แชร์

第27話 書庫の再会

ผู้เขียน: 霜月イヅミ
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-28 20:41:07

 辺境伯の城での日々は、奇妙な静けさに満ちていた。

 セレスティナに与えられた部屋は、彼女がこれまで過ごしてきたどの場所とも異なっていた。牢獄の冷たさも、廃屋の寒さもない。だが、王都の公爵邸にあったような、華やかで人の温もりに満ちた場所でもなかった。そこにあるのは、無機質で、機能的なだけの空間。そして、窓の外に広がる、どこまでも続く灰色の空。

 それはまるで、美しい鳥籠のようだと彼女は思った。安全で、飢えることも凍えることもない。だが、ここから一歩も出ることは許されない。ライナスが言った「保護」という言葉は、その実、丁寧な「軟禁」と何ら変わりはなかった。

 侍女のマルタは、毎日決まった時間に食事を運び、湯浴みの世話をし、部屋を清潔に保った。その所作は完璧だったが、彼女の口から発せられる言葉は、業務連絡に必要な最低限のものだけ。セレスティナが何かを尋ねても、返ってくるのは「閣下のご命令です」という、短い返事だけだった。

 ライナスは、あの日以来、一度も彼女の部屋に姿を現さない。その不在は、セレスティナを安堵させると同時に、得体の知れない焦燥感を募らせた。

 彼は自分を「使える」と言った。ならば、なぜ何もしないのか。この鳥籠の中で、ただ生かしておくだけで、一体何の役に立つというのか。

 何もすることがない時間は、嫌でも過去の記憶を呼び覚ます。父の無念、母の最後の言葉、そしてアランの裏切り。復讐を誓ったはずの心は、この何もない静寂の中で、再びその輪郭を失いかけていた。自分は結局、このまま飼い殺しにされるだけなのではないか。そんな無力感が、再び彼女の心を蝕み始めていた。

 変化が訪れたのは、城での生活が始まってから、一週間ほどが過ぎた日の午後だった。

 いつものように食事を運んできたマルタが、盆をテーブルに置いた後、部屋を出て行かずに、セレスティナの前に立った。

「閣下より、伝言です」

 その言葉に、セレスティナの心臓が小さく跳ねる。

「『退屈しているのなら、書庫へ行くといい。必要なものは、そこにあるはずだ』とのことです」

 書庫。

 その単語を聞いた瞬間、セレスティナの心の中で、忘れかけていた何かが、微かに疼いた。

 本。知識。インクと古い羊皮紙の匂い。それは、彼女が幸福だった頃の世界そのものだった。

「ご案内します」

 マルタは、セレスティナの返事を待たずに、そう言って部屋の扉を開けた。セレスティナは、何かに引かれるように、無言で立ち上がり、彼女の後に続いた。

 城の書庫は、螺旋階段を上った先の、塔の一角にあった。重厚な木の扉を開けると、そこは静寂と、そして懐かしい匂いに満ちた空間だった。

 王都の王立書庫や、アルトマイヤー家のそれと比べれば、規模は小さい。だが、壁一面に作り付けられた本棚には、びっしりと書物が並べられていた。華美な装丁の詩集や物語は少なく、そのほとんどが、歴史、地理、鉱物学、そして兵法といった、実用的な知識に関する書物だった。いかにも、実利を重んじるライナスらしい蔵書だ。

 セレスティナは、まるで聖域に足を踏み入れたかのように、ゆっくりと部屋の中を歩いた。指先で、革の背表紙の感触を確かめる。そのざらりとした感触が、彼女の凍てついていた感覚を、少しずつ呼び覚ましていくようだった。

 彼女は、無意識のうちに、歴史書の棚の前で足を止めていた。

 各地方の年代記、王国の建国史、そして、貴族の家系をまとめた紋章学の書物。父と共に、何度もページをめくった、愛しい知識の世界。

 彼女は、一冊の書物を、おそるおそる手に取った。それは、王国の主要な貴族の歴史をまとめた、分厚い書物だった。震える指でページをめくっていく。ヴァインベルク家、ベルクシュタイン家。憎むべき名が、次々と目に飛び込んでくる。

