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誰にも愛されなかった私が咲くまで
誰にも愛されなかった私が咲くまで
Author: 金魚月

第1話

Author: 金魚月
高校卒業後の旅行中、双子の妹・高梨莉奈(たかなし りな)が突然、高梨真琴(たかなし まこと)に「入れ替わりごっこをしよう」と言い出した。

「朔也が私たちを見分けられなかったら、あんな人、お姉ちゃんの彼氏だなんて認めないから!」

莉奈は目を輝かせていた。

真琴はなぜか断りきれず、その提案を受け入れてしまった。

ところが、それから3日間、御堂朔也(みどう さくや)は莉奈が真琴ではないと気づくどころか、以前の真琴に対してよりも細やかに莉奈の世話を焼いた。

さらには、何やら秘密めかした様子で、莉奈と二人きりで1日出かける約束までしていた。

真琴はすべてを打ち明けようとしたが、両親に止められた。

両親まで、真琴のほうが本物だとは気づかず、聞き分けがないと叱りつけた。

そして、朔也がSNSに、婚約パーティーを挙げると投稿した。

真琴はベッドから跳ね起き、投稿に記されていた会場へ急いだ。

そこで目にしたのは、莉奈のベールを整えている母・高梨美穂(たかなし みほ)の姿だった。

「やっぱり莉奈のほうが朔也くんにはお似合いね。真琴みたいにいつも暗い顔をされると、見ているこっちまで気が滅入るもの」

朔也は笑いながら、莉奈の頭を優しく撫でた。

「莉奈は、僕たちの太陽ですから」

父・高梨正典(たかなし まさのり)も満足そうにうなずいた。

「入れ替わらせることを思いついて、本当によかった。莉奈が真琴の代わりに京華大学へ通うようになって、もしお前がうちの莉奈を泣かせたら、ただじゃおかないからな」

4人は顔を見合わせて笑った。

そこには、穏やかで温かな空気が流れていた。

真琴は、頭を殴られたような衝撃を受けた。

両親も朔也も、二人を見分けられなかったのではない。

最初から、気づかないふりをしていたのだ。

入れ替わりごっこさえ、莉奈が真琴として振る舞うことに慣れ、真琴の京華大学への入学資格を奪えるよう、4人で仕組んだものだった。

何も知らされず、愚かにも騙され続けていたのは、真琴だけだった。

幼い頃から、両親に愛されるのはいつも莉奈だった。

美穂はよく言っていた。

真琴が母親のお腹の中で、妹のぶんの栄養まで奪ったせいで、莉奈は小さく生まれたのだと。

正典からも、真琴は健康なのに莉奈は体が弱いのだから、姉として何でも譲るべきだと言い聞かされてきた。

だから、新しく買ったおもちゃは、まず莉奈が飽きるまで遊び、そのあとでようやく真琴に回ってきた。

莉奈が嫌いな食べ物は、たとえ真琴の大好物でも、食卓に並ぶことはなかった。

毎年の誕生日でさえ、ケーキに書かれる名前は莉奈だけだった。

真琴も、泣いて訴えたことはある。

けれど、わがままだと叱られ、食事を抜かれ、クローゼットに閉じ込められて反省させられた。

やがて、真琴は何も言えなくなった。

嫌われないようにおとなしく振る舞い、何でも莉奈に譲るようになった。

そのことを知った朔也は、痛ましそうに真琴を抱きしめ、約束してくれた。

「これからは俺が真琴を守る。俺が大切にするのは、真琴だけだ」

けれど、いつからだったのだろう。

朔也は真琴に飲み物を買うとき、莉奈のぶんも一緒に買うようになった。

真琴がまた学年1位を取ったときも、こう付け加えた。

「莉奈の前では成績の話をするなよ。体が弱くて勉強に集中できないって、また落ち込むだろ」

真琴は二人を問い詰めようと会場へ駆け寄った。

しかし、招待状を持っていなかったため、警備員に止められた。

壇上では、朔也と莉奈が愛しげに見つめ合い、抱き合ったあと、婚約指輪を交換していた。

親族席に座る美穂と正典は、感極まった様子で涙を浮かべていた。

その一方で真琴は、会場の外に締め出され、全身から血の気が引いていくのを感じていた。

やがて、セレモニーが終わった。

4人は楽しそうに、どこへ祝杯をあげに行くか話していたが、真琴の姿を見つけた途端、笑い声がぴたりと止まった。

真琴が口を開くより先に、美穂が苛立たしげに眉をひそめた。

「ホテルにいないで、こんなところまで何をしに来たの?また自分が真琴だなんて言い出すつもり?」

正典も険しい顔をした。

「こんな人前で騒ぎを起こすな」

「私が騒いでる?」

真琴は皮肉げに笑った。けれど、涙は勝手に目からあふれた。

「本当に私が分からないの?それとも、分からないふりをしてるだけ?」

朔也の目に一瞬、後ろめたさがよぎった。

喉仏が動いたものの、彼は何も答えなかった。

「お父さんもお母さんも、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

莉奈は頬を膨らませ、真琴をかばうように前へ出た。

「朔也に投稿してもらったのは、お姉ちゃんに見つけてもらって、ここへ来てもらうためだったの。

だってお姉ちゃんは、私が体が弱くていつも病気になるのも、大学入試を受けられなかったのも、自分のせいだって分かってるでしょう?だから、私がお姉ちゃんの代わりに京華大学へ通うことも認めてくれるし、入学してからもばれないように手伝ってくれるよね?」

また、いつものやり方だった。

両親が真琴を責めるたび、莉奈は必ずかばうふりをする。

そして真琴が心を動かされた頃を見計らい、目を潤ませながら罪悪感を抱かせ、自分から譲るように追い込むのだ。

けれど、今回は違った。

「嫌よ」

真琴の声は震えていた。

それでも、意思は揺らがなかった。

「私は入学試験でトップの成績を収めた理系首席よ。学校にはすでに相談して、莉奈を聴講生として特別に受け入れてもらえることになってる。だから莉奈は……」

最後まで言い終える前に、美穂が目を吊り上げ、真琴の頬を平手で打った。

「莉奈があなたをかばったのが馬鹿みたいじゃない!条件が同じなら、どうして聴講生になるのがあなたでは駄目なの?自分は正規の学生になって、妹にはコネで入ったと思わせたいだけでしょう!

私はあなたの母親よ。私が決めたの。この件について、これ以上話し合うことはない!」

耳の奥で激しい音が鳴り続けた。

打たれた頬は熱を持ち、感覚がなくなるほど痺れていた。

けれど両親は、涙を浮かべる莉奈を連れて、そのまま立ち去った。

朔也は真琴の腫れた頬を見つめ、冷たいペットボトルを彼女の手に押しつけた。

「冷やせば、少しは腫れが引く。莉奈はあんなに真琴を信じているんだ。少しくらい譲ってやれないのか?」

どうして騙したのか。

莉奈が真琴ではないと知りながら、なぜ二人で婚約パーティーを挙げたのか。

朔也は何ひとつ説明しなかった。

真琴を見る彼の目に浮かんでいたのは、深い失望だけだった。

真琴は冷たいペットボトルを強く握りしめた。

その冷たさが、指先から全身へと染み渡っていく。

それでも朔也は、以前のように優しく真琴の涙を拭おうとはしなかった。

莉奈を慰めるため、慌ただしく彼女のあとを追っていった。

真琴はまたしても、全員から置き去りにされた。

けれど、これまで18年間、何もかも莉奈に譲ってきた。

それでも、京華大学への入学資格だけは、たとえ死んでも譲るつもりはなかった。

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