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第150話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第415話
杉浦悠仁が帰ったばかりだった。新薬の改良は続けているから諦めるな、と彼は言っていた。藤堂沢は諦めるつもりはなかった。しかし、いつになったら右手が使えるようになるのか、いつになったら車椅子から立ち上がれるのか......誰にも分からなかった。藤堂沢は気分が沈んでいた。使用人たちは普段、彼を邪魔することはなかったが、今夜は違った。庭から車の音が聞こえ、続いて慌ただしい足音が近づいてきた。伊藤さんがドアをノックし、「社長、奥様が帰ってこられました！」と叫んだ。藤堂沢は藤堂夫人のことだと思った。彼は静かに言った。「下のダイニングで待っててもらうように言ってくれ。すぐに行く」伊藤さんは何も答えなかった。藤堂沢は眉をひそめ、車椅子でドアの方へ行こうとした。ドアが静かに開いた......ドアのところに九条薫が立っていた。雨で全身ずぶ濡れだった。普段は優雅で美しい彼女が、今は見るも無惨な姿だった。彼女は、そんなことなど気にしていないようだった。彼女はじっと彼を見つめていた。平静を装っていたが、胸は激しく上下し、唇は震えていた......全身が緊張していた。藤堂沢は何かを察した。彼は伊藤さんを見て、静かに言った。「下がってくれ」伊藤さんは少し迷った後、エプロンを撫でながら、階下へ降りていった。伊藤さんがいなくなると。激しい雨の音で、家の中まで湿っぽく感じられた。藤堂沢の精悍な顔は、照明の下で無表情だった。そして、抑えた声で言った。「入って、ドアを閉めろ」九条薫はゆっくりと中に入った。分厚いドアが嵐の音を遮断し、室内は静かで穏やかだった。再び彼を見上げた彼女の瞳には、様々な感情が渦巻いていた。藤堂沢には、それが手に取るように分かった。彼はあの夜、田中邸の前で言った時と同じように、少し厳しい口調で言った。「もっとこっちへ来い」九条薫は少し戸惑ったが、それでも一歩一歩、彼に近づいていった。一歩近づいたところで、彼女は藤堂沢に引き寄せられた。あの夜と同じように、みっともない姿勢になった。しかし、あの時とは違い、藤堂沢の表情はさらに厳しかった。感情も欲望も一切感じさせず、ただ彼女を辱めるかのように言った。「未来の小林奥様、真夜中に元夫の家に来るなんて、拓は知っているのか？」「知ってい
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第414話
店員が温かいコーヒーを二杯運んできた。しかし、九条薫はコーヒーに手をつけず、黒木瞳をじっと見つめていた。黒木瞳は気持ちを落ち着かせ、過去の出来事を思い出しながら、ゆっくりと話し始めた。「あの時、私に連絡してきたのは田中秘書だった。沢が取引を持ちかけてきた、と」そう言って、彼女はコーヒーを一口飲んだ。細い指が、かすかに震えていた。再び口を開いた黒木瞳の顔には、苦笑いが浮かんでいた。「あの時、私は彼を恨んでいた。どうして彼の頼みを聞こうと思ったのかしら？でも、田中秘書が提示した金額は、あまりにも魅力的だった。2000億円規模のプロジェクトよ、私は利益の誘惑には勝てなかった！その後、田中秘書に連れられて病院に行き、契約書にサインをした。そこで沢に会ったの......彼の姿は......あなたが後で見た時よりも、ずっとひどい状態だった。ベッドに静かに横たわり、ほとんど身動きひとつできなかった。でもね、薫、彼の眼差しは落ち着いていて、全てを静かに受け入れているようだった！」黒木瞳の声は、沈んでいた。九条薫の目には涙が浮かんでいたが、彼女は必死に話を聞いていた。黒木瞳は少し間を置いてから、続けた。「私は契約書にサインをし、2000億円規模のプロジェクトを手に入れた。そして、彼の頼み通り、あなたの前で恋人のふりをした！あの時、田中邸で、あなたはひどく侮辱されたでしょう？でも、あの時、沢は車椅子に座っていることさえ辛そうで、ずっと寝室であなたの様子を窺っていたのよ！」「あなたが来るのを聞いて、そして、去っていくのを聞いていた！」「薫、彼がなぜこんな姿になったのか、もう分かっているでしょう？ええ、彼はあの手術を受けたの。言を助けるために、自分の骨髄と血漿の半分を提供した......手術台に横たわった瞬間から、彼は自分の運命を受け入れていたのよ！」「それから、もう一つ、あなたが知らないことがあるわ。これは田中秘書から聞いたことだけど、沢は遺言を書いていたの。もし彼に何かあったら......藤堂グループを相続するのは、言でも群でもなく、あなた、九条薫よ！」「薫、彼は全てをあなたに託したのよ！」......九条薫は静かに座っていた。黒木瞳がいつ出て行ったのか、彼女は知らなかった。コーヒーに口をつけようとした時、冷え切っていたことに
