「知らない景色だ……」
壁にもたれ、片膝を立て、両手はだらりと下ろしている。
遠くを見るような目線で、言ってみたかったカッコイイセリフを呟き、目を覚ました。
「肌寒くてすぐ起きちゃった気がするよ」
朝に買ったパンを2つ手に取り、腹ごしらえをした。
(ステータス)
黒川 夜
レベル:17 属性:闇HP:1120
MP:1120 攻撃力:410 防御力:385 敏捷性:580 魔力:900スキル
・シャドークロー レベル2 ・ダーク レベル1 ・ナイトメア レベル1「おおお!? レベル上がってるしスキルも増えてる!」
ステータスが上がっているので、夜になった事が分かる。
ジャイアントルーパーの討伐と、パトリック達に同行していたおかげで、最後にステータスを確認した時からレベルが6も上がっていた。
「ナイトメアか、カッコイイね! さてさて、どんなスキルなのかなー?」
(ナイトメア レベル1:影に潜り、対象の影へと瞬時に移動する。対象の影は自身の影と繋がっている必要がある。範囲:自身を中心に半径3メートル以内。)
「瞬間移動きた! 暗闇なら好きな場所に移動できるってことか! ここなら壁際に居れば良さそうだな」
壁沿いの少し離れた場所を指定し、スキルを発動した。
(ナイトメア)
スキルを使うと目の前が一瞬だけ暗闇に包まれ、視界が戻るとスキル発動前とは目線が変わっていた。
先程まで座っていたはずが、移動先では直立していたのだ。
「さっきまで座ってたよな? あれ、もしかして……」
(ナイトメア)
視界が闇に包まれ、明るさを感じると目の前には壁があった。
スキル発動時に、移動先で壁の方を向いている自分の姿を想像していたのだ。
「やっぱり! 移動先の自分の姿を
(シャドークロー) 両手にスキルを発動させ、疾風の如く敵に接近する。昼間は素早く感じたゴブリンの動きが、今やスローモーションのように遅く感じる。 駆け抜けるついでとばかりに右手の一撃で1体の頭を消滅させ、その勢いのまま裏へ回ると、ゴブリンたちは何が起こったのか分からない様子で狼狽える。 その隙を見逃さず、残る2体も一閃二閃と漆黒の斬撃を振り下ろし、一瞬のうちに葬り去った。「体が凄く軽いや、これなら問題なさそうだね!」 カバンを背負っているだけでもステータスが低下してしまうので、戦闘の度にカバンを下ろさなければならないのは面倒だが仕方ない。 通路を右へ左へ思うがままに進んでいくと、次から次にゴブリンの集団が襲いかかってくる。 攻撃を躱しながら、狙いやすい頭を狙い、敵の群れを1体ずつダンジョンへと帰していく。「お!? 初ドロップ品ゲット!」 20体ほど倒しただろうか、ゴブリンの死体が消えると、そこには小さな金属塊が残っていた。「鉄……かな? ま、どんどん行きましょう!」 カバンにしまうと、駆け抜けるように迷宮を進んでいく。ゴブリンはまったく相手にならず、2時間程度で5階へと到着してしまった。「順調だね、ここからは弓を使うゴブリンがでるんだっけ。」 気を引き締め、慎重に歩を進めていくと、直進、左、右に分かれた分岐点に差し掛かる。 直進を選択し少し行くと、何かを弾くような音が聞こえ、その直後に弧を描くように飛来する矢を視界に捉えた。 素早く左に移動して矢を避けると、地面を強く蹴るように前進する。「見えない位置から撃ってくるなんて……。」 元いた場所から10メートル程離れた場所から矢を放っていたようだ。ゴブリン4体にゴブリンアーチャー1体を視認する。(ダーク シャドークロー) 弓を引く動作をとっていたゴブリンアーチャーの視界を闇が包み込む。急に視界を失い驚いたのか、弓から手を離し、闇を払うように顔を手で拭っている。
