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第39話(40)

Author: 北川とも
last update publish date: 2026-07-17 11:00:41

 前後から快感を送り込まれて、ガクガクと足が震えてくる。緩く欲望を扱かれて、悦びのしずくを滲ませている先端を指の腹で撫でられると、もう耐えられなかった。咄嗟に三田村の腕に手をかけ、子供のように首を横に振ってしまう。

「三田村、それ、嫌だ……」

「これか、先生?」

 問いかけてくる三田村の声が笑いを含んでいる。先端を爪の先で弄られて、堪らず和彦は甲高い声を上げていた。欲望の括れを強く擦られ、内奥のある部分を指の腹で押し上げられると、快感の高みへと性急に追いやられていく。

 嫌、嫌と何度か口走っていたが、声に含まれた甘さを三田村が聞き逃すはずもなく、愛撫の手は止まらない。

 和彦は一声鳴いて、精を迸らせていた。内奥から指が引き抜かれ、絶頂の余韻にビクビクと震える体を、背後からきつく抱きすくめられる。

 息を喘がせながら和彦は、ぽつりと呟く。

「熱い……。湯あたりしたみたいだ……」

 首筋に三田村の息遣いを感じ、そっと首を巡
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  • 血と束縛と   第48話(38)

     いつ誰から連絡が入るかわからず手放せないスマートフォンを、千尋は素早く操作する。歩きながら和彦も覗き込むと、地図の検索サイトが表示されている。「ビルの名前は?」「えっと、キリエ和泉ビル」 和泉家所有の物件名は、だいたい住所の地名と和泉姓を合わせて、非常にわかりやすいものになっている。「ビルの中に入ったんでしょう? どんな感じだった」 それが、と和彦は言葉を濁す。情報を出したくないということではなく、とにかく表現に困るのだ。悩む和彦に対して、千尋はニヤニヤとしている。その様子から察するものがあり、千尋の脇腹を肘で小突く。「お前、おもしろがってるだろ」「和彦って、波乱万丈な人生歩んでるなー、と思って。しかも予想外の方向で」「……何割かは、お前も責任があるんだからな」 話しながら歩いているうちに、庭に入る。稜人のための小さな公園が整備されている中庭から、いくつかの樹木が植え替えられており、うまく根が張ってくれるか今は様子見のようだ。それに伴い、あまり使っている様子のないゴルフの練習ネットが隅に移動している。孫可愛さで、ここもそのうち遊具であふれるのかもしれないなと、つい想像してしまう。「――……飲食店が多めの雑居ビルなんだ。最上階はオフィス専用で。五階建てだけど、この高さのビルにしては延床面積はかなりあると九鬼さんは言ってた。実際、ビルの中を歩いてみたけど、たくさんの店が入って迷路みたいに入り組んでて、ついて歩くのが精いっぱいだった。夜のほうがもっとにぎわってて人も多いと言われたけど、それでも、古いビルなのに活気があった」 活気がありすぎて、とんでもないトラブルに遭遇してしまったのだが。 昼間の出来事を思い出し、和彦は微妙に顔をしかめる。あの場に長嶺組の護衛がいなくて正解だったのだろう。そうでなければ、下手をすれば警察沙汰だ。「和彦、なんかおもしろいことがあったような顔してる」「別におもしろいことは……」「でもなんかあったんでしょ」 千尋の勘が鋭いのか、自分がわかりやすすぎるのかと自問しつつ、

  • 血と束縛と   第48話(37)

