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第17話(7)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-02-22 08:00:17

「先生は大したものだ。骨抜きにされた男がみんな、金では買えないものを先生に差し出してくる」

「ぼくはズルイ人間だと自覚はあるが、誰かに、何かを差し出せと命令したことはない」

「男が自分の意思で差し出すから、性質が悪いんだ」

 ベッドに座り直し、体の向きを変えた賢吾が、和彦の体を覆っていた毛布を剥ぐ。三田村に愛されたばかりの体を晒してしまい、さすがに羞恥で身じろいだが、そんな和彦の体を愛でるように、賢吾は目を細めて見下ろす。

「千尋は、若い情熱とひたむきさを。結果として、長嶺組と先生を繋ぐ役割を果たした。三田村は、安らぎを。先生が俺のオンナである限り、あの男は命をかけて組と俺に忠誠を尽くす。鷹津は、刑事という肩書きを。先生のために働きながら、その先生のバックにいる長嶺組に、使える情報を運んでくる。本人は不本意だろうがな」

 話しながら賢吾の手が、まだ汗ばんでいる和彦の体を這い回る。三田村に愛されたばかりの体を、そうやって検分しているのだ。促されるまま両足を立てて開くと、内腿に残る愛撫の痕跡にまで指先が這わされ、和彦は体を強張らせる。
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  • 血と束縛と   第25話(22)

     忘れてならないのは、同じ店で和彦は、秦に薬を飲まされて淫らな行為に及ばれたことがある。あの頃はまだ秦の正体も知らず、律儀に敬語を使って話していたのだ。 それが今では――。 自分の痴態も含めていろいろと脳裏に蘇り、危うく体温が上がりそうになった和彦は、慌てて頭から追い払う。『予定では一か月ほど店を閉めることになるので、昨夜はお客様たちを招いて、派手に騒いだんです。そして今夜は、わたしも経営者という肩書きを忘れて、先生と楽しく飲みたいと思いまして』「……今回も、中嶋くんは?」 和彦の問いかけをどう受け止めたのか、電話の向こうから微かに秦の笑い声が聞こえてくる。『残念ながら、中嶋は今夜は仕事だそうです。――大丈夫。中嶋がいないからといって、先生に変なことはしませんよ』「そんなことは心配していないっ」『でしたら、おつき合いいただけますか?』 秦は、和彦が断るとは思っていない口ぶりだった。和彦の機嫌が悪いと聞かされながら、あえて電話をかけてきたぐらいだ。やはり賢吾から、気分転換させてやれとでも言われているのかもしれない。「――つき合ってもいい」 そう和彦が答えると、また電話の向こうから、秦の笑い声が聞こえてきた。『料理や酒を準備しておきますから、いつでもいらしてください。あっ、護衛の方の分も用意しておきますよ。中嶋が一緒じゃないので、護衛をつけないと夜遊びはできないでしょう、先生は』 気が利くなと呟いて、電話を切る。和彦は携帯電話を握ったまま、すぐには動き出さず、ぼんやりとしてしまう。 秦の優しい口調で問われると、言わなくていいことまで話してしまいそうで、隠し事をしているときに会うには、意外に厄介な相手だ。やはり断ればよかっただろうかと、ちらりと頭の片隅で考える。 しかし、秦はどこまでも気が利いていた。握っていた携帯電話が再び鳴り、和彦は反射的に電話に出る。今度は、いつも護衛を務めている組員からだった。 すぐに出発しますかと問われ、力なく笑ってしまう。「三十分後に迎えに来てくれ」 そう答えて電話を切ると、今度こそ立ち上がった。

  • 血と束縛と   第25話(21)

