなかった。

ひとつの言葉を、獣に“読ませる”ための詩。

魔法ではなく、祈りのような魔力の流れだった。

雷が獣の身体を包む。

刻まれた詩文が一瞬だけ光を帯び、やがてふっと消えていく。

咆哮が止み、詩の獣は静かに崩れた。

風が吹いた。

石碑の表面がきらりと光り、そこに新たな詩文が浮かび上がった。

「……これは、次の“詩の標”の座標だね」

セリアが立ち上がり、ユウリに微笑む。

「やっと、あなたの言葉が咲いたね」

ユウリは何も言わずに、魔導書を見つめた。

そこには、今までにないやさしい光が灯っていた。

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