    ** 夕方までに少しでも胃を軽くしたくて、和彦は千尋と共に靴を履いて玄関を出る。このまま外に散歩に出かけたいところだが、二人の立場ではそういうわけにはいかず、味気ないことこのうえないが、本宅の敷地内をぐるぐると歩く。利点としては、護衛がいらず、他人の耳も気にしなくていいというところだ。 千尋はハーフパンツのポケットに指を引っ掛けながら、ひらひらと目の前を飛んでいくモンシロチョウを目で追う。和彦は、そんな千尋を眺める。見た目だけなら、まだ十分学生で通るのだが、この青年は大きな組の跡目で、しかも子持ちだと思うと、なんとも味わい深い。しかもTシャツで隠れた背には、立派な刺青を背負っている。「虫取りって、子供好きだよね?」 突然の千尋からの問いかけに面食らいながらも、応じる。「たぶん。あー、でも、最近の子はどうだろうな。虫を怖がる子も多いんじゃないか」「うちの庭、けっこう昆虫が来るから、楽しめるかなと思って」 稜人のことかと、和彦は口元を綻ばせる。「部屋に、昆虫図鑑を置いてやったらどうだ。虫取り網に虫かごも準備して、夏になったら、セミも来るだろう」「ガキの頃、近所の公園でセミを採りまくって、それをオヤジの部屋に放ったことがある」「……わかってたけど、命知らずだな、お前。――で、そのあとどうなったんだ」 千尋は意味深に笑ってから、いきなり話題を変えた。「オヤジがウナギみたいだと言った男は、和彦を連れ回してどうしたかったの?」 戸惑ったのはほんの数瞬で、和彦は今日の出来事を思い返す。一応、九鬼と烏丸と出歩いている間中、つかず離れずの距離で護衛もついていたので、和彦の行動自体は長嶺組にも把握されている。ただし、あちこち足を運んだビルの中までは入ってこられなかったため、長嶺組がもどかしい思いをしていたと、千尋の表情から理解した。「和泉家が所有している不動産を見て回ったんだ。実物を見ておいたほうがいいと言われて。それに法務局にも連れて行かれて、登記簿謄本の取り方も教わった。社会勉強だそうだ。そのうち、資産管理会社に社員としてぼくも加わることになるみたいだから、その下

  • 血と束縛と   第48話(36)

    「手土産でいただいたんですよ。有名なパティシエのお店のものだとかで。先生がいらして、ちょうどよかったです」「ふらっと立ち寄ったのに、なんだか申し訳ないな。こんないいもの……」 そう言いながらも、和彦は遠慮なく食べ始める。「今日は朝から出かけられていたんですか?」「朝から、ついさっきまで……」「忙しかったみたいですね。お昼はきちんと食べられましたか?」「鰻重をご馳走してもらった。いつもなら、まだ胃がいっぱいなんだけど、動き回ったから……」 おかげでこの美味しいフルーツゼリーも食べられる。 この時間、いつもであれば笠野は夕食の仕込みで忙しいはずだが、今日は比較的のんびりしている。コンロの掃除を始めたところで、和彦は声をかけた。「もしかして今日はもう、キッチンは使わないのか?」「あー、先生はご存知ないんでしたね。花見会の日は、本宅に残っている人間は、外に食べに行くか、弁当をとります。組長について参加している組員も多いですからね。だったらいっそ、厨も休めという昔からの方針です。先生が食べる分ぐらいでしたら、すぐに準備できますから遠慮なく――」 和彦は苦笑いで断る。夕食は、マンションに戻る途中で食べればいい話だ。「そうか、花見会だった……」 九鬼の勢いに巻き込まれているうちに、すっかり頭から抜け落ちていた。「本宅のこの雰囲気だと、トラブルは起きてないみたいだな。それでも組長は大変だろう。延期の件で何か言われるたびに、苦虫を噛み潰したような顔をしてないといいんだけど」「むしろ、物騒な笑顔を浮かべていらっしゃるのではないかと」 そちらのほうが怖いなと、和彦が納得しかけたところで、廊下からにぎやかな足音が近づいてくる。案の定、姿を見せたのは千尋だった。「留守番ご苦労様」 そう言って和彦が笑いかけると、千尋は唇を尖らせる。「留守番じゃなくて、待機、って言ってほしいなあ。これでも、朝からずっとピリピリしてたんだよ。オヤジのことは少しも心配してない

  • 血と束縛と   第48話(35)

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  • 血と束縛と   第48話(34)