     もう二度と、あんな怖い目には遭いたくなかった。本来であれば、たった一度であろうが和彦が遭遇するはずのない事態だったのだ。 なんといっても和彦は、長嶺の男たちの〈オンナ〉だ。 その、長嶺の男たちに何も告げていないのには、理由がある。特に、賢吾には打ち明けたくなかった。 賢吾に隠し事はしないと心に決めたが、今回はいままでとは状況が違う。これまでの隠し事は、いわば保身ゆえの行動だったのに対し、和彦と南郷の間で起きた出来事は、一度公になれば、個人ではなく、長嶺組と総和会という組織の問題となる危険を孕んでいる。 男たちは事を荒立てない方法をいくらでも知っているだろうが、和彦の脳裏に浮かぶのは、花見会での賢吾と南郷が顔を合わせたときの光景だった。 あの場にいた者ならば――和彦以外の人間でも、どんな小さな諍いの火種も、この二人の間に作ってはいけないと感じるはずだ。 当人たちが何よりそれを知っているはずなのに、南郷は行動を起こしたのだ。よりにもよって、守光と同じ手段を使って。 南郷は、裏の世界での和彦という存在をよく把握している。抗えない力に対して逆らわず、巧く身を委ねるという気質も含めて。だからあえて、和彦を拘束することも、暴力を振るうこともなく、易々と動きを封じ込めたのだ。 和彦は激怒しているが、その感情は南郷だけではなく、自分自身にも向いていた。同時に、羞恥し、困惑もしている。 南郷の行為に、〈オンナ〉とはこうやって扱っていいものだと、現実を見せつけられた気がした。「――佐伯先生」 組員に呼ばれて顔を上げる。車が雑居ビルの前にちょうど停まるところだった。 和彦は促された外に出ると、やや緊張しながら、組員がドアを開けてくれた後部座席を覗き込む。そこには、誰も乗っていなかった。 こんなことでビクビクしている自分に忌々しさを覚えながら、何事もなかった顔をして和彦は車に乗り込む。すぐにドアは閉められ、速やかに車は走り出した。**** 目を通していたファイルを閉じて、何げなく時間を確認する。驚いたことに、もう夕方と呼べる時間だった。 

  • 血と束縛と   第25話(20)

    **** 男の腹部を慎重に押さえ、不自然な張りがないことを確認した和彦は、次に、手術の傷を覆っている大きなガーゼを剥がす。腸閉塞という事態には見舞われたものの、傷口は化膿しなかったようだ。 この調子なら、もう何日かすれば抜糸ができるだろうと思いながら、消毒をして、新しいガーゼを貼る。「手術の経過は問題なし。それと腸閉塞のほうも、便が出たと報告を受けたので、ひとまず安心はしていいだろう」 大人用のオムツをつけた患者の男は、やれやれ、という表情となる。内心では、和彦も同じ気持ちだ。 このとき、治療した側・された側と、まったく違う立場でありながら、同じ気持ちを共有したであろう二人の目が合う。 総和会に匿われる身で、暴漢に襲われて重傷を負うという凄まじい経験をした男は、いかつい顔に似合わない、妙に愛嬌のある笑みを浮かべ、軽く頭を上下に動かす。喉が渇ききって声が出せないなりに、和彦に対して感謝の気持ちを示したらしい。「……まだ油断はできない。手術のためにけっこう腹の中を弄ったから、またどんな影響が出るかわからないんだ。もう何事も起こらないかもしれないし、再発するかもしれない。なんにしても、腹の傷が完全に塞がるまでは様子見だ」 男に対してだけ説明しているわけではなく、ベッドの傍らに立つ監視役の組員にも聞かせているのだ。 和彦は輸液の確認をしてから、必要事項をメモ用紙に書き込む。「明日から、水分を口からとることにしよう。ただし一日で採れるのは、カップ一杯――の半分だけ。あくまで口を湿らせる程度に。引き続き、尿と便の様子を観察してほしい。何かあれば、連絡を」 淡々と告げてメモ用紙を一枚破ると、素っ気なく組員に押し付ける。和彦の態度に驚いたように目を丸くしたが、頭を下げて受け取った。「お疲れ様でした。車を呼びますから、コーヒーでも飲んでお待ちください」「――もし、呼んだ車の後部座席に誰か乗っていたら、タクシーで帰るからな」 和彦は、冷然とした眼差しを組員に向ける。普段であれば、こんな眼差しを他人に向けることはないのだが、この場所にいて

  • 血と束縛と   第25話(19)

     内奥で円を描くように、大胆に指が動く。頑なだった肉は緩み、擦り込まれる唾液によって潤む。おそらく、いやらしく真っ赤に熟れてもいるだろう。そして侵入者は、そういった反応をすべて観察しているはずだ。「んっ……くぅっ」 肉を掻き分けるようにして、指が内奥に付け根まで収まる。その状態で欲望を擦り上げられると、和彦は呆気なく絶頂を迎え、自らが放った精で下腹部を濡らす。 激しく息を喘がせている間も、侵入者は容赦なく内奥を指で攻め、微かに湿った音がするほど蕩けさせてしまう。しかしふいに、指が引き抜かれた。 和彦の耳は、自分の乱れた呼吸音だけではなく、ファスナーを下ろす音も捉えていた。ビクリと体を震わせて起き上がろうとしたが、布越しに、侵入者の顔が近づいてきたのが見えると、それだけで動けなくなる。この状況で相手の顔を見た途端、暴力を振るわれて犯されると、確信めいたものがあった。 奇妙なことだが、顔が見えないからこそ和彦と侵入者の間には、歯止めのようなものが生まれているのだ。 布越しに何度目かの口づけを与えられる。片足を抱え上げられて、蕩けてひくつく内奥の入り口に、圧倒的重量を感じさせる熱い塊を押し付けられ、擦りつけられる。和彦は小刻みに体を震わせて、小さく呟いた。「――……嫌、だ……」 和彦の唇に、荒い息遣いが触れる。もしかすると、侵入者は笑ったのかもしれない。 侵入者は、和彦を犯しはしなかった。その代わりに屈辱と羞恥を与えることにしたのか、和彦の片手を取り、逞しい欲望を握らせた。 知らない男の欲望だった。手を取られ、扱くことを強要されながら、和彦は喘ぐ。被虐的な気持ちに陥りながら、倒錯した性的興奮を覚えていたのかもしれないし、熱を帯びる布越しの口づけに感じていたのかもしれない。 てのひらで感じる侵入者の欲望は、ふてぶてしく育ち、力強く脈打っている。 こんなものが自分の中に打ち込まれたら――。そう想像したとき、体の内を駆け抜けたのは、恐怖なのかおぞましさのか、和彦自身にも判断しかねた。あるいは、別の〈何か〉なのかも。 和彦が小さく身震いを

  • 血と束縛と   第25話(18)

     なぜこんなことを、と頭が混乱していた。それ以上に和彦を混乱させるのは、侵入者がなぜ、守光の取った方法を知っているのかということだった。眠っている和彦の元に忍び寄り、布で視界を覆うと、言葉を発することなく体をまさぐる。当然、和彦が抵抗できないことを知ったうえで。 患者の容態の急変は偶発的なものだが、今、和彦の身に起こっていることは、あまりにできすぎている。まるで事前に打ち合わせをしていたかのように。 熱い舌にベロリと胸の突起を舐め上げられ、小さく声を洩らした和彦は反射的に、侵入者の肩を押しのけようとする。大柄な体つきであることが容易に想像できる、逞しい肩だった。 和彦のささやかな抵抗を嘲笑うように、露骨に濡れた音を立てて胸の突起を吸われ、しゃぶられる。あっという間に熱をもった突起は、荒々しい愛撫になすすべもなく敏感に尖り、和彦にとって馴染みすぎている感覚を生み出してしまう。 両膝を掴まれて左右に大きく開かれ、腰を割り込まされる。侵入者がどういう意図で和彦に触れているか知らしめるように、硬いものを両足の間に押しつけられた。布越しとはいえ、はっきりと欲望の形を感じ取り、和彦は激しく動揺する。「や、め――」 上げかけた声は、再び唇を塞がれて抑え込まれる。唇と唇の間にある布のおかげで、相手の舌が口腔に侵入してくることはないが、唇をなぞる舌の動きは伝わってくる。あからさまに和彦を威嚇していた。 再び欲望を掴まれて扱かれながら、もう片方の胸の突起を口腔に含まれる。感じやすい先端を指の腹で擦られて腰を跳ねさせると、胸の突起をきつく吸い上げられてから、舌先で転がされる。 粗野で荒っぽい愛撫を執拗に与えられ、最初は頑なに体を強張らせていた和彦だが、侵入者の手が柔らかな膨らみにかかったところで、弱さを見せてしまう。「ひっ……」 潰されるかもしれない恐怖と、何度味わっても慣れない強烈な感覚への期待に、心が揺れていた。その瞬間を相手は見逃さなかった。 上体を起こした侵入者に片足をしっかりと抱え上げられ、大きな手に柔らかな膨らみを包み込まれる。「ううっ」 思いがけず巧みに指が蠢く。柔らかな膨らみを揉みしだ

  • 血と束縛と   第25話(17)