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第413話
「九条さん、あの契約書はただの冗談だ！俺はお前を愛していない！」......あの時の記憶が、彼女を押しつぶそうとしていた。九条薫は少し顔を上げ、涙をこらえた。空から雨が降り始めた。細かい雨が彼女の体に降り注ぎ、服を濡らしたが、九条薫は気にしなかった。胸の焦燥を冷ますかのように、冷たい雨に打たれていた。彼女は雨の中を歩きながら。白川雪の言葉が、彼女の頭の中で何度も繰り返されていた。「藤堂さんが他の女を愛するわけがない！子供を捨ててまで他の女と一緒になるわけない！」ふと、彼女は足を止めた。道端に豪華なウェディングサロンがあった。ガラス越しに、美しい女性がウェディングドレスを試着しているのが見えた。彼女の傍らには、男性が付き添っていた。二人は親密そうで、一見して婚約者同士だと分かった。九条薫は立ちすくんだ。まるで憑りつかれたように、二人の男女をじっと見つめていた。女性は他でもない......黒木瞳だった！黒木瞳が結婚するのだ！あの時、彼女は田中邸で女主人のように振る舞っていた。藤堂沢と付き合っていたはずなのに、なぜ今、他の男と結婚しようとしているのか？九条薫は呆然と見つめていた......真実は、もう明らかだった。しかし、あまりにも残酷な真実に、彼女は向き合うことができなかった。藤堂沢が何を犠牲にし、この数年をどう生きてきたのか、考えることさえ怖かった......彼はどんな気持ちで自分の前に現れたのか、想像もできなかった。あの夜、伊藤夫人のパーティーで。彼は突然現れ、彼女は彼に言ってしまった。「沢、私にはもう好きな人がいるの！」......雨足は次第に強くなっていった。九条薫の顔は濡れていた。雨なのか、涙なのか、分からなかった。ついに、黒木瞳は彼女に気づいた。ガラス越しに、二人の女は互いに見つめ合った。黒木瞳にとってはもう過去のことなのに、九条薫は再び藤堂沢への想いに囚われていた。黒木瞳は複雑な表情を浮かべた。雨の中に立つ九条薫、彼女の悲しげな表情を見て、黒木瞳には察しがついた。彼女は店員に、九条薫を中に入れるように指示した。店員は渋った。店のカーペットは全て輸入品で、びしょ濡れの女を中に入れたら、カーペットが台無しになってしまう......黒木瞳は外を見つめた
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第412話
二人の間には、壁がなかった。一つ交差点を過ぎたところで、小林拓は車を路肩に停めた。そして、九条薫の方を向き、静かに尋ねた。「彼のことを考えているのか？」九条薫は認めたくはなかった。彼女はすぐに答えた。「違うわ！」カチッと小さな音がした。小林拓はシートベルトを外し、彼女に覆いかぶさるようにキスをしようとした。人間の本能は正直だ。彼の唇が触れそうになった瞬間、九条薫は手で彼の口を塞いだ。彼女は彼を止めた。九条薫自身も驚いた。恋人同士のキスは当然のことなのに、彼女は小林拓との親密な接触を本能的に拒絶してしまった......彼女は顔を上げ、戸惑った表情を浮かべた。小林拓は彼女にとても近づき、互いの吐息が感じられるほどだった。普通ならドキドキするはずなのに、そうならなかった......彼は真剣な眼差しで言った。「そんな反応をして、まだ彼のことを考えていないと言えるのか？」九条薫が何か言おうとした時、彼は優しく彼女の唇を塞いだ。彼の表情はとても優しかった。恋人同士の優しさというより、もっと深い愛情が感じられた――なぜなら、小林拓は彼女が少女から大人の女性へと成長していく姿を、ずっと見守ってきたからだ。彼が彼女に抱く感情は、とても複雑だった！