로그인「ここが我が家だ」
雅さんと一緒に来たのは高級マンションの一室。 窓から見える夜景は絶景で見入ってしまう。隅々まで綺麗に掃除されており、整理整頓も完璧。 七瀬として生きていた時もそれなりには良い所に住んでいたのだけれど、あの男とは高級住宅街にある一軒家で共に暮らしていた。 こんな景色見たことがない。 「まずは部屋を案内しよう」 一室一室広い部屋を案内された後、まさかの一つ下の階の部屋にも案内された。 下の階の部屋はそこまで使う事はないとの事だけれど……。 「どうだ? 気に入ってもらえたか?」 「ええ、とても」 美桜さん、雅さんから凄く愛されていたんだな……。 ごめんなさい、美桜さん。貴方の身体を受け取ってしまって。 美桜さんは雅さんともっと一緒に暮らして幸せになりたかったと思う。それに辛い妊娠期間も舞桜に会いたいって気持ちで乗り越えてきたはずなのに舞桜には会えなかった。 そんな美桜さんから受け継いだ命。必ず雅さんと舞桜を幸せにしてあげないと。 それが私が美桜さんにできる唯一の事だから。 「しばらくは美桜の仕事は俺と舎弟の若集でするから美桜はゆっくり休んでくれ」 「私は何の仕事をしていたの?」 私は桔梗組では組の事務作業を手伝ったり料理を振舞っていたけれど南雲組での仕事はなんなのかしら。 同じ事だと新しく何も覚えなくて良いから楽なのだけれど……。 「仕事って言っても殆ど無いんだけどな。忙しい時期の事務作業を少し手伝ってもらったりしていたんだ。それと夜まで組事務所で事務作業をしている組員の夕飯を作ってもらっていたんだ」 「それくらいなら私にでもできそうね」 「その事は今は考えなくても良い。美桜は自分と舞桜の事だけを考えてくれれば良い」 そう言うと雅さんはキッチンに立ち「何が食べたい? なんでも言ってくれ」と私に聞いて来た。 雅さん、料理できるんだ。 「なら雅さんの得意料理が食べたいな」 舞桜をベビーベッドに寝かせながら答えると雅さんは慣れた手つきで料理を始めた。 雅さんが料理をしてくれている間、私はひたすら考えた。 どうやってあの二人に復讐をしようかと。 考えて考えて考えた。でもどれも最善策とは思えない。 もし何の考えも無しにあの二人を殺したら間違いなく全面戦争になる。 桔梗組と南雲組が全面戦争なんてしたら幾つの命が消えるか分からない。 そんな迷惑をかけるわけにはいかない。 そもそも女一人で慎吾を殺害するのは不可能に近い。 慎吾はプライベート時以外は常に二人の組員を側に置いている。もし慎吾を地獄に落とせても直ぐに私に待っているのは間違いなく死。 仮にプライベート時を狙ったとしても力の差はあまりにも大きい。 理想は私を殺したのがあの二人である事を証明して南雲組に罪はない事を証明しあの二人を地獄に送る事。 けれどあの男が証拠を残すとも思えないし私が七瀬の生まれ変わりであの二人に殺されたと説明しても誰も信じるはずがない。 やっぱり雅さんの力が必要……雅さんなら私の事信じてくれるかな。 「お待たせ」 そんな事を考えていると机の上に美味しそうなハンバーグに色とりどりのサラダが並べられた。 「産後の身体には緑色の濃い野菜が良いみたいだからな。しっかり食べろよ」 「とてもおいしそう! ありがとう雅さん」 手を合わせ感謝をしながらハンバーグを口へと運んだ。 「どうだ? 美味しいか」 「凄く美味しい! 雅さん料理上手なんだね」 「あはは、美桜の好みに変化は無いみたいで安心したよ」 まるで理想の夫婦ね。昔は慎吾もこんな感じだったのに……。 慎吾と結婚してからしばらくはこんな感じで夫婦円満の生活を送っていた。けれど徐々にダメな方向へと変わっていった。 私が夕食を準備して慎吾の帰りを待っていても連絡一つなく帰ってこない事なんて数えられない程。私も組の事は把握していたから組関連で忙しいとかではなかった。 思えばその頃から私じゃなくあの女と一緒に居たんだろう。 いや、当時の私も心のどこかでそう思っていた。けれど慎吾の事を信じてその可能性を考えない事にした。 