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第16話
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誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第163話
「その後……彼女を拾ったのは、私なの。私は当時、先生のもとで調香の修行をしていて、彼女も一緒に連れてきたの。先生は彼女に才能を見出し、弟子として迎えて以来、私たちは共に切磋琢磨して成長してきたわ」「高校卒業後、先生が重い病にかかって、彼女は大学進学を諦めて家で先生のお世話をしていたの。その頃彼女はいじめられていたけど、律に助けられたの。二人は惹かれ合い、やがてすぐに子供に恵まれた」「その後は先ほど話した通り、花屋が火事になって、彼女は私を助けようとして亡くなったの。私は火災現場から逃げ出し、彼女と先生の葬儀の手配もして、病院に行って安輝を探しに行ったけど、安輝はすでに律に連れ去られていて、律はすでに記憶喪失になっていたの」夕星の顔は青白くなっていた。思い出したくない過去を語ることで、またその痛みでもがき苦しんでいた。凌はそれ以上追及しなかった。この説明を受け入れたようだ。凌は乱暴に彼女を引き起こし、「夕星、もし俺を騙そうものなら、後悔することになるぞ」と言った。夕星の心がドクンと鳴った。そして、自分を奮い立たせて凌と視線を合わせ、「わかった」と小さな声で答えた。凌は夕星を離し、特別な表情は見せなかったが、「安輝の件は、今でも有効だ。絶対に約束を破るなよ」と言った。「わかったわ」凌が何を言おうと、夕星は全て受け入れた。ただ、凌が安輝を助けると約束してくれさえすれば夕星はいいのだ。凌が去ろうとすると、彼のシャツの裾が誰かに掴まれた。彼は下を向いた。夕星はさらに強く握りしめ、目には不安が渦巻いていた。「本当に約束してくれるの？」彼が約束を破るのではないかと恐れていた。これがただの夢ではないかと怯えていた。なぜなら、今朝彼は夕星を乗せて行くことさえ拒み、冷たく立ち去ったばかりだったからだ。凌は吹き出しそうになったが、彼女の涙ぐんだ目を見て、心が突然和らいだ。まあいい。彼女とつまらないことで争う必要もない。凌は自分に言い聞かせ、「ついて来い」と淡々と言った。夕星はすぐに立ち上がり、シッターに安輝のお世話をしっかりするよう言い残すと、凌について行った。凌は医師を訪ね、自分が安輝を救うために骨髄を提供すると伝えた。医師はすぐに凌に署名させ、一連の検査を手配した。終始、夕星は凌の
誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第162話
雲和は凌の様子がおかしいと気づき、タブレットを取り上げて「何かあったの？」と聞いた。「DNA鑑定？」「夕星と安輝は……血縁関係がないって？」雲和は呆然とした。彼女は最初から最後まで何度も読み返した。「お姉ちゃんは自ら安輝の母親だと認めていたのに」雲和は目を丸くして驚き、「じゃあなんでここまで頑張っているの？」と聞いた。凌は目を閉じた。考えてみれば、理由は単純だ。律を愛しているからこそ、彼に関わるものまで好きになってしまったのだ。夕星の心には律がいるから、その子供も好きなのだ。雲和はタブレットを置き、凌の腕を優しくつかんで慰めた。「お兄ちゃん、悲しまないで。お姉ちゃんはただその子が好きだっただけかもしれないし」「それに、あなたたちはもう離婚したから、夕星のこと忘れてよ」「珠希は自分の過ちに気づいたし、彼女にもう一回チャンスをあげたらどう？」彼女は親友をかばって、どうか許してほしいと頼んだ。そして、心から凌と珠希が結婚することを願っていた。そうすれば、自分と彰もくっつく可能性も高まる。凌が目を開けると、瞳にはすでに静かな諦めが浮かんでいた。しかし、それ以上に心はさらに痛んでいた。秀太が恐る恐る口を開いた。「安輝が危篤状態で、奥様はもう病院にいます」安輝には骨髄移植が必要で、現在適合するのは凌だけだ。今回の出張は半月ほどかかる。雲和は不満そうに秀太を睨みつけた。「凌はもう離婚したから、夕星がどうなろうが凌には関係ないでしょ」「お兄ちゃん、こんなの無視でいいよ」雲和は凌が病院にいくことを望まず、安輝が病気で亡くなればいいと思っていた。搭乗アナウンスが流れた。凌は立ち上がった。彼は反対方向へ歩き出した。「病院へ行こう」結局、心が折れた。……安輝は危篤状態に陥っていたが、何とか一命を取り留めた。小さな体に医療機器が取り付けられているが、見るからに痛々しい。夕星はずっと安輝のそばにいて、一瞬でも目を離せばまた発作が起きるのではないかと気をもんでいた。突然、人の影が差し込んできた。頭上から凌の慣れ親しんだ声が響く。「話がある」夕星はハッと顔を上げた。出張に行ってるはずじゃ……？どうしてここにいるの？夕星は唇を震わせながら何か言おうとしたが、
誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第161話
凌は無表情で夕星を一瞥し、立ち上がってドアの方へ向かい、スーツケースを引きずって去って行った。突然、夕星の携帯が鳴り、律の名前が表示された。彼女は電話を取ると、律の焦った声が聞こえた。「安輝が危篤状態だ」携帯がガチャンと机に落ち、さらに床に滑り落ちた。夕星は慌てて拾い上げ、声を震わせながら言った。「今すぐ行くわ」彼女は家から飛び出た。凌の車がちょうど発車するところだった。ほとんど無意識に、夕星は車の前に飛び出した。運転手は急ブレーキを踏み、冷や汗をかいた。「奥様」凌は険しい表情で車から降り、ドアをバタンと閉めた。「夕星、お前は死にたいのか？」幸い、車はまだ低速で動き始めたばかりだった。さもなければ、取り返しのつかないことになっていただろう。夕星は救世主を見たように凌の服をつかみ、「安輝が危篤状態なの。運転手に病院まで送ってもらるかしら？」夕星は涙で顔を濡らしながら懇願し、まるで自分がどれほど危険なことをしたか全く気づいていないようだった。次の瞬間、彼女は引き離された。凌は彼女の膝を一瞥し、再び車に乗り込むと、冷たく運転手に命じた。「行け」夕星はドアをつかみ、涙をこぼしながら懇願した。「凌、行かないで」凌が口を開こうとした時、携帯の画面が光り、雲和の名前が表示された。「雲和」「……」「もう出発した。すぐ迎えに行く」「……」そして、凌は電話を切った。彼は冷ややかに夕星を見つめ、「どけ」と言い放った。冷徹で容赦ない。夕星は反射的に手を離したが、すぐにまた掴み直した。「凌、私をあそこの交差点まで乗せて。後は自分でタクシーを拾うから」ここはタクシーがつかまりにくく、しかも時間もまだ早い。凌は窓を閉め、運転手に発車するよう命じた。運転手は慎重にブレーキを離したが、それでも夕星はよろめいて転びそうになった。彼女は怖くなって手を離し、その場に立ち尽くし、車が見えなくなるまで見送った。彼は雲和を迎えに行くことを覚えていながら、夕星を乗せようとしなかった。夕星の心には痛みが広がっていった。でも我慢するしかない。彼女には悲しむ暇などなく、急いで病院へ向かわなければならなかった。夕星は携帯を握りしめながらタクシーを呼び、道路の方へ歩き出した。彼女は十分ほど
誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第160話
夕星は考え込んで、本を閉じ、そっとベッドサイドテーブルに置いた。彼女は身を乗り出し、柔らかな体を凌の背中に寄せ、吐息を彼の首筋に落とした。彼女特有の甘く柔らかな香りとともに。夕星は不器用で未熟だ。それでも、あっけなく凌の性欲をかき立てた。凌は大きな手で夕星の腰を抱き、自分の方に引き寄せて体をぴったりと密着させた。夕星は身動きができなかった。こういうことに関して、夕星はいつも受け身だった。ましてや、自分から凌を誘惑するなんてとても無理な話だった。たとえ打算があってのことでも、彼女の胸には羞恥心が広がり、耳の根まで真っ赤になった。次にどうすればいいかわからなかった。夕星はただ自分の感覚に従い、両手で凌の胸を押さえ、体を起こして凌の薄い唇にキスをした。凌は心に怒りを抱え、彼女のキスを受け入れたくなく、わずかに頭を仰いだ。夕星のキスは、彼の喉仏に落ちた。元々暗かった凌の目はさらに深みを増し、彼は彼女の腰を掴み、ひっくり返してベッドに押し付けた。「夕星」凌はかなり怒っている。彼女の一つ一つの動作が打算的であることを凌は知っている。彼は彼女を強く押しのけるべきだった。けれども体は正直で、欲情の気配が確かに流れている。彼女を独り占めしたいと、凌の体が叫んでいる。夕星は彼の首に手をかけ、どこか色っぽさをにじませながらも、その視線は明らかに嘲りを含んでいた。「どうしたの？気に入らないの？それとも珠希のようなタイプが好きなの？」「そうだよね、珠希は家柄も良く、容姿も良いし、確かに奥さんにするのには最適よね。もしそっちの方が好きなら、私も頑張って真似するわ」夕星は結局、心の怨みを抑えきれなかった。凌は彼女をじっと見つめる。深く澄んだ漆黒の瞳に、冷たい怒気が波のようにあふれていた。「わかってるなら、早く俺を気持ちよくさせろ」凌はいたずらっぽく低く笑った。嫌味を言う腕前では、夕星は彼には及ばない。凌は立場を逆転させ、主導権を握った。夕星の目にはもはや何の感情もなく、再び顔を上げて凌の唇にキスをした。触れた感触は、ひんやりと心地よかった。夕星にははなく、キス以外に何をすればいいかわからなかった。しかし、それでも十分に魅惑的だった。凌の目は真っ赤に染まり、手の甲には血管が浮
誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第159話
「あなたは彼女を何回も手伝って、そしてお二人は愛し合った。その後彼女はあなたの子供を身ごもった。出産直前、あなたは一度家に帰ると言い、その後彼女は安輝を産んだ。半月後、町の花屋が火事になり、彼女は巻き込まれて亡くなった。でもあなたは最後まで現れなかった」それらの過去の出来事は、言葉にすればわずか数言で済むが、当時の絶望感には遠く及ばない。今でも思い出すたび、夕星の目の前にはあの燃え盛る炎の光景がよみがえる。あの火事が、彼女の人生を変えた。律の脳裏には、白いドレスを着てサンハットを被った女性が浮かんだが、顔ははっきり見えなかった。夕星はマグカップを見下ろしながら、目を潤ませて言った。「彼女が亡くなった後、私は病院で安輝を探したけど、あなたに連れ去られたと知ったの。なぜ突然あなたが安輝を連れ去ったのか、なぜあなたが記憶を失ったのかはわからない」「でも、私はそれらを知りたいとも思わない。今はただ安輝に立派に育ってほしいの。これが彼女の遺志だから」「彼女に命を救われた恩があるから、安輝の命も守らなければならないの」だからこそ、凌に蔑まれようとも、夕星は彼の元に戻り、安輝を救わなければならないのだ。夕星がほんの少し話しただけで、律の心の中の辛さがあふれそうになった。記憶が消えてしまっても、心に深く刻まれた苦しみは骨の奥深くでまだ鳴り続けている。「彼女の名前は？」律は拳を握りしめて尋ねた。「名前？」夕星はその言葉を呟き、「それはいずれわかるわ」と答えた。……凌は北上市の別荘に戻った。お手伝いさんが迎え、彼のスーツジャケットを受け取りながら言った。「奥様はお部屋にいらっしゃいます」凌は一瞬たじろいだ。「戻ってきたのか？」夕星は……もうここには来ないと思っていた。抑えきれない喜びを胸に、彼は急いで階段を上がり、部屋の前で少し立ち止まると、表情を淡々とさせてドアを開けた。夕星はベッドにもたれかかりながら本を読んでいて、ドアの開く音に気づいてちらりと見上げただけで、また下を向いて本を読み進めた。凌は近づき、身をかがめて彼女にキスした。夕星は拒まず、むしろ進んで彼の首に手を回し、抱き合いながらキスを返した。しかし、凌はそれ以上続けようとせず、彼女の唇から離すと、顎を掴んで真っ白な彼女の顔をじっと見つめ
誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの？ 第158話
律は皮肉っぽく笑った。「凌、どうしてここまで嫌っている女のことを気にするんだ？」凌は深淵のような目を細めた。「黙れ」明日香は時間が経つにつれ、凌が真相を知って手を引くことを恐れ、思い切って言った。「夕星はここにいるわ。私が招待したのよ」凌は明日香の方を見て、淡々とした口調で尋ねた。「どこにいるんだ？」凌は明日香の性格をよく知っている。招待したと言うことは、何かしら裏で手を回したに違いない。明日香は言葉を濁して答えようとしなかった。彼女は言えなかった。しかし、凌の視線は強烈な圧迫感に満ちており、実に恐ろしいものだった。周りのヒソヒソ話は、明日香の自尊心を粉々に踏み潰すには十分だった。彼女は仕方なく二階の方を指差した。「あそこにいるよ」凌は彼女が指す方向を見た。目に入ったのは、すでに涙でぐしゃぐしゃになった夕星の顔だった。凌はつい喉を鳴らし、込み上げる苦しさに耐えきれなかった。夕星はそこに立ちながら、一部始終を見ていた。当然、凌の言葉も聞いていた。「夕星」凌は呟き、彼女に近づこうとしたが、珠希にしっかりと引き留められた。彼はただ律が二階に上がり、夕星を連れてくるのを眺めるしかなかった。一階に着くと、夕星の表情は冷ややかで、先ほど涙で濡れていた顔はまるで幻のようだった。「夕星」凌は思わず声をかけた。夕星は軽く首を傾け、「婚約、おめでとう」と祝福した。夕星は律に半ば抱えられるように支えられながら、外へと歩き出した。その細い後ろ姿はどんどん遠ざかっていった。凌はそれを見つめ、眉間の皺をさらに深くした。明日香は周りの好奇の目線に気づき、凌の袖を引っ張って、とても悔しそうだった。「私は本当にただ夕星をあなたの婚約パーティーに招待しただけよ。それ以外は何もしてないわ。信じて、まず珠希とちゃんと婚約をしましょ」凌は容赦なく明日香の手を払いのけ、珠希を睨みつけて言った。「三度目はもうないって警告したはずだ」まさにこれが三度目だ。「私には関係ないわ」珠希は慌てた。彼女は凌の腕を引っ張りながら、「凌、本当に私には関係ないの」と恐る恐る弁明した。明日香も彼女を庇うように言った。凌の忍耐は限界に達していた。彼が必要としていたのは、手がかからず従順な妻であって、珠希のような身の程知
