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第9話(1)

Author: 北川とも
last update publish date: 2025-12-12 17:00:39

 長嶺の本宅の中庭は、相変わらず手入れが行き届いていた。落ち葉の一枚も許さないかのように清められ、人が寛ぐために足を踏み込むことは、本来許されていないのではないかと思うほどだ。

 しかし、一度でもこの中庭で時間を過ごすと、本宅のどこよりも寛げる場所だと思えてくる。

 テーブルについた和彦はコーヒーを一口飲むと、木陰を作る木を見上げる。季節が夏から秋へと移りつつあるのに、相変わらず木陰に避難しなくてはならないほど陽射しは強い。ただ、ときおり吹く風だけは秋を感じさせる。

 涼しい風がさらりと髪を揺らしていく。和彦は強張った息を吐き出すと、緊張のため味もわからなくなっているコーヒーをもう一口飲む。なんとか落ち着きを保っているが、正直なところ、中庭を歩き回って気を紛らわせたいところだ。

 審判が下されるのを待つ罪人としては、薄暗い部屋に押し込まれるほうが気持ちは楽だった。そうすれば、自分がどんな立場に置かれているのか理解しやすい。それが、こんな居心地いい中庭でもてなされると、かえって怖い。

 なんといっても、審判を下すのは、ヤクザの組長な
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  • 血と束縛と   第28話(18)

     和彦は後部座席のシートで身を固くしていたが、助手席に座る組員は平然と、携帯電話で誰かと連絡を取り合っていた。 おそるおそる背後を振り返ると、この数日で見慣れてしまった総和会の車はついてきていない。「相手もムキになって追いかけてはこなかったようですね」「……まあ、向こうにしても、本気で誰かがぼくに接触するとは思ってないんだろう。あくまで、ぼくに見せ付けるのが目的だったんじゃないか」 そんな会話を交わしているうちに、鷹津に指定された場所に到着する。飲み屋の多い一角で、人だけではなく、タクシーで混雑している。路地に入り込むと、抜け出すのに苦労しそうだと思い、和彦だけ車を降りる。「帰りは鷹津に送らせるから、今日はもうぼくについてなくていい。あと、車を撒いたことで何か言われたら、ぼくの指示だったと言ってくれ」「大丈夫ですよ。先生はご心配なく」 その言葉に送られて和彦は、にぎわう路地へと入る。鷹津には、とにかく路地を歩いていろと言われたのだが、その意味はすぐにわかった。「――今夜は、誰も連れてないのか」 前触れもなく、背後から声をかけられる。聞き覚えのある声に振り返ると、黒のソリッドシャツにジーンズという定番の格好をした鷹津がいた。いつの間に、と和彦は目を丸くする。すると鷹津は、ニヤリと笑った。「お前を誘拐するのは、簡単そうだな。護衛がついてなかったら、無防備そのものだ」「……仮にも刑事が、物騒なことを言うな。それより、実家の話って?」 和彦の問いかけは、あっさり無視された。先に歩き始めた鷹津の背を睨みつけた和彦だが、往来で問い詰めるわけにもいかず、仕方なくあとを追いかける。 鷹津は人気のない細い路地へと入り、その突き当たりにあるこじんまりとした古い店の前で立ち止まる。「ここだ」 素っ気なく言って鷹津は店に入り、ため息をついて和彦もあとに続く。 店に一歩足を踏み入れると、なんとも食欲をそそる匂いが鼻先を掠めた。あちこちのテーブルから煙が立ち上り、そこに、肉の焼ける音も加わり、反射的に和彦の腹が鳴る。肉が食べたいと自覚はしていな

  • 血と束縛と   第28話(17)

