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第97話:北の祠と、凍てつく囁き

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-10-03 12:00:20

どうも、エリシアです。

南の祠では黒太鼓をパンで粉砕、東の祠では歌姫を解放。……順調といえば順調なんだけど。

「次は……北か」

地図の端を指しながら、ユスティアが眉をひそめる。

「雪山の奥に“氷の祠”がある。囁きがそこに巣くっているはずです」

「北の祠……あそこは人も寄りつかぬ凍土だ」

リビアが羽を震わせて言った。

「古の文献では、“氷の女神”を祀ったとある。もし囁きが女神を飲み込めば……」

「パンが凍る!?」

私の叫びに、全員が「違う」と揃って否定する。

でも大事なんだから仕方ない。凍ったら食べづらいでしょ!?

——数日後。

雪原を踏みしめながら進む。

空気は刺すように冷たく、息を吐くとすぐに白く凍りついた。

「……寒っ……手袋もう一枚持ってくればよかった」

「暴君、これを」

カイラムが自分のマントを差し出してきた。

「え、いいの? じゃあ遠慮なく!」

さっと肩にかけると、想像以上に温かい。

「……やっぱり似合わんな」彼がぼそっと呟いたけど、聞こえないふりをした。

やがて、氷に閉ざされた祠が見えてきた。

白銀の氷壁に埋め込まれたような神殿。

扉には雪の結晶を模した文様が輝いている。

「ここか……」

ユスティアが書物を開く。

「伝承によれば、この祠では“氷の女神”が人々に冬を乗り越える知恵を授けた。けれど、ある時から祠は閉ざされ……」

その時、扉が低い音を立てて震えた。

「従え……差し出せ……」

氷壁が黒く染まり、囁きが漏れ出す。

「やっぱ

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