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送り間違えた愛情、届かないまま
送り間違えた愛情、届かないまま
Penulis: 雲井

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Penulis: 雲井
私は手土産を買い直し、一人で実家へ向かった。今日はこどもの日だ。

両親は当然、不思議そうな顔をした。

「清晃くんは?一緒に来るって言ってただろう?」

「二人とも、何かあったの?」

私は笑顔を作った。

「ごめんね、お父さん、お母さん。急に会社から連絡があって、仕事になっちゃったんだって」

両親はすぐに納得してくれた。

「仕事なら仕方ないわね」

けれど私は、スマホに表示された夫の元カノ――雨宮さゆり(あまみや さゆり)のInstagramを見つめていた。

投稿には、一言のコメントと九枚の写真。

【彼が用意してくれたサプライズ!こんなに考えてくれてたなんて嬉しい!】

私が何日も調べてようやく選んだ、山の幸を使った詰め合わせ。

それがすべて開封され、調理されていた。

きれいな皿に盛りつけをしている、一組の手。すらりと長い指。くっきりと浮いた関節。そして、右手の親指に残る一本の傷痕。

ひと目でわかった。夫――高瀬清晃(たかせ きよあき)の手だ。

それと同時に気づいた。左手の薬指から、結婚指輪が消えている。

外した跡すら残っていなかった。

私たち共通の友人が、その投稿にいいねを押し、コメントを残している。

【だから前から言ってるじゃん。二人、結婚しちゃえばいいのに!】

私はその投稿に、そっと「いいね」を押した。

すると、すぐに清晃からメッセージが届いた。

【高瀬柚葉(たかせ ゆずは)、せっかくの休みなのにお前が俺を追い出したんだろ。だからって道端で飯食えっていうのか?】

【俺に文句言うだけならまだしも、さゆの前でまで騒いで恥かかせるなよ。ほんとみっともない】

並んでいるのは、私を責める言葉ばかり。

「いいね」を一つ押しただけで、いったい何が「騒いだ」ことになるのか、私にはわからなかった。

それに――

『さゆ』

清晃は元カノのことを、いつも親しげにそう呼ぶ。

なのに、私にはそんな特別な呼び方はない。

以前、私にも何か二人だけの呼び名が欲しいと伝えたことがある。けれど清晃は、まるで気にも留めなかった。

「昔からそう呼んでるんだから仕方ないだろ。ただの呼び方じゃん。

いちいち気にしすぎなんだよ」

私は画面を上へスクロールし、これまでの清晃とのやり取りを遡った。

【ミルクティー、まだ届かないんだけど。もう二時間以上経ってるよ。配達員さんに何かあったんじゃない?確認してみてくれる?】

【住所変えるの忘れてた。さゆの家に届いた】

【デフォルトの届け先、うちに変えてくれない?彼女の住所もスマホから消してほしい】

【たかがミルクティー一杯だろ。そんなヒステリックになるなよ、みっともない。自分でもう一杯頼めばいいじゃん】

でも、春限定の新作ミルクティーを買ってくれると言い出したのは、清晃のほうだった。

私は二時間以上も楽しみに待っていた。

結局、期待を裏切られたうえに責められた。

さらに前まで遡る。

【ねえ、もうすぐ十二時だよ。クリスマス終わっちゃうよ?用意してるって言ってたサプライズは?】

【また届け先変えるの忘れて、さゆの家に送った。今度埋め合わせする】

…………

いったいいつからだろう。

私と清晃のメッセージは、こんなやり取りばかりになっていた。

宅配便の届け先を間違える。デリバリーの住所も間違える。

今年のゴールデンウィークは一緒に私の実家へ行こうと、去年から約束していた。

それなのに清晃は、私の両親への贈り物をさゆりの家へ送り間違えた。挙げ句の果てには、自分までさゆりの家へ行き、彼女と一緒に休日を過ごしている。

私は、結婚指輪を外した清晃の手が写る写真を黙って見つめた。

自分がどうしようもなく滑稽に思えた。

もしかすると、何度も繰り返された宅配便の「送り間違い」も、デリバリーの「届け先間違い」も、忘れていたわけでも、うっかりしていたわけでもなかったのかもしれない。

最初から、清晃が何かを届けたかった相手は、元カノただ一人だったのではないか。

間違っていたのは住所じゃない。訂正されるべきだったのは――私のほうだ。

そのとき、スマホが二度震えた。清晃とのトーク画面を閉じる。

連絡していた弁護士からだった。

【高瀬様、こんにちは。連休中に失礼いたします。離婚協議書が完成しましたので、お送りいたします】

両親に別れを告げ、私は自宅へ戻った。

弁護士から送られてきた離婚協議書を印刷し、今まさに離婚届に署名しようとした、そのとき。

清晃が帰ってきた。両手に持っていた二つの紙袋を、私に差し出す。

「あんな詰め合わせ、どこでも買えるだろ。食べられたくらい、もういいじゃん。それより、お義父さんとお義母さんに買った服はちゃんと取り返してきたから。

今回は俺が悪かったよ。夜、フレンチ連れてってやるから。それで埋め合わせってことで、いいだろ?」

私は何も言い返さなかった。両親には持病がある。だからこそ、あの詰め合わせは原材料まで一つひとつ確認して、何日もかけて選んだものだった。あの商品を扱っているのは、あの店だけだ。

