Masuk胸の突起を吸われ、舌先で弄られながら、不意打ちで軽く歯を立てられる。そのたびに和彦は声を上げ、身を震わせる。怯えと、背筋を駆け抜けるゾクゾクするような感覚のせいだ。
執拗に胸元への愛撫を続けながら、南郷の片手が当然のように和彦の欲望を握り締めてくる。腰を跳ねさせて暴れようとしたが、先端を爪の先で弄られて、機先を制された。「暴れるなよ、先生。いつもみたいに、よくしてやるから」 感じやすい敏感な部分を、爪の先でくすぐるようにして苛められ、我知らず和彦は間欠的に声を上げていた。 賢吾によってささやかに〈開かれて〉から、感じ方が変わってきていると自覚はあった。疼痛とも快感ともいえる感覚の波はあまりに強烈で、もう一度味わってみたいと心のどこかで思っている。 だがそれは、相手が賢吾であるからだ。「――濡れてきたな」 和彦の動揺を誘うようなことを南郷が口にする。先端に少し強めに爪が立てられて、ジンと腰が痺れた。和彦は無意識に、南郷の手を押し退けようともがく。「あっ、嫌…&hellip「それじゃあ、次はどうやってお前を癒してやろうかな。――何かリクエストはあるか?」「いや、特には……」「よし、マッサージをしてやろう。何日か前に首を痛めてたようだしな」「あれは寝違えただけで、もうよくなった――」 今日はやたらサービス過剰な賢吾に、半ば強引に寝室に連れ込まれ、ベッドに放り出される。 和彦がバタバタと暴れていたのはわずかな間だった。うつ伏せにひっくり返された体に馬乗りになられると、もう抜け出す術がない。「……あんた、マッサージのやり方なんて知ってるのか? 素人が迂闊に揉み解しなんてやったら、かえって筋や筋肉を痛めるんだからな」「そこまで本格的なことはやらねーよ。俺だって、お前を壊したくない」 人の背に乗っかって恐ろしいことを言うなと、和彦は呆れてため息をつく。 おずおずと体の力を抜くと、まず賢吾の手が肩にかかる。すかさず指摘された。「肩、凝ってるぞ」 ぐっ、ぐっと肩を揉まれて声が洩れる。最初は少し痛いと感じたが、次第にその力加減が心地よくなってくるから不思議だ。首の付け根は優しく揉まれ、髪の付け根をまさぐられたときは、背筋にゾクリと疼きが駆け抜ける。 投げ出した両腕はおろか、てのひらまで丹念に揉まれたところで、賢吾の重みが移動して、今度は腰に手がかかる。「誰かにしてやってたのか? 上手すぎるんだが……」「気になるか?」 顔は見えなくても、この瞬間、賢吾がニヤニヤしているのは容易に想像できた。「大事で可愛いオンナを労わろうという気持ちが、伝わってるんだろうな」 聞こえなかったふりをして返事をしなかったが、かまわず賢吾はマッサージを続ける。腰を揉まれるだけでなく、背は指で押さえられながら、筋肉を解すように丁寧に動かされる。 全身を賢吾に委ねきったところで、あくまで世間話のようなさりげなさでふいに言われた。「――で、南郷と情を交わしたのか?」 鋭い刃を喉元に突き付けられようで、和彦は一瞬息を詰める。相変わらず賢吾の手は動き続け、そこに
本宅で笠野に作らせたというサンドイッチを和彦が食べている間に、賢吾はバスタブに湯を張り始めた。普段はあまり使わない入浴剤をいくつか出してきてテーブルに並べると、どれがいいかと和彦に選ばせる。そして、食事を終えたタイミングでバスタブに放り込み、ついでに和彦も放り込まれた。「ゆっくり温まってこい」 そんな言葉とともに。 わけがわからないと呟きながらも、他人が準備してくれた風呂にはありがたく浸からせてもらう。 全身を弛緩させ、ぼんやりと天井を見上げる。発汗作用のある入浴剤だったらしく、いつも以上に汗が噴き出してくるが、それが気持ちいい。 そういえば、ここ何日かはゆっくりと入浴する時間が惜しくて、ほぼシャワーで済ませていた。「不精を見抜かれたか……」 風呂の準備をしてもらったこと以上に、長嶺組組長をたっぷり待たせるという贅沢を味わいながら、和彦は時間をかけて全身を洗う。最後に冷たい水を浴びてさっぱりしてバスルームを出ると、なんと替えの部屋着まで用意されていた。「至れり尽くせりだ」 ダイニングのイスに腰掛けた和彦は、グラスで差し出された水を飲んで吐息を洩らす。賢吾は目の前でニヤニヤしていた。「……やけに今日はサービスがよくて、なんだか怖いんだが……」「俺はいつでも、お前にだけはサービスがいいだろ」「そうだったかなー」「物忘れがひどいのは、まだ疲れているせいだな」 白々しいことを言いながら賢吾はさっとドライヤーを取り出し、和彦の濡れた髪に温風を当て始める。髪を搔き乱していく指の動きが気持ちよくて、ますます体から力が抜けていく。「――……あんたこそ、忙しいんじゃないのか。ぼくが倒れても有能な人材が揃ってるからなんとかなるだろうけど、あんたの場合はそうもいかないだろ。しっかり休んでもらわないと、ぼくが組員たちから恨まれる」「俺が忙しいと、どうして思うんだ」 いつでも忙しそうにしているだろうと返すのは簡単だったが、和彦は自分の言葉を改めて考えてみる。なぜ、今の賢吾は
