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第2話

作者: 広野
千穂が突然考え直したことを知り、実鈴は心から喜んだ。

「よかったわ。すぐに高橋教授に伝えておくわね。研究院に加入したら、あなたの経歴はすべて封印されて、名前を変えて私たちと一緒に秘密の拠点へ向かうことになるわ。10日後に私が直接迎えに行くから、それまでに準備を進めておいてね」

「分かりました。ありがとうございます、先輩」

電話が切れると、千穂はようやく苦痛に満ちた感情から抜け出すことができた。

重い足取りで家に戻り、ソファに倒れ込むと、心身ともに疲れ果ててそのまま眠りについた。

一晩中悪夢にうなされ、泣き叫びながら目を覚ますと、目の前には宥丸の姿があった。

彼は優しく彼女を胸に抱き寄せ、額に滲んだ汗を拭ってくれた。

「どうしてソファで寝ていたんだ?風邪を引いたらどうする」

千穂は伏し目がちになり、何と言えばいいか分からず、ただ沈黙するしかなかった。

宥丸は彼女が拗ねているのだと思い込み、機嫌をとるように口づけを落としてきた。

「昨夜は少し用事があって帰れなかったんだ。寂しかった?キスしようか」

昨夜彼が口にした言葉を思い出し、千穂の全身にゾクッと寒気が走った。

彼女は本能的に身をよじって避け、もがきながら立ち上がると、数歩後ずさりした。

彼女が拒絶するような素振りを見せたことに、宥丸はその場で呆然とした。

以前なら、彼女が少しすねてもキスさえすればすぐに機嫌が直ったのに、今日は一体どうしたというのか。

彼が戸惑っていると、ふと彼女の耳に補聴器が着いていないことに気がつき、ようやく合点がいった。

なんだ、聞こえていなかっただけか。

彼は引き出しから新しい補聴器を取り出すと、彼女の耳に優しく着け、苦笑まじりに言った。

「またどこかで補聴器を落としてきたのか?俺以外の人間と関わるのが好きじゃないのは分かっている。これからはあんな騒がしい場所には連れて行かないよ。付き合いの飲み会も少し減らして、なるべく家でお前と一緒にいるから。ね?」

愛情に満ちたかのようなその眼差しを見て、千穂は胸が締め付けられる思いがした。

「私の耳、もう治っ……」

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。

千穂の掠れた声と激しいチャイムの音が重なり、宥丸がそれを聞き取ることはなかった。

彼は玄関へ向かい、ドアを開けた。

七緒がバッグを提げて中へ入ってきた。その声は柔らかかった。「宥丸、腕時計を忘れていったわよ。メッセージを送っても返事をくれないから、わざわざ届けに来たの」

そう言いながら顔を上げた七緒は、千穂の姿が目に入った瞬間、ハッとして動きを止めた。

「この人は?どうしてあなたと一緒に住んでいるの?」

宥丸は七緒がここまで追ってくるとは思っておらず、微かに顔色を変えた。

彼は真っ先に千穂の側へ歩み寄ると、先ほど着けてやったばかりの補聴器を取り外した。

そして、手を動かして手話を交えた。

[友達が仕事の相談に来たんだ。お前は部屋に戻って少し休んでいて。外に出てきちゃ駄目だよ]

千穂はその意味を読み取り、思わず自分と似ているその顔に視線を向け、瞬時に目頭を熱くした。

力なく身を翻して二階へと歩き出すと、背後から宥丸の落ち着き払った声が聞こえてきた。

「俺のアシスタントだよ。あいつは幼い頃から耳が聞こえなくて、少し人嫌いでね。仕事の都合がいいから、この邸宅に住まわせているだけさ」

「アシスタント?耳の聞こえない人を雇うなんて、慈善事業でもしているつもり?本当なの?嘘は許さないわよ」

「俺がいつお前に嘘をついた?彼女は孤児で、両親もすでに亡くなっている。可哀想だと思って手元に置いているだけだよ」

宥丸が穏やかな声でなだめるように説明しても、七緒はまだ納得していないようだった。「本当にそれだけ?彼女、私にそっくりじゃない。何か下心があるんじゃないの?」

千穂が寝室のドアを閉めたのを確認すると、宥丸は慌てて七緒を胸に抱き寄せた。「お前に似ているからこそ、憐れみを感じたんだ。この顔がなければ、たとえ両足が不自由で、目が見えず口がきけなかったとしても、俺は一瞥もくれなかっただろう。

お前に会いたくてたまらなくて、彼女をお前の身代わりにして寂しさを紛らわせていただけだ。俺の気持ちがまだ分からないのか?」

ドア越しにその言葉を聞き、千穂の胸は重いハンマーで激しく殴られたかのような激痛に襲われた。

千穂は必死に両手で口を覆い、喉の奥から込み上げる嗚咽を辛うじて押し殺した。

強く噛み締めた歯が手の甲を食い破り、血の生臭さが口いっぱいに広がって、いつまでも消えなかった。

外で遠ざかっていく足音を聞きながら、千穂は邸宅内の防犯カメラの映像を開いた。

画面の中では、宥丸が七緒と手を繋ぎ、千穂には決して近づかせなかった最上階のコレクションルームへと向かっていた。

ドアが開くと、室内には数千点に及ぶジュエリーやドレス、バッグが丁寧に保管されており、それを見た七緒は喜びで目を丸くした。

宥丸は七緒を部屋に招き入れ、一つ一つ手に取って見せた。

「これらは全部、お前が去った後に俺が買ったプレゼントだ。どれもお前が一番好きなデザインばかりだよ。お前を想うたびに一つ買ってはここに保管していた。

いつかお前が戻ってきたら、これを見せてあげようとずっと思っていたんだ。俺が片時もお前を忘れることなく、ずっと心に想い続けていたことを知ってほしくてね」

イヤホン越しに聞こえる宥丸の愛情たっぷりの声を聞きながら、千穂は、彼が泥酔するたびに決まって自分の補聴器を外し、抱きしめながら熱心に贈り物を選んでいた姿を思い出していた。

だが、彼が正気に戻った後、千穂がそのプレゼントを受け取ったことはただの一度もなかった。

すべてはこの部屋に隠され、真の主人が現れて見つけてくれるのを待っていたのだ。

そして、酔った彼が呟いていた、当時の千穂には聞こえなかったあの言葉の数々も、すべて七緒への思慕を語るものだった。

それなのに自分は、馬鹿みたいに彼の体を心配し、一晩中一睡もせずに寄り添っては、酔い覚ましの薬を用意していた。

本当、笑えるほど滑稽だ。

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