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第7話

Author: まわりまわり
真相は最初から察しがついていた。だが、桐生家と橘家の婚姻は重大事であり、目の前には虎視眈々と狙う伊丹社長がいる。彼がここで怜奈の面子を潰すわけにはいかなかった。

「謝れ」

司の声が響いた時、雫は聞き間違いかと思った。彼女は茫然と司を見た。彼が自分に謝罪を求めていることを確認し、信じられない思いで言った。

「社長、これには裏があります。誰かが偽造して陥れたのです!」

「以前、南さんと仕事をした時は優秀だと思ったが、こんな低レベルなミスをするとはな」

伊丹社長は舌打ちして首を振り、雫が謝るのを待った。司の隣で、怜奈がわずかに口角を上げ、その目には完全な勝利の誇示があった。

雫の口調は断固としていた。

「社長、真相究明を求めます」

パチッ。金属製の万年筆がデスクに放り出された。続いて響いたのは、圧倒的な威圧感を放つ司の声だった。

「謝罪するか、解雇か。自分で選べ」

男の口調にはすでに不耐が含まれており、雫は何を言っても無駄だと悟った。雫は少しの間沈黙し、頭を下げ、歯を食いしばって謝罪した。

「伊丹社長、申し訳ありませんでした。このプロジェクトによる損失は、全力を尽くして補填いたします」

伊丹社長はそれには応えず、今度は怜奈を褒めそやした。

「それに比べて橘さんは、トラブルの後すぐにフォローに入ってくれた。見直したよ」

怜奈は恥ずかしそうに下を向いた。

「司のことは私のことですから。当然です」

彼らの和気藹々とした光景を見て、雫はさらに心が冷え込んだ。司が真相に気づいていないはずがない。

それでも彼は、自分を犠牲にすることを選んだのだ。もう麻痺していると思っていたが、心臓のあたりが、やはり細かく鋭い痛みを発していた。

夢遊病者のように一日を過ごし、退勤時間を迎えた。

「南秘書、今夜司と接待のパーティーがあるの。私、アルコールアレルギーだから、あなたが一緒に行ってくれない?」

怜奈が笑顔で雫を呼び止めた。その目には計算が滲んでいた。

自分を身代わりとして酒を飲めと?雫は即座に答えた。

「断るよ。他を当たって」

怜奈は口を尖らせた。

「でも、南秘書以外はよく知らないから安心できないのよ」

「雫、来い」

背後から来た司が、雫を人気のない隅に呼び寄せた。

「今夜のパーティー、怜奈に同行しろ」

雫は冷笑した。

「社長、私はあなたの秘書です。橘さんの秘書ではありません」

「二百万だ。行けば払う」

雫は司が怜奈のためにそこまでするとは思わなかった。

ただの酒除けなら誰でもいいはずなのに、怜奈を喜ばせるためだけに、二百万もの大金を払って自分を同席させるなんて。雫は軽く笑い、顔を上げて司の目を見た。

「三百万。くれるなら行きます」

その底知れぬ黒い瞳が二秒間彼女を凝視し、司は承諾した。

「いいだろう」

「交渉成立ですね」

雫があっさりと承諾した様子を見て、司の心に得体の知れない不快感が走った。彼は冷笑し、皮肉を込めて言った。

「結局金さえ払えば、何でもするってわけか」

雫は肩をすくめた。

「ええ、どうでもいいのです」

瞳を細め、司は低い声で言った。

「いいだろう」

そう言うと、彼は迷いなく背を向けて去っていった。

夜の宴は華やかだった。司は控えめだが高級な黒のスーツに身を包み、彫刻のように美しい顔立ちをしていた。

一方、怜奈は煌めくシルバーホワイトのイブニングドレスを纏い、高価な宝石と完璧なメイクで輝いていた。

彼女は司の腕を取り、艶やかに微笑んでいる。二人が並ぶと、まさに美男美女、天に選ばれしカップルに見えた。