鈍く光る金属のナイフが俺の脇腹に深く突き刺さ……らなかった。 チクリとした痛みが走り、ナイフは皮膚を少し傷つけただけで、それより深く突き刺さることはなかった。ステータスが上がっているおかげで、普通なら刺し殺されていてもおかしくないような攻撃でも耐えられるらしい。「ゲヒヒ! ゲヒヒ!」 ゴブリンは涎を垂らしながら、野蛮な薄ら笑いを浮かべ、両手でグリグリとナイフを押し込もうとしている。「いたたたたたた! この野郎!」 素手で殴りつけると、吹っ飛ばされたゴブリンは壁に叩きつけられ、骨が折れたのかおかしな角度に首を曲げ、そのまま地面に吸い込まれていった。「危なかった! 今のは危なかったでしょ!」 コマ送りのように、ゆっくりと自分の体にナイフが迫る体験に、体中から冷や汗が止まらない。 レベルが上がりステータスがかなり上昇している為、ゴブリン程度の攻撃では致命傷を与えられないようになっていた。 急ぎその場を立ち去り、6階への階段を探す。 途中、左右の分岐を左に曲がると、奥は行き止まりになっていたが、ダンジョンらしい物を発見した。通路の真ん中にポツンと置かれた、古びた趣のある赤茶色の木箱。「これは……。宝箱じゃないか!?」 早速開けてみようと近づくが、直前で思い留まる。(こいつぁ臭うぞ、罠の臭いがプンプンしやがる……) 罠の心配を考慮し、足でフタの部分をちょこんと蹴り上げ、バックステップで距離を取る。 宝箱は一瞬かぱっと口を開き、その後沈黙する。「ふふ、罠検定2級の黒川様にかかればこんなもんよ!」 自信満々に宝箱を開けると、中には真鍮のように角度によって虹色に光る指輪が入っていた。「これは……。俗に言うステータスアップ系のやつか?」 指輪を右手の中指にはめ、ステータスを確認する。(ステータス) 黒川 夜 レベル:21
早速収納を試そうとするが、やり方が分からない。カバンを地面に置き、右手で触れてみるが何も起きない。「不良品? 返品はきくのかこれ?」 もう一度カバンに触れ、今度は頭の中で(収納)と念じてみると、先程までそこにあったカバンが目の前から消えた。「できた! さて、お願いします!」(ステータス) 黒川 夜 レベル:21 属性:闇 HP:2900 MP:2470 攻撃力:1860 防御力:2020 敏捷性:2750 魔力:4190 スキル ・シャドークロー レベル2 ・ダーク レベル2 ・ナイトメア レベル1 装備 ・冒険者証 ・収納の指輪「よし、思った通りだ! これで朝まで戦えるぞ!」 今来た道と逆方向に進んで行くと、すぐに階段が見つかった。5階は少し広く、攻略には90分以上かかってしまった。(もしかすると、5階、10階、15階以降は広くなっているのかもしれないな) より早く進む為に、常にシャドークローを発動させることにした。視界が広がり、弓の射程外からダークをかける事ができるからだ。 また、ダークがレベル2になったことで、ゴブリンアーチャーが複数体出現しても対応が簡単になるだろう。 それから6階、7階と順調に攻略し、8階へと到達した。「ダークがこんなに便利だったとは……。アーチャーを完全に無力化してしまったぞ」 鏃が当たったとしても、皮膚を突き抜ける事は無いだろうが、毒が塗られている可能性がある。用心は必要だ。 しかしここまで肝を冷やす場面はあったが、ソロとは思えない早さで進んでいる。ダンジョンはパーティーで攻略するのが冒険者の常識で、小ダンジョンとはいえ1人での攻略は異例である。 どんどん進んで行くと、明るい光の漏れる通路を発見した。(お、セーフゾーンか? ちょっと休憩もありだな) 中を覗くと広い部屋になっ
「なんだなんだ!?」 次々と周囲から声があがる。 落下時間から考えると、ここは多分10階のセーフゾーンだろう。 3組のパーティーが部屋の3隅に分かれていたので、俺は残りの角へ行き、収納の魔道具からカバンを取りだし、何事も無かったかのように着替え始める。 収納の魔道具から物を取り出すのは結構簡単だった。 指輪を意識すると、指輪の中に収納されている物のリストが頭の中に表示される感覚があり、カバンのところを指差すようにイメージすると、何もない空間にポンと出現した。 まだ夜明けまで時間はあるが、10階からはゴブリンメイジが出現する。初見相手では梃子摺る可能性があるので、今日はここまでとしよう。 ゴザを引いてブランケットを掛け、横になって目を瞑る。(おやすみなさい)「ちょっと待て! 何普通に寝ようとしてんだよ!」 怒声とともに誰かが近づいてくる音がする。(ですよねー……) 観念して起き上がると、青髪の2メートルはありそうな大男が眉間に皺を寄せ、怒りを露わにしていた。「いや、あの、そのですね……。えへへ」 なんて説明したらいいのか分からない。属性の説明からするべきか、宝箱の罠の話をするべきか、どうしようか。「えへへじゃねえぞ! こっちは休んでたんだ!」 がしっと胸ぐらを掴まれる。足がバタバタするので俺は今空中にいるのだろう。凄い力だね!「それに関しては申し訳ないですけど、事故なんですよ」「どんな事故がありゃあ裸で股間に角が出来るんだこら!」 言われてみればその通りだ。手で隠しておけばまだマシだったか? いや、結局深夜のダンジョンのセーフゾーンに裸で現れてる時点で変わらないか。「手を離してやってくれよ、ソイツはうちのパーティーなんだ」 思わぬ助け舟に声の方へ視線を向けると、赤髪の剣士がこちらに近づいていた。「パトリックさん!」 そういえば、悲鳴をあげていたの
