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第23話

Penulis: 藤永ゆいか
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-29 13:33:55

もしかして、今日の夕飯抜きとか?私があれこれと、ひとりでお仕置きについて考えていると。

「ひゃっ!」

藍の整った顔が近づき、ふーっと耳に息を吹きかけられた。

「萌果ちゃん……耳、今も弱いんだ?」

「……っ」

藍の言うとおり、私は昔から耳が弱い。だから、私にとってこれは、もう十分お仕置きになる。

「ふふっ。そっかぁ」

藍が、楽しそうに口角を上げた。そしてカプッと耳たぶを噛まれ、身体が小さく跳ねる。

「~っ。ら、藍。お願い、もうやめて……」

「萌果がちゃんと反省するまで、やめてあげない」

「……っん」

藍に甘噛みされたまま舌で耳の縁をなぞられ、甘い痺れが走る。

「やばい。涙目になってる萌果ちゃん、可愛すぎる」

「っうう」

私が耳が弱いことを知ってて、こんなことをしてくるなんて。藍はイジワルだ……!

ほんと、いつの間にこんな子になっちゃったの?悪い子は私だけじゃなく、藍も同じじゃない!

それから私の耳を解放した藍は、そのまま私の首に顔を埋めた。直後、首筋にピリッと痛みが走る。

「ちょっ、ちょっと藍!今、何したの?」

「何って……萌果は、俺のだっていう印をつけただけ」

「……っ!」

ここでようやく、私は藍にキスマークをつけられたのだと分かった。

「首、もし人に見られたら……」

「大丈夫。襟で隠れるところだから」

藍が、楽しげに目を細める。

「ていうか私、藍のものじゃないんだけど!?」

私の言葉に、笑っていた藍の顔が一変。とても真剣な顔つきになった。

「そうだね。今はまだだけど、俺はいつか……萌果を本当に自分のものにしたい。そして俺は、萌果のものになりたいってずっと思ってる」

こちらを真っ直ぐ見つめる瞳。

「俺がこんなふうに思うのは、今も昔もこれからも萌果だけだから」

藍は小さく微笑み、今つけたばかりの赤い痕を指でなぞる。

「大好きだよ、萌果ちゃん。俺が萌果にキスするのも、意地悪するのも……萌果のことが好きだから。これだけは、ちゃんと覚えててね?」

「藍……」

小学生の頃、私はあなたのことを振ったのに。

高校生になって、今や人気モデルになっているというのに。それでも変わらず、ずっと私を想ってくれてるなんて。

「萌果ちゃん、前向いて?髪飾りつけるから」

藍に言われ、ソファに座り直して前を向くと、藍は星の髪飾りを頭につけてくれた。

「ありがとう」

「ううん。萌果ちゃん、可愛いよ
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    藍の今後の芸能人生を考えると、絶対に別れたほうが良いのは分かっているけれど。 私は、藍と……別れたくない。離れたくないよ。 社長さんの話の続きを聞くのが怖くて、私は目をギュッと閉じる。 「だが……」 ふぅと一息つくと、社長さんは話を再開する。 「藍も来年で18歳になるんだ。大人になる二人に、交際するなとも強く言えないだろう」 ……え? てっきり、もっと反対されるのかと思いきや。社長さんの口から出た言葉は、予想外のものだった。 「3年前。デビュー当時の藍は、自分のことを見て欲しい人がいると言っていた。自分はその子のことがずっと好きで、遠くにいる彼女のためにモデルを頑張ってみたいと。その人が、萌果さんだったんだな」 「はい。社長の言うとおりです」 社長さんのほうを見ると、先ほどと違ってとても穏やかな顔をしていた。 「萌果さんのおかげで今のモデルとしての藍があると思ったら、強く反対もできない。それに……私の経験上、恋愛をするのもマイナスなことばかりではないと思うからな。最近の藍は、前よりもいい顔をしているし」 「社長、それじゃあ……」 「ああ。君たちの交際を認めよう」 やった……!私と藍は、ふたりで手を取り合う。 「ただし、世間には絶対に秘密にして欲しい。当分の間、交際してることはバレないように。藍、羽目を外すんじゃないぞ?」 「はい。ありがとうございます」 「ありがとうございます!」 藍と一緒に、私も社長さんに深く頭を下げた。 ** 事務所を出ると、外は薄暗くなっていた。 「萌果ちゃん。帰る前に、寄りたいところがあるんだけど……いいかな?」 「うん。いいよ?」 「ちょっと歩くけど……大丈夫?疲れてない?」 「大丈夫だよ」 私は、藍に微笑む。 今日は、藍の仕事が久しぶりに休みだから。最初から、今日は彼の行きたいところに付き合おうって思ってた。 それに、藍から『萌果の1日を俺にちょうだい』って言われていたし。 私は藍と一緒にいられれば、どこだって楽しいから。 「ありがとう。そこは、俺がずっと萌果と一緒に行きたかった場所なんだ」 「私と……行きたかった場所?」 ** 藍とふたりで、事務所から歩いて向かった場所。 それは、街を一望できる見晴らしのいい小高い丘の上だった。 「う

