LOGIN腰を擦りつけるように動かすと、内奥を一度だけ突き上げられる。三田村の手は貪欲に和彦の体をまさぐり、快感の種火をさらに灯していく。それでなくても感じやすくなっている和彦は、指先の動き一つで簡単に身悶え、悦びの声を上げる。三田村は、快感に弱く淫らな和彦の体を堪能していた。
愛撫によってこれ以上なく和彦の心と体が蕩けてしまうと、満を持したように律動を開始される。 大きくゆったりとした動きで内奥を突かれ、その動きに合わせて和彦も腰を動かす。反り返った欲望が腹を打ち、透明なしずくをシーツの上に散らしていた。 単調な動きによって和彦の理性は突き崩され、尽きることなく悦びの声を溢れさせる。対照的に三田村は、何も言わない。それでも欲望の力強い脈動から、三田村の悦びを知ることはできる。 ゾクゾクと腰から這い上がってくる感覚があり、和彦は惑乱して首を左右に振る。その仕種に感じるものがあったらしく、三田村が内奥深くを抉るように突いてくる。和彦は声も出せずに絶頂へと上り詰めていた。 食い千切らんばかりに三田村の欲望を締め付けたまま、背をしなら**** テーブルに頬杖をついた和彦は、斜め向かいに座っている優也の様子をじっと見つめる。手土産の桜餅を食べながら。 最近、人と会う機会の多さに伴い、手土産も頻繁に選んでおり、すっかり和彦も楽しんでいる。今日はあえて和菓子を選んでみたが、優也はひょいひょいと口に運んだあと、手ずから淹れた渋めのお茶をぐいっと飲み干してから、黙々と和彦の話を聞いて、ときおりコピー用紙に何かを書き込んでいる。その合間にさりげなく、残りの桜餅が入った箱をテーブルの下に隠していたが、和彦は気づかないふりをする。気に入ってくれたのなら何よりだ。 ここは、優也の部屋だった。和彦が初めて足を踏み入れたときはひどい有り様だったが、今はすっかり片付いており、開け放たれた窓からは心地よい風が入ってくる。玄関に通されたときにさりげなく確認したが、城東会の組員によって切られたドアのチェーンは新しいものに取り換えられていた。 引きこもりから脱したのを物語るように、ハンガーラックには春物の服がかかっており、白のスプリングコートが特に目を惹く。 優也によく似合いそうだなと思ったときには、ふっと疑問が口をついて出ていた。「あの白のコート、自分で選んだのか?」「んあ? ああ、コート……。叔父さんが買ってきたんだ。出歩くようになったから必要だろうとか言って」「趣味がいいな」「あの人、結局のところシスコンなんだよ。僕の母さんが、似た色のコートを着てて似合ってたとか語り出してさ」「おとなしく聞いてたんだ」 和彦がニコニコしながら言うと、気恥ずかしそうに優也が視線を伏せる。 ひどい風邪で痩せ細って荒んでいた優也の姿しか記憶になかったのだが、久々に顔を合わせてみると、実年齢よりずっと若く見える彼のことを、叔父の宮森が過保護にするのもわかる気がした。 こけていた頬はいくらか肉がついており、血色のよさもあってずいぶん健康的に見える。それでいて華奢なあごのラインはそのままで、すっきりとした一重の目や、桜餅を二口で食べたとは思えない小さな口のおかげで、小動物のように愛らしい印象を受ける。人によって
「ヤバイ。俺もその場にいたかった。楽しそう」「……お前ならそうだろうな」 こちらは心臓に悪かったと、無表情で店内の備品を破壊し尽くす烏丸の姿を思い返し、少し遠い目をする。 庭を通り抜け、玄関前に戻ってきたところで、さらりと千尋に問われる。「気に入った? いつか和彦のものになるというビル」 この問いに答えるのはおこがましいなと、曖昧に笑って返す。本来は、紗香のものであったビルなのだと、そんな思いがどうしても拭えない。それに、総子と正時の決断次第では、綾香のものとなっていたかもしれないのだ。言葉は悪いが、棚ボタだと他人から謗られても和彦は反論できない。「何もかも急すぎて、本当に大丈夫なんだろうかと不安になる。……おばあ様が急ぐ気持ちもわかるんだけど」 先日実家に出向きながら、綾香の前から逃げ出した自分の行動を悔やむ。自分の口から、綾香に報告したいことがありすぎる。そして綾香の口からは、自分を産んだ女性のことを聞いてみたい。 紗香のことを考えるとき、和彦の心は頼りなくふわふわと揺れる。思い出にもなりきれない、しかし記憶というほどはっきりとした輪郭を持たない〈母親〉の存在に、いまだにどう寄り添えばいいのか戸惑うのだ。 敷地内の散歩を続行しながら、千尋はまだスマートフォンで地図を眺めている。