     どこを見ているのかわからない目をしながら、九鬼は手慰みのようにテーブルの上の文鎮に触れる。猫の丸い体を撫でる指先は男のものにしては細い。「あの……、おばあさまの口ぶりから気にはなっていたんですが、〈何か〉あるんですか? 昔は紗香さんの件で揉め事はあったようですが、今は――警戒しなければいけないようなことがあると?」「昔は、ではないんですよ。昔から今にかけてずっとあることです。ただ、和彦さんがいることで、脅威がより具体的になったと言いますか」 ここで九鬼がテーブルの上に広げた地図を示す。コピーして分割した地図を繋げただけなのかと思ったが、よくよく見れば、住宅地図を拡大コピーしたものだ。しかも、一枚一枚、場所がバラバラだ。「赤ペンで囲っているのが、和泉家が所有している不動産の場所です。書類の上で住所を眺めてもピンとこなかったでしょうが、これなら多少はわかりやすいかと思います。わたしの普段の主な仕事は、この地図の場所に出向いての管理です。不動産屋に委託もしていますが、任せっきりというわけにもいきませんから」 和彦は立ち上がり、じっと地図に見入る。和泉家――というより祖父母が持つ影響力をこんな形で見せつけられて、ゾッとするような寒気を感じた。「和泉家に厭われると、土地に厭われる……ですか」「いわゆる大地主さんですからね。あそこには貸したくない、売りたくない、とか言われると、でかいビルや商業施設を手掛けているような不動産開発業者ですら、まあ逆らうのは難しいですよね。わたしもたまにとりなしてほしいと泣きつかれたり、脅されたりしますけど、なんにもできません」 そう言う九鬼はひどく楽しそうだ。 イスに座り直した和彦は、気を落ち着けるために缶コーヒーに口をつける。ある程度は、総子や弁護士から説明を受けており、数えきれないほどの資料や書類にも目を通してきたが、それでもどこか現実味が乏しかったのだ。負担になるようなことはしなくていいし、信頼できる人物たちによってお膳立ても処理も済ませると言われては、そうなのかと納得するしかなかった。 クリニック経営ですら身に過ぎたものだといまだに思っている

  • 血と束縛と   第48話(33)

     そう言いながら九鬼は、和彦の隣に座った。和泉の家で食卓を共にしたときはあまり不躾に見ることはできなかったが、今は違う。和彦は、体の向きを変え、しっかりと九鬼と向き合う。自分にとっての味方となりうるか確かめるために。 今日の九鬼は、冬に会ったときより伸びたウェーブがかった髪を一つにまとめていた。こちらが職場でのスタイルなのかもしれない。きちんと手入れされた顎ひげにノーネクタイの黒のシャツ姿は、一見フランクそうな雰囲気も相まって、クリエイターっぽさがある。だがおそらく、地金は賢吾とそう変わらない。 和彦に値踏みされていると感じたのか、唇の端をわずかに上げた九鬼はシャツの片袖のボタンを外し、肘まで袖を捲った。現れたのは、手首近くまで彫られた刺青だ。特に目を惹く艶やかな赤。よく見ればそれは、陰影すら緻密に彫られた瑞々しい花弁だ。葉や茎は墨一色で彫られているせいか、より花の艶やかさが増して見える。「――牡丹の花ですよ。唐獅子とセットが定番なんですけど、若かった頃は、なんだかダサく思えたんですよね。そもそも刺青を入れるのを思いとどまれという話なんですけど」 九鬼はあっという間に袖を下ろしてしまい、結局牡丹の花の全容を見ることはできなかった。「まあ、つまり、わたしはこういう人間です。足は洗ってはいますが、今でもけっこうズブズブです」「ズブズブ……ですか」「わたしの仕事はね、宝箱を守る番人のようなものだと思っています。宝箱にいいものが入っていると気取ると、いろんな悪党が寄ってきて、中身を暴こうとするどころか、盗もうとする。そうされないよう、あれこれ手を講じるんですよ。元悪党のわたしが」 この会社は、和泉家が所有する資産を管理し、運用を行っている資産管理会社だと聞いている。和彦は漠然と、粛々と機械的に一連の仕事が行われているイメージを持っていたが、目の前の九鬼の様子はそれを裏切るものだ。表面的は穏やかなのに、どこか好戦的で、ヒヤリとする鋭さがある。 こんな男がオフイスでおとなしく、事務仕事をしているのだろうか――。 和彦の顔の強張りに気づいたのか、九鬼は軽く頭を下げた。「すみません。普段、熱心にわたしの話を聞いてくれる

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