Se connecterレオンハルトは、宿舎に帰ってから室内に入り、鍵を閉めカーテンを閉めた。
そして、ほっと一息つく。そして、店で受け取ったものを机に置き、自分がもらった剣をじっと見つめる。
(試し切りはまだだけど……手に馴染む感じがすごい)
刀身を光にかざしてみる。刃紋が細かく波打ち、鋼はまるで透き通った水のように艶やかだ。
「汚れのない世界が映っているみたいだ……相当いい剣だな」
そして……
「これ、魔力の属性が宿っているのを感じる。何の付与がされているんだろう?」
こんな時鑑定スキルがないのは惜しい。
だが、これはただものじゃない。相当な高級品だろうな。
ダリウスが国の金を横領した疑いが頭をよぎり、こんなもの高級なものを受け取っていいのか迷う。
いや、そういっても、もう受け取っちゃったけど……俺は、これからどうすればいいんだ?
剣を、袋に入れて戻し、壁に立てかける。
そして、視線を、頼まれていた指輪の箱に向け、そっと触れた。
「ダリウスから渡すように頼まれた相手は恋人じゃなかったのか?」
レオンハルトは、苦虫を噛み潰したような渋い顔つきになる。
話が変わりすぎている。
なんで、娘に変わっている?
しかも娘って誰だ?
ダリウスの彼女の娘のことか?
取り調べを受けているということだったが、その娘に渡すのが正解なんだろうか?
頭の中をいろいろな考えが回り続けていたが、本来の目的である指輪に何かヒントが隠されていないかと、指輪のケースをそっと開けてみた。「ん?大きくないか?」
中の指輪は、男性の中指にぴったり合うほど大きくて重厚だ。
その指輪の真ん中にある石は宝石ではなく魔石だろう。 強い魔力を感じるし、複雑な細工が施されている。 だが、詳しいことはわからない。(どうみてもプロポーズ指輪じゃない、これは)
一つだけ確かなのは、俺はダリウスに騙されて、知らぬ間に面倒なことに巻き込まれている、ということだった。
「おいおい……誰にも相談できないじゃないか。まずは明日、娘の取り調べの様子を聞いてから動くか」レオンハルトはため息をつきながら、ダリウスの策略にまんまとハマってしまった自分を呪いたくなった。
◇
翌朝、騎士団の朝練で、こんな噂が流れていた。「聞いたか?あの錬金術師の娘、尋問で何も話さずに、釈放された後、逃げたらしいぞ。
「ありえねえ……じゃあ、総司令官の行方も掴めないままか?あんなに警戒されてたのにどうやって逃げたんだよ?」
レオンハルトは、耳に入ってくるタイムリーすぎる噂話に眉をひそめる。(さて、これからどう動くか……)
レオンハルトは朝練を終え、こっそりと有給休暇の申請を出す。「総司令官のことで疲れてるんだろ」
「そういえば、団長は可愛がられていたもんな」
周囲が勝手に察してくれたおかげで、申請はすんなり通り、むしろゆっくり休んでくださいと団員からも気の毒そうな視線を投げかけられた。
レオンハルトは、部屋に戻り、朝にもかかわらず、再びカーテンを引いて鍵をかける。
誰かに見られてはならない
その気持ちの焦りがあった。
机の上に再度、置いたのは、預かった短剣と指輪、そして自分が受け取った剣。
短剣を調べていくと「ミレイユ」と名前が刻まれている。「尋問にかけられていたダリウスの恋人の娘の名前もミレイユだった。やはり娘とは恋人の娘だろうな」
そう、レオンハルトは確信した。
「指輪はどうだ?」
リング裏を調べても、イニシャルなどの刻印はない。
だが、ケースの中のクッションをめくると、小さな紙片が現れた。
そこには――
【すまない。指輪はお前にやる。力を貸してほしい】 見慣れたダリウスの筆跡で書かれている。 「すまないで済むか?ざっくりしすぎだろ」レオンハルトは、思わず低く呟いた。
何を、どこで、誰に対して力を貸すのかも書いてくれ。ついでに言うなら、男から指輪を贈られる趣味はない。
「とりあえずもらった物は表には出せないな」これだけ素晴らしい剣をもらっても、出所がダリウスでは……
レオンハルトは、片付けるためにまとめて持ち上げた時、ふとその男性用のサイズの指輪が気になった。
「お前にやるって言うけど……どのくらいの指の太さの人がはめるのか気になるな」
レオンハルトは、試しに指輪をはめてみた。
サイズはぴたりと合った。
だが、──瞬間、視界がねじれる。
「……なるほど。こういう仕掛けか」
床に足がついた頃には、すでに理解していた。
この指輪は、アクセサリーじゃない!