「本当に、平気なんだ。ただ疲れて横になってただけで……。ああ、昼を食べてないから、ちょっと低血糖かもしれない……けど、間違っても息が止まるようなことはないから」「お前は、放っておくと、勝手に弱ってそうな印象が強すぎる」 さすがにそこまではと言いかけて、まだ賢吾が怖い目を向けてくるので、やめておいた。「心配して、わざわざ来てくれたのか?」「仕事を終えたあとのお前が、いつになく疲れきっていたと報告を受けてな。――ここのところ、忙しすぎたか」 和彦は苦笑いを浮かべて首を横に振る。「その前に、ゆっくり過ごしすぎた。久しぶりの平常運転で、体がまだ慣れてないだけだ」 仕事が忙しくて目を回すなど、社会人の大半は経験しそうなことだ。少し過保護すぎだと思うが、わざわざ駆けつけてくれた賢吾の行動が嬉しくないわけではない。それどころか――。 賢吾がベッドに腰掛け、和彦の肩を抱き寄せてくる。素直に身を任せると、首筋に顔が寄せられた。「シャワーを浴びてないから、汗臭いと思う……」「なら、俺がよく知っている匂いだな」 賢吾の腹に拳を軽く入れてやった。「――……仕事以外で、気にかかることがあるんじゃねーのか」 魅力的なバリトンが耳に注ぎ込まれる。和彦は間近から賢吾の目を覗き込んだ。「南郷から無理難題でも――」「大丈夫。あの人との問題は、たぶん片付いた」 ほお、と賢吾が声を洩らし、両目に冷たい光を宿す。「どんな問題があって、どう片付いたのか、気になるな」「これについては、あんたは知らなくていい」「それは……おもしろくないな。俺のオンナが、俺の気に食わない男と一緒に隠し事をしてるってのは」 やはり南郷のことをそんなふうに思っているのかと、賢吾の声が怖い響きを増していく中、まずそれが気になった。和彦としても、別に南郷の好感度を上げてやろうなどとお人好しなことは考えていない。 賢吾の目を見据えたまま噛み締めるよう
**** クリニックが休みの土曜日、和彦はゆっくりと休養――とはならず、朝から働いていた。 トラブルからの暴力沙汰で怪我をした総和会の構成員二人の抜糸をしたまではよかったが、急患が出たといって別の現場に連行されたのだ。仲間内のケンカの弾みでという説明を受けたが、ベッドに横たわっていたのは見た目は少年と呼べそうな青年で、脇腹の切創でかなり出血していた。 総和会に名を連ねる組の組員とのことで、二十歳だとは言われたがかなり怪しい。ただ、全身に刺青が入った姿は、未成年・成人に関係なく、いかつい。 意識が朦朧とした状態でも、物騒なうわ言を呟き続けているのが、病院に連れて行けない理由なのだろうと、頭の片隅で推測しつつ処置をした。ただ、組員は一時かなり危険な状態だった。電話で様子を聞いたときに輸血パックの手配を頼んでおかなかったらどうなっていたか。紙一重という状態を医者の立場で味わった和彦は、緊張から貧血を起こしかけたぐらいだ。正直、手に余る患者だと言ってもよかった。 もっと経験豊富な医者にも駆けつけてほしいと頼んだ言葉が、お守りのようになっていた。 なんとか容態が持ち直し、駆け付けた他の医者にバトンタッチして外に出たとき、安堵からへたり込んだぐらいだ。このとき、時刻はとっくに昼を過ぎていた。 とにかく休みたいと自宅にマンションに戻る。冷や汗でぐっしょり濡れた服を着替えてから、シャワーを浴びる気力も体力もなく、ベッドに倒れ込む。指先が微かに震えていた。ここ最近、毎日がハードすぎないかと思ったが、こんな生活を選んだのは他でもない和彦自身だ。 さすがに今日はもう、どんな依頼が来ても受けられないし、そもそも外出をしたくない。和彦は手を伸ばし、その辺りに放り出したスマートフォンをたぐり寄せて電源を切る。メッセージの通知音も耳に入れたくなかった。 