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第57話

    ──『萌果のことを、紹介したい人がいるんだ』藍にそう言われ、電車に乗ってやって来たのはオフィス街にある高層ビルだった。「えっ。ここって……」ビルを見上げて、ぽかんとする私。「俺の所属する、芸能事務所があるビルだよ」「げ、芸能事務所!?」「うん。萌果ちゃんのこと、社長とマネジャーに紹介しようと思って」「ええ!?」思わず、素っ頓狂な声をあげてしまう。「しゃ、社長さんに紹介って!」そんなことを突然言われても、心の準備が……!「ごめんね。予告もなく、いきなり連れてきてしまって」「ううん」「萌果との交際は、しばらく社長たちには黙っておこうと思ってたんだけど……」藍が、ビルを見上げる。「今日萌果とデートして。俺は、改めて萌果のことが大好きで大切だって思ったから。隠れて付き合わず、ちゃんと報告したいと思ったんだ」藍……。そんなふうに言ってくれるなんて、嬉しいな。「私も、藍がお世話になってる社長さんたちにご挨拶したい」「ありがとう。それじゃあ、行こうか」私たちは、芸能事務所のオフィスへと向かった。**芸能事務所は、ビルの上階にあるらしい。乗り込んだエレベーターが上がっていくにつれ、私の緊張感もどんどん増していくようだった。「ここだよ。おはようございます」「お、おはようございます……」藍に続いて挨拶をし、おずおずと事務所に足を踏み入れる。うわあ、広い!大手だからかな?芸能事務所なんて初めて来たけど、現代的で清潔感のあるきれいなオフィスだ。応接室に通され、ソファに座って待機。しばらくして、50代くらいのダンディーな男性とメガネの美女が部屋に入ってきた。「社長、お疲れ様です」緊張で肩が上がるのを感じながら、藍に続いて私もソファから立ち上がる。「藍。今日は久しぶりの休みだというのに、どうした?」「お時間を頂いてすみません。今日は、社長に報告したいことがありまして」「報告?」社長の視線が藍から私に移り、肩が跳ねた。「藍、こちらの女性は?」「はい。この子は、俺の彼女です。俺は彼女……萌果と、少し前からお付き合いしています」「お付き合い……」社長さんの眉が、ピクリと動いた。「はっ、初めまして。藍の幼なじみの、梶間萌果といいます」私は、社長さんにペコッと頭を下げる。「そう。君が、藍の幼なじみの……とりあえず、ふたり

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第56話

    私がヒヤヒヤしていると。「ねぇ。あの男の子、すごいイケメンじゃない?」 「本当だ。モデルさんかな?」そんな声が聞こえてきて、とりあえずバレてなさそうだとホッとする。「ねえ、藍。今日はどこに行くの?」「着くまで、ナイショ」それからしばらく歩き続け、藍が連れてきてくれたのは映画館だった。「映画のチケットは、もう先に買ってあるんだ」「そうなの!?ありがとう」藍、用意がいいなぁ。「ちなみに、何の映画を観るの?」「これなんだけど……」藍が見せてくれたチケットに書かれたタイトルを見て、ハッとする。うそ。これ、前に私がテレビのCMで見て面白そうって話していた、少女漫画が原作の恋愛映画だ。「萌果ちゃん、この映画観たいって言ってたでしょう?」まさか、藍が覚えてくれていたなんて……。じんわりと、胸の奥のほうが温かくなった。それから、売店で飲み物とポップコーンを購入。「足元、気をつけて。俺たちの席は……ここだな」藍と一緒に劇場内の予約してくれた席へと向かうと、そこはカップル用のペアシートだった。寝転べそうなほど広いソファには、ふかふかのクッションとミニテーブルが置かれていて、簡易的な個室のようだ。ここは少し高い仕切りで仕切られているからか、他の観客も見えなくて。まるで、藍とふたりきりのような感じ。なるほど。映画が始まれば、辺りは暗くなるし。ここなら、芸能人の藍と一緒でも周りを気にせずに楽しめそう。私は、藍と並んでソファ席に座った。ていうかこの席……カップル用の席で肘掛けがないからか、隣との距離がかなり近い。藍と、肩が今にも触れ合いそう。そうこうしているうちに映画館の照明が落ち、映画が始まった。私は、ポップコーンを食べようと手を伸ばす。すると藍も同時に取ろうとしたらしく、指と指が触れてしまった。「あっ。ご、ごめ……っ!」私が触れた指を引っ込めようとすると、藍にその手を取られてしまった。藍は指先を1本1本絡め、恋人繋ぎをしてくる。「ちょ、ちょっと藍……手!」「しーっ」藍が繋いでいないほうの人差し指を自分の唇に当てると、続けて私の耳元に唇を寄せた。「上映中はお静かに」「っ!」藍に耳元で囁かれ、肩がピクっと揺れる。「今日待ち合わせ場所で会ったときから、本当はずっと萌果と手を繋ぎたかったんだ。でも、我慢してた」耳元に藍の唇が