転移魔法の発動だ。ーーー
そして、転移したレオンハルトの目の前にいたのは、煤で顔まで汚れ、焚き火を慌てて消そうとしている少女だった。
以前店で見た雰囲気よりは、子供っぽい雰囲気に見えるのは、化粧も何もしていないからか?
だが、そんなことより――
その少女の慌ただしさとは対照的に、レオンハルトは、軽く眉を上げた。
尋問のため、カイルの口に巻かれた布を、元第一騎士団のフォルターが解こうとした。だが、その手をミレイユが制する。「待ってください。毒を仕込んでいたら困りますし」そう言うや否や、彼女は淡々と液状の解毒剤をカイルの鼻に流し込んだ。気管に入ったのだろう。カイルはぐほっと咳き込み、フォルターの手が止まる。先ほどまで共に戦場を駆けたはずの仲間を前に、フォルターには目に少しの躊躇がある。だが、ミレイユの視線は冷たい。「これは胃でも気管でも吸収できます。……これで、仕込んだ毒は全部無意味ですよ」口の布を外されたカイルは、涙と咳をこらえながらも怪しげに目を光らせた。「僕のチョイスの服、よく似合ってるじゃないか」「あなたのチョイスでしたか……最後の下着は余分でしたけどね」即座に返すミレイユ。その声音は氷のように冷たい。だがカイルは、ははっと笑った。「お楽しみいただけたかと思ったけどね。まさか前部隊長アリエルの娘が、月影亭のミレイユさんとは思わなかった」その名に、ミレイユに見覚えがあった者たちも、ざわめく。「やっぱり……月影亭のミレイユさんだ……」「ってことは、ダリウスの恋人の……娘?ええっ!月影亭のオーナーがここの前の隊長?」「2週間前に取り調べを受けて逃亡したダリウスの恋人の娘だよな」みんなにとっても、レオンハルトにとっても、いや、ミレイユ本人だって、今までは月影亭のミレイユで、ダリウスの恋人の娘と思っていた。だが、その月影亭のオーナーであり養母が、ここの前隊長となれば話が変わる。ざわざわしたところを、レオンハルトはみんなに伝える。「彼女も知らされてなかったことだ。樹海防衛部隊の前隊長のアリエルは、ダリウス元総司令官と横領して駆け落ちしたと言われている月影亭のアリエルと同一人物だ」「え、じゃあ、
お互いの気持ちがつながり、ふと冷静になった時――二人は思わず赤面した。「に、荷物!錬金道具を持っていかないといけませんね!」慌てて、ミレイユは3階にポーション類を取りに行き、レオンハルトはその離れた体温に少し寂しさを感じた。「どれだけ鍛え上げても、俺の腕で抱えられる荷物には限界があるから、度々ここに取りに行くよ。ただ、隊員たちの目の前に、多くの錬金道具を並べたいんだ。視覚的に、もう大丈夫と思わせたい」それを聞いて両手にポーションやハイポーションを抱えたミレイユは、少し悩ましげな声を上げた。「氷属性の山に行ければ、物を軽く運べる錬金物くらい作れますけどねえ……まあ、風の符合素材があればですけど」「霊峰山にあるかもしれんが、今はそんな余裕ないだろ」そのために、霊峰山に登るぐらいなら、何度も往復するよ。苦笑いをして、レオンハルトはそう言う。腕まくりして荷物を持ち上げてみるが……重い。やっぱり重い。ミレイユならどれだけでも抱き上げるけどな。「やっぱり往復コースだな、これ」だが荷物よりも深刻な問題がある。ミレイユの服だ。カイルが選んだ服で人前に出すとか、腹が立つ。更に、カイルの前に出すとか……殺意が湧くレベルで腹が立つ。……仕方ないけど。仕方ない。いや仕方ないんだけどな!?レオンハルトは、深いため息をついた。「よし、行くぞ。何かあったら我慢しないこと」「はい!」素直に頷くミレイユを抱き上げ、荷物ごと指輪をはめた。◇転移した先の樹海防衛部隊――隊員たちは、しなしなになったジャガイモを囲んで葬式みたいな空気を漂わせていた。そこに――ふわりと揺れるピンクブロンドの長いまつ毛に、人形みたいな顔立ち…&helli