 そして、彼女は、あるページの前で、完全に動きを止めた。

 そこに記されていたのは、白百合と剣を組み合わせた、見慣れた紋章。

 アルトマイヤー家。

 その文字を見た瞬間、彼女の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。

 ページには、アルトマイヤー家の初代から続く、輝かしい歴史が記されていた。建国に尽力した祖先、善政を敷いて民から慕われた曾祖父、そして、誰よりも公正で、誰よりも民を愛した、父の名。

 それは、ヴァインベルクによって汚され、民衆によって忘れ去られた、彼女の一族の真実の姿だった。

 私は、この家の娘なのだ。

 ただの罪人でも、無力な人形でもない。この気高い歴史と、父の魂を受け継いだ、セレスティナ・アルトマイヤーなのだ。

 涙が、次から次へと、古い羊皮紙の上に落ちて、小さな染みを作っていく。だが、それは悲しみの涙ではなかった。失いかけていた自分自身と、再会できた喜びの涙だった。

 彼女は、父の名が記された箇所を、愛おしむように、そっと指でなぞった。

 この歴史を、ここで終わらせはしない。

 この名を汚した者たちに、必ず報いを受けさせる。

 復讐の誓いが、今、彼女の中で、揺るぎない決意として、再び形を結んだ。

 どれほどの時間、そうしていただろうか。

 不意に、背後に人の気配を感じ、セレスティナははっと我に返った。慌てて涙を拭い、振り返る。

 そこに立っていたのは、ライナスだった。

 いつからそこにいたのか、全く気づかなかった。彼は、音もなく現れ、壁に寄りかかりながら、腕を組んで、静かに彼女の様子を見ていたようだった。

「か、閣下…」

 セレスティナは、慌てて書物を閉じ、淑女の礼を取ろうとした。だが、ライナスはそれを、手の動き一つで制する。

「構わん」

 彼の金色の瞳は、彼女が手にしていた書物に向けられていた。彼が、この本をここに置いたのだろうか。いや、それ以上に、彼は、自分がこの本を手に取ることを、分かっていたのではないか。

「ここは、自由に使え」

 ライナスは、静かに言った。

「お前の知識が必要になる時が、いずれ来る。それまで、牙を研いでおけ」

 牙。彼は、彼女の知識をそう表現した。それは、ただの教養や飾りではない。戦うための、武器なのだと。

 彼は、彼女に同情の言葉をかけなかった。慰めることもしない。ただ、彼女が本来の自分を取り戻すための場所と、そして、戦うための理由を与えた。

 その、不器用で、しかし的確なやり方が、今のセレスティナには、どんな優しい言葉よりも、心に響いた。

 この男は、自分をただのか弱い令嬢としてではなく、共に戦う力を持つ者として、見ている。

 その事実が、彼女の心に、新たな種類の信頼感を芽生えさせた。

「…御意」

 セレスティナは、今度こそ、深く、そして完璧な淑女の礼をとった。その顔は、涙の跡で濡れていたが、そのすみれ色の瞳には、もう迷いの色はなかった。

 ライナスは、その姿に満足げに頷くと、何も言わずに踵を返し、書庫を出て行った。

 一人残されたセレスティナは、再び、アルトマイヤー家の歴史書に視線を落とした。

 ここが、私の新しい戦場だ。

 彼女は、書物のページを、今度は涙ではなく、決意に満ちた指先で、ゆっくりとめくった。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป

บทล่าสุด

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第28話 狼の過去

     城の書庫は、セレスティナにとって聖域であり、同時に要塞となった。 日中、彼女はその静寂の中でひたすら書物を読み漁った。乾いた砂が水を吸うように、彼女の飢えた知性は次から次へと知識を吸収していく。辺境の歴史、地理、鉱物資源、そしてこの地で過去に繰り返されてきた中央との軋轢の記録。それらはもはや、ただの文字の羅列ではなかった。彼女の復讐という目的を達成するための、武器であり、弾薬だった。 ライナスが与えた「牙を研げ」という言葉の意味を、彼女は正しく理解していた。この書庫にある知識こそが、彼女の牙となる。物理的な力を持たない彼女が、宰相ヴァインベルクという巨大な敵と渡り合うための、唯一の武器だった。 侍女のマルタは、毎日決まった時間に食事を運び、彼女の集中を妨げないよう、静かに部屋を出ていく。鉄狼団の兵士たちも、この書庫を特別な場所と認識しているのか、近くを通る時でさえ足音を忍ばせているようだった。誰もが、ライナスがこの「すみれ色の瞳の令嬢」を、ただの保護対象として見ていないことを、暗黙のうちに理解していた。 その夜も、セレスティナは一人、書庫のランプの灯りの下で羊皮紙にペンを走らせていた。 彼女は、辺境で産出される鉱物資源に関する古い記録と、近年の交易記録を照らし合わせ、ある不自然な点に気づき始めていた。公式な記録上では、特定の鉱山の産出量は年々減少していることになっている。だが、別の文献に残された、かつての地質調査の記録によれば、その鉱山にはまだ豊富な鉱脈が眠っているはずだった。(誰かが、産出量を偽って、差額を不正に着服している…? それも、何十年という、長い期間にわたって) その金の流れの先に、誰がいるのか。彼女の頭脳は、冷徹なまでに冴え渡っていた。この金の流れを追えば、きっとヴァインベルクの影にたどり着くはずだ。 彼女が思考に没頭していた、その時だった。 音もなく、書庫の扉が開いた。セレスティナは驚いて顔を上げる。そこに立っていたのは、やはりライナスだった。彼は夜の見回りでもしていたのか、黒い軍服を纏い、その金色の瞳は夜の闇の中でも鋭い光を放っていた。「まだ起きていたのか」 彼の声は、静かだが、書庫の空気を震

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第27話 書庫の再会

     辺境伯の城での日々は、奇妙な静けさに満ちていた。 セレスティナに与えられた部屋は、彼女がこれまで過ごしてきたどの場所とも異なっていた。牢獄の冷たさも、廃屋の寒さもない。だが、王都の公爵邸にあったような、華やかで人の温もりに満ちた場所でもなかった。そこにあるのは、無機質で、機能的なだけの空間。そして、窓の外に広がる、どこまでも続く灰色の空。 それはまるで、美しい鳥籠のようだと彼女は思った。安全で、飢えることも凍えることもない。だが、ここから一歩も出ることは許されない。ライナスが言った「保護」という言葉は、その実、丁寧な「軟禁」と何ら変わりはなかった。 侍女のマルタは、毎日決まった時間に食事を運び、湯浴みの世話をし、部屋を清潔に保った。その所作は完璧だったが、彼女の口から発せられる言葉は、業務連絡に必要な最低限のものだけ。セレスティナが何かを尋ねても、返ってくるのは「閣下のご命令です」という、短い返事だけだった。 ライナスは、あの日以来、一度も彼女の部屋に姿を現さない。その不在は、セレスティナを安堵させると同時に、得体の知れない焦燥感を募らせた。 彼は自分を「使える」と言った。ならば、なぜ何もしないのか。この鳥籠の中で、ただ生かしておくだけで、一体何の役に立つというのか。 何もすることがない時間は、嫌でも過去の記憶を呼び覚ます。父の無念、母の最後の言葉、そしてアランの裏切り。復讐を誓ったはずの心は、この何もない静寂の中で、再びその輪郭を失いかけていた。自分は結局、このまま飼い殺しにされるだけなのではないか。そんな無力感が、再び彼女の心を蝕み始めていた。 変化が訪れたのは、城での生活が始まってから、一週間ほどが過ぎた日の午後だった。 いつものように食事を運んできたマルタが、盆をテーブルに置いた後、部屋を出て行かずに、セレスティナの前に立った。「閣下より、伝言です」 その言葉に、セレスティナの心臓が小さく跳ねる。「『退屈しているのなら、書庫へ行くといい。必要なものは、そこにあるはずだ』とのことです」 書庫。 その単語を聞いた瞬間、セレスティナの心の中で、忘れかけていた何かが、微かに疼いた。 本。知