     中嶋から意味ありげな視線を投げかけられたが、和彦は露骨に無視する。タイミングよく、数人のグループがジャグジーにやってきたため、入れ替わる形で和彦は立ち上がる。あとを追うように中嶋もジャグジーを出ようとしたので、すかさず和彦はこう言った。「せっかく筋肉が解れたんだから、そのままプールで泳いできたらどうだ。ぼくはもう、たっぷり体を動かしたから、先に帰るけど」 更衣室までついて来るなという和彦の牽制がわかったらしく、中嶋は苦笑を浮かべる。「俺が、先生の一人の時間を邪魔したから、怒ってますね」「ぼくが怒っていると言ったところで、君は怖くもなんともないだろ」「いえいえ。先生に嫌われたらどうしようかと、内心ドキドキしてますよ」「――……本当に、秦に口ぶりが似てきたな」 そう言って和彦は軽く手をあげると、更衣室に向かう。さすがの中嶋も、今度ばかりは追いかけてはこなかった。** ジムを出た和彦は、湿気を含んだ風に頬を撫でられ、思わず空を見上げる。闇に覆われているせいばかりではなく、厚い雲も出ているのか、星はおろか、月の姿すら見ることができない。 そろそろ梅雨入りだろうかと、その時季特有の鬱陶しさを想像してため息をつく。それをきっかけに、一時遠ざけていた現実が肩にのしかかってきた。オーバーワーク気味に体を動かして気分転換をしたところで、抱えた状況は何も変わっていないのだ。 もう一度ため息をついて、ジムの駐車場がある方向を一瞥する。待機している長嶺組の車に乗り込むと、当然のように、総和会の車も背後からついてくるのだろう。さきほど中嶋と話した内容もあって、心底うんざりしてくる。 少しの間、一人で外の空気を堪能しようかと、間が差したようにそんなことを考える。魅力的な企みではあったが、数十秒ほどその場に立ち尽くしていた和彦は、結局、駐車場に向かっていた。長嶺組の男たちに迷惑をかけるのは、本意ではない。 和彦が駐車場に入ってすぐに、待機していた長嶺組の組員の一人が車から降り、出迎えてくれる。総和会の車は、駐車場の外に停まっていた。「――……気

  • 血と束縛と   第28話(16)

     護衛といいながら、精神的圧迫感を与えてくるだけではないかと、毒を吐きたい気持ちをギリギリで抑え、ジムに入ってやっとほっとしたところだったのだ。 和彦はさりげなく、中嶋の横顔を一瞥する。抜かりない、と心の中で呟いていた。「……何も、ジムの中まで追いかけてこなくていいだろ。こんな場所で、誰が何をできるって言うんだ」 和彦は大げさに周囲を見回す動作をする。平日の夜のジムは、仕事を終えて訪れる〈真っ当な〉勤め人たちが多いのだ。「何より、一歩外に出れば、怖い男たちが待機している」「先生の護衛という名目で、互いの組織が牽制し合っているようですね」「もしかすると、嫌がらせかもしれない」 皮肉っぽい口調で和彦が洩らすと、中嶋は不思議そうな顔をしたが、それも数秒のことだ。すぐに察したように、声を上げた。「ああ、先日の〈あれ〉ですか」「君の言う〈あれ〉が何を指しているのか、ぼくにはわからないんだが」 素っ気なく言い置いて、和彦は立ち上がる。「先生?」「ジャグジーに入る」「だったら、俺も」 遠慮してくれないかと、眼差しで訴えてみたが、清々しいほどに気づかれなかった。もしかすると、わざと無視されたのかもしれないが。 使うなと強制する権限が和彦にあるはずもなく、仕方なく、中嶋と連れ立ってジャグジーに向かった。「――ちょっとした噂になっていますよ」 少し待ってジャグジーに二人きりになったところで、中嶋がさらりと切り出す。全身を包む泡の心地良さにリラックスしかけていた和彦だが、慌てて我に返る。「何がだ」「〈あれ〉――、先生が、南郷さんを土下座させた件」 両手で髪を掻き上げた中嶋が、流し目を寄越してくる。濡れ髪のせいもあって妙に艶やかに見えるが、同時に、中嶋の中に息づく鋭さも垣間見える。和彦から何かしらの情報を引き出そうとしているのだ。 和彦はうんざりしながら応じた。「どうせ、理不尽な理由で南郷さんに土下座をさせたとか、そんな話になっているんだろ……」「総和会の人

  • 血と束縛と   第28話(15)

