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第4話

Author: 星摘み
三人で初めて食事をしたときのことだ。

尚弥は美咲のグラスに三度も飲み物を注ぎ、しゃぶしゃぶの牛肉を器いっぱいに取り分け、研究所のプロジェクトの話で彼女と楽しそうに盛り上がっていた。

私の器の中の料理は、とっくに冷めていた。

それなのに尚弥は、気づきもしなかった。

その夜、帰り道で、私は我慢できずに言った。

「今夜、美咲のことばかり気にかけすぎじゃなかった?」

尚弥は一瞬きょとんとして、それから笑った。

「澪、お前の顔を立てて、美咲に親切にしてるんだよ。お前の親友だろ。俺が気を遣わなくて誰が気を遣うんだ?お前に恥をかかせるわけにはいかないだろ」

お前の顔を立てて。

その言葉は、まるで万能の鍵だった。

それから私は、何度も尚弥に伝えようとした。

「つらい」

「二人は近すぎる」

「美咲のことは覚えているのに、私のことは覚えていない」

けれどそのたびに、尚弥は同じ理由で私の気持ちを押し戻した。

「お前の顔を立ててるんだよ」

「美咲はお前の親友だろ。俺が美咲によくしてるのは、お前の代わりにやってるだけだ」

「まさか、お前の友達に冷たくしろって言うのか?」

そうして何度も「お前の顔を立てて」と言われるうちに、尚弥の口から美咲の名前が出る回数は、どんどん増えていった。

「今日の美咲の研究テーマ、すごくよくできてた」

「美咲が、新しくできたレストランがいいって言ってたんだ。週末に行ってみないか?」

「知ってるか?美咲も昔の映画が好きなんだって。昨夜、三本も勧めてきた」

「澪、美咲が最近風邪をひいたから、ついでに薬を届けてきた」

尚弥は、ついでだと言った。

けれど尚弥の家は街の東側、研究所は西側、美咲の家は南側にある。

彼は三つの区をまたいで、その「ついで」を済ませた。

以前は、美咲の話をするとき、尚弥はまだ私の顔色をうかがっていた。

そのうち、ただ日常を共有するみたいに話すようになった。

話さずにはいられない、というふうに。

やがて、尚弥は美咲のことを覚えるようになった。

彼女がパクチーを嫌いなこと。

寒がりなこと。

生理痛がひどくて、鎮痛薬を飲むこと。

私が、彼は生まれつき物覚えが悪いのだと思い込んでいた部分は、突然すべて治った。

それなのに、私のマンゴーアレルギーだけは、忘れてしまった。

電話の向こうで、尚弥はまだ言っていた。

「来いよ。ケーキももう切ってある。あとはお前だけなんだ。みんなをしらけさせるなよ」

「尚弥」

私は彼の言葉を遮った。

「ん?」

「私、マンゴーにアレルギーがあるの」

電話の向こうが、急に静まり返った。

「俺……」

尚弥は少しためらってから言った。

「じゃあ、別のに替えるよ。あの店、いちごのもあるし……」

「いちごも、美咲の好物だよ」

尚弥は黙り込んだ。

「あなた、いつもマンゴーを頼むでしょ?」

私はゆっくりと言った。

「でも、さっきあなたは、そのケーキを私のために残しておいたって言った。

尚弥。あなたの心の中で、一晩中待っていた相手は、私なの?それとも美咲なの?」

私は通話を切った。

翌朝、尚弥からメッセージが届いた。

【昼、空いてるか?ウェディングドレスの試着に来てくれ】

【美咲が予約してくれた店だ。お前、絶対好きなデザインだって言ってた】

画面に並んだその文字を見つめているうちに、指先がすっと冷たくなった。

ウェディングドレスには、付き合い始めた一年目からずっと憧れていた。

街を歩いていてドレスショップのショーウィンドウが目に入ると、自然と足が遅くなる。

お気に入りには十数枚ものデザイン画像を保存して、寝る前に何度も眺めていた。

私は自嘲気味に笑い、尚弥をブロックしようとした。

そのとき、新しいメッセージが届いた。

【そうだ、明日の婚約パーティー、忘れるなよ】

【美咲が、俺たちにはちゃんとうまくいってほしいって言ってた。お前たちは長年の友達なんだから、こんなことで仲違いしないでほしいって】

【昨夜もまた泣いてた。自分のせいだって責めてたよ。絶対にお前の機嫌を直してきてって言われた。美咲をがっかりさせるな】

胸をつかまれ、乱暴にねじられたようだった。

私は迷わず、尚弥をブロックした。

翌日、空港。

私は搭乗橋を渡り、機内へ足を踏み入れた。

雲が窓外の景色をのみ込んでいくのを見ながら、私は目を閉じ、心の中でそっとつぶやいた。

尚弥、さようなら。

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