レオンハルトは仲間に背を向けて、指輪をみんなに見られないように、そっと取りつけた。本当は転移用の錬金道具があるなんて、知られない方がいい。だが、この壕の中にいるものが、自由に外に出られ、物資も手に入れることが出来るという安心感ぐらいは、みんなに与えておきたい。俺の姿が突然消えた今、おそらく壕のみんなは大騒ぎになっているだろう。だが、元々いた隊員は、ミレイユの師匠の錬金術を見ているはずだ。きっと、見慣れた風景だと感じるのではないか?そして、これは錬金術なのだと他のメンバーにも説明してくれるだろう。俺は、物資とミレイユという新たな錬金術師を連れて帰る。それは、みんなの生きる希望になる――◇レオンハルトは、何も変わらない塔のドアに、よろよろと手をかけた。長すぎる一日が、ようやく終わろうとしている。もう、長い期間ここに来なかったような気持ちになる。塔の扉を押し開けると、ミレイユの懐かしい安心できる香りと気配が走った。四階か!レオンハルトは、顔を上げて大声で叫ぶ。「ミレイユ!」その声に、ミレイユが階段を駆け降りてくる。次の瞬間、お互い、視線が絡み、何も言わなくてもお互いの気持ちが通じ合った。二人は、お互いに迷うことがなく、抱きしめ合っていた。レオンハルトは張りつめていた緊張から解放されて、ミレイユに安堵と癒しを感じていた。ミレイユは、すべての真実を知った不安から、唯一信頼できるレオンハルトに安堵感を求めて――だからこそ、互いに安心を貪るように、強く、絡むように抱きしめ合った。そして、時間が止まったかのように、二人はそのまま動かなかった。(やっぱり俺はミレイユが好きだ)(レオンハルトさん、ずっとそばにいて)それぞれの胸に、はっきりとした想いが刻まれる。やがて、お互いに抱きしめ合ったまま、ミレイユは、体に回した手の
ミレイユが、師匠とダリウスの過去、そして、師匠に誰からの危険が迫っていたのか知った頃――とりあえず、ミレイユのハイポーションで傷を治したレオンハルトはカイルを見つめていた。カイルは、例の睡眠玉がよく効いてくれてまだ眠っている。以前、自分が浴びた睡眠玉と違い、ミレイユは、針がついた改良版を作ってくれたので、前のように半日近く眠ることはなさそうだが……「とりあえず、しっかり縛っているし、まだ目覚めそうにないから、みんなは安全かな」信頼していた部下を失った痛みは大きい。これからの指揮は、俺ひとりでやらなければならないのか。残った連中も、本当に信用できるのかどうか……それすらまだ分からない。レオンハルトは、これから誰も頼れない中で、一人で全て決めて、全て動かなければならない絶望感に襲われていた。「みんな!ここの拠点の中にいるやつは誰も魔物にやられてない。カイルのことがあって、お互い信用できるのか不安はあると思う。でも、ここには、魔物が入れない結界のようなものがあるんだ。だから絶対に外に出るな」そう告げてから、俺はポーションの瓶を取り出した。ミレイユが作ったものだ。それをここに備蓄されていたポーションの横に置く「見ろ。色が違うだろう」皆が息を呑む。「ま、まさか」「中身はポーションじゃないのか?」みんなの動揺は隠せない。「今、外に出て魔物にやられても、ここにあるポーションでは回復できない可能性が高いんだ。もちろん、他の店のもので、効果は変わらない可能性も残されている」レオンハルトがそう言うと、前から樹海防衛部隊にいた隊員のダンがそれを見て頷く。「いや、前から置いてあったポーションは、レオンハルト隊長が持って来られたものと同じ色だったと思います」「中身を変えられた可能性はあるか?」レオンハルトがダンに聞くと、残りの隊員たちは顔を見合わせる。
