Masuk*
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寝起きの気分は最悪だった。全身に倦怠感が残り、終始眠りが浅かったせいか、頭が重い。
「暑……」 緩慢に寝返りを打った和彦は、思わず呟く。部屋の空気がいつもと違うと感じ、ここで、自分が今置かれている状況を思い出し、ひどく暗澹とした気持ちにもなる。 汗のべたつく感触が不快で、ようやく体を起こしたところで、腰の辺りに残る鈍く重い感覚に気づいた。和彦にとってはある意味、馴染み深いともいえる感覚だ。 なぜ、と思った次の瞬間に、体中の血が凍りつきそうになる。それは、強い羞恥と屈辱感によるせいだ。 動揺を抑えながら、慎重に室内を見回す。カーテンの隙間から差し込んでくる陽射しのおかげで、電気をつけなくても室内は十分明るい。そこに、不穏な影は見当たらない。 ぎこちなく緊張を解こうとした和彦だが、ある変化に気づき、顔を強張らせる。昨夜つけたままにしておいたテレビが、消えていた。リモコンは、ベッドから離れた場所に置かれたテーブルの上にある。 悪夢などではな玲は、昨夜の自分の愛撫を辿るように、和彦の肌に唇を押し当て、強く吸い上げる。すると、より鮮やかな鬱血が残る。さりげなく玲の指先が、胸のある部分を掠めた。「あっ」 和彦が声を上げると、玲が見上げてくる。和彦の反応を確かめるように、もう一度、硬く凝った胸の突起を指先でくすぐる。今度はピクリと胸を震わせると、玲は満を持したように突起を口腔に含んだ。「あっ、あぁっ――……」 熱く濡れた感触に包まれ、いきなり痛いほど強く吸われる。だが、和彦の胸に広がったのは、小さな快感の波だった。もう片方の突起は指の腹で押し潰すように弄られ、摘み上げられる。 ようやく顔を上げた玲が、真っ赤に色づき、先端を尖らせている突起を満足げに見下ろす。「……ここも、気持ちいいんですね。すみません。昨夜は気づかなくて」 高校生にまじめな口調でこんなことを言われると、どんな卑猥な言葉を囁かれるよりも恥ずかしい。うろたえて返事もできない和彦に対して、玲はふっと目元を和らげた。「今の顔、可愛いです」「なっ……に、言ってるんだっ……。この状況で、人をからかうな」「からかってないです。本当に――」 誘惑に抗えないように、玲が再び突起に吸いつき、今度はそっと歯を立ててくる。甘噛みされて、ジンと胸が疼いた。 夢中で愛撫しているようで、玲はしっかりと和彦の反応をうかがっている。優しく舌先でくすぐりながら、ときおり乱暴に吸い上げ、さらに歯列を軽く擦りつけてきて、和彦がどのタイミングで切ない声を上げるか知ると、執拗に同じ愛撫を繰り返すのだ。「――昨夜より、余裕がある」 玲の少し硬い髪を撫でながら和彦は呟く。顔を上げた玲が、すかさず唇に吸いついてきた。「俺、ですか?」「君以外、誰がいる」「全然、余裕なんてないです。もう、こんなになってますから……」 唇を触れ合せながら玲が身じろぎ、何をしているのかと思ったとき、和彦の両足の間にぐっと押しつけられたのは、高ぶった欲望だった
やはり、組長の息子というものは食えないと、和彦は苦々しく思う。脅されているのかもしれないが、玲の口調は切実で、悪意とは無縁に思える。それどころか――。 和彦は軽くため息をつくと、伸ばした片手で玲の頬を撫でる。それだけで玲は、心地よさそうに目を細めた。「もう、気は済んだだろう。君は夢の中で〈オンナ〉に触れて、好奇心は満たされたはずだ。現実的に考えたら、ぼくは、君より一回り以上も年上の男だ。しかも、面倒な事情をたっぷり抱えている。