(早速お出ましか!) ゴブリン3体にゴブリンアーチャー1体、ゴブリンメイジが1体だ。 体毛が無い緑色の肌で、汚れたボロ布を腰に巻いている。中学生くらいの身長だろうか。痩せ細り、お腹だけがぽっこりと膨れたみすぼらしい体型。目が細く、鷲のクチバシに似た大きな鼻をしており、耳の先端が尖っている。(ダーク) 漆黒の闇がゴブリンアーチャーとゴブリンメイジの視界を奪う。アーチャーは顔面を掻きむしるようにもがいている。「ゲギ、グギギ!」 ゴブリンが何か呟くと、ゴブリンメイジは手に持った杖の先を光らせた。すると、ゴブリン達の体がバチバチと放電するように雷の衣に包まれ、上階の2倍近いスピードでこちらに向かってきた。「なるほど、連携してくるわけね!」 こちらも相手に接近すると、先頭のゴブリンが右手に持つナイフを突き刺すようにして俺の腹部を狙ってきた。 拳1個分の余裕を持ち躱し、カウンターをお見舞いしようとしたその時、強い静電気が発生したかのようにバチッという音とともにナイフから青い光の線が俺の体に放出される。「痛っ!」 いたずらに使用される電流がビリリと流れるおもちゃのような鋭い痛みに驚き、一瞬体が硬直してしまう。 後ろに続いていたゴブリン2体も飛び上がり、左右から挟み込むようにして頭を狙って棍棒を振り下ろしてきた。 潜るように相手の後ろに回り込もうとすると、棍棒からもバチンと鳴り電流が流れてくる「いてっ!」 ドッキリに使用されるビリビリペンのような痛みにびっくりして動きが止まってしまう。「ゲギャッ!」 隙ありとばかりに棍棒が振り下ろされ、右肩を殴打されてしまう。「これは痛くないんかい!」 肩に手を置かれたような感覚に思わずツッコミを入れてしまった。 一度電気を放つとバフが解除されるらしく、動きの遅くなったゴブリンの頭を一撃のもとに跳ね飛ばし、無力化された遠距離2体も同様に消滅させた。「なんだこの嫌がらせは! いたずらが過ぎるぞ!」 ガム
「宝箱じゃーん!」 また行き止まりに宝箱を発見した。 黒川式罠検知術を発動する。「ちょいっとな」 先程まで自分の頭があった場所目掛けて、左の壁から槍が飛び出してきた。「はいはいお見通しでーす」 運良く罠を回避すると、再度黒川式罠検知術を発動した。 するとまた槍が飛び出した。「なるほどねー、宝箱破れたり!」 体を屈めて宝箱の蓋を開けると、頭上で槍が通過した。 宝箱の中には金属製のダガーが入っていた。「刃も綺麗だし、これは高く売れそうだぞ!」 手を叩いて喜ぶと、さらに迷宮の奥へと進んでいく。 分岐を3箇所ほど経て、14階への階段を発見した。「かなり広いや、13階も2時間はかかっていないだろうけど、90分くらいはかかってそうだなー。そうだ!」(ステータス) 黒川 夜 レベル:27 属性:闇 HP:3660 MP:1820 攻撃力:2620 防御力:3090 敏捷性:3975 魔力:5880 スキル ・シャドークロー レベル2 ・ダーク レベル2 ・ナイトメア レベル1 魔法 ・レイヴン レベル1「魔法が増えてる! どれどれ効果はー?」(レイヴン レベル1:対象1体に漆黒の鳥が襲いかかる)「やっぱり1体かー。多数相手には微妙か? とりあえずいっちょ使ってみますかー!」 通路を進むといましたよ、モルモットの皆さんが。ゴブリン2体にアーチャー1体にメイジ3体か。 まだこちらには気付いていないようだ。(レイヴン) 目の前で闇が凝縮するようにカラスを模した鳥となり、バサッと羽ばたくような音がすると、疾風の如き速さで一直線にゴブリンに飛来し、胸を貫き命を奪うと暗闇に溶け込むように消えた。(つええええ…&hell
