登入「俺、春まで佐伯さんと会えません。いくら、目に焼き付けておいても、記憶は絶対に薄れます。だから、映像として残しておきたいんです。いつでも眺められるように」
玲は本気で言っていた。だからこそ、困るのだ。和彦はこれまでに浅ましい姿を撮られた経験はあるが、はっきり言って、トラウマになるほど嫌な記憶となっている。玲本人に悪意はなくても、それ以外の人間が悪意を持って利用する可能性はいくらでもある。「ダメだ。……恥ずかしい、から……」 本当の理由は、玲には言えない。しかし、今すぐではなくても、玲なら察するはずだった。「こんなに、きれいなのに――」 機嫌を損ねた様子もなく、名残惜しげにそんなことを言った玲が、覆い被さってくる。和彦は、両腕でしっかりと抱きとめた。「……昨日から思っていたけど、君は末恐ろしいな」 和彦の言葉に、玲がちらりと笑む。「俺、ヤクザになりそうに見えますか?」「そういうことじゃなくて&「俺、春まで佐伯さんと会えません。いくら、目に焼き付けておいても、記憶は絶対に薄れます。だから、映像として残しておきたいんです。いつでも眺められるように」 玲は本気で言っていた。だからこそ、困るのだ。和彦はこれまでに浅ましい姿を撮られた経験はあるが、はっきり言って、トラウマになるほど嫌な記憶となっている。玲本人に悪意はなくても、それ以外の人間が悪意を持って利用する可能性はいくらでもある。「ダメだ。……恥ずかしい、から……」 本当の理由は、玲には言えない。しかし、今すぐではなくても、玲なら察するはずだった。「こんなに、きれいなのに――」 機嫌を損ねた様子もなく、名残惜しげにそんなことを言った玲が、覆い被さってくる。和彦は、両腕でしっかりと抱きとめた。「……昨日から思っていたけど、君は末恐ろしいな」 和彦の言葉に、玲がちらりと笑む。「俺、ヤクザになりそうに見えますか?」「そういうことじゃなくて……、すごいタラシに、なりそうだ」 瞬く間に笑みを消した玲が唇を塞いできながら、もどかしげに腰を動かし、内奥の入り口に熱く硬い感触を押し当ててきた。先端を擦りつけられたかと思うと、一気に挿入された。 それでなくても敏感になっている襞と粘膜を強く擦り上げられ、電流にも似た快感が繋がった部分から這い上がっていく。和彦は玲にしがみつきながら、ビクビクと腰を震わせていた。 内奥の感触を堪能するように、玲はすぐには動かなかった。おかげで和彦も、内奥で息づく逞しい感触をじっくりと感じることができる。二人は荒い呼吸を繰り返しながら、さらに繋がりたいとばかりに、唇を吸い合い、舌先を擦りつけ合う。「――好きです、あなたのこと」 ようやく緩やかな律動を刻み始めたところで、唐突に玲が告白してきた。畳の上ですっかり蕩けていた和彦は、汗が浮かんだ凛々しい顔を撫でる。「ありがとう……」「……本気にしてないですね。それとも、高校生がセックスを覚えたばか
玲は、昨夜の自分の愛撫を辿るように、和彦の肌に唇を押し当て、強く吸い上げる。すると、より鮮やかな鬱血が残る。さりげなく玲の指先が、胸のある部分を掠めた。「あっ」 和彦が声を上げると、玲が見上げてくる。和彦の反応を確かめるように、もう一度、硬く凝った胸の突起を指先でくすぐる。今度はピクリと胸を震わせると、玲は満を持したように突起を口腔に含んだ。「あっ、あぁっ――……」 熱く濡れた感触に包まれ、いきなり痛いほど強く吸われる。だが、和彦の胸に広がったのは、小さな快感の波だった。もう片方の突起は指の腹で押し潰すように弄られ、摘み上げられる。 ようやく顔を上げた玲が、真っ赤に色づき、先端を尖らせている突起を満足げに見下ろす。「……ここも、気持ちいいんですね。すみません。昨夜は気づかなくて」 高校生にまじめな口調でこんなことを言われると、どんな卑猥な言葉を囁かれるよりも恥ずかしい。うろたえて返事もできない和彦に対して、玲はふっと目元を和らげた。「今の顔、可愛いです」「なっ……に、言ってるんだっ……。この状況で、人をからかうな」「からかってないです。本当に――」 誘惑に抗えないように、玲が再び突起に吸いつき、今度はそっと歯を立ててくる。甘噛みされて、ジンと胸が疼いた。 夢中で愛撫しているようで、玲はしっかりと和彦の反応をうかがっている。優しく舌先でくすぐりながら、ときおり乱暴に吸い上げ、さらに歯列を軽く擦りつけてきて、和彦がどのタイミングで切ない声を上げるか知ると、執拗に同じ愛撫を繰り返すのだ。「――昨夜より、余裕がある」 玲の少し硬い髪を撫でながら和彦は呟く。顔を上げた玲が、すかさず唇に吸いついてきた。「俺、ですか?」「君以外、誰がいる」「全然、余裕なんてないです。もう、こんなになってますから……」 唇を触れ合せながら玲が身じろぎ、何をしているのかと思ったとき、和彦の両足の間にぐっと押しつけられたのは、高ぶった欲望だった