彼は彼女に言葉を許さず、彼女の唇を優しく撫でながら、甘い声で囁いた。これが恋人として彼女に話しかける最後の機会になるかもしれないから。彼女を手放したくなかったが、自分のそばに縛り付けておくことだけはしたくなかった。昨夜の会食で、彼はある噂を耳にした。藤堂沢がなぜ車椅子に乗っている理由を、彼は察した。九条薫も真実を知るべきだ。彼女に、もう一度選ぶ機会を与えなければ、彼女にとって不公平だ、と彼は思った。彼は言った。「薫、もし迷っているのなら、本当の答えを探しに行け！」そして、優しく続けた。「答えが見つかれば、自然とどうすればいいのかわかるはずさ。俺はどこへも行かないから。自分自身で決めてきなよ。俺はここでずっと待ってるから。たとえ君がどんな決断をしようとも、俺はそれを尊重する。君を大切にする気持ちはこれからも変わらない。たとえそれが夫であろうと、先輩という立場であろうとね......」「拓！」九条薫は震える声で、彼の名前を呼んだ。小林拓は彼女の髪を優しく撫で、囁い
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第411話
白川雪が口を開こうとしたその時。廊下の突き当たりに、藤堂沢が車椅子に座ってこちらを見ているのが見えた。彼の黒い瞳は、何を考えているのか分からなかった......白川雪はそれ以上、何も言えなかった。言いたくなかった。藤堂沢の報復を恐れていた。そして、彼女はまだ藤堂沢に想いを寄せていた。二人が復縁する姿は見たくない、と思っていた。複雑な心境で、彼女は九条薫に悲しげに微笑みかけた。「以前、従姉からあなたが藤堂さんをとても愛していると聞いて、信じていました。でも、今になって分かりました。あなたは彼のこと何もわかっていません......あなたの言う好きと、私の好きは同じ。同じくらい浅はかなんです！」「新しい人生を歩みなさい！他の男と仲良く暮らしてください！」「あなたが後悔するのを待っています！」......しばらくして、九条薫は無表情に言った。「白川さん、あなたに私と沢の過去が、どれだけ分かるの？」そう言うと、九条薫は立ち去った。彼女が振り返った時には、廊下の突き当りの車椅子も、彼も、もういなかった。しかし、九条薫の心には疑惑の芽が生まれていた。九条薫は階下へ降りていき。白川雪は壁にもたれかかり、心を落ち着かせようとした。しばらくして、何かを思い出したように、廊下の突き当たりへ走っていった......そして、彼女は藤堂沢の姿を見つけた。彼は車椅子に座り、窓越しに1階の方をじっと見つめていた。九条薫を見ているのだと、彼が心から愛している女性を見ているのだと、彼女は分かっていた。白川雪はゆっくりと彼に近づいていった。10cmのハイヒールが、磨き上げられた床に当たる音が響いた。しかし、藤堂沢は振り返らなかった。まるで、これまで彼女の気持ちに気づかなかったように、彼女の好意に気づかなかったように、彼はいつも彼女を拒絶し......突き放してきた。白川雪はもう我慢できなかった。彼女は彼の背後に立ち、切ない声で言った。「藤堂さん、まだ彼女のことを忘れられないのですか？」藤堂沢は何も答えなかった。振り返りもしなかった。彼にとって、彼女は眼中になかった。白川雪は女としてのプライドを捨てた。彼の傍らにしゃがみ込み、目に涙を浮かべ、声を詰まらせながら言った。「彼女にはもう他の男がいる。今、他の男の車に
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第410話
彼は静かに目を閉じた。小林颯が戻ってくる............レストランの化粧室。九条薫は道明寺晋に奥山智のことを話した。しばらく経っても、彼女の心は沈んでいた。小林颯のことだけでなく、彼女自身も奥山智と親しかった。彼は寛大で、友達思いだった......飛行機事故の知らせを受けた時、彼女は長い間、それを信じることができなかった。九条薫は悲しみに暮れ、鼻の頭が赤くなり、目に涙が浮かんでいた。ちょうどその時、小林拓から電話がかかってきた。レストランに着いたから、入り口の駐車場で待っている、と。彼は軽く、道明寺晋とのことを尋ねた。九条薫は低い声で言った。「少し話しただけ。彼はまだ小林颯のことを諦めていないみたいだけど、私ははっきり言って聞かせたわ......