เข้าสู่ระบบあれから、さらに二年が経った。
上場の鐘が鳴った日から、八年。 沖縄の海辺で高瀬悠真と高瀬玲奈が結婚し、凛が初めて「玲奈ママ」と呼んだ日からも、八年が過ぎていた。 けれど、時間は過去を消すものではなかった。 ただ、上から新しい日々を積んでいく。 楽しい日も。 苦しい日も。 働いた日も。 泣いた日も。 子どもが生まれた日も。 誰かが返済表を見つめた夜も。 全部が積み重なって、今になっていた。 ネクストリンクホールディングス本社ビルは、東京湾を望む再開発地区の一角に建っていた。 かつての本社よりも広く、高く、そして明るい。 エントランスの壁には、銀色の文字あれから、さらに二年が経った。 上場の鐘が鳴った日から、八年。 沖縄の海辺で高瀬悠真と高瀬玲奈が結婚し、凛が初めて「玲奈ママ」と呼んだ日からも、八年が過ぎていた。 けれど、時間は過去を消すものではなかった。 ただ、上から新しい日々を積んでいく。 楽しい日も。 苦しい日も。 働いた日も。 泣いた日も。 子どもが生まれた日も。 誰かが返済表を見つめた夜も。 全部が積み重なって、今になっていた。 ネクストリンクホールディングス本社ビルは、東京湾を望む再開発地区の一角に建っていた。 かつての本社よりも広く、高く、そして明るい。 エントランスの壁には、銀色の文字で社名が刻まれている。 NEXT LINK HOLDINGS 人を繋ぐ会社。 その言葉は、もうただの企業理念ではなかった。 八年前、東証グロース市場に上場したネクストリンクは、その後、東証プライム市場へ移行した。 グループ会社は三十一社。 国内外の社員数は九千二百名。 売上高は二千億円に近づき、営業利益は二百八十億円を超えた。 AI。 クラウド。 セキュリティ。 自治体DX。 福祉事業。 介護事業。 シニアワークス。 地方創生。 ゲーム。 アニメ。
六年という時間は、会社を変えるには十分すぎるほど長かった。 だが、人の罪を消すには、短すぎた。 東京の朝は、相変わらず忙しい。 駅のホームには人が流れ、オフィス街のビルはガラスの壁に空を映し、道路には配送車とタクシーが列を作っていた。その中で、ネクストリンクホールディングス本社ビルは、六年前よりもさらに高く、さらに大きく見えるようになっていた。 かつては中堅IT企業だった会社。 不正と不倫と横領で揺れた会社。 内部通報から始まり、裁判、上場、福祉事業、介護事業、地方創生、ゲーム、アニメ、AI、クラウド、セキュリティ、海外展開へと広がった会社。 今のネクストリンクホールディングスは、東証プライム市場に移行し、グループ会社は二十六社、社員数は国内外合わせて六千八百名を超えていた。 売上高は千三百億円台。 営業利益は百七十億円を超えた。 上場時、初値四千二百円だった株価は、途中で株式分割を二度挟み、現在は分割後ベースで三千二百円前後。分割前換算なら一万九千円を超えていた。 時価総額は、六年前には誰も本気で想像していなかった規模になっている。 だが、高瀬悠真にとって、その数字は目的ではなかった。 数字は結果だ。 会社を続けるための体温計であり、社会からの評価であり、投資家から預かった期待の形でしかない。 午前八時二十分。 高瀬悠真は、本社四十五階の役員フロアに入った。 四十一歳になった悠真は、六年前よりも経営者らしい落ち着きを身につけていた。 受付前で、神谷玲奈だった頃の名残を持つ女性が待っている。 高瀬玲奈。 社長室長兼秘書室長であり、悠真の妻。 六年前の沖縄で、凛から「玲奈ママ」と呼ばれた日から、彼女は少しずつ変わった。 仕事の速さは変わらない。 予定管理の正確さも変わらない。 役員たちが恐
結婚式の翌朝、沖縄の空はまだ静かだった。 海沿いの大型リゾートホテル《琉青ガーデン・リゾート》のスイートルームには、カーテンの隙間から薄い朝の光が差し込んでいる。東京の高層ビルの窓から見る、輪郭の鋭い白い朝とは違う。淡く青みを帯び、窓を少し開ければ潮の匂いまで運んでくるような光だった。 高瀬悠真は、午前六時二十分に目を覚ました。 長年の習慣だった。 社長になってから、彼の朝は早い。 未読メールを確認する。 夜間に発生したシステム障害や重大事故がないかを見る。 海外投資家から届いた問い合わせに目を通し、各支社の前日速報値を確認する。 上場後はさらに、適時開示に関係する案件、証券会社からの連絡、機関投資家との面談予定、取締役会資料まで増えた。 朝起きてスマートフォンを確認することは、もはや仕事というより反射に近かった。 だから結婚式の翌朝であっても、悠真の右手は無意識にベッドサイドへ伸びた。 指先がスマートフォンへ触れる。 その瞬間だった。「悠真さん」 隣から静かな声がした。 悠真の手が止まる。「……はい」 隣で、高瀬玲奈が半身を起こしていた。 戸籍上は、昨日から高瀬玲奈。 ただし、社内では取引先や社員の混乱を避けるため、当面は旧姓の神谷を業務上使用することにしている。名刺もメールアドレスも、しばらくは神谷玲奈のままだ。 けれど今は会社ではない。 白い寝間着に薄手のカーディガンを羽織り、長い髪を少し乱した彼女は、社長室長でも秘書室長でもなかった。 昨日、高瀬悠真と結婚したばかりの妻だった。 ただし。 悠真を見る目だけは、秘書室長時代と何も変わっていない。「何をしようとしましたか」「時間を確認しようかと」「スマートフォンの側面ボタンへ