雫は地味でシンプルなダークブルーのドレスを着て、彼らの右後方に立っていたが、どう見ても余計な存在だった。

「雫さん」

怜奈が優しく呼んだ。

「伊丹社長が乾杯にいらしたわ。司は胃が弱いの、代わってあげて」

雫はなみなみと注がれた酒を見て、胃が微かに痙攣するのを感じた。口を開こうとした瞬間、司の冷淡な視線が飛んできた。

「行け」

一杯飲み干すと、喉から胃にかけて焼き尽くされるような感覚が走った。飲み終えて息つく暇もなく、次の赤ワインが目の前に差し出された。

怜奈は微笑んで見ていたが、その眼底は嘲笑に満ちていた。

「雫さん、若林夫人の乾杯よ。私の代わりに飲んでね」

長谷川社長、小野会長、柳田夫人……

怜奈は楽しげに、次々と人を呼び込んだ。

「桐生社長の周りは人材が豊富ですね!」

「南秘書、いい飲みっぷりだ!」

お世辞の言葉がナイフのように、雫の張り付けた笑顔に突き刺さる。

どれだけ飲んだか覚えていない。ウイスキー、赤ワイン、度数の高い酒が体内で混ざり合い、胃の中で嵐が起き、激痛の波が押し寄せてくる。

彼女は席を外し、冷たい洗面台に手をついて空嘔吐した。何も出てこない。アルコールが胃を焼き、呼吸さえもヒリヒリと痛む。鏡の中の顔は土気色だった。

雫は長く席を外すわけにはいかず、簡単に身なりを整えて会場に戻った。怜奈は司に寄り添っていたが、雫を見ると意味深な笑みを浮かべた。何を企んでいるのかはわからないが、嫌な予感がした。

案の定、数分後、怜奈は何気なく耳たぶに触れ、驚きの声を上げた。

「私のイヤリング!

司、あなたがくれたダイヤのイヤリングがないの!」

声は大きくなかったが、周囲の人々に聞こえるよう巧みに計算されていた。宴会場が一瞬静まり返った。司はそっけなく言った。

「なくしたなら仕方ない。また贈るよ」

「だめよ、司!あのイヤリングはあなたがくれた再会のプレゼントなの。大切なのよ、絶対に見つけなきゃ!」

怜奈は一瞬で目を赤くし、周りの人々が口々にアドバイスをするのを一つ一つ否定していった。突然、彼女は何かを思い出したようだった。泣き出しそうな顔を上げ、怜奈は雫を見た。

「さっき私に近づいたのは雫さんだけ……もしかして……」

彼女は言葉を濁したが、その意図は全員に伝わった。

すべての視線が雫に集まり、品定めと疑惑の色を帯びた。

「まさか?桐生社長の秘書が……」

「彼女の家、金に困ってるらしいぞ。母親が重病で……」

ひそひそ話が針のように刺さる。雫は胃痛で冷や汗をかき、体が震えた。テーブルの端を掴み、爪を掌に食い込ませた。

「橘さん」

彼女の声は掠れていたが、はっきりとしていた。

「私はあなたのイヤリングなど盗っていません」

怜奈は唇を噛み、涙をこぼれ落とそうとした。

「あなたが盗ったなんて言ってないわ……不注意の間に引っかかったのかも……」

彼女は泣き声混じりに司に向いた。

「司、あのイヤリングは本当に大事なの……お願い、ボディチェックしてもいい?」

ボディチェック?!雫は猛然と顔を上げ、信じられないという目をした。

最終的に見つかろうが見つかるまいが、これは公衆の面前での侮辱だ!議論の声が潮のように押し寄せてくる。

雫は歯を食いしばり、司を見た。彼は口を開かず、表情は冷酷で陰鬱だった。沈黙は、時にもう決めったのを意味する。

雫の心が少しずつ沈んでいった。五年。彼女は二人の間に少なくとも僅かな信頼はあると思っていた。

しかし、すべては彼女の独りよがりな幻想だったのだ。

雫は、自分の心が死ぬ音を聞いた。
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