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第15話(26)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2026-02-05 08:00:29

 神事に使うというだけあって、テーブルに並べられた漆器は、どれも華美な細工は施されてはいないが、だからこそ漆の塗りの美しさが際立っている。

 和彦は、手にした紙に書かれている漆器の種類と、テーブルに並んでいる現物を一つ一つ確認すると、さっそく梱包に取り掛かってもらう。そして次に、正月用の#屠蘇__とそ__#飾りを選び、特注だという祝箸の箸袋の数を確認する。

 大勢の人間が集まるというだけでなく、ヤクザの組長の本宅での年末年始ともなると儀式めいた行事もあるらしく、事前の準備だけでも大変だ。

 長嶺組に長年仕えている組員たちが動いてはいるのだが、そこになぜか、和彦も加えられている。ヤクザのしきたりなど知らないと訴えてはみても、誰も聞く耳を持たない。そのため雑事のいくつかは、和彦の裁量で進めている。

 賢吾から、『クリスマスが終わったら、うちの組の忙しさにつき合ってもらう』と言われてはいたが、まさに、その通りになっている。遠慮なく、和彦は使われていた。

 年末らしく
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    ** 守光と向き合ってお茶を飲むのは、ひどく落ち着かない気分だった。居たたまれない、といってもいいかもしれない。 静かな表情でお茶を味わっている守光をまともに見ることができず、つい隣の部屋へと視線を向ける。すでに二組の布団がきちんと敷いてあった。その様子を見て、つい数十分ほど前までの自分の痴態が蘇る。 一人で動揺する和彦とは対照的に、守光はあくまで何事もなかったように泰然としている。 守光はさきほどの淫らな行為で、相手が自分であると隠そうとはしていなかった。和彦は確かに目隠しをして、何も見られない状態ではあったが、ほとんど意味をなさないものになっていた。守光なりの、もう目隠しを取ってもいいというサインだったのかもしれない。 必要なのは、和彦の覚悟次第ということか。「――今日は疲れただろう」 守光の言葉に、和彦はピクリと肩を揺らす。『おもしろい話』をいつ切り出されるかと、身構えてしまうのだ。「少し……。遠出は久しぶりなので」「まあ、あんたの場合、気疲れといったところだな。わしと一緒にいることに、多少は慣れてきているようだが、それでもまだ肩に力が入っている」「……すみません」「謝るようなことじゃない。――そのうち、嫌でも慣れる。わしとこうして茶を飲むことも、総和会の人間に囲まれていることにも」 どういう意味かと尋ねようとしたが、そのときには守光は立ち上がっていた。「そろそろ布団に入ろう。横になっても話はできる」 和彦は頷き、部屋の電気を消してから守光の隣の布団に入る。 変な感じだった。布団の中で身を硬くしながら、隣にいるのは一体誰なのだろうかと考えてしまう。もちろん、長嶺守光という名で、総和会会長という肩書きを持つ人間だということは知っている。しかし、こうして隣り合って寝ている自分との関係は、よくわからない。 いや、あえて曖昧にしているのだ。だから目隠しという、布一枚分の理屈を必要としていた。 和彦はそっと寝返りを打ち、守光のほうを向く。枕元のライトをつけるまで

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