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第29話(28)

Auteur: 北川とも
last update Date de publication: 2026-05-12 08:00:15

 見事な大蛇の刺青をまず目に焼きつけてから、広い背に丹念にてのひらを這わせ、衝動のまま唇を押し当てる。巨体の輪郭をなぞるように舌先を動かしていると、賢吾の背の筋肉がぐっと強張った。

 もし、英俊に無理やり連れ去られるような事態になっていたら、この大蛇に触れることは二度とできなかったのだ。そう思うと、情欲とはまた違う、強い感情に胸を揺さぶられる。多分これは、愛しいという感情だ。そしてこの感情は、この大蛇を背負う男に対して向けられている。

「――俺とオヤジは、嫌になるほど似ている」

 ふいに賢吾が話し始める。和彦は、背に唇を押し当てたまま耳を傾ける。

「優しくて愛情深くて、淫奔でしたたかな先生の性質を、俺は、この世界に繋ぎとめるために利用している。俺が許した男たちと関係を持たせて、先生を雁字搦めにしているんだ。こんなことをするのは、俺ぐらいのものだと思っていたが……、さすがは、俺のオヤジといったところだな」

 賢吾の胸元に手を回すと、いきなりその手を掴まれ、下腹部へと導かれる。触れた賢吾の欲望は、いつの間に
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    「あの家が、ぼくを必要としていると知ったところで、少しも嬉しくないんだ。きっともう、ぼくとあの家が歩み寄ることはできない。それが確認できただけでも、会ってよかったと思う。間に入った里見さんには、申し訳ないけど」 座卓に置いた文庫本の表紙を、手慰みに撫でる。そうしながら和彦の脳裏に蘇るのは、英俊と会ったときの光景だ。 思い返すたびに息苦しい感覚に襲われていたが、自分を駆り立てるように仕事をこなし、すっかり慣れ親しんだ男たちと顔を合わせていくうちに、その感覚も薄れつつある。だから、里見に連絡を取ることにしたのだ。今回は、悲壮な覚悟は必要としなかった。「兄さんに、言いたいことは言えたと思う。そのことを、あの人たちは納得しないだろうけど、ぼくはこれ以上話をするつもりはない。また里見さんに何か頼んできたときは、そう伝えてもらえるかな。一生連絡を取らない――という決心まではしていないけど、当分、話をするつもりはない」 電話の向こうから聞こえてきたのは、深いため息だった。一瞬、里見を失望させただろうかと身構えた和彦だが、次に耳に届いたのは、鼓膜をくすぐるような笑い声だった。「……里見さん?」『ごめん。最初の頃は、君は誰かに脅されていると思っていたんだ。だけど直接君に会って、英俊くんからも話を聞いて、今の君の言葉を聞いて、ようやく受け入れるしかないと思った。――君は、今いる場所で必要とされて、それ以上に大事にされているんだって』 里見が想像しているのは、穏やかで優しくて、美しい環境なのだろうと思うと、現実とのギャップに和彦もつい声を洩らして笑ってしまう。だが、男たちの情や、複雑な事情に雁字搦めになりながらも、和彦にとってこの世界が心地いいのは間違いない。「そう……、単純なものじゃないけどね」 ほろ苦い気持ちを噛み締めながら和彦が呟いたとき、廊下を歩く足音が聞こえてくる。「それじゃあ、もう切るね」『和彦くんっ』 携帯電話を耳元から離そうとしたとき、突然里見が大きな声を発する。「何?」『この電話を切ったあと、携帯の番号を変えたりしないでくれ。英俊くんに番号を知

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    「うああっ――」 内奥の入り口をこじ開けられ、太い部分を一息に呑み込まされる。繋がった部分を指先でなぞられると、それだけで上擦った声が出る。背後から緩く突き上げられて、腰から痺れが這い上がり、吐息を洩らす。さらにもう一度突き上げられて、悦びの声を上げていた。 賢吾と深く繋がっていきながら、引き絞るように内奥を締める。欲しかった、と言葉ではなく、体で訴える。和彦の訴えを、賢吾は受け止めてくれた。「……しっかりと、俺を欲しがっているな。本当に、可愛いオンナだ……」 腰を掴まれて、ぐうっと奥深くまで欲望を捩じ込まれる。和彦は声も出せずに、ビクッ、ビクッと腰を震わせていた。賢吾が笑いを含んだ声で言った。「尻で、イったな」 巧みに官能を刺激されて、頭の芯まで快感に浸される。賢吾の欲望に内奥深くを突かれるたびに、堪えきれず嬌声を上げていたが、おそらくその声は、部屋の外にも響いているだろう。和彦の理性ではもう声を抑えることができず、賢吾にしても、あえて〈誰か〉に聞かせるように、和彦の快感を煽ってくる。「あっ、い、ぃ――……。賢吾、奥、いい……」「どこもかしこも、いいところだらけだな。――和彦」 内奥深くを重々しく突き上げられ、一瞬息が詰まる。全身に快美さが響き渡り、小刻みに体が震える。賢吾は、和彦のそんな反応をいとおしむように、背後からきつく抱き締めてくれた。「一度抜いていいか?」 快感に恍惚としている和彦の耳に、賢吾の言葉が届く。和彦は子供のように必死に首を横に振っていた。「嫌だっ。まだ……、このままがいい」「俺もそうしたいが、それ以上に、お前のいい顔を見ながら、尻を可愛がってやりてーんだ」 ズルリと内奥から熱い欲望が引き抜かれ、和彦は短い悲鳴を上げる。このとき、自分の体に何が起こったのかを、和彦の体を仰向けにした賢吾に指摘された。「お前が、突っ込まれる瞬間に弱いのは知ってたが、抜かれる瞬間もよくなってきたか?」 賢吾に、精を放ったばかりの欲望を

  • 血と束縛と   第29話(29)

     和彦は無意識のうちに強い刺激から逃れようとするが、賢吾の逞しい腕にしっかりと腰を抱え込まれ、もっと奔放に乱れてみせろと追い立てるように、荒々しい愛撫を与えられる。「ひっ……、待、て……。賢吾さん、そこ、乱暴には……」「違うだろ。そういう呼び方じゃなかったはずだ」 賢吾の声が楽しげな響きを帯びる。弱みを指先で弄られて、和彦は半ば脅されるように声を上げていた。「賢吾っ」 この瞬間、気も遠くなるような法悦が和彦の中で生まれる。残酷なほど優しく丁寧な手つきで柔らかな膨らみを揉み込まれ、腰から下に力が入らなくなる。意識しないまま自ら足を大きく開き、賢吾の淫らな愛撫をねだっていた。「あっ、あっ、んあっ、あっ――……」「これ以上仕込んだら厄介だとわかっちゃいるんだが、気持ちよさそうに声を上げるお前の反応を見ると、可愛がってやらずには、いられねーんだ」 痛みとは紙一重の、絶妙の力加減で柔らかな膨らみをまさぐられ、和彦は甲高い声を上げて身悶える。欲望の先端から透明なしずくが滴り落ち、和彦が味わっている愉悦を雄弁に賢吾に知らせる。「ここ、いいか?」 わずかに声を掠れさせて、賢吾が問いかけてくる。余裕たっぷりのバリトンとはまた違った色気に、和彦はヒクリと背をしならせる。声に、感じてしまったのだ。賢吾は当然、和彦の反応に気づいていた。「……感じやすいオンナだ」 さきほどの愛撫の礼だと言わんばかりに、今度は賢吾が、和彦の背に唇と舌を這わせてくる。尻の肉を鷲掴まれ、腰を突き出した姿勢を取らされていた。賢吾が何をしようとしているか、次の言葉で知ることになる。「まだ触ってもないのに、もう赤く色づいて、ひくついてるな。南郷にたっぷり弄ってもらったんだろう。感じさせてくれるなら、誰でも甘やかすからな。お前のここは――」 嫌でも意識させられた内奥の入り口に、柔らかく湿った感触がまとわりつく。それが賢吾の舌だとわかったとき、和彦は呻き声を洩らして、シーツに精を飛び散らしていた。しかし、賢吾は許し

  • 血と束縛と   第29話(28)

     見事な大蛇の刺青をまず目に焼きつけてから、広い背に丹念にてのひらを這わせ、衝動のまま唇を押し当てる。巨体の輪郭をなぞるように舌先を動かしていると、賢吾の背の筋肉がぐっと強張った。 もし、英俊に無理やり連れ去られるような事態になっていたら、この大蛇に触れることは二度とできなかったのだ。そう思うと、情欲とはまた違う、強い感情に胸を揺さぶられる。多分これは、愛しいという感情だ。そしてこの感情は、この大蛇を背負う男に対して向けられている。「――俺とオヤジは、嫌になるほど似ている」 ふいに賢吾が話し始める。和彦は、背に唇を押し当てたまま耳を傾ける。「優しくて愛情深くて、淫奔でしたたかな先生の性質を、俺は、この世界に繋ぎとめるために利用している。俺が許した男たちと関係を持たせて、先生を雁字搦めにしているんだ。こんなことをするのは、俺ぐらいのものだと思っていたが……、さすがは、俺のオヤジといったところだな」 賢吾の胸元に手を回すと、いきなりその手を掴まれ、下腹部へと導かれる。触れた賢吾の欲望は、いつの間にか熱く高ぶっていた。吐息をこぼした和彦は、しっかりと握り込むと、緩やかに扱く。「オヤジは、先生と南郷を繋ごうとしている。なんとなく、目的が見え始めてはいるが、まだはっきりとしたことは言えない。今問い詰めたところで、とぼけられるのがオチだろうな」 賢吾が引き戸のほうに顔を向けたので、和彦もつい反応してしまう。同じ家の中に守光もいるのだと思うと、自分が今、とてつもなく恥知らずな行為に及んでいるのだと認識させられる。怖気づいたとも言えるかもしれない。 和彦は慌てて体を離そうとしたが、賢吾がそれを許さなかった。腕を引っ張られて布団の上に転がされてうつ伏せになると、さらに浴衣を剥ぎ取られ、下着も強引に脱がされる。「おいっ――」「総和会という枠の中じゃ、俺がオヤジに対して取れる抵抗は高が知れてる。父子であることは強みだが、同時に弱みでもあるんだ。俺は組を守る責任があり、組員たちの生活も守ってやらなきゃいけない。だが、このオンナを手放すこともできない」 背に、賢吾の熱い体がのしかかってきて、押し潰されそうな圧迫感に息が詰まる。和

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     守光に対する賢吾の言動を見ている限り、南郷が言ったようなことはありえないと思うのだが、賢吾ほどの男なら和彦を欺くのは容易だと、これまでの経験で骨身に染みてもいる。 急に、賢吾と部屋で二人きりになることが怖くなり、和彦は慌てて布団に潜り込む。そのまま身を固くしていると、しばらく経ってから、引き戸がゆっくりと開く音がした。「――先生、寝たのか?」 低く囁くような声がかけられたが、体を横にして背を向けた格好となっている和彦は、顔が見えない位置なのをいいことに、返事をしなかった。賢吾はそれ以上声をかけてこず、隣で寝る準備をしている気配がする。 それを背で感じていた和彦だが、このまま眠ることはできそうにないため、一度深呼吸をしてから口を開いた。「……今回のことで、ぼくの存在を面倒だと思わなかったか?」 背後で動く気配が止まり、和彦は反射的に身を竦める。数秒の間を置いて聞こえてきたのは、低く抑えた笑い声だった。「先生は、優しすぎるな。もっと傲慢になったらどうだ。人生をめちゃくちゃにしたヤクザ共は、自分のために少しぐらい苦労したほうがいいと。そう思ったところで――いや、それでもまだまだ優しいし、甘いな」 和彦は寝返りを打つと、隣の布団の上で胡坐をかいている浴衣姿の賢吾を見上げる。「別れ際に兄さんから、父さんの伝言を聞かされた。顔を見せに帰ってこい、と……。この言葉を聞いたとき、ものすごく嫌な感覚がした。ぼくの父親は、何があっても、自分の思う通りに息子を従わせるつもりだと」「まさか、父親とも会う必要があるなんて、言うんじゃねーだろうな」 賢吾が大仰に片方の眉を動かして言った言葉に、和彦は目を丸くしたあと、苦笑を洩らす。「少なくとも……、今は必要ない。兄さんと会って、よくわかった。ぼくの要望は、受け入れられない。あの人たちの野心のために自分の身を差し出せるほど、ぼくは優しくも甘くもない」「先生の話を聞いていると、つくづく思う。世の中、いろんな家族の形があるもんだってな」 賢吾が布団を軽く叩いたので、意味を察した和彦は起き上がる。

  • 血と束縛と   第16話(2)

     参拝を済ませて、来た道を引き返そうとした和彦は、授与所のほうを見る。せっかくなので破魔矢を買いたいと思ったのだが、この状況では無理だろう。  人並みに参拝できただけで、満足しておくべきかもしれない。そんなことを考えながら、神社同様、混み合う駐車場に戻ると、周囲の視線を気にかけつつ賢吾と同じ車に乗り込む。 「――先生、欲しいものはないのか?」  突然の賢吾の言葉に、マフラーを外していた和彦は手を止める。 「えっ……」 「組の人間とぞろぞろ連れ立って歩いていたら、悠長に露店を覗くこともできなかっただろ。欲しいものがあれば、若い者に買いに行か

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  • 血と束縛と   第15話(43)

     呷るように飲み干した賢吾が、自然な動作で肩を抱いてきた。ビクリと体を強張らせた和彦だが、ぎこちなく賢吾にもたれかかる。「ヤクザに囲まれて過ごす年末は、どうだ? 先生はどんなときでも、この家の中をふわふわと歩いているから、居心地がいいのか悪いのか、見ているだけじゃよくわからねーんだ」「ぼくは……そんなふうに見られてるのか。なんだかショックだ」「だったら、姐さんらしく、キリッとしていると言ってもらいたいか?」「……その例えは笑えない」 和彦が応じると、代わりに賢吾が笑ってくれ

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  • 血と束縛と   第16話(18)

     すでに熱くなって身を起こしかけたものを、賢吾に愛撫してもらう。濡れた先端を指の腹で擦られ、ビクビクと腰が震える。「いつもより、涎の量が多いな」 からかうように賢吾に指摘され、和彦はムキになって下肢から手を払いのけようとしたが、低く笑い声を洩らした賢吾に反対に手を掴まれてしまった。促されるまま、和彦は自分の欲望に触れ、ぎこちなく慰める。 再び腰を突き出す姿勢を取らされ、背後から賢吾に貫かれた。 立った姿勢のまま繋がるのは、苦手だった。いつも以上の苦痛に襲われるからだ。その苦痛を紛らわせるために和彦は、自分のものを愛撫するしかない。賢吾は最初

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  • 血と束縛と   第16話(3)

     楽しげに言い切った賢吾にあごを持ち上げられ、唇を吸われる。 和彦の体には、その長嶺父子に求められ、貪り合った行為の余韻が、疲労感として残っている。なんといっても、昨夜の出来事だ。しかも千尋が眠ったあとは、夜更けまで賢吾と睦み合っていたのだ。今朝は体がだるくてたまらず、入浴するのも一苦労だった。 体に残る感触すべてが、長嶺父子の情の強さを物語っている。自分の存在が、今はその父子に所有されているのだとも。 体の奥がズキリと疼き、和彦は小さく身震いする。口腔に賢吾の舌が入り込み、感じやすい粘膜を舐められる心地よさに目を閉じようとしたとき、車内に携帯電話の着

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