転ぶぞと窘めると、聞こえているのかいないのか、千尋は首を傾げている。「千尋?」「――ビルがある辺りの住所、聞いた記憶があるんだよなー。けっこう前に、じいちゃんが話してたような……」「楽しい話題で出たと言ってくれ……」「いや、じいちゃんが電話で誰かと話してるのをちらっと聞いたぐらいで、そんなのを覚えてた俺の記憶力をまず褒めてよ」 和彦はおざなりに千尋の頭を撫でてやる。「……ここ、ヤクザの抗争とかある場所なのか?」「聞いたことないなあ。昔、地域の洗浄とか言ってヤクザが一掃されたらしいんだよね、そこからまた、いろんな組織が入り込んでぐっちゃぐちゃになって問題になっ
いつ誰から連絡が入るかわからず手放せないスマートフォンを、千尋は素早く操作する。歩きながら和彦も覗き込むと、地図の検索サイトが表示されている。「ビルの名前は?」「えっと、キリエ和泉ビル」 和泉家所有の物件名は、だいたい住所の地名と和泉姓を合わせて、非常にわかりやすいものになっている。「ビルの中に入ったんでしょう? どんな感じだった」 それが、と和彦は言葉を濁す。情報を出したくないということではなく、とにかく表現に困るのだ。悩む和彦に対して、千尋はニヤニヤとしている。その様子から察するものがあり、千尋の脇腹を肘で小突く。「お前、おもしろがってるだろ」「和彦って、波乱万丈な人生歩んでるなー、と思って。しかも予想外の方向で」「……何割かは、お前も責任があるんだからな」 話しながら歩いているうちに、庭に入る。稜人のための小さな公園が整備されている中庭から、いくつかの樹木が植え替えられており、うまく根が張ってくれるか今は様子見のようだ。それに伴い、あまり使っている様子のないゴルフの練習ネットが隅に移動している。孫可愛さで、ここもそのうち遊具であふれるのかもしれないなと、つい想像してしまう。「――……飲食店が多めの雑居ビルなんだ。最上階はオフィス専用で。五階建てだけど、この高さのビルにしては延床面積はかなりあると九鬼さんは言ってた。実際、ビルの中を歩いてみたけど、たくさんの店が入って迷路みたいに入り組んでて、ついて歩くのが精いっぱいだった。夜のほうがもっとにぎわってて人も多いと言われたけど、それでも、古いビルなのに活気があった」 活気がありすぎて、とんでもないトラブルに遭遇してしまったのだが。 昼間の出来事を思い出し、和彦は微妙に顔をしかめる。あの場に長嶺組の護衛がいなくて正解だったのだろう。そうでなければ、下手をすれば警察沙汰だ。「和彦、なんかおもしろいことがあったような顔してる」「別におもしろいことは……」「でもなんかあったんでしょ」 千尋の勘が鋭いのか、自分がわかりやすすぎるのかと自問しつつ、
** 夕方までに少しでも胃を軽くしたくて、和彦は千尋と共に靴を履いて玄関を出る。このまま外に散歩に出かけたいところだが、二人の立場ではそういうわけにはいかず、味気ないことこのうえないが、本宅の敷地内をぐるぐると歩く。利点としては、護衛がいらず、他人の耳も気にしなくていいというところだ。 千尋はハーフパンツのポケットに指を引っ掛けながら、ひらひらと目の前を飛んでいくモンシロチョウを目で追う。和彦は、そんな千尋を眺める。見た目だけなら、まだ十分学生で通るのだが、この青年は大きな組の跡目で、しかも子持ちだと思うと、なんとも味わい深い。しかもTシャツで隠れた背には、立派な刺青を背負っている。「虫取りって、子供好きだよね?」 突然の千尋からの問いかけに面食らいながらも、応じる。「たぶん。あー、でも、最近の子はどうだろうな。虫を怖がる子も多いんじゃないか」「うちの庭、けっこう昆虫が来るから、楽しめるかなと思って」 稜人のことかと、和彦は口元を綻ばせる。「部屋に、昆虫図鑑を置いてやったらどうだ。虫取り網に虫かごも準備して、夏になったら、セミも来るだろう」「ガキの頃、近所の公園でセミを採りまくって、それをオヤジの部屋に放ったことがある」「……わかってたけど、命知らずだな、お前。――で、そのあとどうなったんだ」 千尋は意味深に笑ってから、いきなり話題を変えた。「オヤジがウナギみたいだと言った男は、和彦を連れ回してどうしたかったの?」 戸惑ったのはほんの数瞬で、和彦は今日の出来事を思い返す。一応、九鬼と烏丸と出歩いている間中、つかず離れずの距離で護衛もついていたので、和彦の行動自体は長嶺組にも把握されている。