「ねぇ、雅さん。聞いてほしい事があるの」 「聞いてほしい事?」 全ての真実は話さない。雅さんに話すのは事実を作り話の様に変えた出来事。 私は成瀬美桜本人として生きるから。 「あのね、私――」 雅さんに話をしようとすると舞桜が「ネェーネェー」と泣き始めてしまった。 「あ、お腹が空いたのね。ちょっと待ってね」 入院中に急いで子育ての事について調べたから舞桜の鳴き声で何を求めているのかはなんとなく分かる。 私は舞桜を抱き母乳を与える。すると舞桜はピタリと泣き止んだ。 仕方がない、雅さんに話すのはまた後でにしよう。 舞桜をお腹いっぱいにした後にゲップをさせて再び寝かしつけた。 舞桜を産んでしばらくは不安しかなかったし睡眠時間も少なくなったけれど、雅さんも組の人も私を全力でサポートしてくれるし、美桜さんの変わりにしっかりお母さんをしないとって思いが込み上げてくる。 何より舞桜の為って思えばどんなに辛いことだって耐えられる。 「それで? 話ってなんだ?」 「ううん。また後でゆっくり話すね」 「そうか。俺からも一つ美桜に伝えておかなければならない事があるんだ。しばらくの間は外出を控えてほしい。外出するとしても南雲組のシマだけにして必ずうちの組員二人以上と共に行動してくれ。必要な物とかは俺か組員に伝えれば用意する」 「……何かあったの?」 もしかしたら雅さんから話をしてくれるかもしれない。 そう期待したけれど雅さんからは「ちょっとな」とはぐらかされてしまった。 「危険な事なの?」 「……安心しろ、俺なら大丈夫だ」 「…………雅さん、やっぱり今私の話しを聞いてほしい」ソファーに座りながらスマホに表示された現在時刻を何度も何度も確認している。 二人の話し合いの約束時間は残り二分。 耳につけられたイヤフォンからはまだ何も聞こえない。会場についてから連絡をくれるみたい。 「姐さん、コーヒーでも飲んで少し気を落ち着かせてください。頭なら大丈夫ですから。それに今回は話し合いですから」 そう言って組員の一人が私の前にコーヒーカップを置いてくれた。「ありがとう」 確かに少し落ち着かないといけないわね。 でもそう思っても落ち着かない。 だって躊躇いなく私の事を撃ち殺した相手と一緒になるんだから。そんな人が何をするかなんて想像できない。「ッ⁉」 コーヒーを一口飲むと同時に耳音で雑音が聞こえた。『姐さん、聞こえますか。まだ車内なので声を出していただいて大丈夫です』「ええ、聞こえます」『よかった。これから車を降りるので姐さん側はミュート状態にしてください』「分かったわ、今からミュートにする」 ミュートボタンを押すと『では頭、行きましょう』という声が聞こえた。 それから二人は一言も会話をせずに歩く音だけが聞こえてくる。 そして――。「時間ぴったりだ。久しぶりだな雅」 心臓を貫くような感覚に襲われる低い声。 間違いなく慎吾の声だ。「世間話をするつもりはないだろ? 早速本題に入ろう。今回の件に関しては我々も心を痛めている。本職の人間以外を狙うのは完全なる仁義外れの行動だ。そしてこれだけは言える。今回の件に南雲組は一切関与していないと」「じゃあ証拠はあるのか? 今現在犯
静まり返ったリビングに、テーブルの上へ置かれた雅さんのスマートフォンの着信音が鳴り響いた。 突然の音に舞桜が少しだけ身じろぎをしたため、私は慌ててベビーベッドを優しく揺らした。「よしよし……大丈夫だよ」 舞桜は再び静かな寝息を立て始める。 その一方で、スマホを手に取った雅さんの表情は一瞬で引き締まっていた。 画面に表示された名前を見た瞬間、私は嫌な予感がした。「……親父だ」 雅さんは私に一言だけ告げると、そのまま電話へ出た。「俺です」 電話口から聞こえてくる声は私には聞こえない。 それでも雅さんの表情だけで、良い話ではないことは十分伝わってきた。「……そうですか」 数秒の沈黙。「分かりました」 雅さんは短く返事をすると電話を切り、スマホをゆっくりと机へ置いた。 そのまま数秒間、雅さんは何も言わない。「……雅さん?」 恐る恐る声を掛けると、雅さんは私を見つめながら口を開いた。「桔梗組から連絡が来たらしい」 胸が大きく跳ねた。「俺宛てにな」 やっぱり……慎吾が動いた。「内容は?」「話し合いだ」 雅さんはソファへ腰を下ろした。「皐月七瀬の件について、若頭同士で直接話がしたいそうだ」 私は思わず息を呑む。 慎吾が自分から話し合いを持ち掛けるなんて。 けれど、よく考えてみたら当然かもしれない。 自分が犯人だからこそ相手の反応を直接確かめたい。 そして南雲組へ揺さぶりを掛けたいのだろう。「場所は?」「港区にある料亭『紫苑亭』どこの組にも属していない中立の場所だ」 なるほど。 互いの組事務所では警戒される。 だからこそ第三者が管理する場所を指定したのね。「日時は?」「明日の午後二時」 思ったよりもずっと早い。「断ることはできないの?」 私が尋ねると、雅さんは静かに首を横へ振った。「できない」「どうして?」「これは正式な申し入れだからだ」 雅さんは真剣な表情で説明を続ける。「極道には暗黙の了解がある。正式な話し合いの場を設けると言われた以上、正当な理由なく断れば『南雲組は後ろめたいことがある』と他の組から見られる。」「……」「そうなれば桔梗組は俺達南雲組がやったに間違いないと思うだろう」 つまり断ること自体が相手の思う壺。「逆に向こうも話し合いの場では手を出せない。」「どうして?」
私が話しだそうとすると「長くなりそうか?」と聞かれ無言で頷くと「まずは料理を食べてからにしよう」と言われ、雅さんに作ってもらった料理を平らげた後二人でソファに腰を掛けた。「それで? 話ってなんだ?」 優しい声色で聞かれ、私は少し間を開けて口を開いた。「私舞桜を産むときに意識を失ったでしょ? その時に変な夢? のようなものを見たの」 私の言葉に雅は表情を変えず「どんな夢なんだ?」と返した。「場所は分からない。薄暗くて気味の悪い場所に私……いえ、知らない女の人が手足を縛られながら血を流していたの」「知らない女……」「その女の人の前に一人の女と男が立ってて、手にはナイフと銃を持ってたの。それが凄く不気味で、今まで誰にも話せなかったんだけど私の記憶喪失とかに関係あるのかなってちょっと思っちゃって」 それっぽい事を話しながら雅さんになんとか話を続ける。「その女性とか男性に見覚えはないのか? 特徴とか、もしかしたら美桜の知っている人かもしれない」「男の人は身長が高くてフードを被っていたから顔はあまり覚えていないの。もう一人の女の人は首元に黒子があった気がする……」「……首元に黒子のある女性……分からないな」 雅さんはしばらく考えてくれたけれど私の周りに一人も首元に黒子のある女性は居ないみたい。 つまりあの女は南雲組とは深く関係のない。桔梗組に居た時もあの女は一目も見たことがない。 けれどあの女、人の死に慣れている……いや、裏社会に慣れている感じがする。 普通チャカやドスを握ると少しは躊躇いが生まれるけれど、あの女は躊躇なく私にドスを当て、銃の引き金に指をかけていた。 どう考えても堅気の人じゃない。 そうなると別の組に関係する女……。「それで、縛られていた女性に関しては特徴はないのか?」「えーっと……」 どうしよう。素直に皐月七瀬と言われていたと言うべきなのかな。 でもここで遠回しに特徴だけを言っても中々前に進まないと思う。 それに何よりも長引かせてしまったら雅さんの身に危険が起きるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。舞桜の為にも……。「確か……七瀬って、皐月七瀬って呼ばれていたはず……」「ッ⁉ 今何て言った⁉」 私がそう言うと雅さんは初めて表情を変えて私の肩を掴み慌てて聞き返してきた。「女の人が縛られている女の人にナイフ
「ここが我が家だ」 雅さんと一緒に来たのは高級マンションの一室。 窓から見える夜景は絶景で見入ってしまう。隅々まで綺麗に掃除されており、整理整頓も完璧。七瀬として生きていた時もそれなりには良い所に住んでいたのだけれど、あの男とは高級住宅街にある一軒家で共に暮らしていた。 こんな景色見たことがない。「まずは部屋を案内しよう」 一室一室広い部屋を案内された後、まさかの一つ下の階の部屋にも案内された。 下の階の部屋はそこまで使う事はないとの事だけれど……。「どうだ? 気に入ってもらえたか?」「ええ、とても」 美桜さん、雅さんから凄く愛されていたんだな……。 ごめんなさい、美桜さん。貴方の身体を受け取ってしまって。 美桜さんは雅さんともっと一緒に暮らして幸せになりたかったと思う。それに辛い妊娠期間も舞桜に会いたいって気持ちで乗り越えてきたはずなのに舞桜には会えなかった。 そんな美桜さんから受け継いだ命。必ず雅さんと舞桜を幸せにしてあげないと。 それが私が美桜さんにできる唯一の事だから。「しばらくは美桜の仕事は俺と舎弟の若集でするから美桜はゆっくり休んでくれ」「私は何の仕事をしていたの?」 私は桔梗組では組の事務作業を手伝ったり料理を振舞っていたけれど南雲組での仕事はなんなのかしら。 同じ事だと新しく何も覚えなくて良いから楽なのだけれど……。「仕事って言っても殆ど無いんだけどな。忙しい時期の事務作業を少し手伝ってもらったりしていたんだ。それと夜まで組事務所で事務作業をしている組員の夕飯を作ってもらっていたんだ」「それくらいなら私にでもできそうね」「その事は今は考えなくても良い。美桜は自分と舞桜の事だけを考えてくれれば良い」 そう言うと雅さんはキッチンに立ち「何が食べたい? なんでも言ってくれ」と私に聞いて来た。 雅さん、料理できるんだ。「なら雅さんの得意料理が食べたいな」 舞桜をベビーベッドに寝かせながら答えると雅さんは慣れた手つきで料理を始めた。 雅さんが料理をしてくれている間、私はひたすら考えた。 どうやってあの二人に復讐をしようかと。 考えて考えて考えた。でもどれも最善策とは思えない。 もし何の考えも無しにあの二人を殺したら間違いなく全面戦争になる。 桔梗組と南雲組が全面戦争なんてしたら幾つの命が消えるか分か
「お疲れ様です成瀬の頭、姐さん」 舞桜を産んで五日後。退院した私達を待っていたのは黒塗りの高級車二台と私達に頭を下げる四人の男性。その内の一人が後部座席のドアを開け「どうぞこちらへ」と私達を案内した。「真辺、分かっているよな? 舞桜と美桜が乗っている」「はい、勿論です」 そう言い真辺という男性は車を出した。「しばらく組に顔を出さずに悪かったな。組は大丈夫か?」「それが……」「何かあったのか?」「どうやら大事の様で未だ一部の幹部陣の兄貴にしか話されていないらしく、頭には親父が詳しく話すそうです」 雅さんは「そうか」とだけ返して舞桜の頭を優しく撫でる。 大事な事。それも幹部の一部にしか知らされない程の事。 まさか私の死について? 私が死んでから一週間……一週間も死体が放置されているとは思いたくはない。「真辺、組の者全員にこう伝えろ。親父の次に守るべき対象は俺ではなく舞桜と美桜だと」「はい。組に付き次第直ぐに知らせます」 しばらく車に揺られ、組に着くと数十人の組員の人が私達を迎えた。「お疲れ様です頭に姐さん。組長室で親父がお待ちです」 そう言う男性に私は見覚えがあった。 この人は確か南雲組の若頭補佐の月城仁志だったはず。 頭も良く喧嘩も強いと桔梗組で良く話を聞いていた。「俺がいない間色々ありがとな月城」「いえ、俺にできる事なら何でもします」「ほら、娘の舞桜だ。後で顔でも見てくれ」 私達は部屋の奥に進み組長室と思われる部屋の前で止まった。「ここが親父の部屋だ。美桜に記憶がない事は俺から話すから大丈夫だ。それに親父は凄く優しくてな」 そう言って雅さんは部屋をノックしてドアを開けた。「失礼します親父」「おお、雅久しぶりだな。美桜さんも大変だっただろう。ご苦労だった」 そして南雲組組長の|南雲
