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記憶喪失のふりで暴いた家族の残酷な嘘
記憶喪失のふりで暴いた家族の残酷な嘘
作者: 愛しき影

第1話

作者: 愛しき影
息子の成瀬陽翔(なるせ はると)の誕生日を祝うために向かう途中、私は交通事故に遭った。

目が覚めると、病床を囲む家族の顔が見えた。私は少し悪戯心を起こして、冗談めかしてこう言った。

「すみません、あなたはどちら様ですか?」

笑いをこらえながら、彼らがこの「記憶喪失」の私をどう慰めてくれるのか様子を窺った。

母の白川百合子(しらかわ ゆりこ)や夫の成瀬涼介(なるせ りょうすけ)が心配そうに私の手を握ってくれるだろうか?それとも陽翔が「ママ!」と泣き叫んで飛びついてくるのか?

しかし、予想は裏切られた。彼らは一瞬呆気にとられた後、あろうことか一様に安堵のため息をついたのだ。

母が真っ先に口を開いた。その声には、まるで肩の荷が下りたかのような安堵が滲んでいた。

「忘れてしまったのなら、そのほうがいいわ。実はね、あなたは我が家の養女で、彩華こそが本当の娘なのよ」

涼介も私を指差し、陽翔に向かって言い放った。「陽翔、これからは彼女を『おばさん』と呼ぶんだぞ」

あまりの衝撃に言葉を失っていると、私が命を懸けて守った息子が偽の母である白川彩華(しらかわ あやか)の懐に飛び込んでいった。

「ママ!今日ね、外で一日中遊んだんだよ。すごく会いたかった!」

そうか。この記憶喪失は彼らにとって渡りに船だった。

それなら、こんな偽りだらけの生活などいっそ捨ててしまえばいい。

……

「陽翔、これからはママの言うことをよく聞くんだぞ。もうこのおばさんにまとわりつくんじゃない」

涼介の視線はどこか捉えどころがなかったが、そこには一片の悔恨も動揺も見当たらなかった。

陽翔は彩華の腕の中から顔を出し、恐る恐る私を見た。

そして、澄んだ声で私をこう呼んだ。「おばさん」

その無邪気な響きが鋭利な刃物となって私の心臓を突き刺した。

心臓を鷲掴みにされたような痛みが波のように押し寄せた。

彩華が私の病床のそばに歩み寄り、非難がましい口調で言った。

「里奈、私と涼介は仕事で忙しいのよ。ちょっと子供の面倒を見るくらい、どうしてちゃんとできないの?

陽翔が無事でよかったわ。もし何かあったら、あなたに責任が取れるの?本当に、あなたって何をやらせても駄目ね」

彼女の言葉が終わるや否や、私がこれまで顔色を窺い、必死に機嫌を取ってきた実の母親がすぐに同調した。

「彩華、そんなに責めちゃ駄目よ。所詮、里奈は白川家の血を引いていないんだから。幼い頃から完璧だったあなたとはそもそも出来が違うのよ。こればかりは、血は争えないってことね」

母はそう言ってため息をつくと、彩華の手を取り、慈愛に満ちた眼差しを向けた。

私の心が急速に冷え切た。

私こそが白川家の本当の娘であり、彩華は私の人生を二十年以上も奪った家政婦の娘だ。

当時、あの家政婦は自分の娘にいい暮らしをさせるため、生まれたばかりの私たちを取り替えた。

あの女のもとで育った私は事あるごとに手をあげられ、罵声を浴びせられた。彼女が呪いのように繰り返していた口癖は――

「彩華をご覧なさい。彩華こそが正真正銘のお嬢様よ。あんたなんか、彼女の足元にも及ばないのよ。いい加減、身の程を知りなさい!」

その後、真実が明らかになり、私は白川家に引き取られた。

苦労が報われたと思ったのも束の間、実の母親は私が記憶を失ったと信じ込むやいなや、こうも簡単に私を切り捨てた。

「里奈、聞いてるのか?」

涼介の声が私を回想から引き戻した。それは氷のような冷たい声だった。

「陽翔も言ってるぞ。お前が運転中にスマホばかり見ていたから、ガードレールに突っ込んだんだろう。あの子がシートベルトをしていたから良かったものの、一歩間違えば大惨事だぞ。おばさんとしての自覚が足りないんじゃないか!」

私は信じられない思いで陽翔を見た。

事故の瞬間、私は反射的にハンドルを切り、運転席をガードレールに激突させ、彼を腕の中に抱き込んで守ったのだ。

私の額はハンドルに打ち付けられ、ガラスの破片で腕は傷だらけだというのに、彼は無傷だった。

それなのに、私が命懸けで守った陽翔はその幼い声で最も残酷な嘘をついていた。

「そんなことしてない!」

起き上がろうともがくと、傷口が引きつり、激痛に息を呑んだ。

「子供が嘘をつくわけないだろう!」

涼介の声が荒らげられ、その瞳に宿る底知れぬ嫌悪に、私は飲み込まれそうだった。

「里奈、お前がこれほど往生際の悪い人間だとは思わなかった!平気な顔をして嘘をつくなんて!」

私は口元を引きつらせ、乾いた笑いを漏らした。「まさか。あの子の嘘は完璧よ」

彩華がわざとらしく悲鳴を上げた。「里奈、よくも陽翔にそんな酷いことが言えるわね?彼はまだ子供なのよ!

もしかして、わざと陽翔を危険な目に遭わせて、白川家と成瀬家の財産を独り占めするつもりだったんじゃ……」

――なんて被害妄想だろうか。

母の顔色は瞬時に険しくなり、私を指差して吐き捨てるように言った。

「里奈!警告しておくけど、分不相応な夢を見るのはおやめ!身の程を知りなさい!」

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