    **** ベンチに横になった和彦は、ゆっくりと息を吐き出しながらバーベルを挙げる。上半身の筋肉が引き締まり、重さが刺激となって行き渡る。次に、今度は息を吸い込みながら、バーベルを下ろしていく。 そんなに重いバーベルを使っているわけではないが、一連の動作を時間をかけて数回繰り返していくと、全身から汗が噴き出してきて、Tシャツをぐっしょりと濡らす。 集中力のすべてを、筋肉の動きへと向けていた和彦だが、ふとした拍子に、足元付近に誰かが立っていることに気づく。トレーナーが様子を見てくれているのだろうかと思ったが、そうであれば、遠慮なく声をかけてくるはずだと思い直す。 一度気になってしまうと無視するのは難しく、大きく息を吐き出してから和彦は、ラックにバーベルをかける。すぐには上体が起こせず、呼吸を整えていると、親しげに声をかけられた。「手を貸しましょうか、先生」 その一声で、誰かわかった。和彦は口元を緩めると、遠慮なく片手を伸ばす。すかさず手を掴まれ、体を引っ張り起こされた。差し出されたタオルを受け取り、ひとまず滴る汗を拭いてから和彦は口を開く。「タイミングがいいな。今日は、連絡をしなかったのに」「先生と俺の仲ですからね。なんでもお見通しです」 中嶋にニヤリと笑いかけられ、和彦は微妙な表情で返す。ただの友人同士であれば冗談として成り立つのだが、残念ながら和彦と中嶋の仲は、そうではない。「先生、ここは笑ってくれないと。冗談ですよ」「わかってはいるが、反応に困る冗談を言わないでくれ……」 話しながら、休憩用のスペースへと移動する。イスに腰掛けた和彦は、汗で濡れた髪先を拭いながら、隣に座った中嶋の様子をうかがう。ジムを訪れ、すぐに和彦のもとにやってきたのだろう。まったく汗をかいていない。 予定が狂ったと、思わず心の中でぼやく。 こうして中嶋に声をかけられると、じゃあこれでと、トレーニングに戻るわけにもいかない。和彦はため息交じりに問いかけた。「――何か目的があって、ジムにやってきたのか?」 和彦の声から、警戒

  • 血と束縛と   第28話(14)

     和彦を促すように、背後から大きく内奥を突き上げられ、奥深くを丹念に掻き回される。喉を鳴らした和彦は、おずおずと片手を自分の下肢へと伸ばす。両足の間で震える和彦の欲望は、もう愛撫を必要としないほど、熱く硬くなり、反り返って濡れそぼっている。 本当は三田村に触れてもらいたいと思いながら、ゆっくりと上下に扱く。同時に、内奥で蠢く三田村の欲望をきつく締め付けていた。 三田村が深く息を吐き出し、和彦の腰から背へとてのひらを這わせてくる。「別荘で過ごして以来、よく夢を見るんだ。中嶋を犯している先生を、こうして後ろから犯している光景を。夢なのに、ひどく興奮して、感じるんだ」 三田村の欲望が、内奥から引き抜かれていく。発情しきった襞と粘膜を強く擦り上げられ、和彦は感極まった声を上げて反応してしまう。自ら愛撫する必要もなく絶頂を迎え、シーツに向けて精を飛び散らせていた。その瞬間を待っていたように、再び三田村の欲望が内奥深くに押し入り、重々しく突き上げられる。「んあぁっ――」 衝撃に、ふっと意識が遠のきかけるが、三田村に腰を揺すられて我に返る。和彦は無意識のうちに、腰に回された三田村の腕に、爪を食い込ませていた。痛みすら心地いいのか、内奥でますます三田村の欲望が膨らむ。「あっ、う……。い、い――。三田村、気持ちいぃっ……」「〈男〉なのに、〈オンナ〉でもある先生の姿が、目に焼きついている。どうしようもなく淫らでふしだらで、魅力的だった。自惚れるなと言われるかもしれないが、俺は、先生の奔放さと、相性がいい。……いや、どんな先生でも、たまらなく愛しい」 惑乱した意識のせいで、三田村の言葉が耳に入りはするものの、頭が意味を理解しようとしない。だが、必死に言葉を紡いでくれているのだということは、わかる。なんといっても、体を繋ぎ合っているのだ。「もう、先生のいない世界は、考えられない。だから、俺の前からいなくならないでくれ。例え俺を遠ざける瞬間が訪れたとしても。この世界の怖い男たちに囚われたままでいてくれ。そうすれば、俺はいつでも、先生の存在を感じていられる。それだけでも、十分幸せだ」

  • 血と束縛と   第28話(13)