後で会ったら話す」二人はもう少し言葉を交わした後、電話を切った。九条薫は顔を洗い、タオルで拭いていると、鏡に映る人物に気づいた――白川雪だった！白川雪はブランドスーツを着ていて、地位も高そうに見えた。藤堂沢に解雇された後、彼女はライバル会社に入り、広報部長として2、3年働いていた......以前のような純粋な少女の面影はなくなっていた。鏡越しに、彼女は九条薫を恨めしそうに見ていた。そして、嘲るような口調で言った。「藤堂奥様......いえ、もう奥様と呼ぶのは失礼ですね。あなたは藤堂さんと離婚したんですもの。今の電話は、新しい恋人？さすが元藤堂奥様、優秀な男たちを虜にする才能はお見事ですね。あなたは彼らの好意を当然のように受け入れているんでしょうけど」九条薫は白川雪が好きではなかった。白川家の人間は、誰も好きではなかった。白川雪の皮肉に、彼女は軽く微笑んで答えた。「白川さんは、まだ未練があるのね。もし納得いかないなら、私に文句を言っても無駄よ。瞳に喧嘩を売るべきだわ。彼女が今の沢の恋人......私と彼はとっくに別れて、それぞれ新しい人生を歩んでいるの」「もう関係ない！」「新しい人生？」......白川雪は歯ぎしりしながら、そう言った。彼女は平然としている九条薫を見て、突然笑い出した。涙を流しながら、悲痛な声で言った。「九条さん、あなたは藤堂さんにあんなに愛される資格なんてない！」九条薫は目を伏せ、静かに手を拭いた。そうなの
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第409話
道明寺晋はスマホを弄んでいた。それを聞いて、彼は鼻で笑った。「俺は、外の女を家に連れ込んだりしない」二ノ宮凛が言い返そうとしたその時。道明寺晋はポケットから10枚以上の写真を取り出し、一枚一枚ベッドの上に、二ノ宮凛の前に投げつけた。彼は冷たく笑いながら言った。「自分自身の快楽に溺れる姿でも見てみるんだな！加えて、どれも違う男だ！これらの写真がなければ、道明寺夫人がこんなにもスタイルが良くて、こんなにも欲望に忠実だとは知ることがなかったよ」二ノ宮凛は写真を取り上げ、一枚ずつ確認した。彼女は呆然とした......我に返ると、彼女は本能的に命乞いをした。「晋、私ったら、よっぽど寂しかったのよ！お願いだから、この写真、父さんに見せないで。知られたら、殺されちゃう！」彼が許してくれないのではないかと恐れていた。彼の冷酷さは、彼女が一番よく知っていた。ここ数年、彼は彼女を散々に苦しめてきた。一度たりとも、情けをかけたことはなかった。二ノ宮凛はベッドの足元まで這っていき、道明寺晋の足にしがみついた。体で彼を誘惑し、やり直そうとした。彼の太ももに顔をすり寄せ、甘い声で言った。「晋、もう一度やり直せない？もう過去のことは水に流して、新しく始めましょう。私はもう絶対に浮気しない。いい奥さんになるわ。他の男とはもう会わない！あなたが私を愛してくれるなら......あなたが私を愛してくれるなら！」「俺はお前を愛さない！」道明寺晋は彼女を突き飛ばし、冷たく言った。「離婚しよう」二ノ宮凛は言葉を失った。これまで何年もの間、どんなに関係が悪化しても、彼女が何をしても、他の男の子供を身ごもった時でさえ、道明寺晋は離婚を切り出さなかった。なのに、今になって......二ノ宮凛は馬鹿ではなかった。彼女はすぐに理解した。涙を流しながら、彼女は笑った。「また小林さんのせいね！彼女が金持ちの未亡人になったから、私を捨てて彼女とやり直したいんでしょ？晋、いい加減夢から覚めて。小林さんがあなたを許すと思ってるの？彼女にはもうお金がある。どんな男だって手に入るわ」道明寺晋は冷ややかに笑った。「俺と彼女の間のことは、お前には関係ない！」彼は冷酷な声で言った。「この写真で脅迫していると思っているのか？凛、よく聞け。一週間以内にサインしなけ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第408話
