Masuk本気なのか冗談なのか、感嘆するようにそう洩らした賢吾が、秘裂を指先でまさぐってくる。次の瞬間、ぐっと尻の肉を割り開かれ、露わになった内奥の入り口に柔らかく濡れた感触が触れた。
「ひっ……、ううっ……」 快感にひどく脆くなっている部分は、大蛇の舌先の動きを歓喜し、容易にひくつく。「熟れた肉だな」 独り言のように低く呟いた賢吾は、執拗に内奥の入り口を舐め、蕩けそうに柔らかくなったところで舌先でこじ開けてくる。腰を揺らし、背をしならせて反応しながら和彦は、片手を自分の下肢へと伸ばす。欲望が、ゆっくりと身を起こしていた。「あっ、あっ……ん、んっ、んうっ」 内奥に一本の指が挿入され、それだけの刺激で和彦はビクビクと全身を震わせて、軽い絶頂に達していた。「感じすぎだろ、和彦」 揶揄するようにそう声をかけてきた賢吾だが、内奥で蠢く指は否応なく和彦の官能を引きずり出し、高めていく。小刻みに出し入れされ、ざわつく襞と粘膜「今さっき言ったばかりなのに、君はまだ、おれを高潔な男だと思っているんだね」 ようやく肩から手が離れたかと思うと、スッと頬を撫でられる。和彦が顔を上げると、里見は、今度は頬を包み込むようにてのひらを押し当ててきた。冷たくなった頬に、じんわりと里見の体温が伝わってくる。 和彦は自分から、ふらりと里見に身を寄せていた。「おれは十三年前に君と離れてからも、一度だって君を想わない日はなかった。君の姿が、記憶から薄れていくのが嫌で、最低なこともした。いや、している」「何? 最低なことって……」 それは、と洩らして唇を引き結んだ里見だが、和彦が向ける眼差しに決意を促されたように、再び口を開いた。「おれは、君の――」 次の瞬間、里見の言葉を遮るものがあった。まるで獣が唸ったような、獰猛な声が割って入ったのだ。「これから駆け落ちでもしようかって雰囲気だな、お二人さん」 和彦と里見は、声がしたほうを同時に見る。いつからいたのか、坂を下った先に南郷が立っていた。威嚇するように荒々しい空気を振り撒いており、明らかに気が立っている。 里見がさりげなく片腕で、和彦を庇う。南郷がどういう人種の男なのか、一目で見抜いたようだ。一方の南郷は、身を寄せ合う和彦と里見の姿に、不快げに顔を歪めた。初めて見せる表情だ。「まさか、ここからこっそり抜け出そうと、事前に決めていたのか?」 そう問いかけてきながら、南郷がゆっくりと坂を上がってくる。睨め付けるような視線が里見に向けられ、ざわりと総毛立った和彦は、慌てて里見と南郷の間に立った。「そんなことしてませんっ。ただ、ここで立ち話をしていただけです」「総和会には、こんな男が同席するなんて連絡は入っていなかった。意図的に隠していたということだ。――で、そんなあんたらの話を信じろと?」 目の前に立ちはだかった南郷だが、和彦ではなく、里見を見据えている。獲物として狙いを定めたのだ。対する里見は落ち着き払っており、どこか挑発するような、冷めた目で南郷を見つめ返した。「わたしは、佐伯さんに言われて来ただけです。そんな話は聞いていないというなら、それ
和彦の知る里見という人物は、性格は穏やかで優しく、恵まれた容貌を持つうえに、世間的にはエリートと呼ばれる職業にも就いていた。誰もが羨む存在で、そんな里見が常に自分を気にかけてくれていたことが、和彦の心の支えであり、自慢でもあった。 里見を捨てるなどと考えたことはない。大学入学を機に、距離を置こうと里見から言われたとき、和彦の心にあったのは、送り出してくれようとしている里見の気持ちを無碍にしたくないという想いだった。 それと、順風満帆な里見の人生の、足枷だけにはなりたくないとも。今もその気持ちは変わらない。 しかし、今日までの和彦に情愛を注いでくれたのは、もう里見一人ではないのだ。 和彦は感情の高ぶりを懸命に堪え、ぎこちなく深呼吸をする。どう思われようが、言っておかなければいけないことがあった。「――……里見さんが大人でよかった。ぼくの中で、いい思い出になっているんだ。里見さんと一緒にいられたことは。だから、父さんに協力なんてしないでほしい。……綺麗事ばかり言うつもりはない。ぼくは今の生活で、大事にしてもらってるんだ。利用されているだけだと言う指摘もよくわかっている。それでも……、そうされてもいいと思うだけのものは、もらっている」 里見は、すぐには何も言わなかった。ただ、納得したように小さく数度頷き、瞬きもせず和彦を見つめている。いや、観察していると言ったほうがいいかもしれない。 足元を這い上がってくるのは、怯えだった。自分が知っている里見ではなくなったのかもしれないと、このとき初めての感覚に和彦は襲われる。それを悟られまいと、肩を竦めて笑いかける。「ここ、寒いね。コートを置いてきたから……。中に戻ろうか」 和彦は坂の途中で引き返そうとしたが、肩を掴む力は緩まない。おそるおそる見つめ返した先で、ため息交じりで里見が呟いた。「ああ、佐伯さんが、おれに協力を求めた理由がよくわかったよ」「……何、里見さん?」「君に今必要なものを、おれなら引き出せると思ってくれたのかもしれない」
