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第4話

Penulis: プーアル
淑子は、私にこう言い放った。「一ノ瀬家がなきゃ、あんたなんて裸にされて大通りに放り出されるだけよ」

最後に手を差し伸べたのは、亮介だった。

彼は自分のジャケットを脱ぎ、私の身体を、隙間ができないほど包み込んだ。

私のみっともない姿を見た使用人たちには、自腹で口止め料を渡し、全員を辞めさせた。――私の体裁を守るためだけに。

それからしばらくのあいだ、亮介は寸分も私のそばを離れなかった。私の心が、ようやく持ち直すまで。

もし後になって、あの反省部屋そのものが、亮介の入れ知恵だったと知らなければ。

私を追い詰め、最後に救い出す。そうやって、私を惚れさせるための筋書きだったのだと。

きっと私は今でも、あの人はいい人なのだと、勘違いしていた。

もしかしたら、ほんの一瞬くらいは。

彼の優しさが、美月の代わりではなく、「紗季だから」向けられたものだったのかもしれない、と。

膝をついてから、もう一時間近くが過ぎていた。やがて、反省部屋の扉が開く。

背後で、亮介の足音がした。

私は目を開き、目の前の鏡越しに、彼と視線を合わせる。

亮介は、不機嫌そうに眉を寄せた。

「……なんで、わざわざ彼女を怒らせる。あの人は、美月の母親だろ」

そんなふうに言うとき、亮介は忘れている。

あの人が、私の母親でもあることを。

私が意地でも黙ったまま跪いているのを見て、亮介は私を横抱きにした。

屋敷の私の部屋へは戻らない。

連れて行かれたのは、彼が買ったばかりだという一軒の別荘だった。

庭には、たくさんの花が植えられている。

美月の好きなラベンダーじゃない。私の好きな、野のデイジーだった。

「どうだ。気に入ったか。お前のために用意した、新居だ。

お前、あの家に情がないだろ。あそこから嫁に出たくないのも、分かってる」

私はわざと明るく笑い、彼の首に腕を回して、顎先に軽くキスを落とした。

「……うん。とても、好き」

亮介はその反応に満足した様子で、私を連れ、別荘の中をゆっくり案内して回った。

結婚したあとの暮らしがどんなものになるか。甘い未来図を、ひとつひとつ語って聞かせる。

式は一か月後だ、と言った。

それまではここに住んで、準備をしろ。必要なものがあれば、何でも俺に言え、と。

私は素直に、うなずいた。

彼は私の目を見つめたまま、喉仏を小さく上下させる。

片手が私の腰を引き寄せ、もう片方が、スカートの裾から滑り込んできた。

私は即座にその手首を押さえる。

「……今日はだめ。あの日だから」

彼は興を削がれたように眉をひそめ、何も言わず、手を引っ込めた。

「じゃあ、今夜は休め。明日、また来る」

そう言ったあとも、彼はすぐには動かず、私をじっと見ていた。

――引き留めろ。

そう、目で言っているのが分かる。

けれど私は、ただ静かに彼の腕の中から身を抜き、穏やかに微笑んだ。

「……また明日ね」

これまでなら、こういう夜は決まって、彼は別の女のところへ行き、都合よく発散していた。

今日も、そうなるものだと思っていた。

けれど――彼が出て行ってから、二時間ほど経ったころ。バーから、一本の電話がかかってきた。

私は二度、呼びかけた。けれど、返事はない。

代わりに受話器の向こうから、亮介の友達たちの声が飛び込んできた。

「亮介、マジであの女たちと手ぇ切ったのか?」

「嘘だろ。紗季のために女遊びやめるとか、お前らしくねえ」

騒がしさがしばらく続き、やがて、亮介の声がはっきりと聞こえた。

「……俺、紗季と結婚する」

それきり、電話の向こうは長い沈黙に包まれ、彼の声は戻ってこなかった。

私は、ちょうどいいところで通話を切った。

考えるまでもない。この電話は、わざとだ。

本気なのか。それとも、こうやって私の気持ちを、縛りつけたいだけなのか。

……もう、どうでもよかった。

それから私は、渡航の書類を揃えながら、同時に、婚約準備をしているふりを続けた。

蓮が新しい身分を用意してくれた。

二ノ宮琴葉(にのみや ことは)。

それが、これからの私の名前だ。
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