「悪い子は居ねがー! 階段はねえがー!」 ナマハゲと化したヨルハゲは、疲れなどどこ吹く風とばかりに両手を広げて疾走し、モンスターを見つけては、「言うこど聞がねゴブリンはいねがー!」 と蹂躙を繰り返した。何故ナマハゲをチョイスしたかは気分である。 そろそろナマハゲごっこが飽きてきた時、16階への階段を見つけた。2時間以上は探しただろう。「そろそろヘトヘトだ。早く休みたいよ」 さすがに疲れの色が見えてきたのか、肩を落として溜息を吐く。トボトボとした様子で階段を降りると、先程までと代わり映えのしない16階の景色が視界に広がる。「お花畑とか山岳地帯とか風景が変わってくれると盛り上がるんだけどねー……。セーフゾーンまであと少し、気合入れていきましょ!」 深夜なので叫び声はあげなかったが、あと少しとばかりに更にスピードを上げ、セーフゾーンの明かりを目指して突き進む。30分ほど経っただろうか、ひときわ明るい光の漏れだす通路が見える。(黒川選手、ゴールです!) 着替える事など頭から抜け落ち、ただただ目的地にたどり着いた嬉しさから、ゴールテープを切るようにバンザイしながらセーフゾーンへと飛び込んだ。「は?」 ゴブリン20体、ゴブリンリーダー10体、ゴブリンアーチャー10体、ゴブリンメイジ10体が突如出現した。そう、モンスターハウスだ。「ゲヒャゲヒャ!」「ギヒィギヒィ!」 ゴブリンたちは醜悪な笑みを浮かべ、罠に獲物が飛び込んできたことを心底喜んでいるようだ。 ステータスを確認すると、MPは500を切っていた。「俺を嵌めたのがそんなに嬉しいか……。 怒ったかんなっ!」 慣れていないため、プリプリと可愛らしく怒ると、まるで鬼でも乗り移ったかのように怒気を発し、弾丸のようにモンスターの集団に突撃した。「オラッ! スカタン! おたんこなす!」 聞き慣れない悪口を吐きながら、質量を持った左右の影の爪が、弧を描く
(ここは……、ダンジョンの裏かな?) まだ外は暗い。既に数組が拠点を作り、見張りをたてて馬車を待っているようだ。 収納からバッグを出して服を着替え、その人の群れの中に入り、ゴザを引いて膝を抱えるようにして座り、しばし目を瞑って休息を取ることにした。(ステータス) 黒川 夜 レベル:31 属性:闇 HP:2310 MP:90 攻撃力:980 防御力:905 敏捷性:1200 魔力:1855 スキル ・シャドークロー レベル2 ・ダーク レベル2 ・ナイトメア レベル2 魔法 ・レイヴン レベル1(ナイトメア レベル2:最大で5つの対象を瞬時に移動させる。移動距離は対象から半径10メートル以内かつ影が繋がっていなければならない) 攻撃の動作に入った敵を様子見している敵の背後に移動すれば同士討ちが狙えるし、身代わりの術みたいな使い方もできそうだ。 攻撃を避けられた際に相手を遠くに移せばカウンターも食らいにくくなる。かなり有用なスキルになった。 シャドークローによる近接戦闘、レイブンによる遠距離攻撃、ダークによる状態異常、ナイトメアによる瞬間移動とかなりバランスの良いスキル構成に加え、裸になれば同レベルの冒険者の3倍近いステータスとなる。 ボブゴブリンとの戦いで見せた、逃げながらレイヴンを放ち、その追尾性能によりダメージを与えていく戦法を使うことで、素早さの劣る相手であれば負けることはないかもしれない。 今回のダンジョン踏破でゴールド級への昇格条件は達成した。後は依頼をこなしていけば近いうちに上級冒険者になれるだろう。 あれこれ考えていると、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。「さあ、みんな準備だ! そろそろ馬車が来るぞ!」 冒険者の声で目を覚ます。 外はもうすっかり明るい。 帰る準備をして、他の冒険者の後に続くようにダンジョ