やはり、組長の息子というものは食えないと、和彦は苦々しく思う。脅されているのかもしれないが、玲の口調は切実で、悪意とは無縁に思える。それどころか――。 和彦は軽くため息をつくと、伸ばした片手で玲の頬を撫でる。それだけで玲は、心地よさそうに目を細めた。「もう、気は済んだだろう。君は夢の中で〈オンナ〉に触れて、好奇心は満たされたはずだ。現実的に考えたら、ぼくは、君より一回り以上も年上の男だ。しかも、面倒な事情をたっぷり抱えている。脅すわけじゃないが、ぼくの背後にいるのは、怖い男と組織ばかりだ」「俺のこと、心配してくれているんですね」「都合よく受け止めるなっ。ぼくがっ……、これ以上の面倒は嫌なんだ」「父さんが言ってました。特別なオンナには、面倒くさい環境や事情がつきものだって。だけどそれが、オンナを守る檻になるとも」 玲の発言を聞いた和彦は、前に御堂が、本物の檻に閉じ込められた経験があると仄めかしていたのを思い出す。誰がそんなことをしたのか、なんとなく察しがついた。「俺はまだガキなんで、大人や組織の難しいことはわからないですし、考えたくないです。受験生だし」「……便利な言い訳だな」「便利だから、今のうちに使っておかないと、もったいないなって……」 悪びれない玲の物言いに、つい和彦は、ふふっ、と声を洩らして笑ってしまう。慌てて表情を取り繕おうとしたが、もう遅い。和彦が本気で怒っているわけではないと瞬時に理解したらしく、玲が再び覆い被さってきた。「おい、こらっ、退くんだ」 和彦は窘めるが、すでに玲の目の色は変わっている。「玲、くん……」「オンナじゃなく、あなたを抱きたい。佐伯和彦という、一回り以上年上の男の人を」 玲の囁きが体の内に入り込む。繊細で感じやすい部分をくすぐられたようで、和彦は甘い眩暈に襲われていた。 昨夜、さんざん身をもって実感していたはずなのに、改めて思い知らされる。高校生とはいっても、自分に覆い被さっているのは紛れもなく、若くしなやかな体と心を持った青
** ホテルでの朝食から戻ってきた和彦は、自分が使っている部屋を簡単に片づけると、やることがなくなってしまう。 今日、自宅マンションに戻るのだが、総和会からの呼び出しをうまく避けられるよう、連休を目一杯使ってこいと賢吾に言われているため、夕方近くまで御堂の実家に滞在させてもらうことになっている。つまり、それまで暇なのだ。 散歩にでも出かけたいところだが、そうなると、近くにあるという清道会の事務所から、わざわざ護衛のための組員を呼ぶことになる。その手間を思うと、考えるだけで億劫だ。 同じ屋根の下にいる御堂は誰かと電話で話し込んでおり、見るからに忙しそうな様子に、とても話し相手になってほしいとは言えない。 朝食後に聞かされた、伊勢崎父子の動向について気になっているのだが――。 Tシャツに着替えると、体に残る疲労感に耐えかねて、畳の上をごろりごろりと寝転がっていた和彦だが、覚悟を決めて起き上がる。 ここに戻ってくる車中では、なんとなく玲と会話が交わせなかった。何事もなかったように、このまま別れてしまうのが無難なのだろうが、それを許せない自分がいる。どうせ、さまざまな感情に責め苛まれるなら、抱えた疑問を少しでも解消しておきたかった。 和彦自身のためというのもあるが、結果として、長嶺組の――長嶺の血を持つ男たちのためになるのかもしれない。 和彦は、静かな廊下を通って玲が使っている部屋へと出向く。玲は、帰り仕度をほぼ終えていた。バッグだけではなく、土産物などが詰まった紙袋が四つ並んでいる光景に、思わず笑ってしまう。「すごい量だな。帰りは飛行機なんだろ」「御堂さんが、ここから宅配で送ると言ってくれたんで、甘えることにします」「それがいいよ」 ここで会話が途切れる。和彦が立ち尽くしたまま次の言葉を迷っていると、畳の上に胡坐をかいて座り込んだ玲が、自分の傍らを手で示した。和彦は引き戸を閉めると、玲の側に座る。「――もうすぐ君の迎えが来るようだから、最後にきちんと挨拶をしておこうと思ったんだ。ホテルでは、大人げない態度を取ってしまったし」 ようやく和彦が切り出すと、玲はほっとしたよう
慌てて水をとめた和彦は、ハンカチを取り出しながら洗面台の前から退く。「ぼくは先に出ているから――」 玲の横を通り過ぎようとして、腕を掴まれた。ハッとして玲を見ると、ひどく苦しげな顔をしていた。さきほどまで、愛想よく大人たちの会話に加わっていた青年と同一人物とは思えない。「玲くん……?」「――……佐伯さんの態度が、気になったんです。車の中で、俺と御堂さんが話をしてから、なんとなく、佐伯さんがよそよそしくなったみたいで。