     指を唾液で濡らした三田村が、内奥の入り口を簡単に湿らせてから、高ぶった欲望の先端を擦りつけてくる。和彦は自ら両足を大きく左右に開き、愛しい〈オトコ〉を受け入れる態勢を取った。「すまない、先生っ……」 言葉とともに、三田村がぐっと腰を進める。頑なな内奥の入り口を強引に押し開かれ、欲望の太い部分を呑み込まされる。さすがに痛みに眉をひそめると、三田村にそっと唇を吸われ、掠れた声で言われた。「俺が、先生を痛めつけているな」 和彦は、三田村の肩からバスローブを落とし、逞しい腕を撫で上げる。三田村の筋肉が一気に緊張したのが、てのひらから伝わってきた。「違うだろ。あんたは痛めつけているんじゃない。愛してくれているんだ」「……先生のほうこそ、俺に甘すぎる」 三田村と唇と舌を吸い合いながら、さらに腰を密着させる。三田村は慎重に、しかし確実に和彦の内奥を押し開き、熱い欲望を埋め込んでくる。痛みと、その痛みすら心地よさに変えてしまう興奮に、和彦は息を喘がせる。 中途半端な愛撫を与えられただけの自分の欲望に片手を伸ばし、三田村の動きに合わせて扱く。意識せずとも内奥がきつく収縮していた。「いやらしいな、先生」 耳元で三田村に囁かれ、その声の響きだけで全身が痺れる。さらに、ようやく根元まで埋め込まれた欲望に内奥深くを突き上げられて、痺れた全身に快美さが行き渡る。 上体を起こした三田村に緩やかに律動を繰り返されながら、すっかり乱れたバスローブを脱がされた。触れられないまま硬く凝った胸の突起をてのひらで転がされ、反り返って先端を濡らした欲望を軽く扱かれてから、柔らかな膨らみを優しく揉み込まれる。「うっ、うあっ――……」 傷ついていないか確かめるように、繋がっている部分を指で擦り上げられたときには、和彦はビクビクと間欠的に体を震わせる。 再び覆い被さってきた三田村に、焦らすように胸の突起を舌先で弄られ、そっと吸われる。和彦は夢中で三田村の背に両腕を回し、この男が本来持つ激しさを求める。「三田、村、もっと…&hellip

  • 血と束縛と   第7話(7)

     ぐうっと内奥深くにまで欲望を埋め込んだ千尋が、一度律動を止め、和彦の両足の間に手を差し込んでくる。中からの刺激によって和彦のものは、はしたなく透明なしずくを滴らせながら、反り返って震えていた。 もっと反応しろといわんばかりに扱かれ、和彦は懸命に嬌声を堪える。和彦のその反応に、千尋はひどく興奮したようだった。緩やかに腰が動かされ、狙い澄ましたように最奥を突かれる。 室内に、二人の妖しい息遣いと、湿った淫靡な音が響いていた。 そこに突然、障子の向こうから声がかけられた。「――先生、起きているか」 三田村だった。ビクリと体を震わせた

    last updateLast Updated : 2026-03-22
  • 血と束縛と   第7話(15)

     気遣う言葉をかけてきながら、三田村の眼差しは鋭い。和彦と秦の間に何かあると確信している目だ。 こうなった三田村ですら怖いのに、本当のことを賢吾に告げたらどうなるか――。 想像して、背筋が冷たくなる。「……なんでもない……」 和彦はそう答えると、携帯電話を三田村の手に押し付け、顔を背けた。** 秦の目的を知るにはどうすればいいのか、部屋に戻ってから和彦はずっと考えていた。目的がわからなければ、動きようがなく、最終的に長嶺組に――賢吾の力に頼る

    last updateLast Updated : 2026-03-22
  • 血と束縛と   第6話(18)

    「この間買ったコロンをつけてみたんだ」「ふうん。……でも先生には、もう少し甘い香りをつけてほしいな」 強い光を放つ目が、じっと和彦を見据えてくる。その目の中に激情ともいえるものが渦巻いているのを感じ取り、とにかくこの場を離れるのが先だと思った。 こんな目をしている千尋には、自制というものが働かないということを、一度千尋に軟禁されたことがある和彦は身をもって知っているのだ。「千尋、ここは暑いから、場所を変えよう」「でも先生、用があるからここに来たんだよね? 一人で何してたの?」 そう問いかけ

    last updateLast Updated : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第5話(40)

    **** さまざまな機材などが運び込まれた部屋を見回してから、和彦は手で顔を扇ぐ。締め切っているため、室内の空気はひどく蒸れて暑かった。だからといって窓を開けて回るほど、今日はここに留まる気はない。  いよいよ明日からクリニックの改装工事が始まるため、若い組員一人を運転手として伴い、立ち寄ったのだ。今日は業者は昼前に引き上げたので、和彦も室内の様子だけ見て引き上げるつもりだ。  もう何度もここに足を運んでいるが、いよいよ改装工事が始まるとなると、もうすぐ自分の城ができるのだという実感が湧いてくる。自分

    last updateLast Updated : 2026-03-21
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