脅すわけじゃないが、ぼくの背後にいるのは、怖い男と組織ばかりだ」「俺のこと、心配してくれているんですね」「都合よく受け止めるなっ。ぼくがっ……、これ以上の面倒は嫌なんだ」「父さんが言ってました。特別なオンナには、面倒くさい環境や事情がつきものだって。だけどそれが、オンナを守る檻になるとも」 玲の発言を聞いた和彦は、前に御堂が、本物の檻に閉じ込められた経験があると仄めかしていたのを思い出す。誰がそんなことをしたのか、なんとなく察しがついた。「俺はまだガキなんで、大人や組織の難しいことはわからないですし、考えたくないです。受験生だし」「……便利な言い訳だな」「便利だから、今のうちに使っておかないと、もったいないなって……」 悪びれない玲の物言いに、つい和彦は、ふふっ、と声を洩らして笑ってしまう。慌てて表情を取り繕おうとしたが、もう遅い。和彦が本気で怒っているわけではないと瞬時に理解したらしく、玲が再び覆い被さってきた。「おい、こらっ、退くんだ」 和彦は窘めるが、すでに玲の目の色は変わっている。「玲、くん……」「オンナじゃなく、あなたを抱きたい。佐伯和彦という、一回り以上年上の男の人を」 玲の囁きが体の内に入り込む。繊細で感じやすい部分をくすぐられたようで、和彦は甘い眩暈に襲われていた。 昨夜、さんざん身をもって実感していたはずなのに、改めて思い知らされる。高校生とはいっても、自分に覆い被さっているのは紛れもなく、若くしなやかな体と心を持った青
** ホテルでの朝食から戻ってきた和彦は、自分が使っている部屋を簡単に片づけると、やることがなくなってしまう。 今日、自宅マンションに戻るのだが、総和会からの呼び出しをうまく避けられるよう、連休を目一杯使ってこいと賢吾に言われているため、夕方近くまで御堂の実家に滞在させてもらうことになっている。つまり、それまで暇なのだ。 散歩にでも出かけたいところだが、そうなると、近くにあるという清道会の事務所から、わざわざ護衛のための組員を呼ぶことになる。その手間を思うと、考えるだけで億劫だ。 同じ屋根の下にいる御堂は誰かと電話で話し込んでおり、見るからに忙しそうな様子に、とても話し相手になってほしいとは言えない。 朝食後に聞かされた、伊勢崎父子の動向について気になっているのだが――。 Tシャツに着替えると、体に残る疲労感に耐えかねて、畳の上をごろりごろりと寝転がっていた和彦だが、覚悟を決めて起き上がる。 ここに戻ってくる車中では、なんとなく玲と会話が交わせなかった。何事もなかったように、このまま別れてしまうのが無難なのだろうが、それを許せない自分がいる。どうせ、さまざまな感情に責め苛まれるなら、抱えた疑問を少しでも解消しておきたかった。 和彦自身のためというのもあるが、結果として、長嶺組の――長嶺の血を持つ男たちのためになるのかもしれない。 和彦は、静かな廊下を通って玲が使っている部屋へと出向く。玲は、帰り仕度をほぼ終えていた。バッグだけではなく、土産物などが詰まった紙袋が四つ並んでいる光景に、思わず笑ってしまう。「すごい量だな。帰りは飛行機なんだろ」「御堂さんが、ここから宅配で送ると言ってくれたんで、甘えることにします」「それがいいよ」 ここで会話が途切れる。和彦が立ち尽くしたまま次の言葉を迷っていると、畳の上に胡坐をかいて座り込んだ玲が、自分の傍らを手で示した。和彦は引き戸を閉めると、玲の側に座る。「――もうすぐ君の迎えが来るようだから、最後にきちんと挨拶をしておこうと思ったんだ。ホテルでは、大人げない態度を取ってしまったし」 ようやく和彦が切り出すと、玲はほっとしたよう
慌てて水をとめた和彦は、ハンカチを取り出しながら洗面台の前から退く。