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第26話 「蛮族」の作法

     城での生活が始まってから数日が過ぎた。 セレスティナに与えられた部屋は、彼女の心の傷を癒すには十分すぎるほどの静けさと温もりに満ちていた。毎朝、侍女のマルタが運んでくる温かい食事。夜には必ず用意される湯浴み。清潔な寝台と、風の吹き込まない部屋。その一つ一つが、彼女が失いかけていた人間としての感覚を、ゆっくりと取り戻させてくれた。 路地裏で受けた傷は、手厚い看護のおかげで日に日に薄れていく。だが、体の傷が癒えるにつれて、心の混乱はより深く、複雑な様相を呈し始めていた。 辺境伯、ライナス。 あの男の存在が、彼女の思考の中心を占めて離れない。 彼は、自分をこの城に置く理由を「使えるからだ」と言い放った。その言葉は、冷たい刃のように彼女の胸に突き刺さったままだ。駒として、道具として、自分に価値を見出したに過ぎない。そう頭では理解しようとする。だが、その一方で示される、不可解なまでの配慮が彼女を混乱させた。 上質な毛布、栄養のある食事、そして彼女の知識を試すかのような、書物の差し入れ。それらは、ただの駒に対する扱いとしては、あまりに過分だった。 あの男は、一体何を考えているのか。自分を、どうするつもりなのか。その答えを得られない限り、この城での生活は、見えない鎖に繋がれた、居心地の良い牢獄と何ら変わりはなかった。 その日の夕刻、マルタがいつものように食事を運んできた後、珍しく部屋に留まり、セレスティナに告げた。「セレスティナ様。今宵は、閣下が食堂でお待ちです。幹部の者たちとの食事に、同席なされるように、と」「…わたくしが、ですか」 思わず、セレスティナは聞き返した。鉄狼団の幹部たちとの食事。それは、想像しただけで身がすくむような光景だった。あの武骨で、粗野な男たちの中に、自分一人が混ざるというのか。「閣下のご命令です」 マルタは、それ以上は何も言わず、ただセレスティナが身支度を整えるのを待っていた。その無表情の裏には、拒否は許さないという、鋼のような意志が感じられた。 セレスティナは、諦めて頷くしかなかった。ライナスの命令は、この城では絶対だ。そして、彼を知るためには、彼の率いる狼

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第25話 気高き魂

     辺境伯の城での日々は、静寂に満ちていた。 セレスティナに与えられた部屋の窓からは、雪に覆われた城下と、その向こうに広がる荒涼とした大地が見渡せる。それは彼女が数日前までいた世界と地続きでありながら、今は分厚いガラス一枚を隔てた、遠い世界の風景のよう。 温かい食事、清潔な寝具、そして風の吹き込まない部屋。失われた人間としての尊厳が、一日一日と、ゆっくりと修復されていくのを感じる。侍女マルタの無愛想だが実直な世話も、今では心地よい距離感に思えた。 だが、その穏やかな日常は、セレスティナの心を完全には癒さなかった。むしろ、体の傷が癒えるにつれて、心の混乱はより深い場所で渦を巻き始めていた。 辺境伯、ライナス。 あの男の存在が、彼女の思考の中心を占めて離れない。 路地裏で絶望の淵にいた自分を救い出した、圧倒的な力。有無を言わさず、この城へ連れてきた独善的なまでの支配力。そして、その一方で示される、不可解なまでの優しさ。 彼は自分を「使える」と言った。その言葉は、冷たい刃のように彼女の胸に突き刺さったままだ。駒として、道具として、自分に価値を見出したに過ぎない。そう頭では理解しようとする。だが、夜中に届けられた毛布の温もりや、彼女の知識を「宝」と称したマルタの言葉が、その単純な結論を許さなかった。 あの男は、一体何を考えているのか。自分を、どうするつもりなのか。 その答えを得られない限り、この城での生活は、見えない鎖に繋がれた、居心地の良い牢獄と何ら変わりはなかった。 このままではいけない。 あの日、父の無念を晴らすと誓ったはずだ。この男に利用されるにせよ、されるがままの駒で終わるつもりはない。そのためにはまず、敵であり、主であり、そして恩人でもある、あの男の真意を知らねばならなかった。 セレスティナは、静かに決意を固めた。 その日の夕刻、彼女はマルタにライナスの居場所を尋ねた。マルタはわずかに驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの無表情に戻ると、「閣下は、おそらく執務室におられます」と短く答えた。 セレスティナは、一度だけ深呼吸をすると、彼の執務室へと向かった。重厚な木の扉の前に立ち、心臓が早鐘を打