レオンハルトが、命に関わる大怪我をしていた頃――ミレイユは、師匠であるアリエルの日記をめくる手を止められなかった。そこには、だんだんと自分の名前が増えていく。そして、その中にある話の幾らかが、自身の記憶にある出来事と重なっていった。師匠から初めて錬金術を習った日。大きな魔物を狩った成果を自慢された日(私は素材の説明だと思って聞いていたけど……)武器に付与する倍率を間違えて大失敗した日――小さな思い出が、紙の上に散らばっていた。「師匠、こんなに人に伝えることが不器用なのに。こんなに一生懸命、私が人らしく生きられるように、努力してくれてたんだ」胸の奥がじんわり熱くなる。師匠は何でも記録に残した。錬金術の小さな気づきや研究レシピも……狩りの方法からその取れる素材のことも……そして、私の育児も。そのうえで、感じたことや考えを「これは人と同じ感覚なのか?」と、頻回にダリウスに尋ねており、そのダリウスの返答まで、記録に残してあった。――自分は他の人と違う。そう理解してから、不安だったのだろう。思い返せば、私が店に出るようになってからは、師匠より従業員と過ごす時間の方が長かった気がする。「ふふっ、ミレイユにお店は任せた!いい新製品、作るからね」そう言っては、すぐ留守にしてしまう。どこかに素材を採りに行くのだと思っていたが、樹海防衛部隊と錬金術師を両立で大変だっただろうし……意識して私と距離を置いたんだと思う。きっと、師匠は、私を普通の子のように育てたかったんじゃないだろうか?(師匠と一緒にいた時間って、意外と少なかったんだな)◆王都で暮らすようになって数年――
一方――樹海防衛部隊では……レオンハルトとダリウスの声は、壕の外まで響いていたらしい。レオンハルトの怒鳴り声を聞きつけて、カイルが飛び込んできた。「団長――じゃなかった、隊長!大丈夫か!」そう言って隊長室に飛び込んできたが……「あれ?幻聴か?誰か男の声が聞こえたような気がしたんだけど……」そう言ってキョロキョロする。カイルの顔色はひどく疲れていたが、こいつは俺が気の回らないところを全部拾ってくれる。だからこそ、ミレイユをここに連れてくることは相談なしに決めてはいけないと思っていた。「実はな。先ほど突然、ダリウス前総司令官が現れて、消えたんだ」「……は?」現れて消えた?何を言ってるんだと言う顔で、カイルは俺の顔を見る。俺もあの指輪のことを知らなければ同じ反応をするよな。レオンハルトは苦笑して、ダリウスが消えたあたりをチラッと見た。「どう言う仕組みかは分からない。別に幻影ではなさそうだったけどな。彼の言うには、この樹海防衛部隊の前隊長の娘を連れてこいというんだ」「情報多すぎて処理できませんけど!?樹海防衛部隊の前隊長の娘?で、その娘さんはどこにいるんですか?」そもそも、前隊長の名前すら今日俺たちは知ったのに、家族がどこに住んでいるのなんて知りませんよと、お手上げのようにカイルは両手をあげた。レオンハルトは、どう説明しようか迷い、苦笑する。「実は……俺の婚約者なんだ。ただ、彼女が、前隊長の娘というのは知らなかったんだけどな。今、俺が、匿ってる」「……えっ?はっ?今……匿っている?」カイルが固まった。……言ってしまった。縁談話だけなのに、婚約者だなんて。少し恥ずかしい。だ