ただし、あちこち足を運んだビルの中までは入ってこられなかったため、長嶺組がもどかしい思いをしていたと、千尋の表情から理解した。「和泉家が所有している不動産を見て回ったんだ。実物を見ておいたほうがいいと言われて。それに法務局にも連れて行かれて、登記簿謄本の取り方も教わった。社会勉強だそうだ。そのうち、資産管理会社に社員としてぼくも加わることになるみたいだから、その下
「手土産でいただいたんですよ。有名なパティシエのお店のものだとかで。先生がいらして、ちょうどよかったです」「ふらっと立ち寄ったのに、なんだか申し訳ないな。こんないいもの……」 そう言いながらも、和彦は遠慮なく食べ始める。「今日は朝から出かけられていたんですか?」「朝から、ついさっきまで……」「忙しかったみたいですね。お昼はきちんと食べられましたか?」「鰻重をご馳走してもらった。いつもなら、まだ胃がいっぱいなんだけど、動き回ったから……」 おかげでこの美味しいフルーツゼリーも食べられる。 この時間、いつもであれば笠野は夕食の仕込みで忙しいはずだが、今日は比較的のんびりしている。コンロの掃除を始めたところで、和彦は声をかけた。「もしかして今日はもう、キッチンは使わないのか?」「あー、先生はご存知ないんでしたね。花見会の日は、本宅に残っている人間は、外に食べに行くか、弁当をとります。組長について参加している組員も多いですからね。だったらいっそ、厨も休めという昔からの方針です。先生が食べる分ぐらいでしたら、すぐに準備できますから遠慮なく――」 和彦は苦笑いで断る。夕食は、マンションに戻る途中で食べればいい話だ。「そうか、花見会だった……」 九鬼の勢いに巻き込まれているうちに、すっかり頭から抜け落ちていた。「本宅のこの雰囲気だと、トラブルは起きてないみたいだな。それでも組長は大変だろう。延期の件で何か言われるたびに、苦虫を噛み潰したような顔をしてないといいんだけど」「むしろ、物騒な笑顔を浮かべていらっしゃるのではないかと」 そちらのほうが怖いなと、和彦が納得しかけたところで、廊下からにぎやかな足音が近づいてくる。案の定、姿を見せたのは千尋だった。「留守番ご苦労様」 そう言って和彦が笑いかけると、千尋は唇を尖らせる。「留守番じゃなくて、待機、って言ってほしいなあ。これでも、朝からずっとピリピリしてたんだよ。オヤジのことは少しも心配してない
ただの相続ではないと、確信めいたものがある。宝箱の番人を自負する九鬼の存在が、その証拠だ。 和彦に見せるためだけに準備したのか、九鬼はせっせと地図のコピーを片付ける。和彦の前には、役目を終えた猫の文鎮がなぜかずらりと並ぶ。誰が買い集めたのだろうかと思いつつ、ふと気になったことを尋ねた。「業務委託ということは、九鬼さんたちの会社があるということですか?」「一応名目上はセキュリティ会社とはなっていますが、和泉家専門の万事屋と考えてください。荒事、揉め事なんでもござれ。ややこしいかもしれませんが、すべてご夫妻が、和泉家の方と資産を守るために考えた仕組みです」 タイミングを見計らっていたように、パーティションの向こうからのっそりと烏丸が姿を現す。外から戻ってきたところなのか、Tシャツの首回りが汗で濡れて色が変わっている。こちらの髪型は、変わらず坊主頭だ。目が合い、互いに会釈を交わす。 九鬼と烏丸は立ったまま顔を寄せて打ち合わせを始め、あまりうかがうのも失礼かと、和彦は目の前に並ぶ猫の文鎮を眺める。どの猫も愛嬌があり、人慣れしていた和泉家の猫たちを思い出す。「――では、出かけましょうか」 つい前のめりとなって文鎮の猫たちの表情を見比べていると、九鬼に声をかけられる。心なしか口元が緩んでいるように見えるのは、目の錯覚ではないだろう。「えっ、どこに……」 慌てて和彦は立ち上がる。顎ひげをひと撫でして、九鬼はニヤリとした。「この会社が管理する物件のいくつかを見に。他に軽く社会見学を。実感が湧くと思いますよ。ご自分が、和泉家から大事にされているのだと。あとはまあ――餌を撒きに」 和彦は急いで、外で待つ護衛の組員に連絡を取る。その間に烏丸の姿が見えなくなり、エレベーターホールの前で再び顔を合わせたときには、ド派手な柄の開襟シャツに着替えていた。目を白黒させる和彦に、九鬼は笑いながら言う。「威嚇用ですよ。この強面と服見て、迂闊に近づいてくる人間はいないでしょう。今日は特に気合い入ってます」 なんだか楽しげな九鬼を横目に、賢吾の人物評の正しさをじわじわと実感する。烏丸はエレベーターに乗り込むときも黙っ