「ぼくは先に出ているから――」 玲の横を通り過ぎようとして、腕を掴まれた。ハッとして玲を見ると、ひどく苦しげな顔をしていた。さきほどまで、愛想よく大人たちの会話に加わっていた青年と同一人物とは思えない。「玲くん……?」「――……佐伯さんの態度が、気になったんです。車の中で、俺と御堂さんが話をしてから、なんとなく、佐伯さんがよそよそしくなったみたいで。それに食事をしている間は、得体が知れないものを見るみたいに、ときどき俺のことを見てました」 聡い子だなと、内心で驚きながらも和彦は、感情が表に出ないよう努める。「気のせいだよ。……ちょっと驚いただけだ」「佐伯さん、ヤクザは嫌いですか?」「そんなことは言ってないっ」 思わず声を荒らげた和彦は、すぐに我に返って口元に手をやる。「……嫌いなんて言う権利はない。ぼくは、そのヤクザの稼ぐ金で生活しているんだから」「じゃあ、俺のことは嫌いですか?」 玲に試されていると、一瞬にして悟った。キッと睨みつけ、腕を掴む玲の手を振り払う。「言っただろう。夜が明けたら、夢は終わりだと。君はあくまで、連休の間、一緒に連れ立ってあちこち行っただけの仲だ。だから、互いの事情に首は突っ込まない。……そのほうが、いい別れ方ができる」 そう言い置いて和彦は、足早にレストルームを出る。出入り口のすぐ側に護衛の男たちが立っていたため、不意をつかれて面食らい、視線を逸らした先に、御堂が立っていた。和彦は、ちらりと背後を振り返ってから、御堂の元へと行った。「御堂さん、聞きたいことがあるんですが……」 声を潜めて話しかけると、灰色の髪を掻き上げて御堂は薄い笑みを浮かべた。「玲くんとの、車の中での会話のことかな」「……普通の高校生だとばかり思っていたので、あの物言いが気になって」
何事もなかったように御堂が正面を向く。和彦は困惑しながら、たった今交わされた二人の会話を頭の中で反芻する。具体的なことは何一つわからないが、ただ、ぼんやりと湧き起こるものがあった。 伊勢崎玲という青年は、本当にただの高校生なのだろうかという疑問が。** ホテルのレストランでの朝食の味は、正直よくわからなかった。 同じテーブルについた玲と御堂、そして綾瀬との一見和やかな会話に加わりながら、和彦はさりげなく視線を周囲のテーブルへと向ける。一つのテーブルには、和彦たち三人の移動中からついていた護衛が。別のテーブルには、綾瀬の護衛が座っている。 いまさら、この状況について何か言うつもりはないのだが、護衛に囲まれている自分の立場については、あれこれと思いを巡らせる。 酸味の強いオレンジジュースを一口飲んだところで、吸い寄せられるように玲と目が合った。周囲を、特殊な立場にある大人たちに囲まれながらも、玲は落ち着いて見えた。 地元では護衛はついていないと言っていたが、本当なのだろうかと、今になって疑ってしまう。車内での御堂とのやり取りが、和彦は引っかかっていた。 玲とは、知り合ってほんの数日――数十時間しか経っていない。それで、玲のことを知った気になったのは、体を重ねたからだ。そんな自分のささやかな驕りを突き崩されたようで、知らず知らずのうちに和彦の頬は熱くなる。 自戒も込めて、自身に言い聞かせるのは、玲のことはもう知りたくないし、知ってはいけないということだ。 穏やかな表情で玲に話しかけていた綾瀬が、さりげなく腕時計に視線を落とす。すかさず御堂が声をかけた。「仕事の時間が近いんでしょう? どうぞ、行ってください。みんな、ほぼ食事は終えていますから、誘っておきながら失礼だ、なんて言いません」「そう言って、さっさと俺を追い払いたいんだろう」「そんな薄情なことは思っていませんよ。ただ、気遣っているだけです。いろいろと、忙しいでのでしょう?」 いろいろと、という単語に微妙な含みを感じたのは、和彦だけではなかったようだ。綾瀬は目を眇め、物言いたげな様子で御堂を眺めていたが、ふっと口元を緩めた