「今日で退院か」 朝の柔らかな日差しが病室へ差し込む。 私は眠っている舞桜を抱きながら小さく息を吐いた。 たった五日しか経っていないのに、ずっと前のことのように感じる。 死んだこと。 目覚めたら妊婦だったこと。 出産して母親になったこと。 何もかもが一気に起きすぎて頭も心も全然追いついていない。「どうした?」 荷物をまとめていた雅さんがこちらを見る。「いえ……」 私は舞桜を見つめた。「私本当にお母さんになったんだなって」 雅さんが小さく笑った。「今更だな」「だって実感がないんです」 私がそう言うと、雅さんは荷物を置いてこちらへ歩いてきた。 そして舞桜の顔を覗き込む。「俺もだ」「え?」「俺もまだ父親になった実感はない」 雅さんは苦笑する。「ただ……」 そう言って舞桜の小さな手に自分の指を近付ける。 すると。 きゅっ。 舞桜が雅さんの指を握った。「……」「……」 二人とも思わず固まった。 数秒後。 ふっ。 雅さんが優しく笑った。「こういうことされると実感が湧くな」 その顔を見て、私は目を見開いた。 初めて見る顔だった。 組の若頭の顔じゃない。 一人の父親の顔。 穏やかで、優しくて、どこか嬉しそうな顔。「……そんな顔するんですね」「何だそれは」「いえ」 私は小さく笑う。「何か新鮮で」 すると雅さんが私を見る。「美桜もだ」「私も?」「ああ」「私、何か変ですか?」「変じゃない」 雅は少し考える。「よく舞桜を見て笑うようになったな」 私はきょとんとした。「そうですか?」「ああ」「前の私は違ったんですか?」「舞桜を産んだ後は不安そうな表情ばかりだったからな。今の美桜は幸せそうに笑う」 私は言葉を失った。 幸せそう。 私は今、そんな顔をしているんだ。 前世ではどうだっただろう。 慎吾と一緒にいて、本当に笑えていただろうか。 思い出そうとしても、出てくるのは無理をしていた自分ばかりだ。 嫌われないように。 迷惑を掛けないように。 妻として失格だと思われないように。 私はずっと慎吾の顔色を窺っていた。 でも今は。 少なくとも舞桜を見ている時だけは違う。「……私、幸せそうですか?」「ああ」 雅さんは迷いなく答えた。「そっか……」 私は舞桜を見
「…………んっ」 あれ、私……うっ、身体中が痛い……。 そうだ、私慎吾に銃で撃たれて…………。 「あ、美桜さん目覚ましました」 「良かった……よく頑張ったな美桜」 ッ⁉ 違う! 私さっき子供を! 目を覚まし横を振り返ると私を見つめる男が居た。 「な、成瀬雅……よね?」 「そうだ! お前の夫の成瀬雅だ。大丈夫か美桜」 「なんで……私死んだはずじゃ……」 一体どういうことなの。どう見ても私の身体じゃない。爪もこんなに長くないしそもそも私は妊娠なんてしていない。 何より私の名前は美桜じゃないし成瀬雅の妻でもない。 生まれ変わり……まさか、そんな馬鹿な事があるの
「んっ……」 眩しい光が瞼を刺した。 耳元では慌ただしい声が飛び交っている。 「意識戻りました!」 「美桜さん! しっかりしてください!」 美桜……? 誰のこと? 重たい瞼を開けると、白い天井が視界いっぱいに広がった。 病院……? 鼻をくすぐる消毒液の匂い。 周囲にはナース服を着た女性達。 状況が理解できない。 その瞬間だった。 「いっ……たぁぁぁぁぁ!!」 お腹の底から突き上げるような激痛が全身を貫いた。 思わず悲鳴が漏れる。 「痛い!! な、何これ!?」 お腹が張り裂けそう。 腰は砕けそうなほど痛い。頭痛も激しい。 下半
汚れた部屋。手足を縛られ身動きの取れない私の目の前には一人の女と男が立っている。男は深くフードを被っており顔は確認できないが手には真っ黒なチャカが握られている。 私の服は自身の血で汚れ、頭から流れる血で視界はどんどん悪くなる。 冷え切った身体と鼻孔を刺激する血の匂いが死へのカウントダウンが刻一刻と迫っているのを実感させる。 「はぁ、はぁ……貴方達私が誰か分かっているの!?」 散々殴られ、蹴られた私は残り少ない体力を使い二人に吠えた。 私の問いに二人は不敵に笑った。 「痛ッ!?」 「貴方が誰かって? 桔梗組若頭、皐月慎吾の妻……皐月|七