しばらくして、車が動き出した......藤堂沢はずっと黙っていた。静かに座り、時折、自分の右腕に目をやった。もしこの腕がちゃんと動けば、たとえ足が不自由でも、彼女に自分のそばに戻ってきてほしいと頼む勇気が湧くのに......しかし、人生に「もしも」はない。......翌日、九条薫は道明寺晋と会う約束をしていた。九条薫はコーヒーを一杯飲んで帰るつもりだったが、道明寺晋から電話で食事に誘われた。「九条さん、俺ら久しぶりに会うんだから、食事のひとつぐらい付き合ってくれたっていいだろう？」結局、二人は高級会員制レストランで食事をすることになった。道明寺晋は食事に集中できず、ほとんどの時間、九条薫を見つめていた。九条薫は、彼が自分の美しさに見惚れているとは思わなかった。実は、道明寺晋は彼女を通して、小林颯のことを想っていたのだ。彼女は食前酒のグラスを静かに置き、落ち着いた口調で言った。「道明寺さん、あなたの気持ちは分かってる。彼女が元気でやっているか知りたいだけでしょう？ええ、奥山さんは亡くなった。でも、あなたと颯はもう過去のこと。いつか彼女にも新しい恋人ができるわ。でも、それはあなたじゃない」「これは、私があなたに言いたかったことよ」......道明寺晋はそれでも小林颯に会いたがっていた。九条薫はワイングラスを手に取り、静かに回した。しばらくして、彼女は静かに言った。「もう会う必要なんてないわ。道明寺さん......あなたが彼女に与えた傷を忘れてはいけない。それに、あなたは既婚者でしょ？彼女に近づかないで。颯は、あなたにさんざん苦しめられたんだから」九条薫は言うべきことは全て言った。彼女は彼に「失礼」と言い、化粧室へ向かった。道明寺晋は理解した。九条薫はこれ以上話したくないのだ。きっと、自分のことを恨んでいるのだろう。彼はそれ以上何も言わず、勘定を済ませて店を出た。車で何気なく街を走っていたが、行く当てもなく、結局、自分の家に帰ることにした......家と言っても、彼は10日か半月に一度くらいしか帰ってこなかった。彼と二ノ宮凛はまだ夫婦だったが、それは名ばかりのものだった。彼女が子供を堕ろした後、彼は彼女に触れることはなく、彼女も彼に近づこうとはしなかった......二人は互いを憎み
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第407話
九条薫はアパートに戻った。玄関は暗く静まり返っていた。彼女はドアにもたれかかり、静かに息を整えた。今もまだ、足が震えていた......B市に戻れば藤堂沢と顔を合わせることもあるだろうとは思っていたが、こんなに早く再会するとは思っていなかった。田中邸の前で彼がしたことが、彼女の心に暗い影を落としていた。女の勘で、今の藤堂沢は危険だと感じていた。B市に戻るべきではなかったのかもしれない。しかし、藤堂群の鼻炎は深刻で、香市での生活は彼には合っていなかった。九条薫はしばらく放心状態だったが、手を伸ばして電気をつけた。明るい光が、彼女の繊細で美しい顔に降り注いだ。二人の子供を産んだとは思えないほど、肌は白く滑らかで、以前と変わらぬ美しさだった。しばらくして、彼女はようやく体を起こし、バーカウンターへ行き、キャビネットからシャンパンを取り出した。こんな夜は、一杯飲みたい気分だった。グラスにシャンパンを注いだその時、小林拓から電話がかかってきた。彼は優しい声で、これから仕事関係の会食があり、ホテルに帰るのが遅くなるかもしれないから先に寝ていてほしい、と言った。九条薫は「うん」と答えた。恋人同士として、彼女はごく自然に「飲みすぎないでね」と声をかけた。小林拓は軽く笑った。「分かってるよ」しかし、男の付き合いというものは、酒を避けては通れないものだ。小林拓も酒には慣れていた。ざるというほどではないが、酔いつぶれることは滅多になかった。九条薫は電話を切り、シャンパングラスを片手にバルコニーのバーカウンターへと向かい、腰を下ろした。彼女には、こんなにゆっくりできる時間はほとんどなかった。普段は子供たちの世話やTHEONEの経営に追われていたが、充実した日々を送っていた。この充実感に感謝していた。そうでなければ、藤堂沢との辛い別れを乗り越えることはできなかっただろう。こんな夜には、どうしても感傷的になってしまう。藤堂沢のせいだ。外を眺めると、不意に藤堂沢の姿が目に入った。彼女を混乱させる、あの男が。彼の車は帰らず、まだ下に停まっていた。彼の姿は見えなかったが、窓から伸びた手が目に留まった。指には、赤く光るものがあった。それが上下に動くたびに、薄い青白い煙が車内から吐き出され、夜風に優しく散らされてい
