LOGIN自分の頬を撫でて、そう言って南郷は笑った。機嫌を損ねた様子はないが、物騒な男たちの表情ほど信用できないものはない。
「……すみません。殴るつもりは――」「謝らなくていい。大事なオンナの機嫌を損ねた俺の失態だ」 部屋を出て行こうとした南郷が、視線を伏せ気味にして立ち尽くす中嶋に声をかけた。「中嶋、先生の世話を頼んだぞ」 中嶋は短く応じて頭を下げる。南郷は最後に和彦を一瞥したが、このときどういう意味か、唇の端に笑みらしきものを浮かべていた。 部屋に中嶋と二人きりとなると、和彦はズルズルとその場に座り込む。慌てて中嶋が駆け寄ってきた。「先生、大丈夫ですかっ?」 傍らに膝をついた中嶋に顔を覗き込まれそうになり、咄嗟に顔を背けた和彦は唇を拭う。 中嶋に、南郷との口づけを見られたことが、自分でも意外なほどショックだった。「先生……」 遠慮がちに中嶋の手が肩にかかり、そっとさすられる。和彦はぎこちなく息を吐き自分の頬を撫でて、そう言って南郷は笑った。機嫌を損ねた様子はないが、物騒な男たちの表情ほど信用できないものはない。「……すみません。殴るつもりは――」「謝らなくていい。大事なオンナの機嫌を損ねた俺の失態だ」 部屋を出て行こうとした南郷が、視線を伏せ気味にして立ち尽くす中嶋に声をかけた。「中嶋、先生の世話を頼んだぞ」 中嶋は短く応じて頭を下げる。南郷は最後に和彦を一瞥したが、このときどういう意味か、唇の端に笑みらしきものを浮かべていた。 部屋に中嶋と二人きりとなると、和彦はズルズルとその場に座り込む。慌てて中嶋が駆け寄ってきた。「先生、大丈夫ですかっ?」 傍らに膝をついた中嶋に顔を覗き込まれそうになり、咄嗟に顔を背けた和彦は唇を拭う。 中嶋に、南郷との口づけを見られたことが、自分でも意外なほどショックだった。「先生……」 遠慮がちに中嶋の手が肩にかかり、そっとさすられる。和彦はぎこちなく息を吐き出すと、おずおずと中嶋を見た。「さっきのこと……、誰にも言わないでくれ。特に、三田村には」 中嶋は一瞬だけ痛ましげな顔となる。「言いませんよ。――俺は何も見ませんでした」 小さな声で礼を言った和彦は、そのままうなだれる。さきほどの出来事について、まだ自分の中で処理しきれないのだ。中嶋は、和彦の髪を手櫛で整えながら、こう提案してきた。「食事の準備がもうすぐできるそうですが、その前に風呂に入りましょう。さっぱりしますよ」 今の自分に一番必要なのはそれだと、これ以上なく納得した和彦はコクリと頷いた。** たった一人の無礼な男を除いて、和彦に対する配慮が行き渡っていたようで、宿を発つ時間になるまで、部屋には誰も入ってこなかった。そのため、長嶺の男たちが挨拶回りからいつ戻ってきたのかも、知らなかった。 入浴を済ませてから食事をとったあと、窓辺に置かれた籐の寝椅子に身を預け、漫然と海を眺めていくうちに、いくらか和彦の精神状態も落ち着きを取り
「あんたの、いかにも清潔そうなきれいなうなじは、こうして日焼けすると、色気が増すな。そう思っているのは、俺だけじゃないだろ。鬱血の跡が残っている。昨夜誰かが吸い付いたんだな」 そんなことを言いながら、うなじをベロリと舐め上げられる。さらに首筋にも唇が這わされ、耳朶に軽く歯が立てられていた。足元がふらつき、堪らず和彦は窓に手を突く。「髪はもう少し短くして、しっかりと耳を出したらどうだ。着物がもっと映える。あんたが自分で思っているより、あんたは着物が似合う。もっと着てほしい。色男がきちんとした格好をしているのは、見ていて気持ちいいしな」 勝手なことを言う男の片手が、ポロシャツの上から和彦の体を撫で回してくる。昨夜、三人もの男たちに愛された体はまだ脆いままで、容易に肌がざわつく。ただ、この男は違うと、けたたましい警告音が頭の中で鳴り響くのだ。「やめてください、南郷さんっ……」 ようやく和彦が声を発すると、耳元で笑った気配がした。