最初にこちらを威圧するような態度だったので高圧的な嫌なやつかと思ったが、中々話のできる良い奴そうだ。「俺も冒険者になりゃあ強くなれんのか?」「ははは、試してみるといい。良いパーティーが見つかるといいな」「1人じゃ駄目なのか?」「ふむ、パーティーを組めばより強いモンスターと戦える。ソロでダンジョンに挑む馬鹿はおらんしな。早く強くなりたいのであれば、仲間を探すべきであろうな」「そういうもんか、じゃあ俺も冒険者ってのになってみっかな! 強くなったら俺のパーティーにおっさんも誘ってやるよ!」「それは熊ったなー。ぶぁーっはっはっはっは!」「おいおっさん、つまんねえぞ!」「ぶぁーーっはっはっはっは!」 冒険者か、今は何より強くならなきゃいけねえしいいかもしれねえ。しかしパーティーか、よええのと組まねえように気をつけねえとな。街の中心に冒険者ギルドってのがあるらしいから、そこで登録すりゃあ誰でもすぐに冒険者になれるみてえだ。 頭の中でおっさんの話をまとめていたら閂の外れる音の後にゆっくりと門が開いた。クリスと……なんだありゃ、首の長え奴がいやがる。キリンの獣人か、あんなのになってたら生活に不便すること間違いなしだったぜ。「お待たせしましたー! 衛兵長のジラフォイですー!」 声高すぎだろ、しかもジラフォイってなんだよ。こいつ笑わせにきてやがんな!「あ、あぁ。こっちは待ってる間にそこのおっさんにいい話が聞けて良かったぜ。街には入れるのか?」「まずはテストをするフォイ! 合格したら入れてやるフォイ!」「ぶふぉ……くっ、くく……。そ、そうか」 このキリン野朗畳み掛けてきやがった。笑いを堪えてたとこにこの不意打ちは卑怯だろ。獣人てのはこんなのばっかりなのか?「ジラフォイ隊長、いい加減笑う奴はいい奴っていうテストはやめた方がよいのではないか? 意味がない気がするのだが」「今日はもう遅い、この狼獣人の子供も早めに宿をとっ
「やべえな、日が暮れてきやがった」 気づけば空には赤く染まった夕焼け雲が浮かんでいた。 どれほど走っただろうか、こちらに気付いては襲ってくるコボルトから逃げるように駆け回っていればそのうち諦めるだろうと思っていたが、奴らはなかなかにしつこかった。 体が疲れてきやがったんで立ち止まったら、木々の合間から出てきた15体のコボルトが向かってきやがった。木の槍で片っ端から心臓を突き刺してやると、いつの間にかレベルが12に上がってやがる。(ステータス) 武藤 零ニ(むとう れいじ) レベル:12 属性:無 HP:1350 MP:390 攻撃力:650 防御力:325 敏捷性:650 魔力:150 スキル ・アイテムボックス レベル2 ・鑑定 レベル1 ・身体強化 レベル1「スキルのレベルが上がってやがる。お、新しいスキルもあるな!」(アイテムボックス レベル2:容量100万リットル。保存物の時間経過有り。生命は収納不可)「歩く倉庫じゃねえか! んでこっちは」(身体強化 レベル1:対象1体の攻撃力と防御力と敏捷を2倍にする)「へへ、こいつはいいぞ。ブラフに使えるぜ!」 対人戦で重要なのは、いかに自分の実力を相手に悟らせないかだ。弱いフリして相手を調子に乗せたらこっちのもの、あえて無防備に殴られるなんて事をよくやったもんだ。相手の数が多い時にやったらそのままボコられちまうけどな。 しっかし、このゴールデンレトリーバーを人型にしたようなコボルトとかいうモンスターは次から次に向かって来やがるが、街に持って行きゃ金になるのか? アイテムボックスの容量も増えたし、ぶっ殺した毛玉どもを片っ端から収納してやってもいいんだがよ。とりあえず入れちまうか。「ん? なんだか香ばしい匂いがすんな。人か!? よし、早速試してみるか」(身体強化) 匂いのする方へ四足歩行で風を切り裂くように走る。レベ
「しっかし、オネイローサもすげえ遊びを考えついたよな。自分で作った世界に別の世界の人間を入れて争うように仕向けるなんてさ」「ふぉふぉふぉ、この遊びが始まる前の、平和な世界に凶悪なモンスターを解き放って滅亡するかしないかを賭けるゲームもわしは好きじゃったがの」「オネイローサは天才だと思うのっ! 文明の発展してない世界をブラックドラゴンがめちゃくちゃにするのも楽しかったけどぉ、自分の駒で遊べるこのゲームの方が断然楽しいねっ!」「ふふふ。何者にも影響されず、全ての理を捻じ曲げることのできる私たち無欠の存在が、何が起こるか分からない運という要素を最も楽しめる方法を考えたのがこのゲーム『グリードフィル』です」 オネイローサは氷のように冷たい笑みを浮かべた。「ふぉふぉふぉ、ワシらの愉しむという欲望、駒どもの生き残りたい、願いを叶えたいという欲望、さらにそれを阻む七欲にまみれた安定を欲する住人達。欲に満ちた世界グリードフィルとはよく言ったもんじゃて」 イドモンが口の端を上げ目を細めると、顔に刻まれたシワがさらに深いものとなり、その笑みはどこか邪悪なものを感じさせた。