로그인無茶をして痛い目を見るのは、鷹津だ。そう思いもしたのだが、ふと和彦の脳裏に、店で秦から聞かされた話が蘇る。この瞬間、なぜか和彦はうろたえ、ちらりと視線を上げる。
いつもオールバックにしている鷹津の癖のある髪が、少し乱れていることに気づいた。 和彦は乱闘を見ることはなかったが、それでも、男たちの殺気立った様子や、店の惨状を目の当たりにして、想像力を働かせるぐらいはできた。そして、鷹津のこの怪我だ。 秦から聞いた話を胸の内に仕舞ったままにはできず、和彦は自分から切り出した。「――……あんた、ぼくを助けたらしいな」 鷹津は一瞬真顔となったあと、ニヤリと笑う。「そういう言い方をされると、仮に違ったとしても、そうだ、と答えるしかないな」「秦から聞いたんだ。ぼくが座っていたソファに男が突っ込んでこようとして、あんたが庇ってくれたと。この傷、そのときに負ったんだろう」「俺が側にいて、お前に怪我させるわけにはいかん。長嶺にどれだけ胸糞の悪い嫌味を言われるかわからんしな」<唾液を流し込まれながら、口腔の粘膜を舐め回されているうちに、自然な流れで鷹津と舌先を触れ合わせ、次の瞬間には性急に搦め取られる。差し出した舌同士を大胆に絡め合っていた。 いやらしい口づけに、欲望を煽られる。和彦は息を喘がせ、喉の奥から声を洩らす。唇を触れ合わせたまま、鷹津がニッと笑った。「気持ちいいか? 久しぶりの、俺とのキスは」「……自惚れてるな。そういうことを聞くなんて」「今にもイきそうな声を出してたぜ、お前」 カッとした和彦は体を離そうとしたが、その前に鷹津に、パンツの上から尻の肉を掴まれた。再び唇を塞がれ、舌を絡め合いながら、鷹津に尻を揉まれる。和彦は咄嗟に、鷹津の右腕を押さえていた。医者としては、縫合処置をしたばかりの傷が、無茶な行動で開くのではないかと気が気でないのだ。おかげで、もう鷹津から体を離すことができない。「あっ」 さんざん尻を揉んだ鷹津の手が今度は前に這わされ、両足の間をまさぐり始める。言葉はなくても、この男の求めはわかっていた。 ジーンズの上から、鷹津の欲望の形に触れる。興奮を物語るようにすでに硬く大きくなり、苦しそうだ。唇を離した鷹津に頭を引き寄せられて、耳元で囁かれる。「――今日は、舐められるだろ」 屈辱でも羞恥でもなく、和彦を襲ったのは甘い眩暈だった。和彦の機嫌を取るように鷹津が唇を啄ばんできて、それに応じる。互いの舌と唇を吸い合ってから、和彦はその場にぎこちなく両膝をついた。 鷹津のジーンズの前を寛げ、高ぶった欲望を外に引き出す。短く息を吐き出してから顔を寄せると、初めて鷹津の欲望に唇で触れた。 慰撫するように先端に柔らかく舌を這わせ、唇を押し当てる。括れを舌先でくすぐり、もう一度先端に唇を押し当てて、そっと吸い上げる。ゆっくりと口腔に含むと、鷹津の下腹部が緊張した。 鷹津の欲望を握り、根元から扱き上げながら、舌を添えて喉につくほど深くまで呑み込む。濡れた粘膜でしっとりと包み込み、唇で締め付けると、鷹津が歓喜しているのが伝わってくる。口腔で、ドクッ、ドクッと脈打ち、逞しさを増していくのだ。 大きく深く息を吐き出した鷹津が、和彦の頭を撫
無茶をして痛い目を見るのは、鷹津だ。そう思いもしたのだが、ふと和彦の脳裏に、店で秦から聞かされた話が蘇る。この瞬間、なぜか和彦はうろたえ、ちらりと視線を上げる。 いつもオールバックにしている鷹津の癖のある髪が、少し乱れていることに気づいた。 和彦は乱闘を見ることはなかったが、それでも、男たちの殺気立った様子や、店の惨状を目の当たりにして、想像力を働かせるぐらいはできた。そして、鷹津のこの怪我だ。 秦から聞いた話を胸の内に仕舞ったままにはできず、和彦は自分から切り出した。「――……あんた、ぼくを助けたらしいな」 鷹津は一瞬真顔となったあと、ニヤリと笑う。「そういう言い方をされると、仮に違ったとしても、そうだ、と答えるしかないな」「秦から聞いたんだ。ぼくが座っていたソファに男が突っ込んでこようとして、あんたが庇ってくれたと。この傷、そのときに負ったんだろう」「俺が側にいて、お前に怪我させるわけにはいかん。長嶺にどれだけ胸糞の悪い嫌味を言われるかわからんしな」「そんなこと――」「切りつけられたとき、咄嗟にこう思ったんだ。この傷は、お前に高く売りつけられる、ってな」 一瞬にして和彦の顔は熱くなる。そんな反応を知られたくなくて鷹津を睨みつけるが、見せつけるような舌なめずりで返された。そのうえ、傷口を縫合している最中だというのに、鷹津の左手に膝を撫でられた。「怪我をしたから、セックスもダメとか言うなよ。傷口が開こうが、俺は今夜、お前をおとなしく帰すつもりはないからな」 いっそのこと処置室を飛び出してしまいたかったが、傷はまだ半分しか縫えていない。和彦を守るために、鷹津が負った傷だ。「……あんたは、頭がおかしい」 率直に和彦が洩らすと、鷹津は楽しげに喉を鳴らす。「そんな男を番犬に飼ってるんだ。大変だな、お前も」「あんたが言うな」 鷹津に急かされながら、なんとか縫合を終えると、ガーゼを当ててしっかりと包帯を巻く。すぐに和彦は立ち上がると、ナイロン袋に交換用の包帯にガーゼ、痛み止めを詰め込み、鷹津に押し付ける
ここで鷹津が顔を歪める。平然として話しているようだが、やはり切りつけられたばかりの傷が痛んでいるのだ。和彦はタオルをそっと外し、出血が止まりつつあることを確認する。「自分でしっかりとタオルを押さえておいてくれ。新しいタオルをもらってくる」 そう言い置いて、ちょうど電話を終えた秦の元へと行く。和彦に気づき、秦は表情を曇らせた。「すみません、先生。こんな騒ぎに巻き込んで……。今、長嶺組の本宅に連絡を入れましたので、すぐに迎えの車が来ると思います」「ぼくのことは気にしなくていい。それより――」 和彦はそっと、ホールの男たちを見る。襲撃してきた男たちは三人とも、両手足を縛り上げられたうえに、口にはタオルを押し込まれていた。それを、組員たちが仁王立ちで見下ろしている。「長嶺組に任せましょう。わたしはとにかくここを、明後日には内装工事の業者を入れられる状態にしないと」 自分が襲われかけたというのに、危機感に欠けた口調で秦が話す。だからこそ、この男が見た目通りの優男ではないと、実感していた。ヤクザに囲まれて生活しながら、ヤクザではないという点で、和彦と秦は似ているが、比較にならないほど秦の抱える闇は深い。「それで先生、鷹津さんは?」「あっ、そうだ。タオルをもう二、三枚もらえないか? あの傷だと、縫わないといけない。病院に……と言いたいが、あの刃物傷なら、包丁で切ったとも言い訳できない。刑事だとなおさら、大事にできないだろうしな」「ということは、先生のクリニックに?」 和彦は、タオルを捲って傷を確認している鷹津を見遣り、ため息をついて頷く。「仕方ない。現場にいた以上、放っておけない」「わたしからも、お願いしますよ。なんといっても、鷹津さんがいたおかげで、わたしのせいで先生が怪我をする事態を避けられたんですから」 秦の言葉に、和彦は首を傾げる。すると秦は、思いがけないことを教えてくれた。「男の一人が、先生が座っていたソファに、ナイフを構えて突っ込んでいこうとしたんですが、寸前で鷹津さんが庇った。怪我は、そのとき揉み合ったせいです」
和彦の周囲を流れていた空気が一気に凍りつき、目の前に座っている秦が顔を強張らせる。そこまでを認識したときには、世界が一変した。 寸前まで隣に座っていた鷹津がいつの間にか立ち上がり、体が震えるような怒声を発する。テーブルの上の食器を掴んだかと思うと、ホールの中央に向かって投げつける。同時に秦がテーブルを乗り越えながら、スーツのジャケットから何かを取り出す。ちらりと見えた銀色の冷たく輝く刃が、和彦の網膜にしっかりと焼きついた。「佐伯っ、伏せてろっ」 鷹津に怒鳴られて、ぐいっと頭を押さえつけられる。和彦はソファの上に倒れ込んだが、そのまま体が硬直し、動けなくなった。 その間、鼓膜に突き刺さるようなガラスの割れる音と、重々しい衝撃音が響き、そこに男たちの罵声や、威嚇する声が入り乱れる。ずいぶん長い間続いていたような気がするが、もしかすると一分ほどのことだったかもしれない。とにかく和彦は、身動きどころか瞬きもできず、ただ、壁を凝視していた。「――生きてるか」 再び頭上から鷹津の声がする。ハッと我に返った和彦は、大きく息を吸い込む。すぐには身動きができないでいると、正面に回り込んできた秦に顔を覗き込まれた。店内がただならぬ状況にあったのは、秦のまだ強張った顔を見ればわかった。「怪我はないですか、先生?」 そう問いかけられて、手を差し出される。秦の手を取って体を起こそうとした和彦だが、男の怒声が聞こえて、大きく身を震わせ、怯える。秦がようやく微笑を浮かべ、耳元で囁いた。「もう大丈夫ですよ。押さえましたから」 和彦はぎこちなく体を起こし、背後を振り返る。凄惨ともいえる光景が、そこにはあった。 ホールの床の上に見たこともない男たち三人が倒れていた。一人は完全に気絶しており、もう一人は腕を抱えてのたうち回ろうとして、護衛の組員に肩を踏みつけられている。残る一人は、うつ伏せの姿勢で必死に顔を上げ、何かを喚いている。起き上がれないのは、もう一人の組員が背に座り込み、しっかりと腕を捻り上げているからだ。 食器や酒瓶の破片が床に散乱しており、さらには点々と血が落ちている。それを見てドキリとした和彦は慌てて、秦や組員たちの様子を確認したが、一見し
ちなみに、この店には現在、和彦を除いて三人の男がいる。秦と、和彦の護衛としてついている長嶺組の組員が二人だ。客もいないというのに、護衛の男たちは離れたテーブルにつき、和彦と同じように寿司を摘みながら、お茶を飲んでいる。秦はグレープフルーツジュースで、アルコールを飲んでいるのは、和彦だけだ。 賢吾が大げさに吹き込んだのかもしれないが、これではまるで、和彦の機嫌取りのためだけに、酒宴が設けられたようなものだ。「……ぼくだけが飲んでいると、申し訳ないんだが……」「大丈夫です。もうそろそろ、先生につき合える人が来るはずですよ」 えっ、と声を洩らした和彦に、気障ったらしく秦がウインクしてくる。 秦が誰を指して言ったのかは、十分ほどして判明した。 なんの前触れもなく店に入ってきた人物を見るなり、和彦より先に、護衛の組員が反応して立ち上がる。殺気立つことはなかったが、敵意に近い警戒心を露わにする。少し遅れて、和彦も立ち上がった。 黒のソリッドシャツにジーンズという、見慣れた格好をした鷹津が、ふてぶてしい表情でこちらを見て、ニヤリと笑う。蛇蝎の片割れに例えられる男らしい、嫌な笑い方だ。「どうして……」「――わたしが、声をかけたんですよ」 和彦が洩らした言葉に、秦が応じる。怪訝な顔をすると、座るよう促されたので、思わず従ってしまう。すると、当然のように鷹津が隣にドカッと腰を下ろし、和彦の肩に手をかけてきた。「ようやく捕まえたぞ、佐伯」 鷹津の傲慢な物言いに、反発を覚えた和彦は睨みつける。ついでに、秦も。「二人揃って、ぼくに対する嫌がらせか?」 鷹津は鼻先で笑い、秦はとんでもないといわんばかりに肩をすくめた。「鷹津さんは、わたしの店の常連ですよ」「ホストクラブのほうじゃないぞ。俺は、男に興味はない」 わざわざ念を押した鷹津を、和彦はもう一度睨みつける。嫌な男だ、と心の中で呟いたが、もしかすると声に出ていたかもしれない。和彦がどれだけ毒づこうが、鷹津の図太い神経に小さな傷すらつけられないだろう。