沖縄の海は、東京の空とは違う青をしていた。 冬の東京で上場の鐘が鳴った日から、半年が過ぎていた。 ネクストリンクホールディングスは、上場後も忙しかった。 投資家説明会。 四半期決算。 福祉事業所の増設。 介護施設の追加買収。 地方創生プロジェクト。 ゲーム・アニメIPの海外展開。 東証グロース市場へ上場した会社は、祝福だけを受け取っていればよい存在ではなかった。市場は毎日会社を見ている。数字を見ている。失敗を見ている。期待を見ている。 だから、高瀬悠真は相変わらず忙しかった。 神谷玲奈も相変わらず忙しかった。 結婚式の準備でさえ、最初は神谷玲奈がスケジュール表にして管理していた。 式場候補。 招待客一覧。 親族宿泊手配。 社員代表選定。 支社長移動手段。 福祉・介護事業代表の出席確認。 沖縄現地の天候予備案。 披露宴進行。 凛のリングガール練習。 まるで新規上場審査の補足資料のような厚さだった。 それを見た七瀬蒼真は、真顔で言った。「神谷さん、結婚式まで内部統制するんですか」 神谷玲奈は即答した。「当然です。人生の重要行事です」 水城莉央が隣で頷いた。「予算管理も必要です」 七瀬蒼真は、妻となった水城莉央を見た。「莉央、そこは乗らなくてもいいんじゃないか」「私たちの結婚式も、あなたが直前まで何も決めなかったので私が管理しました」「はい。助かりました」「二度と同じことを繰り返さないよう、社長には早めに決めていただくべきです」「夫婦で社長を追い込む形になってる」 高瀬悠真は、
朝の東京は、澄みきっていた。 冬の空は青く、ビルの窓には白い光が刺さっている。道路を走る車の音も、駅へ向かう人々の足音も、いつもと同じはずだった。 けれど、その朝のネクストリンク本社は違った。 午前七時五十分。 まだ始業前にもかかわらず、本社二十七階の上場準備室には灯りがついていた。 水城莉央は、すでに自席でメールを確認していた。 専務取締役兼CFO。 この数か月、彼女の机の上から数字が消えた日はなかった。 資本政策。 監査対応。 関連当事者取引。 タカセ・アセットマネジメントとの契約確認。 介護事業の人件費改定。 福祉事業の工賃設計。 ゲーム、アニメ事業の収益予測。 支社別予算。 返済回収計画。 そして、上場申請資料。 数字は冷たい。 だが、その冷たい数字の先に、人がいた。 働く社員。 福祉事業所の利用者。 介護施設の職員。 商店街の人々。 投資家。 取引先。 そして、会社を信じてくれる人たち。 水城莉央は、画面に届いた一通のメールを見た。 東洋キャピタル証券、早乙女圭介からだった。 件名。 上場承認に関する正式連絡。 水城莉央は、一瞬だけ呼吸を止めた。 開封する。 本文を読む。 その目が、わずかに揺れた。「……来た」 声は小さかった。 けれど、その一言で、上場準備室にいた坂井誠が顔を上げた。「水城専務?」 水城莉央は、いつものように落ち着いた声を出そうとして、少しだけ失敗した。
年が明けた。 東京の空は、冬らしく高かった。 雲は薄く、ビルの硝子に朝日が跳ね、舗道を歩く人々の息が白くほどけていく。寒さは厳しい。けれど、ネクストリンク本社の中は、季節とは別の熱を帯びていた。 上場準備室。 IR部。 経理財務本部。 法務本部。 内部統制推進部。 コンプライアンス部。 各支社。 福祉事業本部。 介護事業統括室。 ゲーム・アニメ事業本部。 すべてが、同じ方向を向いていた。 上場へ。 その二文字が、社内の空気をぴんと張らせていた。 ネクストリンク本社二十七階。 大会議室には、朝八時半の時点で、すでに資料が積み上げられていた。 高瀬悠真は、黒いスーツの袖を整えながら席へ着いた。 代表取締役社長CEO。 会社の顔であり、上場審査では最も見られる人間だった。 隣には、社長室長兼秘書室長の神谷玲奈が立っている。 今日の神谷玲奈は、いつも以上に隙がなかった。 髪はきっちりまとめ、淡いグレーのスーツに、細いシルバーの腕時計。手元のタブレットには、午前八時半から午後九時までの予定が一分単位で並んでいる。 悠真が資料へ手を伸ばす前に、神谷玲奈が小さく言った。「社長、その資料は午後の東証追加質問用です。今見るのは主幹事証券向けの最終版です」 悠真の指が止まった。「……よく分かりましたね」「社長の右手が、間違った山に伸びました」「右手まで監視されていますか」「社長室長兼秘書室長ですので」「その言葉、最近さらに強くなってませんか」「社長が忙しさで雑になるほど、強くなります」 悠真は苦笑した。「気をつ