どこにでも売っているものなんかじゃない。

けれど、それを清晃に説明することもしなかった。

私がフレンチを好きではないことも。

もう何度も伝えているからだ。

私のことなんて、何度繰り返しても、清晃が覚えることはない。

ただ私のことを、面倒くさい、神経質だ、いちいちうるさい、そう思うだけ。

もう、どうでもよかった。

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  • 送り間違えた愛情、届かないまま   8

    旅行中も、ときどき母から電話やメッセージが届いた。清晃がまた実家まで来た、という話も何度か聞いた。どうにか両親を通して、私と連絡を取ろうとしていたらしい。そのうち両親も「ゆずは今、旅行に出てるから」と伝えたそうだ。それからは、早朝や真っ暗な夜に突然家の前へ現れて、両親を驚かせることもなくなった。電話越しに聞こえる母の穏やかな声。家であったこと。父のこと。そして、ときどき出てくる清晃の名前。でもその名前を聞いても、もう心は少しも揺れない。私の中で清晃は、完全に過去の人になっていた。清晃からの通知はすべてオフにしていたから、届いたメッセージもほとんど見なかった。もともと旅行は一か月の予定で、帰りの飛行機も早いうちに予約してあったので、予定どおりに家へ戻ることにした。旅先で面白いものや、記念に残しておきたいものを見つけるたび、その場で買って自宅へ送った。もちろん、配送先は自分の実家だ。住所を間違えることもない。ましてや「最初から別の人に贈ったものだから、お前には関係ない」なんて言われることもない。スーツケースも先に宅配便で送っておいた。帰りは出発したときよりも身軽だった。空港に着くと、母が花束を用意して待っていてくれた。笑顔で花を渡しながら、母が私を上から下まで眺める。「ちょっと痩せた?でも顔色はずっといいわね。楽しかった?」私は大きく頷いた。「楽しかった!毎日すごく楽しかったわ。充電満タン。これでまた元気に社畜できそう!」両親が揃って吹き出した。「自分で社畜って言うなよ」私も笑いながら顔を上げ、そこで、清晃の姿に気づいた。赤いバラの花束を抱えて立っている。一か月ぶりに見る清晃は、ひと回り痩せていた。もともと背が高いから、細身の体で大きな花束を抱えている姿は、人混みの中でもひどく目立った。両親の笑顔が、わずかに薄れる。でも、私の気持ちは少しも乱れなかった。私はそのまま清晃の前まで歩いていった。「まさか、私を迎えに来たの?」清晃の声は少しかすれていた。「ああ、迎えに来た。柚葉、ごめん。本当に少しでいいから時間をくれないか。座って、ちゃんと話したい」私は清晃が抱えている花へ目を向けた。「私ね、赤いバラって別に好きじゃないの。好きなのは、ひまわりとか、かすみ草」

  • 送り間違えた愛情、届かないまま   7

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  • 送り間違えた愛情、届かないまま   6

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  • 送り間違えた愛情、届かないまま   3

    けれど次の瞬間、清晃が私に向けたのは、責めるような視線だった。「忘れてた。なんで先に言わないんだよ。それに魚介が食べられなくても、牛肉のカルパッチョだってあるだろ?」私は、生もの自体ほとんど口にしない。以前の清晃は、それもちゃんと覚えていた。いつからだろう。私のことを、何もかも忘れてしまったのは。ふと、自分がここに座っている意味がわからなくなった。私は立ち上がり、そのまま店を出た。背後から、さゆりの心配そうな声が聞こえる。「柚葉さん、怒っちゃったのかな?」続いて、清晃が声を潜めて答えた。そこには、隠そうともしない苛立ちが滲んでいた。「ほんと、どんなときでも空気悪くするの得意だよな。放っとこう。俺たちで食べよう」私は一人でレストランを出ると、タクシーを拾って家へ帰った。今度こそ、もう何の期待も残っていなかった。まず会社に退職の意思をメールで伝え、それから荷物をまとめ始めた。最初に手をつけたのは書斎だった。清晃は職業柄、仕事を家に持ち帰ることができない。だから、この部屋を使っていたのはほとんど私だった。本も、絵も、ノートも。ここにあるものは、ほぼすべて私のものだ。半分ほど片づけ終えたころ、清晃が帰ってきた。玄関に入ってきたときには笑っていたのに、私の姿を見るなり、その笑みが消えた。代わりに浮かんだのは、深い失望だった。「柚葉、お前いつからそんなふうになったんだよ?せっかくの休みなのに、朝から晩までずっと揉めて。全員が嫌な気分にならないと気が済まないのか?」あまりにも馬鹿馬鹿しくて、笑いそうになった。ここまで来てもまだ、清晃の中では私が「騒いでいる」ことになっている。私がわざと、みんなの気分を悪くしているのだと。もう何も言い返す気になれなかった。「清晃、私たち離婚しよう――」そう口にしたその瞬間、清晃のスマホが鳴った。さゆり専用の着信音だった。明るく軽やかな、短いメロディー。清晃は普段、スマホの着信音すら初期設定のままだ。わざわざ変えるの面倒だからと、いつもそう言っていた。なのに、さゆりだけは特別だった。結婚して三年。その間、清晃はスマホを三度買い替えた。新しいスマホを手にするたび、真っ先に設定するのが、このメロディーだった。以前、気になって聞い

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