「アイギナちゃんはねぇ、計画が失敗した時の、仲間を失った時の、そして自らが死ぬ間際の希望を失った顔が堪らなく好きなのっ! それは途中までうまくいっていればいっているほど深い絶望を感じさせてくれてぇ、腹の底から笑えるのっ!」 無邪気に笑う幼女だが、そのキラキラと輝く瞳の奥には奈落の底を感じさせる闇が見えた。「俺はどん底から這い上がって、生に縋りもがき苦しむ様が好きだぜ。仲間に裏切られたり、片腕を失ったり、それでも必死に世界をどうにかしようと足掻く命の灯火はなかなか熱いものを感じるな。最後はどうせみんな死んじまうけどな。ヒャハハハハハ」 シドは金縁の丸メガネを右手の中指でクイッと上に持ち上げると、天を仰ぐようにして笑った。「あらあら、皆さん楽しそうですね。ですが、毎回同じではつまらないでしょう? 今回は、誰かが統一するかしないか賭けをしましょう。チップは皆さんが管理する世界です」 「おいおい、統一なんて駒を争わせる為の口
「あらあら、皆さんお揃いのようですね。それでは始めましょうか」 光に包まれた世界で3人の男女の前で話し始めたのは、煌めく金髪に心の中まで見通すような爛々と輝く銀色の瞳に、彫刻のような端正な顔立ちの一目見たら誰しもが心を奪われてしまうような美女。そう、黒川 夜を人族の国ヒューマニアへと送った女神である。「早いのうオネイローサ。今回で5回目じゃが楽しみで仕方がないわい」 肩まであるウェーブがかった長い白髪に感情の読み取れない白い瞳、所々にシワの刻まれた顔には整った長い口髭と顎髭を蓄えている老人の姿をした神が続いて口を開いた。その口元はニヤリと口角がいやらしく上がっている。武藤 零ニを獣人族の国ビーストリアに送ったジジイと呼ばれていた神だ。「イドモンじいちゃんは毎回悪い顔をしますねぇ。アイギナちゃんの駒はとんでもなく強いのですっ! 今回こそは負けませんからねっ!」 自らをアイギナと名乗るこのほっぺたを朱色に染めた緑色のおかっぱ頭の幼女は、健崎 加無子を巨人族の国アトラストリアへと送った女神である。手をパタパタと動かし、目尻を下げてニコニコと話している。「おいチビ助、まさかまたズルしてねえよな? 前回は属性なしに2つも属性つけて負けてんだぞ?」 高圧的な態度で話すブルーのダブルスーツを着こなす、黒髪をオールバックに纏め上げた英国のモデルのような見た目の男性は、八王子 麻里恵を魔人族の国デモネシアに送ったシドという名の神だ。「ぐっ……。う、うるさいですよっ! シドは相変わらず裏表が激しいですねぇ」「ふぉふぉふぉ、その様子じゃとまた何かやったみたいじゃのぉ。それで負けたら罰ゲーム2倍じゃぞー?」「あらあら、前回お咎め無しにしてあげたのですから、今回は3倍ではないのですか?」「ははは、そりゃいいぜ! 覚悟しとけよクソガキ!」 地球からグリードフィルという異世界へと4人の高校生を強制的に送り出した神たちは、何やら集まって楽しそうに会話をしているようだ。 神達がそれぞれ空中に手をかざすと、テレビのモニターの様に、それぞれが異世界に送った者たちが停
岩と岩を打ち合わせたようなガチンという大きな音がなり、冷や汗が流れる。尻尾をいれると7メートル以上はありそうだが、口よりも盾の方が大きいので、噛みつきは盾で防げるだろう。 位置の有利を取られているのはまずいと判断し、盾を構えてトカゲを中心に大きく時計回りにカニ歩きで移動すると、再び危機感知の感覚に襲われた。 岩を纏ったトカゲは反時計回りにトグロを巻くように体を丸め、渦を巻いた体を元に戻す力を使って鞭のようにしなりを効かせた尻尾を横薙ぎにふるってきた。 咄嗟に踏ん張るように足をガニ股に開き、盾の持ち手に腕を通し、内側に肩と肘を固定するように前のめりに構えて尻尾の一撃を受けると、梵鐘を打ち鳴らしたような音と共に強烈な衝撃を受け、後方に吹き飛ばされてしまう。ステータスを確認するが、ダメージは受けていなかった。「尻尾はだめ。狙うなら頭」 自分に言い聞かせるように呟くと、上下の有利不利が無くなったので、盾を前に構えながらゆっくりとトカゲに近づく。 トカゲは頭をこちらに向け、尻尾をビタンビタンと地面に叩きつけて威嚇している。こちらの戦斧の射程まで近づいたその時、トカゲは大きく口を開けて前進した。