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第55話

    藍と、両想いになってから1週間。 少し前に陣内くんによって掲示板に貼られた例の写真は、女嫌いの藍が雑誌で女性と撮影をすることになり、事前に抱き合う練習をしていた……ということで話が落ち着いた。 そして、今日は藍と付き合って初めてのデートの日。 ──『近いうちに、仕事で1日休みがもらえそうなんだけど……良かったら、ふたりでどこか出かけない?』 私たちが両想いになる少し前に藍が話していた、久しぶりの休日がついにやって来た。 いつも藍の家で、お互いの私服姿は何度も見ているけれど。 今日は彼と付き合って初めてのデートだと思ったら、どんな服を着ていけばいいのか分からなくなってしまって。 昨日はひとりで、随分と頭を悩ませたものだ。 「……変じゃないかな?」 家を出る直前、私は玄関の鏡の前に立った。 ミントカラーの花柄ワンピース。 胸の辺りまで伸ばしたストレートの黒髪を、今日は少し巻いて。 私の誕生日に橙子さんからプレゼントしてもらった化粧品セットを使って、メイクもしてみたんだけど……。 「あら。萌果ちゃん、出かけるの?」 私が鏡に映る自分とにらめっこしていると、燈子さんが声をかけてきた。 「あっ、はい。今からちょっと出かけます」 「そう〜。藍もさっき出て行ったけど。萌果ちゃんも、今日は可愛くオシャレしちゃって……もしかして、二人でデート?」 燈子さんに尋ねられ、私の肩がピクッと揺れる。 「ら、藍とデートだなんて!ち、違いますよっ!」 私は思わず否定。 「あらあら。萌果ちゃんったら、そんなに顔を赤くしちゃってぇ」 私を見て、ニヤニヤ顔の燈子さん。 実は藍と付き合い始めたことは、燈子さんにも私の親にも、誰にもまだ話していない。 近いうちに、お互いの親にはもちろん話すつもりでいるけど。 藍と二人で話して、久住家で同居している間は、変にイチャイチャし過ぎないように節度を守るためにも、しばらくは黙っておこうということになった。 「そのワンピース、萌果ちゃんによく似合ってるわ。楽しんできてね?」 「ありがとうございます。行ってきます」 燈子さんに微笑むと、私はパンプスを履いて家を出た。 ** 藍とは、近くの駅で待ち合わせをしている。 黒のジャケットに白Tシャツ、黒のスキニーパンツ。至ってシンプルな格好で、藍は壁に背を預