里見の真意はわかっているつもりだ。生々しい話をするのに、俊哉の耳を気にしたくないということだ。和彦も同じ気持ちではあるが、逡巡する。 今晩は俊哉と二人で話をするために場が設けられたはずなのに、里見がいて、さらに部屋を抜け出そうというのだ。俊哉の反応も気になるが、それ以上に、南郷に知られたときが怖い。「佐伯さんには事前に相談して許可はもらったし、店にも協力を取り付けてある。ここは、いろんな立場の人間が密談で使っている店だ。抜け出してもバレないはずだ」 里見にここまで言われて、結局和彦は頷いていた。 取られた手を引かれるまま、里見が待機していた部屋から、来たときとは違う廊下へと出る。客同士が顔を合わせないよう、かなり配慮した造りになっているようだ。 廊下を通っていくと、狭い玄関へと出る。隣には板場があるらしく、威勢のいい声がときおり聞こえ、仲居も出入りしているが、客である和彦と里見の姿を見ても、驚くでもなく会釈をして通り過ぎていく。こっそりと客がここから出入りすることに、どうやら慣れているらしい。 並んで置かれたサンダルを履いて外に出ると、緩やかな勾配の坂があり、そこを下ると車がやっと通れるほどの道に出られる。辺りに人影はおろか、通りかかる車もなく、街中だというのに非常に静かだった。「――今なら、怖い連中に悟られることなく、君を連れ去ることができる」 坂の途中まで下りたところで、ふいに里見がそんなことを言い出す。和彦はピタリと足を止め、先を歩く里見の背を凝視した。 体つきが変わったことを、よりはっきりと感じられる後ろ姿だった。会わないままに流れた十三年という年月に思いを巡らせたが、あまり時間がないことを思い出す。 和彦は意を決して、同じ質問をもう一度里見にぶつけた。「ぼくたちのことを、父さんに話したんだね……?」 ゆっくりと振り返った里見は微苦笑を唇の端に刻み、首を縦に動かした。「話した。だけど、君のお父さんは――、佐伯さんは、全部知っていたよ」 思いがけない告白に、和彦は絶句する。そんな和彦の顔を、里見は気遣わしげに覗き込んでくる。「驚いたよね。わたしは、
襖を閉めた和彦は、涙が出そうになるのを堪えながら里見に詰め寄った。「どうして、里見さんがここにっ?」 感情の高ぶりのままに声を荒らげたが、すぐに、襖一枚を隔てた俊哉の耳を気にする。 突然の里見との再会に動揺する和彦とは対照的に、里見は落ち着き払っていた。こういう状況になることは織り込み済みだったのだろう。すべてを俊哉に打ち明けて、今晩のことも打ち合わせをしていたのだ。 南郷の迎えの件も含めて、和彦だけが何も知らされていなかった。 ふうっと深く息を吐き出した途端、足元が軽くふらつく。当然のように里見の手が肩にかかり、和彦の体を支えた。このとき互いの距離の近さを意識し、反射的に後ずさろうとしたが、里見にぐっと肩を掴まれた。 包容力と知性を兼ね備えた、年齢を重ねた分だけ深みが増した容貌は、抗い難いほどに和彦の視線を奪ってしまう。一度目が合えば、もう逸らせなかった。記憶にある優しげな眼差しは、今は燃えるような熱情を湛えている。 この男は、こんな目をする人だっただろうかと違和感を覚え、どうしてだろうかと疑問に感じたが、それも一瞬だ。 和彦はすでに、里見に甘やかされていた子供ではない。大人となり、里見以外の男たちと関係を持つという経験を経てきたのだ。昔と同じような目で見てほしいとは、口が裂けても言えない。 里見は、かつての和彦との関係を話した対価として、俊哉から一体どれだけの事情を聞かされたのだろうかと、自虐的に和彦は想像する。 軽蔑の眼差しを向け、罵ってもいいはずなのに、それでも里見は、会いたかったと言ってくれた。嬉しさよりも、ただ胸が苦しくなってくる。「……父さんから、全部聞いたんだろう? 里見さんを、これ以上巻き込みたくないんだ。すぐ近くに、ぼくの見張りが……、ヤクザがいるんだ。目をつけられたら、厄介なことになる」「気にしてないし、平気だ」「気にしてよっ」 再び声を荒らげてから、襖の向こうの俊哉を気にかける。「覚悟は決めている。――君のお父さんから、協力してほしいと言われたときから」 里見は慎重に言葉を選ぶよう