「今!」 噛みつきを盾で防ぎ、口を閉じたばかりの頭に振り上げた戦斧を垂直に叩きつけると、金属を岩に叩きつけたような高音が響き渡り、戦斧を持つ手はビリビリと痺れている。 トカゲの様子を伺うと、額からは赤い鮮血が流れ落ち、衝撃を受けている様子からはかなりのダメージを与えられた事が伝わった。 再び接近しようとすると危機感知が発動する。バックステップをして距離をとると、トカゲは時計回りにトグロを巻き、こちらの様子を伺っているようだ。「チャンス」 斜面を駆け上がり、振るわれても尻尾の届かない位置まで行くと、今度は斜面を駆け下り助走をつけ、右足で力強く大地を踏み込み、トカゲ目指して斜面と平行に鋭く飛び上がった。 尻尾の先端側から攻められ、遠心力をのせたムチのような攻撃が意味をなさないことを悟ったトカゲは、トグロを解いて迎え撃つように前進してきたがもう遅い。 トカゲが口を開
「無理、できない。」 異世界を統一しろと無理な要求をされたので断ると、僕の目の前では小学4年生くらいの見た目の幼い女の子がプリプリと怒っている。 緑色のおかっぱ頭に潤んだクリクリとした大きな目、吸い込まれるような緑の瞳をした、ほっぺたを真っ赤に膨らませて僕を叱りつけているこの幼女は自分の事を神様だと言っている。 肩甲骨まである真っ直ぐな暗めの栗毛と、クールな見た目で170センチある高身長の自分が一緒にいると、親子と間違われてもおかしくない。「だからぁ、これは絶対なんですぅ……。無理矢理送っちゃいますからねっ!」 夏休み初日の英語の補習で、オリバー先生に手を引かれてやってきたこの幼女、僕を光に包まれた空間に無理矢理連れてきた。「嫌……。僕行きたくない」「もーっ! 勝手に説明しちゃいますからねっ!」「聞きたくない」「健崎 加無子(けんざき かなこ)さんには巨人族になってもらいますからっ!」 目の前を眩しい光が覆い隠す。視界が戻ると、さっきまで腰くらいの位置にあった神様の頭が僕の膝より下にあった。どうやら身長が元の2倍くらいになっているみたいだ。 目の粗い麻の服は、肌が透けて見えるようで恥ずかしいし、胸が大きいので首周りがゆるいのは気に入らない。「ねぇ、1つだけ聞いていいかな? 僕は統一なんて興味無いから何もせず死んでもいいんだけど、それじゃ困るんでしょ?」「はいっ! 非常に困りますっ!」「じゃあ僕の着ていた下着を10セット、服は制服でいいからそれを10セットと靴を5足、サイズを合わせて。後はそれを入れる丈夫なリュックと頑丈な武器と盾を頂戴。そしたら頑張れる。それくらいできるよね?」「ぐっ……。ちょっとステータスって念じて貰えますぅ?」(ステータス) 健崎 加無子 レベル:1 属性:なし HP:2000 MP:0 攻撃力:1000 防御力:1
「ちょっとぉ……。まだ色々聞きたいことがあったのにぃ!」 もっとこの世界について色々聞きたいことがあったのに、強制的に転移させられてしまった。とりあえずスキルを調べてみる。(テイム レベル1:自分より弱いモンスターを従えることができる。弱らせることで格上のモンスターにも発動する。テイムしたモンスターは討伐扱いとなり経験値を取得できる。上限100体)「へぇ、わたしはこの魔法で仲間をどんどん増やしていけばいいわけね」 周囲を見渡すと、遠くに城壁のようなものが見える。おそらく街だろう。ひとまずテイムを試すために、街の方に向かいながらモンスターを探すことにした。 広葉樹や針葉樹など多様な木が生えているが、毒々しい見た目をしているので気味が悪い。おどろおどろしい木々の紫色の葉が風で揺れてガサガサと音をたてるたびにビクンと心臓が跳ね上がる。 怯えるように両手を胸に当て、周囲を警戒しながら森の中を進んでいく。「きゃっ!」 樹上から目の前に何かが落下してきた。「あー! ゲームで見たことある、スライムだー!」(テイム) 早速スキルを使ってみると、スライムのいる地面に魔法陣のようなものが出現し、そこから伸びる円筒状に薄い緑色の光がスライムを包み込んだ。「仲間になったってことかな?」 光が消えると、今までに感じたことのない親近感に似た感覚がスライムから伝わってくる。「おいでおいでー!」 手招きすると、スライムが一生懸命な様子でズリズリと体を前後に伸び縮みさせながら近づいてきた。「よく見たら可愛いね。わたしの言うこと聞いてくれるの?」 質問してみると、スライムはぴょこんと飛び跳ね肯定してくれているようだ。可愛らしい姿に思わず頬が緩む。「いい子ねぇ。他のモンスターからわたしを守ってくれる?」 お願いしてみると、スライムは再び小さくその場でぴょんと飛び、体で肯定の意思を表した。 愛らしい様子に楽しくなって、しばらくスライムに話しかけてみた。こちら