忘れてならないのは、同じ店で和彦は、秦に薬を飲まされて淫らな行為に及ばれたことがある。あの頃はまだ秦の正体も知らず、律儀に敬語を使って話していたのだ。 それが今では――。 自分の痴態も含めていろいろと脳裏に蘇り、危うく体温が上がりそうになった和彦は、慌てて頭から追い払う。『予定では一か月ほど店を閉めることになるので、昨夜はお客様たちを招いて、派手に騒いだんです。そして今夜は、わたしも経営者という肩書きを忘れて、先生と楽しく飲みたいと思いまして』「……今回も、中嶋くんは?」 和彦の問いかけをどう受け止めたのか、電話の向こうから微かに秦の笑い声が聞こえてくる。『残念ながら、中嶋は今夜は仕事だそうです。――大丈夫。中嶋がいないからといって、先生に変なことはしませんよ』「そんなことは心配していないっ」『でしたら、おつき合いいただけますか?』 秦は、和彦が断るとは思っていない口ぶりだった。和彦の機嫌が悪いと聞かされながら、あえて電話をかけてきたぐらいだ。やはり賢吾から、気分転換させてやれとでも言われているのかもしれない。「――つき合ってもいい」 そう和彦が答えると、また電話の向こうから、秦の笑い声が聞こえてきた。『料理や酒を準備しておきますから、いつでもいらしてください。あっ、護衛の方の分も用意しておきますよ。中嶋が一緒じゃないので、護衛をつけないと夜遊びはできないでしょう、先生は』 気が利くなと呟いて、電話を切る。和彦は携帯電話を握ったまま、すぐには動き出さず、ぼんやりとしてしまう。 秦の優しい口調で問われると、言わなくていいことまで話してしまいそうで、隠し事をしているときに会うには、意外に厄介な相手だ。やはり断ればよかっただろうかと、ちらりと頭の片隅で考える。 しかし、秦はどこまでも気が利いていた。握っていた携帯電話が再び鳴り、和彦は反射的に電話に出る。今度は、いつも護衛を務めている組員からだった。 すぐに出発しますかと問われ、力なく笑ってしまう。「三十分後に迎えに来てくれ」 そう答えて電話を切ると、今度こそ立ち上がった。
「そんな顔するな。別に怒ってないし、息抜きに連れてきてくれて感謝しているんだ。ぼくならここで、コーヒーを飲みながらのんびり待っているから、気にせず自分の仕事をしてこい」 ほっとしたような表情を浮かべた千尋だが、次の瞬間には、こんな可愛げのないことを言った。「……なんか、先生を一人残しておくと、悪い男に連れ去られそうで心配だなー」「余計なことを言わずに、さっさと行け」 犬を追い払うように手を振ると、千尋は何度も振り返りながらティーラウンジを出ていく。ロビーで待機していた三人の組員を連れて姿が見えなくなると、和彦は慎
** 元日から、なんとも気が重くなるような仕事だった。 和彦の本来の仕事は美容外科医で、患者のコンプレックスを取り除き、幸せになる手助けをするのが仕事だ。普段は、こういった理想や理念を意識することはなく、患者の望みに近づけるよう努めるだけだ。 しかし長嶺組の専属医となってから、和彦はいくつかの不本意な手術を手がけていた。 初詣をした神社の駐車場で賢吾と別れ、組員が運転する車で向かったのは、『池田クリニック』だ。さすがに元日だけあってビル全体に人気はなく、こんな日に慌しく動いているのは、後ろ暗いところがあるヤクザと、そのヤ
薄い笑みを浮かべた秦が、自分の口元を指さす。ああ、と声を洩らした和彦は、顔をしかめる。「君に避けられ続けて、少し落ち込んでいるようだったぞ、中嶋くん。ぼくとしては、困惑する彼の姿を想像して、君は楽しんでいるんじゃないかと思っているんだが――」「残念ながら、本当に忙しかったんです。しかし中嶋は、先生に対しては素直なんですね。少し妬けますよ」「……自分の素性を明かしもしないくせに、相手の心の内は知りたいなんて、ずいぶん都合がいいな。それだけで愛想をつかされても、仕方ないぞ」「手厳しい」「ぼくだって、彼に
「先生が」「……着方がわからない」「とりあえず羽織ってみたらいい」 和彦は困惑しつつ、賢吾の着物姿を眺める。大柄な賢吾のために仕立てた着物を自分が着た姿を想像してしまった。すると、和彦の心配を察したのか、短く笑った賢吾が衣装ケースに歩み寄った。「先生にちょうどよさそうな着物がある。この家じゃ、もう誰も袖を通さないものだ」 そう言って賢吾が取り出したのは、明らかに女性ものの着物だった。長襦袢の鮮やかな桜色を目にして、和彦は頬が熱くなってくる。「それ、女物じゃないかっ…&hell