共有

第689話

作者: タロイモ団子
そう言い残すと、望美は上機嫌な様子で部屋を後にした。

ドアが閉まるのを見届けると、悠真はようやく芽依の目を覆っていた手を離す。

その瞬間、涙をいっぱいに溜めた芽依の黒い瞳と目が合った。

――自分だって、あんなにもママに愛されていた。それなのに、以前の自分はその幸せを少しも大切にしてこなかった。

その結果が、今だ。他人に支配され、自由まで奪われてしまっている。

こんな状況になったのは、すべて自分たちの自業自得だった。

悠真も堪えきれず涙をこぼし、妹をぎゅっと抱き締める。

「芽依ちゃん、怖がらないで。お兄ちゃんが絶対に守るから。だから今は、前みたいにあの女に逆らっちゃ駄目だ」

芽依は小さな体を震わせながら、声を上げて泣いた。

「あいつ、頭がおかしいわ。さっき、本気で私を殺そうとしたのよ……」

思い返すだけで、背筋が凍るような恐怖が蘇る。

「僕にも分かった。だからこそ、あの女には逆らっちゃいけないんだ。今の僕たちは、どう考えても圧倒的に不利なんだから」

悠真は努めて冷静に状況を分析した。

幼い兄妹は身を寄せ合い、この先どうすればいいのかを話し合う。

ふと、芽依はさ
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第691話

    舞絵は拳をぎゅっと握りしめ、今にも火を噴きそうな目で望美を睨みつけた。――本当に性根の腐った女だ。やがて彼女は机の上のスイーツへ視線を移し、わざとらしく尋ねた。「社長、このスイーツ、とても可愛らしくて美味しそうですね。どちらのお店で買われたんですか?私も買って食べてみたいと思いまして」「これは望美が作ってくれたんだ」成哉は望美へ優しい眼差しを向けた。「お金を積んでも手に入らない特別なスイーツだよ」「そうなんですか?」舞絵は不思議そうに首を傾げた。「でも以前、社長は橋本さんはスイーツ作りができないとおっしゃっていましたよね……それはどういうことでしょうか」成哉の表情がわずかに曇る。望美へ向ける視線にも、探るような色が滲んでいた。ここ数日、監視カメラの件がずっと頭から離れなかった。何度も考えた末にたどり着いた結論は、望美は自分を愛しすぎるあまり、あの二人の子供の存在を受け入れられず、だからこそ自分を騙すような真似をしてしまったのだ、というものだった。望美の気持ちは理解できるが、それで彼女のやり方まで正しいとは思えない。たとえ自分があの子供たちを嫌っていたとしても、子供たちに罪はないのだから。「どういうことだ?」成哉は問い詰めるような口調で尋ねた。「このスイーツは君が作ったって言ってたよな」「私……確かに、お屋敷の厨房の人たちには少し手伝ってもらったわ」望美は成哉の手をそっと握った。「でも、あなたを愛してるっていう気持ちは本物よ。ただ、私、本当に料理が苦手だから、少し教えてもらっただけなの。それなのに、この女はこんなところで私たちの仲を裂こうとしてるのよ!あなたにどんな下心を抱いてるかなんて、もう見え見えじゃない」望美は舞絵を指差し、容赦なく言い放った。成哉は眉間を揉み、深く息をつき、苛立ちばかりが募っていく。目を覚まして以来、何一つ思い通りにならない。舞絵はすぐに口を開いた。「橋本さん、どうか落ち着いてください。私は通常の業務を行っているだけです。そのようなことをおっしゃるのであれば、きちんと証拠をお示しください」「自分のその格好を見てみなさいよ。私の言ってることにはちゃんと根拠があるわ」望美は舞絵の服装を指差し、値踏みするような目で見た。「どうせ何か

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第690話

    彼は望美のその艶やかで美しい顔を見つめた。記憶にある姿と少しも変わらないはずなのに、なぜか心の底から一抹の拒絶感が湧き上がってくるのを感じていた。望美の瞳から次第に光が失われ、口元の笑みも不自然に強張った。成哉はどうしてしまったの。まさか、記憶を失ってまで、まだあの忌々しい紬のことを考えているというの。だが次の瞬間、成哉はふっと話題を変えた。「望美ちゃん、考えすぎだ。君が会いに来てくれて、俺は本当に嬉しいよ。何を持ってきたんだ?少し味見させてくれ」成哉が話を逸らした以上、彼女もそれに調子を合わせるしかなかった。望美はスイーツの箱を開けながら、偽装した火傷の跡をさりげなく成哉の目の前へ晒した。「私が手作りしたスイーツよ。どれも成哉の好きなものばかりだから」案の定、成哉は望美の手をきゅっと掴み、痛ましそうな顔つきになった。「どうしたんだ、これ」望美はにっこりと微笑み、成哉を安心させるように言った。「ああ、ちょっと不注意で火傷しちゃっただけ。気にしないで。それより、早くアフタヌーンティーにしましょう」しかし、成哉の表情は依然として険しかった。「望美ちゃん、俺のために君が怪我をするなんて嫌だ。俺の心が痛むんだ」望美は甘く囁き、自分の想いを伝えた。「ええ、わかったわ。あなたは私の愛する人だもの。当然、私が心を込めて作ったスイーツを食べてほしいわ。あなたのためなら、どんなことだって喜んでできるの」成哉はゴクリと喉を鳴らした。望美からの真っ直ぐな告白を聞きながら、彼は心の底で自分自身を激しく嫌悪した。さっき俺は何を躊躇っていたというのか。なぜ素直に愛の言葉を口にできなかったのか。成哉は腕の中にいる望美を見つめた。ふいに衝動に駆られ、その薄い唇をゆっくりと彼女へ近づけていく。望美は成哉の胸元のシャツをきゅっと掴み、とうに心の準備を整えていた。彼女がそっと目を閉じようとしたその瞬間、ドアをノックする音が響き渡った。望美の瞳の奥には邪魔をされたことへの不快感が掠めたが、成哉は彼女に立ち上がるよう目で合図した。ここはあくまで会社であり、人目につくのは体裁が悪いからだ。仕方なく、望美はしぶしぶと立ち上がった。成哉は声のトーンを整え、扉越しに呼びかけた。「入れ」舞絵はタイトスカート

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第689話

    そう言い残すと、望美は上機嫌な様子で部屋を後にした。ドアが閉まるのを見届けると、悠真はようやく芽依の目を覆っていた手を離す。その瞬間、涙をいっぱいに溜めた芽依の黒い瞳と目が合った。――自分だって、あんなにもママに愛されていた。それなのに、以前の自分はその幸せを少しも大切にしてこなかった。その結果が、今だ。他人に支配され、自由まで奪われてしまっている。こんな状況になったのは、すべて自分たちの自業自得だった。悠真も堪えきれず涙をこぼし、妹をぎゅっと抱き締める。「芽依ちゃん、怖がらないで。お兄ちゃんが絶対に守るから。だから今は、前みたいにあの女に逆らっちゃ駄目だ」芽依は小さな体を震わせながら、声を上げて泣いた。「あいつ、頭がおかしいわ。さっき、本気で私を殺そうとしたのよ……」思い返すだけで、背筋が凍るような恐怖が蘇る。「僕にも分かった。だからこそ、あの女には逆らっちゃいけないんだ。今の僕たちは、どう考えても圧倒的に不利なんだから」悠真は努めて冷静に状況を分析した。幼い兄妹は身を寄せ合い、この先どうすればいいのかを話し合う。ふと、芽依はさっきの望美の目つきを思い出し、悠真の耳元へ顔を寄せ、小さな声で囁いた。「お兄ちゃん、私ね……あの女のお腹にいる子、本当にパパの子じゃないんじゃないかって思うの……」その瞳は真剣そのものだった。だって、あの女はまるで嘘を見抜かれたかのように、あれほど激しく取り乱したのだから。聞かれるのが怖くて、芽依にはもう大きな声で望美のことを話す勇気はなかった。あの女は、本物の狂人だ。悠真もまた、芽依とまったく同じ考えに至っていた。あの悪い女があそこまで激昂したということは、その推測が図星だった何よりの証拠だ。「でも、私たちまだ子供だもの」芽依はうつむく。「何もできないし、この家からも出られない。それに今は、ママにも連絡できない。誰も助けてくれないわ」「いるよ!」悠真は力強く言い切った。「パパがいるじゃないか」「お兄ちゃん、本気で言ってるの?」芽依はぽかんと口を開け、信じられないという表情で悠真を見つめた。「もちろん本気だよ。パパの記憶を取り戻す方法を考えるんだ」パパさえ記憶を取り戻せば、きっとあの悪い女の化けの皮を剥いでくれる。

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第688話

    その言葉を聞いた瞬間、望美の表情が一変した。芽依へ向ける視線は、見る者が背筋を凍らせるほど陰惨で冷たいものへと変わる。その顔を目にした芽依の小さな顔にも、さっと恐怖が走った。――この女……何をするつもりなの。どうして急に、あんな恐ろしい目になったの。普段から望美に嫌われていることは分かっていた。それでも、あそこまで人を震え上がらせるような表情を見せたことは一度もなかった。なのに今は、まるで邪悪な魔女のような顔をしている。その様子を、悠真もすぐそばで見ていた。どうして芽依が子どものことに触れた途端、あの悪い女はあれほど取り乱したのだろう。ある考えが、ふと彼の頭をよぎる。――もしかして……あのお腹の子、本当にパパの子じゃないんじゃ……望美は芽依の首をいきなり掴み、そのまま締め上げると、耳元で低い声を響かせた。「警告しておくわ。その口、軽々しく開かないことね。私が本気で手を出せないとでも思ってるの?あんたみたいな生意気な小娘一人、殺そうと思えばいつでも殺せるのよ。それに、あんたのパパだって文句の一つも言わないわ」芽依の顔はみるみる赤く染まり、必死にもがきながら望美の腕を叩く。「悪魔!あ、あんたなんか……離してよ!」その光景を見た悠真は目を真っ赤にし、飛び出して望美の腕にしがみついた。「離せ、この悪魔!早く芽依ちゃんを離せよ!」息が詰まり、真っ赤になっていく妹の顔を見た瞬間、胸が張り裂けそうになった。叫ぶ声には、今にも泣き出しそうな震えが混じっている。だが、相手は大人だ。幼い子ども二人を相手にするなど、赤子の手をひねるより簡単だった。先ほど芽依が口にした言葉を思い出し、望美の胸には本気の殺意が芽生えていた。――どうせ今の成哉は記憶喪失だ。生意気な小娘が一人、事故で死んだことにしたところで、誰も何も言わないだろう。その時は、適当な言い訳を並べてしまえば済む話だ。そう考えた望美は、首を締める手に少しずつ力を込めていく。芽依の抵抗は、目に見えて弱くなっていった。望美の腕を叩いていた手にも、次第に力が入らなくなっていく。悠真は自分の力では望美の手を引き離せないと悟ると、とうとう頭を下げた。「望美さん、ごめんなさい!僕たちが悪かったよ!これからは絶対に逆らったりしな

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第687話

    天野邸。二人の子どもは家の中に閉じ込められていた。絵美が見張りをつけ、一歩たりとも外へ出られないようにしているのだ。芽依は部屋の隅に座り込み、抱き締めたロップイヤーのぬいぐるみを八つ当たりするように何度も叩いていた。ぬいぐるみは彼女の腕の中でぐにゃりと形を変えながら、主人の鬱憤を黙って受け止めている。悠真は雑炊の入ったお椀を手に、芽依のもとへ歩み寄った。「芽依ちゃん、もう怒るのはやめよう。少しでいいから食べなよ。体が資本なんだから、食べなきゃ元気も出ないだろ」「元気が出たって、どうせ外には出られないじゃない」芽依はベッドへ仰向けに倒れ込み、天井を見つめながら大きくため息をついた。今の彼女は、生きる気力さえ失いかけていた。こんな豪邸に閉じ込められた毎日なんて、籠の中の鳥と何が違うというのだろう。悠真も沈んだ表情のまま、お椀を机の上へ置く。今の状況では、彼にもどうすることもできなかった。「でも、今はどうしようもないよ。パパ……いや、あの男はまた記憶喪失になっちゃったし、あの悪い女も意地悪だし。僕たちにはどうにもできないよ」思わず「パパ」と口にしかけた悠真だったが、最近の成哉の振る舞いを思い出し、小さく言い直した。芽依はふうっと息を吐く。「お兄ちゃん、私、ママに会いたいの。ママが作ってくれたケーキが食べたいよ。ママの匂いが恋しい……」悠真も何か言葉を返そうとした、その時だった。望美が突然ドアを開け、部屋へ入ってきた。その姿を見た芽依は勢いよく起き上がり、鋭い視線を望美へ向ける。「あなた、本当に失礼ね!人の部屋に入るのに、ノックもできないの?」以前はどうして、この女がここまで品のない人間だと気づけなかったのだろう。望美はドアを閉め、そのまま部屋の中へ歩いてくる。芽依に言われても、怒るどころか平然としたままだった。悠真は警戒心をあらわにし、妹をかばうように前へ立った。「人の話が分からないのか?ここは芽依ちゃんの部屋だぞ。何しに来たんだよ」「もちろん、あんたたちの惨めな姿を見に来たのよ。もうすぐ私はこの家の女主人になるんだから、この家に私が入っちゃいけない場所なんてないでしょ」望美は得意げに笑う。もはや本音を隠そうともせず、胸の奥にある欲望をそのまま顔に浮かべていた。

  • 輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした   第686話

    清彦が去ると、雅乃も会議室を後にした。ドアを開けた途端、カナと千鶴の二人に囲まれる。カナは腕を組み、心配そうに尋ねた。「雅乃、清彦さんに中で意地悪されなかった?」「そうよ。さっき中からすごい音がして、本当にびっくりしたんだから」千鶴も胸をなで下ろしながら、心底怯えたような表情を浮かべる。雅乃は二人を安心させるように微笑んだ。「大丈夫よ。あの人はああいう人だから。大げさなだけで、本当はたいしたことないの。心配しないで」カナは目を細め、訝しげな顔になる。「おかしいわね、雅乃。それにしても、どうしてそんなに清彦さんのことに詳しいの?」そう言うと、腕を組んだまま人差し指で存在しない眼鏡をクイッと押し上げる仕草をし、名探偵気取りで雅乃の周りをぐるりと一周した。雅乃は内心ひやりとしながらも、それを悟られまいと契約書を取り出し、さりげなく話題を変える。「もう、変なこと考えないで。それより報告があるの。制服のプロジェクト、これで完全に終わったわ」千鶴とカナは顔を見合わせ、そろって信じられないという表情を浮かべた。「嘘でしょ?」カナは雅乃のそばへ歩み寄り、タブレットを覗き込む。普段の清彦といえば、ああでもないこうでもないと理屈を並べ、難癖ばかりつけてくる相手だ。それが今回は、こんなにもあっさり了承したというのだから驚くしかない。その話を聞きつけ、これまで散々振り回されてきたレナもひょっこり顔を出した。この件について、一番苦労してきたデザイナーは彼女なのだ。これまで何度も修正を重ね、そのたびに清彦から散々酷評され、遠回りに遠回りを重ねた末、結局採用されたのは最初のデザインだった。――本当に、憎たらしい資本家だ。レナは心の中で毒づいたが、さすがに口には出せない。雅乃も、そんなレナがどれほど苦労してきたかをよく理解していた。だからこそ、契約書の画面を開いて見せる。「ええ。本当にサインをもらったわ」そう言ってレナの肩をぽんと叩き、真剣な眼差しを向けた。「安心して、レナ。あなたの頑張りはちゃんと紬さんに伝えておくから。私は全部分かってるわ」結局、この騒動の原因の大半は雅乃自身にあったのだから。最悪の場合は、紬さんに頼んで自分のボーナスをレナへ回してもらっても構わない。レナは感

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status