わたしは今光の中にいる。足が地についた感覚はないけれど、どういう原理か立っている。歩こうと思えば歩けるし、座れもする。 今日は夏休み初日で、古文の補習があった。教室で先生を待っていたら、菊ジイこと菊田先生と、スーツ姿のイケメンが入ってきた。 そのイケメンは、ぱっと見ただけで分かるほど高そうなブルーのダブルスーツを着ていて、艶やかな黒髪のオールバックに、金縁の丸メガネをかけ、燃えるような赤い瞳をしていた。彫りの深い欧米人のような顔立ちで、顔のパーツの一つ一つが大きく、作り物のように整った顔立ちはどこか浮世離れしていた。おそらく外国の方だと思う。 菊ジイは虚な目でずっと下を向いたまま何も喋らず、ただ教壇の後ろに立ち尽くしていた。「こんにちは、お嬢さん。お名前を教えて頂いても?」 まさか外国人だと思ってたイケメンから流暢な日本語が発せられると思わなくて、びっくりして噛んでしまった。「は、八王子 麻里恵(はちおうじ まりえ)でひゅ……す」「麻里恵さん、よろしくお願いしますね」 イケメンが優しく微笑みかけてくる。なんて尊さ。(教育実習生なのかな? だとしたら全力で推していきたいところね! 後で一緒に写真を撮ってもらってカナコちゃんに教えてあげよっと!) 色々と妄想をしていると、ドサッという音がした。菊ジイが倒れたようだ。定年近いと聞いていたし、夏の暑さにやられてしまったのかもしれない。「菊ジイ、大丈夫!?」 慌てて駆け寄り肩を叩くが反応はない。かろうじて呼吸はしているようだ。 イケメンが菊ジイを抱き上げ、日陰に移動して横にさせる。「大丈夫ですよ、安心して下さい。麻里恵さん一緒に来ていただけますか?」 なんだろう、保健室だろうか。「はい、大丈夫です!」 わたしは光に包まれた。 で、今ってわけなんだけと……。「麻里恵さん、気づいたみたいだね」 振り返ると爽やかな笑顔のイケメンがいた。歯がキランと光るエフ
(人か……?) 道を挟んで反対側の森から、身長1メール程の二足歩行の犬といった見た目で、右手に木の棍棒を持った生き物がキョロキョロと辺りを見回しながら出てきた。子供の犬獣人かもしれない。「おいガキ! ここはどこだ?」 茂みから出て眼光鋭く睨みを効かし、近づいていく。「ワン!」 威嚇するように吠えると、二足歩行の小型の犬は棍棒を振り上げこちらに走ってきた。「おい止まれ!」 注意を促すが、止まる様子はない。こちらの左脇腹を狙い棍棒を横薙ぎに振るってきた。子供なのになかなかの身体能力なのは獣人だからであろうか。 2回バックステップをして距離を取る。「おいガキ! 次はねえぞ、止まれ!」 再度注意を促すが、再び棍棒を振り上げ襲いかかってきた。 乱暴に振り下ろされた棍棒を左にサイドステップでかわし、棍棒を持つ手の手首を右足で蹴り上げ、棍棒が手から離れたのを確認してから、右のストレートで顔面を殴りつけた。「キャイン!」 二足歩行の犬は、金切声のような悲鳴をあげて地面に倒れると、脳が揺れているのか立とうとするが膝が笑っており力が入らずなかなか立てないようだ。 右手で棍棒を拾い上げ、トントンと右の肩を叩く。「アホが、痛い目見て分かったか? ここがどこか教えろ!」 話しかけるが返事はない。 ようやく軽い脳震盪から回復したのか、ゆっくりと立ち上がり噛みつこうと大口を空けてこちらに向かってきた。 右手の棍棒て下顎を打つと、顎が外れて大きく頭を傾け、走っていた勢いのまま地面に受け身をとれずに頭から倒れた。「お、おい! 大丈夫か?」 慌ててかけよると、白目を剥いて舌を出し、泡を吹いてガクガクと体を震わせていた。体を揺するが反応は無い。まだ息はあるので死んではいないようだ。目を覚ますまでしばらく待つとするか。 時々肩を叩いて呼びかけるが反応はない。15分くらい経っただろうか、近くの茂みがガサガサと音をたてると、中から透明な水風船を地