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第24話 芽生えの音

     ライナスから贈られた古代薬草学の稀覯書は、セレスティナにとって何物にも代えがたい宝物となった。彼女はそれからの数日間、食事の時間も忘れるほどその書物の解読に没頭した。インクの匂い、古い羊皮紙の滑らかな感触、そしてそこに記された先人たちの知の軌跡。その一つ一つが、彼女の乾ききっていた魂を潤し、生きる喜びそのものを思い出させてくれるようだった。 すみれ色のショールを肩にかけ、一心不乱に書物を読み解く彼女の姿は、もはや絶望に打ちひしがれた「人形令嬢」の面影をどこにも留めていなかった。その横顔は真剣そのもので、時折、難解な一節の意味を解き明かした瞬間に見せる、花が綻ぶような微笑みは、この殺風景な城の中に、思いがけない彩りを添えていた。 侍女のマルタは、そんなセレスティナの変化を、いつもと変わらぬ無表情の裏で静かに見守っていた。彼女が食事を運んでいっても、セレスティナが気づかずに読書に集中していることがある。以前のマルタであれば、構わずに食器を置いて立ち去っただろう。だが、今の彼女は、セレスティナがキリの良いところまで読み終えるのを、部屋の隅で辛抱強く待つようになっていた。その厳格な横顔に浮かぶ表情は、主君の「宝」を見守る、忠実な番人のようでもあった。 数日後、ライナスの命を受けて薬草の調査に向かっていた部隊が城に帰還した。彼らはセレスティナが古文書から読み解いた通り、山麓の特定の場所に、熱病に効果のあるリンドウの一種が群生しているのを発見したと報告した。その報せは、すぐにセレスティナの耳にも届けられた。 自分の知識が、机上の空論ではなく、現実に人々を救う力となる。その確かな手応えに、彼女の心はこれまで感じたことのない高揚感で満たされた。 彼女は、じっとしてはいられなかった。その日の午後、彼女はライナスの執務室の扉を、自らの意志で初めて叩いた。「閣下、失礼いたします」 中で書類の山と格闘していたライナスは、彼女の突然の訪問に、わずかに驚いたように金色の目を上げた。「どうした」「薬草の件です。自生地が見つかった以上、次はその栽培方法を確立すべきかと存じます。つきましては、城の中庭の一角をお借りし、試験的な薬草園を作る許可をいただきたく…」

  • 辺境の狼は、虐げられた白百合を娶る ~没落令嬢と成り上がり英雄の復讐協奏曲~   第23話 巣の温もり

     中央の役人たちへ使者を送り出した後、城の中には奇妙な静けさが戻っていた。セレスティナが提案した策がどのような結果をもたらすのか、その答えが届くまでにはまだ数日を要する。その間、彼女は再び書庫での調査に没頭する日々を送っていた。 辺境伯の城での生活は、静かに、しかし着実に彼女の内なる世界を変えつつあった。 毎朝、侍女のマルタが運んでくる温かい食事。夜には必ず用意される湯浴み。清潔な寝台と、風の吹き込まない部屋。その一つ一つが、彼女が罪人として全てを失ってから初めて経験する「人間らしい生活」だった。 当初、セレスティナはこの過剰とも思える厚遇に戸惑い、まるで客人のように部屋の中で息を潜めて過ごしていた。ライナスはあの日以来、彼女の前に姿を現さない。その不在は彼女を安堵させると同時に、得体の知れない不安をかき立てた。あの男は自分を駒として使うと言った。ならば、なぜこのような配慮を見せるのか。彼の行動は常に彼女の予測を超えてくる。 変化のきっかけは、些細な日常の中にあった。 ある日の午後、いつものようにマルタが食事を運んできた。無愛想な口調と、能面のような表情はいつもと変わらない。だが、セレスティナが食べ終えた食器を下げようとした時、マルタは珍しくその場に留まり、一つの包みをテーブルに置いた。「閣下からです」 またか、とセレスティナの心臓が小さく跳ねる。以前、彼が与えてくれた書物と筆記用具は、彼女の凍てついていた知的好奇心を呼び覚ますきっかけとなった。今度は一体何だろうか。 包みを開けると、中から出てきたのは上質な羊毛で織られた、手触りの良いショールだった。色は、彼女の瞳を思わせるような、落ち着いたすみれ色。「書庫は、夜になると冷えます故。閣下が、貴女様の健康を案じておられました」 マルタは淡々と、しかしその言葉の端々に、ごくわずかな温かみを滲ませて言った。「閣下は、貴女様の知識は辺境の宝だとおっしゃいました。宝は、大切に扱わねばならん、と」 それだけ言うと、マルタは一礼して部屋を出て行った。 一人残されたセレスティナは、ただ呆然と、手の中のショールを見つめていた。 ライナスが、これを。

บทอื่นๆ
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status