「お前に行ってもらう場所がある。どこに、とはまだ言えない。誰にも……、総和会や長嶺組だけでなく、家の者にも悟られたくない」「……家の者というのは、母さんや兄さんのことだよね」「そうだ。ある人物と約束した。絶対に和彦を行かせると。その約束を守るために、お前もなんとしても、長嶺の人間たちを説得しろ。もっとも、お前が逃げ出さないという保証のために、何を欲しがるやらわかったもんじゃないが。さすがに、体の一部を置いていけとまでは言わないだろう」 仮に言ったとしたら、それでも俊哉は、従えと命令するのだろうか。 我ながら悪辣ともいえる想像に、和彦はゾッとする。ゾッとするといえば、いまさら実家にどんな顔をして出向けばいいのかということだ。 和彦は、英俊や母親から投げつけられるであろう蔑みの眼差しを想像して、吐き気を催しそうになる。いや、どんな眼差しにしろ向けられるだけ、マシなのかもしれない。いないものとして扱われる可能性の高さを思えば。「――……父さん、数日だけでも、ぼくは家に帰るつもりはないよ……」「わたしが、帰って来いと言っている。拒否することは許さん」 予期した通りの答えに、震えを帯びた息を吐き出す。俊哉に対する、和彦なりの控えめな怒りの発露だった。「説得する気もなく、一方的に言って済ませるなら、電話でもよかったはずだ。こんな……、手のかかることをして」「お前が無事なのか、この目で確かめる必要がある。それに今回は――」 意味ありげに俊哉が視線を向けたのは、さきほど南郷も気にしていた部屋の奥にある襖だった。「どうしても、お前に会いたいという人間を連れてきた」「……誰?」「お前もきっと、また会いたかったはずの人間だ」 咄嗟に頭に浮かんだ男の名を、俊哉にぶつけることはできなかった。困惑する和彦に対して、俊哉は軽くあごをしゃくる。「どうせ、食欲はないんだろう。久しぶりの〈逢瀬〉を楽しんできたらどうだ」 にこやかな
「あれに言う必要がどこにある。――鷹津くんとの連絡役をさせたことがあるが、あとから、ずいぶん露骨に探りを入れられて、辟易したんだ。総和会と接触を持って、お前と会ったなどと知ったら、もっと面倒なことになる」 鷹津と英俊が接触していたと知り、不可解な感情が和彦の中で芽生えたが、それがなんであるか分析するには至らなかった。ただ、英俊は鷹津のような男は苦手だろうなと考え、ふっと苦笑が洩れる。かつての自分がまさに、鷹津を毛嫌いしていたことを思い出したのだ。 ここで和彦は、こちらをじっと見つめている俊哉と目が合った。途端に、怜悧な眼差しを意識することになる。 食欲はなかったが、自然に視線を逸らすために料理に手を伸ばす。胡麻豆腐に箸を入れようとして、隠し切れないほど手が震えた。「――何をそんなに緊張することがある。久しぶりの、父親との食事だろう。この間会ったときは、自分が囲われ者になっていることに対する後ろめたさ故かと思っていたが、それだけではないな」 俊哉はさらに声を潜め、探るように言った。「怖い夢でも見たか?」「……夢?」「お前がずいぶん小さい頃、よく夢を見てはうなされて、飛び起きてもいた。小学校に入ってしばらく経った頃には、忘れたようにそんなこともなくなったが。一度、どんな夢を見ているのか、お前に聞いたことがある。そのときお前は――」 父親と向き合って話していた実家の書斎の光景が蘇り、忌避感が和彦の口を動かす。「聞きたくない。……というより、思い出したくない。ううん。覚えてないんだ、ぼくは。父さんが言おうとしていることを」「そういうことにしたい、ということか。現状、それが最善の手だろう。もし、お前が何か重大な秘密を隠していると知ったら、お前の周囲にいる男たちは、鬼に変わるかもしれない。それこそ、お前に痛みを与えて、強引に口を割らせるかもな」 どうしてこんなことを言い出すのか、ひどく和彦は気になった。同時に、胸騒ぎを覚える。俊哉は何か、とんでもないことを言い出すのではないだろうか、と。 急に席を立ちたくなったが、実行に移す前に俊哉がこう続けた。「今、
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう