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第11話

Auteur: コミュ障・小野
「母さん、離してよ!どうしてあんな条件を飲むんだ!?」

「俺の妻は、夏織しかいないんだ!」

拓海は病室から強引に連れ出され、顔を真っ赤にして廊下で大声を上げた。

新堂夫人はどうしようもないとばかりにため息をつき、必死で拓海を落ち着かせようとした。

「馬鹿ね、今の夏織は怒り心頭なのよ。今会いに行っても無駄だわ。むしろ、綾乃との婚約のニュースを広めれば、夏織も自分の気持ちを見直して、戻ってくるかもしれないじゃない?」

「それに、綾乃と結婚しても、どう扱うかはあなた次第でしょ?」

拓海は少しずつ落ち着きを取り戻し、新堂夫人はそっと彼をベンチに座らせて諭すように言った。

「こんな風に裏切られて、何もお仕置きしないで済ませられる?悔しくない?」

拓海はしばらく考え込んだ後、目を輝かせて言った。

「さすが母さんだ!今すぐ綾乃との婚約発表を広める!」

彼は急いで病院を出ていき、その夜、SNSに綾乃とのツーショット写真をアップした。

【いろいろあったけど、結局一番大切なのは君だった。】

コメント欄でも、わざわざ『綾乃と婚約する』と強調していた。

グループチャットは、拓海がどうかしているという話題で盛り上がっていた。

拓海はリビングでスマホを手に、夏織からの反応だけを待っていた。

だが、夜が明けても夏織は現れず、代わりに『グループチャットを退出しました』の通知だけが残った。

「くそっ……夏織、お前ってやつは!」

拓海は激しく立ち上がり、思わずスマホを床に投げつけてしまった。

一方の夏織も、拓海のSNS投稿を見ていたが、特に気にする様子もなかった。

グループチャットの通知も煩わしくなり、もう関わることもないだろうと、さっぱりと退出してしまった。

その夜はぐっすり眠り、翌日午後には出国するフライトを控えていた。

拓海の一件を経て、自分にはまだまだ足りない部分があることを痛感し、今回はさらなる勉強のために海外へ向かう。

白石家の主要な事業や提携先も海外に多いため、両親も同行することになった。

「夏織、そろそろ空港に向かおうか」

顔を上げると、扉にもたれかかる早瀬湊(はやせ みなと)が、優しい笑みを浮かべていた。

「うん、行こう」

二人は肩を並べて家を出た。

あの誘拐事件の時、電話が突然切れた瞬間に、白石夫妻はすぐ異変に気づいた。

運良
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