     せめて、賢吾にメールを送っておこうと思いはするものの、体がもう動かない。ふっと和彦の意識は遠のく。 普段であれば、このまま深い眠りについてしまうはずなのだが、意識の一部はひどく研ぎ澄まされている。慣れない場所で一人ということもあり、絶えず辺りの様子をうかがっているのだ。 総和会の男たちが同じ階に控えていて、何か起こるはずもないのに――。 自分が起きているのか眠っているのかわからない状態に陥り、浸っていると、前触れもなく異変は起こった。 マットの傍らに誰かが立っている気配を感じたのだ。 本能的な怯えから和彦は体を強張らせる。次にどんな行動を取るか、ほんの数瞬の間に考えて実行に移そうとしたが、その前に動けなくなった。顔全体にふわりと柔らかな感触が触れたからだ。それが薄い布の感触だとわかったとき、和彦の中で蘇ったのは、守光宅の客間での出来事だった。 驚きと戸惑いによって和彦が動けないのをいいことに、侵入者はいきなり大胆な行動に出る。マットの上に上がり、和彦の体にかかった毛布を剥ぎ取ったのだ。 急速に恐怖に支配され、顔にかかった布を外そうとしたが、すかさず片手で手首を掴まれてマットに押さえつけられる。大きくて力強い男の手だった。和彦の手首を折るぐらい簡単にできそうだ。言葉も発さない相手の意図を察し、和彦はささやかな抵抗すらできなくなる。 トレーナーの下に分厚く硬い手が入り込み、肌をまさぐられる。生理的な反応から鳥肌が立つが、相手は意に介さず、トレーナーをたくし上げて、無遠慮に撫で回してくる。手つきも、手の感触すらもまったく違うというのに、和彦の存在を探るかのように触れてきた守光のことが、頭から離れない。 手つきの荒々しさとは裏腹に、男は時間をかけて和彦の体に触れてきた。そして興味をひかれたように、胸の突起を特に念入りに弄り始める。 てのひらで捏ねるように転がされ、自分ではどうしようもできない反応として硬く凝ると、指の腹で押し潰され、再び反応を促すように乱暴に摘み上げられて、引っ張られる。痛みに小さく呻いた和彦は、ここでようやく、頑なに閉じたままだった目を開けた。 薄い布を通した電気の光に、一瞬目が眩む。だがすぐに、自分の上に馬乗りになっ

  • 血と束縛と   第16話(23)

    「そんな顔するな。別に怒ってないし、息抜きに連れてきてくれて感謝しているんだ。ぼくならここで、コーヒーを飲みながらのんびり待っているから、気にせず自分の仕事をしてこい」 ほっとしたような表情を浮かべた千尋だが、次の瞬間には、こんな可愛げのないことを言った。「……なんか、先生を一人残しておくと、悪い男に連れ去られそうで心配だなー」「余計なことを言わずに、さっさと行け」 犬を追い払うように手を振ると、千尋は何度も振り返りながらティーラウンジを出ていく。ロビーで待機していた三人の組員を連れて姿が見えなくなると、和彦は慎

    last updateLast Updated : 2026-04-01
  • 血と束縛と   第16話(4)

    ** 元日から、なんとも気が重くなるような仕事だった。 和彦の本来の仕事は美容外科医で、患者のコンプレックスを取り除き、幸せになる手助けをするのが仕事だ。普段は、こういった理想や理念を意識することはなく、患者の望みに近づけるよう努めるだけだ。 しかし長嶺組の専属医となってから、和彦はいくつかの不本意な手術を手がけていた。 初詣をした神社の駐車場で賢吾と別れ、組員が運転する車で向かったのは、『池田クリニック』だ。さすがに元日だけあってビル全体に人気はなく、こんな日に慌しく動いているのは、後ろ暗いところがあるヤクザと、そのヤ

    last updateLast Updated : 2026-04-01
  • 血と束縛と   第16話(9)

     薄い笑みを浮かべた秦が、自分の口元を指さす。ああ、と声を洩らした和彦は、顔をしかめる。「君に避けられ続けて、少し落ち込んでいるようだったぞ、中嶋くん。ぼくとしては、困惑する彼の姿を想像して、君は楽しんでいるんじゃないかと思っているんだが――」「残念ながら、本当に忙しかったんです。しかし中嶋は、先生に対しては素直なんですね。少し妬けますよ」「……自分の素性を明かしもしないくせに、相手の心の内は知りたいなんて、ずいぶん都合がいいな。それだけで愛想をつかされても、仕方ないぞ」「手厳しい」「ぼくだって、彼に

    last updateLast Updated : 2026-04-01
  • 血と束縛と   第16話(21)

     傍らに立つ千尋に手招きして、腰を屈めさせる。昨日は一日中パジャマを着て過ごしていた千尋だが、今はきちんとスーツを着込み、髪もセットしている。 和彦は、ネクタイを直してやってから尋ねた。「めかし込んでるが、出かけるのか?」「俺、じっとしてると、すぐに飽きるんだよ」「ああ、確かに落ち着きがないもんな」 まじめな顔で和彦が応じると、千尋は唇を尖らせる。せっかくスーツで決めて、年齢以上に落ち着いて見えるというのに、表情だけは子供っぽい。 和彦はやっと笑みを浮かべると、ポンポンと千尋の肩を叩く。「冗談だ。やっと正

    last updateLast Updated : 2026-04-01
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