頭の中で、今日の術技が繰り返される。自分にできる限りのことはしたが、胃が締め上げられるような緊張感を味わうと、次こそ取り返しのつかない失敗をしでかしてしまうのではないかと怖くなるのだ。ここまで、そんな気持ちを一つ一つ踏み潰すようにして進み続けてきたが、きっとこの気持ちがなくなることは
南郷さんに、と付け加えても、三田村は表情は変えない。急に喉を乾きを覚えた和彦は、シードルをグラス半分ほど飲む。リンゴの爽やかな香りとともに、すっきりとした甘さが口腔に残る。飲みやすいが、もう少しアルコール度数が高めのワインを頼んでもよかったなと、少しだけ後悔する。一方の三田村は、車の運転があるため炭酸水だ。 バゲットを千切り、トマト煮のソースをつけてぱくりと頬張る。一通り料理に手をつけてから、和彦はさらりと切り出した。「三田村、後悔してないか?」「何について」「ぼくは……、あんたと初めて会ったときに比べて、ずいぶん変わった。自分で言うのもなんだけど、図太くて、逞しくなった。もともとズルい人間ではあったけど」 三田村は不思議そうに首を傾げる。「先生が変わったとして、どうして俺が後悔することになるんだ」「普通の……恋愛関係でもあるだろう? こんなはずじゃなかった、とか。こんな人間だとは思わなかったとか……」 三田村はため息に似た声を洩らした。「先生と俺は――、最悪な状態で知り合ったと言っていい」「うん……」 本当に最悪だったなと、自然と苦い表情になる。そんな和彦を見て、三田村は目元を和らげる。「そこから二人で、いろんなものを積み上げきた。少なくとも俺にとっては、日々、新しい先生と出会っていると思っている。先生と知り合う以前の俺は、何もない、ただヤクザというだけのつまらない男だった。そこに、特別な先生と知り合ったことで、何もかも変わった。変えてくれた。積み上げることで、変えてきた。そこには、マイナス要素は何もない。俺の世界に先生がいるだけで、十分満たされているし、幸せなんだ」 思いがけず真摯な言葉が返ってきて、瞬く間に和彦の頬は熱くなってくる。もしかして赤くなっているかもしれない。 動揺を抑えるために口元を手で覆う。「……ときどき、あんたは、とんでもなく情熱的なことを言ってくれるな。ぼくは、暗に催促したわけじゃないからな。そういうことを言っ
「――……いろいろあった」 すでに日が落ちた街の景色に目を向けながら、ぽつりと和彦は洩らす。何が、とは三田村は問わず、ただ聞いてくれる。「一昨日、祖父の初七日が終わったんだ。母が向こうにいてくれたから、あまり心配はしていなかったけど、連絡をくれた祖母の声が思ったよりしっかりしてたんだ。こちらが気を使わないようにしてくれたんだと思う。……人生の巡り合わせというのは本当にあるんだな。ずっと疎遠だった祖父母とようやくまた会うことができたのに、交流する間もなく祖父がいなくなってしまった」「でも、会えたことに後悔はなかったんだろう、先生は」「もちろん。再会する前なら、なんの感情も湧かなかったかもしれないし、もしかすると、亡くなったということすら教えてもらわなかったかもしれない」「なら、会えてよかった。先生にとっていい祖父君だと確認できたんだから」 うん、と和彦は子供のように頷く。「きっと、ぼくの現状を知ったときは、びっくりしただろうし、心配もしただろうけど、何も言わないでくれた。世間的には眉をひそめられることなんだろうけど」 三田村に語って聞かせられるほど、正時との思い出はない。車内の空気を湿っぽくしたいわけでもないため、話題は自然と、再開したクリニックのこととなるが、再開して数日では、こちらも語れるほどのエピソードはない。「三田村は、変わったことはないのか?」「俺は……、先生に関わること以外では、話しておもしろいことはないな」 三田村の淡々とした――しすぎた口調に微妙に引っかかるものを感じる。その違和感がずっと気になり、商業ビル内にあるスペイン料理店に入っても消えない。 夕食時ということもあり、広い店内はほぼ満席の状態で、予約がなければすぐには入れなかっただろう。隣の大きなテーブル席は仕事帰りらしい社会人のグループで盛り上がっており、おかげでこちらの会話が聞かれるおそれもないようだ。その様子を一瞥して、三田村と一緒にメニューを覗き込む。 千尋のお勧めだという魚介のパエリアの他に、スペイン風のオムレツ、ミートボールのトマト煮とベーコン