それに食事をしている間は、得体が知れないものを見るみたいに、ときどき俺のことを見てました」 聡い子だなと、内心で驚きながらも和彦は、感情が表に出ないよう努める。「気のせいだよ。……ちょっと驚いただけだ」「佐伯さん、ヤクザは嫌いですか?」「そんなことは言ってないっ」 思わず声を荒らげた和彦は、すぐに我に返って口元に手をやる。「……嫌いなんて言う権利はない。ぼくは、そのヤクザの稼ぐ金で生活しているんだから」「じゃあ、俺のことは嫌いですか?」 玲に試されていると、一瞬にして悟った。キッと睨みつけ、腕を掴む玲の手を振り払う。「言っただろう。夜が明けたら、夢は終わりだと。君はあくまで、連休の間、一緒に連れ立ってあちこち行っただけの仲だ。だから、互いの事情に首は突っ込まない。……そのほうが、いい別れ方ができる」 そう言い置いて和彦は、足早にレストルームを出る。出入り口のすぐ側に護衛の男たちが立っていたため、不意をつかれて面食らい、視線を逸らした先に、御堂が立っていた。和彦は、ちらりと背後を振り返ってから、御堂の元へと行った。「御堂さん、聞きたいことがあるんですが……」 声を潜めて話しかけると、灰色の髪を掻き上げて御堂は薄い笑みを浮かべた。「玲くんとの、車の中での会話のことかな」「……普通の高校生だとばかり思っていたので、あの物言いが気になって」
何事もなかったように御堂が正面を向く。和彦は困惑しながら、たった今交わされた二人の会話を頭の中で反芻する。具体的なことは何一つわからないが、ただ、ぼんやりと湧き起こるものがあった。 伊勢崎玲という青年は、本当にただの高校生なのだろうかという疑問が。** ホテルのレストランでの朝食の味は、正直よくわからなかった。 同じテーブルについた玲と御堂、そして綾瀬との一見和やかな会話に加わりながら、和彦はさりげなく視線を周囲のテーブルへと向ける。一つのテーブルには、和彦たち三人の移動中からついていた護衛が。別のテーブルには、綾瀬の護衛が座っている。 いまさら、この状況について何か言うつもりはないのだが、護衛に囲まれている自分の立場については、あれこれと思いを巡らせる。 酸味の強いオレンジジュースを一口飲んだところで、吸い寄せられるように玲と目が合った。周囲を、特殊な立場にある大人たちに囲まれながらも、玲は落ち着いて見えた。 地元では護衛はついていないと言っていたが、本当なのだろうかと、今になって疑ってしまう。車内での御堂とのやり取りが、和彦は引っかかっていた。 玲とは、知り合ってほんの数日――数十時間しか経っていない。それで、玲のことを知った気になったのは、体を重ねたからだ。そんな自分のささやかな驕りを突き崩されたようで、知らず知らずのうちに和彦の頬は熱くなる。 自戒も込めて、自身に言い聞かせるのは、玲のことはもう知りたくないし、知ってはいけないということだ。 穏やかな表情で玲に話しかけていた綾瀬が、さりげなく腕時計に視線を落とす。すかさず御堂が声をかけた。「仕事の時間が近いんでしょう? どうぞ、行ってください。みんな、ほぼ食事は終えていますから、誘っておきながら失礼だ、なんて言いません」「そう言って、さっさと俺を追い払いたいんだろう」「そんな薄情なことは思っていませんよ。ただ、気遣っているだけです。いろいろと、忙しいでのでしょう?」 いろいろと、という単語に微妙な含みを感じたのは、和彦だけではなかったようだ。綾瀬は目を眇め、物言いたげな様子で御堂を眺めていたが、ふっと口元を緩めた
****「――俺との約束を忘れたのかと思ったぞ」 春巻を一口食べて、味に納得したように頷いてから、唐突に澤村が切り出す。和彦は苦笑を洩らしながら、酢豚を堪能する。値段が手頃なランチメニューなのだが、値段以上の価値がある味だ。 先日、中嶋に連れてきてもらってディナーを食べた中華料理店に、ぜひもう一度訪れたいと思っていたところだったので、澤村とランチを一緒に、という約束を果たすには、うってつけの店だろう。 店はホテル内にあるため、常にさまざまな人が行き交っている。そのため、護衛をホテルの駐車場
「なるほど。先生のきれいな指が、他の男の体を這い回るのかと思うと、少しばかりムカつくな」「変な言い方をするなっ……。用が済んだんなら、ぼくはこれで帰るからな」 立ち上がろうとした和彦だが、すかさず手首を掴まれて引っ張られ、バランスを崩して賢吾の胸元に倒れ込む。そのまましっかりと両腕で抱き締められた。「先生への本題はこれからだ」 嫌な予感がした和彦は、露骨に顔をしかめて見せる。すると賢吾は表情を和らげてから、耳元に唇を寄せてきた。「頼みたいことがある」「……聞きた
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自