「ヤりすぎて、ふらふらになっているあんたは、目の毒だ。今朝、宿を出て行った長嶺の男たちは、対照的に精力が漲って、溌剌としていたがな。あんたを抱くと、何かしらありがたい効能があるのかもな」「……バカバカしい……」 吐き捨てるように応じて、南郷の腕の中から抜け出そうとしたが、それを許すほど甘い男ではない。肩を掴まれて体の向きを変えられていた。威圧的に南郷に迫られて後ずさろうとしたが、背に窓ガラスが触れる。 和彦の弱々しい抵抗を嘲笑うように、南郷は無遠慮な手つきでポロシャツの裾をたくし上げ、脇腹を撫で上げてくる。不快さばかりを訴える感触に、和彦は懸命に南郷を睨みつけるが、歯を剥き出すようにして笑いかけられ、反射的に目を逸らす。南郷の笑みは、まさに威嚇だった。 大きなてのひらが思わせぶりな動きで這い上がり、胸元をまさぐってくる。首筋に唇が押し当てられ、柔らかく歯が立てられたとき、和彦の足元から完全に力が抜けて崩れ込みそうになったが、逞しい片腕に支えられる。「い、やだ……」 南郷の顔が眼前に迫り、拒絶
**** 和彦がようやく目を覚ましたのは、午前十時を少し過ぎた頃だった。 全身の力を奪い取られたようなひどい脱力感と腰に残る疼痛に、昨夜の出来事が本当にわが身に起こったのだと実感し、しばし呆然としてしまう。 空恐ろしさと不安、強い羞恥といった感情にたっぷり苛まれていたが、いつまでも布団の中にいるわけにもいかず、苦労して布団から出て、なんとか着替えを済ませる。このとき気づいたが、誰かが丁寧に後始末をしてくれたらしく、行為のあと特有の肌に残る不快さはまったくなかった。それでも体の奥には、まだしっかりと、長嶺の男たちの残滓が感じられる。 守光に言われた言葉を思い返し、なぜだか胸の奥が疼いた。そんな自分の反応に、和彦は戸惑う。まるで、あの行為を喜んでいるようだと思ったからだ。 しかし、今はあれこれ考えるには、気力も体力もあまりに足りない。 深くため息をついてから、覚悟を決めて襖を開ける。隣の部屋を覗いてみたが、そこには誰の姿もなかった。 座卓に歩み寄ると、メモ用紙が置いてあり、そこに千尋の字で、賢吾とともに挨拶回りに行ってくると書かれていた。『ゆっくり休んで』という一言も添えられており、和彦としては苦笑を洩らすしかない。 ふらつく足取りで窓に歩み寄り、外の景色を眺める。 強い陽射しが降り注ぐ砂浜に人の姿はなく、海は穏やかだ。一昨日、海で泳いで楽しんだばかりだというのに、もう遠い日の出来事のように感じられる。一足先に、自分の中で夏が終わってしまったかのようだ。 ぼんやりしていた和彦だが、微かに携帯電話の着信音が聞こえて我に返る。自分の携帯電話だと気づき、反射的に室内を見回してから、慌てて隣の寝室に戻る。電話の相手は中嶋だった。『もしかして、まだお休みでしたか?』「いや、起きたところだ」『それはよかった。実は長嶺組長から、先生のお世話を頼まれたんです。本来なら三田村さんの役目なんでしょうけど、長嶺組長たちと一緒に出られたので、それで俺に』 内心、中嶋でよかったと安堵していた。ふらふらになっている自分の姿を、あまり三田村には晒したくなかったのだ。あらゆる痴態
欲望への愛撫に合わせて、ゆっくりと内奥を突かれる。「ふあっ……、あっ、あっ……ん、あぁっ――」 千尋にも賢吾にもない落ち着いた攻めに、和彦は静かに狂わされていく。自覚もないまま両足を大きく左右に開き、背をしならせるようにして、内奥深くで刻まれる守光の律動をよりしっかりと感じていた。「あんたはもう数えきれんほど、長嶺の男たちと交わり、精を受けてきた。こうして、じっくりと丹念に中にすり込まれていると、自分と長嶺の男たちと溶け合っているという感覚にならんかね」 守光の言葉に唆されたように、内奥を行き来する熱い欲望をきつく締め付ける。守光が抉るように内奥深くを突き上げてきた。「あんたのこの反応は、肯定と受け止めていいんだろう。――医者のあんたからすると、バカバカしいと嘲笑うかもしれんが、わしは、あんたが長嶺の血を受け入れてくれていると思っている。溢れるほどの精を受け入れ、情を受け入れ、子は成せんが、あんたは長嶺という家の繁栄のために欠かせない人間だ。宝だよ」 意識は朦朧としていても、守光がとんでもないことを言っているということはわかる。言葉が発せない代わりに和彦は必死に首を横に振るが、守光は薄い笑みを浮かべ、覆い被さってくる。唇を塞がれ、深い口づけを与えられていた。 内奥に深々と欲望を穿たれているうちに、肉の悦びの虜となる。浅ましく腰を揺らして、守光に応えていた。それを待っていたようにこう囁かれる。「この先もずっと、長嶺の男たちの側にいてくれ。よく尽くし、よく支え、よく愛してほしい。その見返りとして、わしらも、あんたに尽くし、支え、愛す。今晩のこれは、その契約を交わすためだ。決して裏切ることのない、裏切ることを許さない、血の契約だ」 守光の言葉は、恫喝だ。この状況で和彦が逆らえるはずもなく、否という返事を、長嶺の男たちは最初から聞き入れる気はない。 恐怖に押し潰されても不思議ではないのに、和彦の体は歓喜していた。頭上に伸ばした両手を、それぞれ賢吾と千尋に握り締められ、反射的に握り返してしまう。「ぼ、くは――、何も、できな……」「あんたは、あん
和彦は背を弓なりに反らして、意識が舞い上がるような感覚に襲われる。ほんのわずかな間だったのか、それとも何十秒も続いていたのか認識できなかったが、ふと息苦しさを感じて、大きく息を吸い込む。同時に、一気に体中の力が抜けた。「大丈夫か?」 そう問いかけてきた賢吾に、和彦は頷き返すこともできない。頭がふらつき、自分の体も支えられないのだ。見かねたように千尋が腕を伸ばしてきて、抱き寄せられる。賢吾との繋がりが解けた途端、内奥からドロリと二人分の精が溢れ出し、反射的に体を強張らせる。できることなら、こんな姿を見られたくないのに、長嶺の男たちは気にしないどころか、むしろ自分たちの成果として確認したがった。「嫌、だ……」 和彦は弱々しい声で訴えたが、当然のように聞き入れられない。今夜、できうる限りの淫らな行為に耽りたいという思いが、男たちにはあるようだ。 布団に仰向けで横たえられ、力をなくした両足を容赦なく賢吾に掴み上げられる。二人の男の欲望にこじ開けられ、擦り上げられた内奥は閉じることもかなわず、浅ましくひくついている。白濁とした精を垂らす一方で、組み紐で縛められた欲望は反り返ったまま、先端を透明なしずくで濡らしていた。和彦の淫奔さを雄弁に物語っている部分を、まるで視線で愛撫をするかのように、三人の男たちに凝視される。 快感で蕩けた頭でも、わずかながら羞恥を感じる思考力は残っていた。和彦はやめてくれるよう哀願していたが、当然のように無視された。「うあっ、あっ――……」 欲望に巻きつく組み紐をなぞるように、賢吾の舌先が卑猥に動く。欲望を舐めているようで、直に舌先が触れているわけではないもどかしい刺激に、和彦は腰を揺らす。呻き声を洩らすと、枕元に這い寄ってきた千尋が身を伏せ、和彦の唇をペロリと舐めてきた。 父子の舌が、同時に和彦の欲望と口腔を嬲り始める。快感による地獄だと思った。これまでも、賢吾と千尋と同時に交わったことはあるが、ここまで切迫した感覚には襲われなかった。今の和彦は、とにかく与えられる快感が怖い。抜け出せなくなりそうで。 和彦のすべてを貪り尽くす前に、ようやく賢吾と千尋が体を離す。このとき
淫らな蠕動を始めた内奥の感触を堪能するように、少しの間動きを止めていた千尋だが、ゆっくりと律動を再開する。背に重なる千尋の胸元から、激しい鼓動が伝わってくるようだった。もしかすると、内奥で動き回る欲望の脈動かもしれないが、和彦にはもう区別がつかない。自身の鼓動が、狂ったように鳴っているせいだ。 神聖な儀式に立ち合っているかのように、和彦と千尋が繋がってから、他の長嶺の男たちは口を開かなかった。いや、これは立派な儀式なのだ。和彦に、長嶺の男たち共有のオンナとしての、見えない刻印をつけるための。 自分はとっくに長嶺の男たちに所有されていると思っていたが、男たちにとって、和彦のその認識はまだ生ぬるかったようだ。「ううっ、あっ、はあっ、はあっ――……」 千尋の熱い欲望が、爆ぜる。もう何度も、千尋の精を内奥で受け止めてきたというのに、それでもやはり、この行為は特別な気がする。千尋の欲望を締め付けたまま、和彦は再び軽い絶頂状態に陥っていた。 余韻なく千尋が体を離したが、そのことを寂しいと感じる間もなく、喘ぐ内奥の入り口に逞しい感触が擦りつけられ、挿入される。衝撃に、声も出せなかった。 乱暴に背後から突き上げられ、逞しい欲望を根元まで捩じ込まれるが、たっぷり潤っている和彦の内奥は貪欲に呑み込み、淫らな襞と粘膜で包み、締め付ける。「――あれだけ美味そうに千尋のものを味わっていたのに、俺のことも欲しがってくれるのか、和彦」 笑いを含んだバリトンで意地悪な言葉を紡ぐのは、賢吾だった。しっかりと腰を掴まれたかと思うと、次の瞬間には、上体が浮き上がる。一体何が起こったのか、すぐには理解できなかった和彦だが、視線を上げると、正面に千尋がいた。傍らには守光が。「あっ」 繋がったまま賢吾の腰の上に座らされているのだと気づき、和彦は激しくうろたえる。腰を浮かせようとしたが、内奥深くまで賢吾の欲望に刺し貫かれていることを強く意識させられただけだった。「これ、嫌だ……」 和彦は弱々しく訴えたが、返事のつもりなのか賢吾が腰を揺すり、内奥を掻き回される。うなじに軽く噛みつかれて、全身が震えるほど感じて
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
嫌という生易しい感覚ではなかったが、さんざん快感を与えられ続けた体は、蜜を含んだように重く、思考もまた、同じような状態だった。 「―― 俺の〈オンナ〉の中を、指できれいにしてやってくれ。お前も、まったく知らない場所じゃないだろ。うちの組で、俺と千尋以外に先生の尻を開いてやったのは、お前だけだ」 ビクリと腰を震わせて、一瞬だけ和彦は抵抗しようとしたが、三田村の指が内奥に挿入されたとき、賢吾の腕の中で悶え、溶けていた。**** 長嶺の本宅で、布団に横になっていた和彦は、三田村の手を取って胸元に
決して贔屓目ではなく、千尋の存在感は特別なのだ。さきほど、実家の仕事のせいで孤立していたと話した千尋だが、本当はそれだけではないだろうと和彦は考えている。魅力的な存在は、人を惹きつける一方で、それが過ぎて、近づくことを臆させてしまうものなのだ。 和彦の視線に気づいたのか、千尋が手にしたTシャツを胸元に当ててこちらに見せてくる。似合っているという意味を込めて和彦が頷いて見せると、子犬のような素直さで、千尋がパッと顔を輝かせる。 「……ああして見ると、本当に、いいところの坊ちゃんにしか見えないんだがな……」 千尋の屈託ない表情につられて、口中でそう呟きなが
「――お前は、俺たちのオンナだ」 和彦の唇を何度も啄ばみながら賢吾に囁かれる。背後から緩やかに内奥を突き上げてくるのは、衰えを知らないほど滾った千尋の欲望だ。何度となく押し開けられ、擦り上げられているため内奥は痺れたようになっているが、それでも愛されると、応えようとして懸命に欲望を締め付けてしまう。 布団に両膝をついた姿勢で小さく喘いだ和彦は、座っている賢吾の肩にすがりつく。賢吾の片手は、さきほどから和彦のものを巧みに扱き続けていた。 「そう言われるたびに、先生は傲然と顔を上げろ。性質の悪いヤクザ二人に、これ以上なく愛されて、大事にされている色男の顔を、