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第54話

    「萌果ちゃん?」藍と互いの肩がくっつきそうなくらいの位置まで、移動した私。思えば、藍は私に好きだと伝えてくれていたけれど。私は、その言葉にちゃんと答えられていなかった。私も、藍に好きだと伝えたい。だから……。「あのね。私、藍に大事な話があるの」︎︎︎︎︎︎「大事な話?」「うん……」これから藍に告白するとなると、一気に緊張が押し寄せてきた。バクバク、バクバク。「えっと、わ、私ね……」無意識に声が震えてしまう。だけど、ちゃんと伝えなくちゃ。かっこ悪くたって良いから。藍に、想いを伝えるんだ。一度深呼吸すると、私は藍の瞳を真っ直ぐ見つめる。「あの、私……藍のことが好き……!」なんとか言い切った私は、藍の顔を見るのが怖くて。すぐに目線を下にやった。人生初の告白は、これまで感じたことがないくらいにドキドキして。心臓が今にも破裂しそうだ……。だけど、告白したからにはちゃんと目を合わせなくちゃと、私は前を向いた。すると、信じられないといった様子で目を見張る藍が視界に入ってきた。「まじで?萌果ちゃんが……俺のことを好き?」「うん」「何それ。ドッキリとかじゃなくて?」「うん。私は藍のことが、弟でも幼なじみでもなく……ひとりの男の子として好きだよ」もう一度伝えると、藍は私をぎゅっと抱きしめた。「やべぇ。萌果が、俺のことを好きだなんて……!夢じゃないよね?」確かめるかのように、藍が私を更にきつく抱きしめる。「夢じゃないよ。ちゃんと現実だから」私も藍の背中に腕をまわし、抱きしめ返す。「それじゃあ……萌果はもう、俺のものだね」「え!?」藍にニコッと微笑まれたと思ったら、私は藍に唇を塞がれてしまった。「んっ……」唇同士が、繰り返し合わさる。柔らかく触れて、かすかに浮くと、また角度を変えて重ねられる。「まさか、萌果ちゃんと両想いになれる日が本当に来るなんて、思ってなかったから……すっげー嬉しい」藍が、キスの合間に想いを伝えてくれる。「俺、小学生の頃に萌果ちゃんに振られても、今日まで諦めなくて良かった」「うん」「大好きな萌果ちゃんと、両想いになれて……俺、今すごく幸せだよ」「私も。すっごく幸せ」藍からの甘いキスを受けながら、気持ちがいっぱいに満たされていく。好きな人と、想いが通じ合った今。たぶん、世界中の誰よりも自分

  • 芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています   第53話

    「反省してるのなら、盗撮した私たちの写真……消してくれる?スマホのゴミ箱にあるのも全部」 「ああ」 私が言うと、陣内くんは素直に私と藍の写真を全て消してくれた。 「梶間さんと久住は……小学生の頃からもずっと、仲が良かったもんな。俺なんかが、全く立ち入られないくらいに」 「そんなの当たり前だろ?俺と萌果は、幼なじみという特別な関係なんだから」 藍が、私を陣内くんから隠すように私の前に立つ。︎︎︎︎︎︎ 「梶間さんが引っ越して、久住が芸能人になってからも、まさか二人の関係は今も変わらず続いていたなんて……羨ましいな」 陣内くんの顔は笑っているけど、なんだか少し泣きそうにも見える。 「陣内、分かってると思うけど……萌果に、もう二度とこんなことするなよ?」 藍が、陣内くんに釘を刺す。 「もちろんしないよ。ふたりとも……秘密の関係頑張って?お幸せにね」 陣内くんは立ち上がると、ひらひらと私たちに手を振って、屋上から出ていった。︎︎︎︎︎︎ 「陣内のヤツ、本当に分かったのか?」 陣内くんが歩いて行ったほうを、藍が軽く睨む。 「たぶん、陣内くんはもう大丈夫だと思うよ」 陣内くんが『お幸せに』と言ったとき、今まで見たなかで一番優しい顔をしていたから。 それに藍が屋上に来る直前、陣内くんは涙を流す私を見て『ごめん』と先に一度謝ってくれていた。 私が陣内くんの想いに応えられなかったからといって、彼が私たちを盗撮して脅すという行動に出たのは、簡単に許せることではないけれど。 いつか陣内くんと、クラスメイトとして普通に接することができたら良いなって思う。 「陣内のことを、信じてあげられるなんて。ほんとすごいなぁ、萌果ちゃんは」 藍が両腕を広げて抱きしめてこようとしたので、私は慌てて藍から逃げた。 「えっ、萌果ちゃん?」 藍が、目を大きく見開く。 「ご、ごめん……ほら、あんなことがあったあとだから。外では、周りにもっと警戒しないと」 もちろん、それもあるけれど。逃げた一番の理由は、藍のことが好きだと自覚して、多少の照れくささもあったから。 「そうだよね。俺、軽率だったよね。ごめん」 しゅんとした様子の藍が私から少し距離をとって、コンクリートの上に腰をおろす。 「元はと言えば、こんなことになったのも俺のせいだし。数学の補習のとき、俺が萌果

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