「それはどういう……。玲くんは、普通の高校生ですよね?」「今は、かな」 意味ありげに呟いた御堂が、ポンッと和彦の肩を軽く叩いて立ち上がる。「さて、玲くんも戻ってきたことだし、朝食にしよう。といっても今朝は、外で食べるつもりなんだけど。――綾瀬さんが、お礼も兼ねて、君たちを誘いたいと言ってね」 和彦が目を丸くすると、諦めてくれと言いたげに御堂は首を横に振った。「あの人も忙しい人だし、玲くんも今日の昼にはここを出るから、一緒に食事するとなると、朝食ぐらいしかないんだ。……自分と伊勢崎さんの再会が、殺伐としたものにならなかったのは、君らがいてくれたおかげ、と言いたいんだろう、綾瀬さんは」 一瞬、複雑そうな表情を見せた御堂に対して、どういう意味かとは問えなかった。 せっかくの綾瀬からの誘いを断ることもできず、慌ただしく身支度を整えて玄関に向かうと、困惑顔で玲が待っており、和彦と目が合うなり、こうぼやいた。「俺……、走って戻ってきて、シャワーも浴びてないんですよ。一応着替えて、制汗剤も使ったけど、多分まだ、汗臭いです……」 笑いかけようとした和彦だが、失敗した。明け方まで包まれていた玲の汗の匂いを思い出し、胸の奥が妖しく疼く。いまさらながら、目の前の〈高校生〉と体を重ねたのだという現実に、戦いていた。「大丈夫だよ。この距離でも気にならないんだから。それに、煙草臭いとか、酒臭いとかじゃないんだから、健康的だ」「……男子高校生の醸す男臭さを甘く見ないでくださいね、佐伯さん。体育の後なんて、更衣室の臭さは半端じゃないんですから」「想像はつくよ。ぼくだって高校生だったときはある」 砕けた口調で会話を交わしながらも、互いが相手を意識しているのは、強く感じていた。和彦のほうは微妙に視線を逸らそうとするのだが、対照的に玲は、強い眼差しをまっすぐこちらに向けてくる。 夜が明けたら夢は終わり、何もなかったふりをする――。その約束自体が無理だったのではないかと、すでに和彦は危機感を抱きつ
「俺を潰したいからなんて理由で、こいつに近づくなよ。大事な大事な、俺たちのオンナだ。お前みたいな下衆が近づいていいような、安い人間じゃない」「蛇みたいな男が、薄ら寒くなるようなことを言うな。……お前は、弱みを晒すような男じゃねーだろ。それとも、弱みを隠し切れないほど、そいつに骨抜きにされたか? 俺を失望させるようなことを言うなよ、クズどもの親玉ともあろう男が」「しばらく辛酸を舐めたようだが、相変わらず口汚いな、鷹津。そんなんじゃ、誰にも好かれんだろ。それこそ、女だろうが、男だろうが――」 急に賢吾の腕が肩に回され、抱き寄せら
** 別れ際、玄関で秦に抱き締められてから、和彦は部屋をあとにした。 エレベーターの中で、もう二度と秦と会わないということはおそらく不可能だろうなと、ぼんやりと考える。秘密を共有してしまったということもあるが、秦との間に確かな結びつきができたことを実感していたのだ。 賢吾や千尋、三田村との間で生まれた結びつき――縁と、同種だ。肉欲と切っても切れない縁で、それはすぐに、情へと変化する。さすがに和彦も、それぐらいは学習していた。 複雑になった事態と人間関係を、自分はどうするつもりなのか、考えたくなかった。体も心も、秦から与え
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する